バッド・ハンズ 前編
以前現れたゴーレム型ロボットモンスター、キルゴレムを検査した結果何者かによって操られていた事が判明。
場所を調査した結果、ハイポリア最悪の無法地帯バッド・ハンズ・エリアに辿り着く。
「ここに入らば知らぬうちに命すら盗られると思え」とも謳われる無法地帯で、果たしてエクスレイドは黒幕へ辿り着く事が出来るのか?
特に何か起きる訳でもなく、指揮所で寛ぎつつ各々作業をしていた探査隊だったが、突如技術隊からメッセージが届いた。
「あら、なんだろう?」
「技術隊が直接来るなんて珍しいなオイ」
「ああ、もしかして!」
イーライがメッセージの内容を確認し、晴れやかな顔になる。
「僕が頼んでいたものが出来たようです、行きましょう」
イーライを先頭にベースアヴァロンの地下へ向かい、技術隊と接触する。
「お待ちしておりました、こちらへ」
技術隊員に広い部屋へ通され、机の上にあったものを見て皆驚いた声を漏らした。
「これって! キルゴレムの!」
「中枢部じゃないか……回収出来ていたとは」
「ええ、無事に無傷で回収できまして、技術系統はじめどこから操作していたのか発信元を辿るようにお願いしていたんです。どうやらその結果が出たみたいで」
「ええ、もう数分で結果が出ますので、探査隊の皆さんに一緒に確認しようと思いましてね」
備え付けのクォーツモニターにハイポリア大陸の地図が表示され、徐々に南部へクローズアップしていく。
「南部か」
「まさかアーブの中に犯人が居たりして」
「だとしたらアーブファクトかな」
徐々に地図が拡大していき、ついにギルモアスが消えた。
「ギルモアスに赴く事にはならなそうだ」
腕を組んでいたアイリスは少しほっとした様子で座り直す。
「てぇ事は北西部だな」
「アーブか……森か」
今度はヒオが緊張するも、森の中心部が除外されたことで大きく息を吐いて深く椅子に背を預ける。
「てことは?」
ついに森すら除外され、地図はある一点を指し示した。
「うわ……」
「故郷に犯人が居る展開は避けられたが……」
「これはこれでサイアクね……」
指し示された場所はアーブとギルモアスと森が交差する地のバッド・ハンズ・エリアである。
「ここで捜査かぁ……」
バッド・ハンズ・エリアとは如何なる国家・種族・組織の支配を受け付けず、暴力と犯罪が渦巻く生き馬の目を抜く無法地帯なのだ。
先人曰く「ここに入らば知らぬうちに命すら盗られると思え」と言われる程危険であり、力自慢や愚か者であろうとも余程の酔狂者ではない限り、自ら自然の地形を利用したおぞましい城壁の中には決して入ろうとしない。
そんな場所に探査隊は今から捜査に行かなくてはならない。
前途多難が予想され、六人は非常にげんなりした。
「どうする?」
「どうするもこうするも……国民を脅かす者は放ってはおけないだろう」
「まあ行くのは大前提として、どうやって捜査するかですよ。無策で行くと成果なしどころか五体満足の保証すらない訳ですし」
「……情報パイプは生きてるか?」
アイリスに水を向けられ、ウェンディは額を掻きながら唸る。
「わかりません……一日どころか一時間後の命の保証すらない場所ですから。とりあえず連絡は取ってみます」
「ウェンディの情報を待とう、作戦はそれからになりそうだな」
技術隊ラボから探査隊指揮所に戻ってから日を跨がず、ウェンディの元へメッセージが届いた。
「生きてたみたいです! 良かったぁ……」
「そうか、我々の後ろ盾は得られそうか?」
「ええ、数日は寝泊まり出来るかと」
「勝負は数日の間……とりあえず良かった、ラウンドナイツに連絡して共同作戦を練ろう」
諸々の準備を整えて三日後、無数の同情と労いの言葉を背にケイはバッド・ハンズ・エリアへ向けて発った。
「バッド・ハンズってどんな所なのかな」
「そうですね、あそこに生まれる以外で普通に生きてたら行きませんからね。伝聞でしかその噂を聞きませんから、正確な実態はあまり見えて来ません」
「……一つだけ言えるのはろくでもない所って事だけ」
「ヒオさん、何か知ってるんですか?」
長く尖った耳の先端をいじりながら、ヒオは窓から見える故郷の森を眺めながら続けた。
「保守的で滅多に外界の情報が入ってこないホワイト・アールヴですら、バッド・ハンズの事は警戒して積極的に情報を仕入れてたんだよね」
「なるほど、それで耳にする情報はどれもろくでもないモノばかりって事ね」
「そう、まあそんな情報も自分達の領域の防衛の為だけに使ってただけなんだけどね」
バッド・ハンズ・エリアについて話していると、ベースキャメロットの方角から三機のガウェインが現れる。
「こちらケイ、今回はなんと言うべきか……」
『こちらガウェイン、光栄……とは言い難いですね。何にせよ大役です、お互いによろしくお願いします』
「ああ、今回はより一層連携が求められる任務だ、何か変わった事があれば逐一報告を頼むぞ」
アーブを北進するにつれ、エクスレイドの緊張感が高まって行った。
ウェンディが指定した目的地へ辿り着いてグランドモードとなって待機するも、皆この状況に首を傾げるばかりである。
「ここどこだ?」
ここはバッド・ハンズ・エリアから少し離れた場所である。一体なぜここが目的地になったのだろうか。
「どうしてここで止まったんだ?」
「このまま進んでたら確実に撃ち落とされてましたよ~……その前にバッド・ハンズでの我々の後ろ盾に来てもらわないと」
ウェンディが連絡した後、少々みすぼらしく薄汚れた恰好をした若いアールヴの男が出てきた。
「ドモドモ、エクスレイドの皆さん! 俺ケッチって言います! ちょっと入れてくれませんか!」
大丈夫なのかと無言の視線がウェンディを向き、大丈夫とのジェスチャーでケッチをケイに迎え入れた。
「へぇ~すっげえ、こんなになってんだな」
「君が使い?」
「ハイ! ドンにあなた達の案内をするように言われました。ゲートを抜けるまでご一緒させていただきまさぁ!」
とりあえずケッチは味方であるらしい。
「案内するんでまず縦一列にこのクルマを並べてください」
「どうして?」
「魔法陣の罠で吹っ飛びますよ」
それはいけない、ケイの後ろに三機にガウェインが並び、ケッチの案内で道を進み始めた。
「ここは右で」
ケッチが味方なのはわかったが、一体どうしてこんな回りくどい方法を取らなければならないのか。
直接入る事は出来ないのだろうか。
「あ~、今のリヒトさんの顔、何言いたいかわかりますよ」
「そう? じゃあ疑問に答えてもらおうかな」
「分かりました、では皆さんにも復習のつもりで聞いてもらおうかな」
少し畏まった様子でウェンディが語った事によれば、如何にバッド・ハンズ・エリアとはいえ完全に無秩序という訳ではない。
様々な勢力が入り乱れており、その勢力が拮抗し合う事で歪んだ形ではあるものの一定の秩序が保たれている。
外部からバッド・ハンズ・エリアに〝安全に〟入る為にはその勢力の保護を得る必要があり、ケッチは今回エクスレイドの後ろ盾となる勢力の使者なのだ。
「なるほどね……ところでなんでウェンディはそんな事に詳しいの?」
「え? なんでかって? 私バッド・ハンズ出身なんですよ」
「嘘だろ⁉」
「嘘です」
イーライが盛大にずっこけ、リヒトは額を指で押さえて頭を振った。
「アマティスタ時代の友達のロッテがですね……どういう訳かバッド・ハンズ・エリアに行きましてねぇ、そこ経由で事情に詳しくなっていった感じです。何年も会ってないけど、こうして連絡はとれるから生きてはいるみたいですね、運が良ければ会えるかも」
ハイポリア大陸の真ん中に存在する賢者の湖の上に浮かぶアマティスタ学園都市は、イーライを始め多くの天才を輩出してきたが、まさかこんな変わり者も居ようとは。
「すごいねぇ……この世界は」
「そう言う割にはすっかり馴染んでるじゃないですか」
「そう? なら良いんだけど」
そうこう言っている間にエリアに通じるゲートへ辿り着き、遂にエクスレイドの面々はバッド・ハンズ・エリアに入った。
「へぇ……こうなってるんだ」
てっきりそこかしこが爆炎の煤や体液などで薄汚れているものだと思っていたが、入り口付近は普通の街と変わらないどころか、むしろいい所の住宅地といった様相である。
「ああ一見いい所に見えるでしょ? 他の所に迷惑かける訳にはいかないので、外延部には実力者か偉い人しか住めないんですよ、真ん中に行けば行くほどひどいっすよ」
無法地帯と聞いてビスを打った革ジャンを着たモヒカン男が跋扈するような図を思い浮かべていたリヒトだが、意外と独特な秩序が敷かれている事に妙に感心してしまった。
「見てくれは良さそうだが……中では一体何が行われているのやら」
人を人とも思わないような世界成り上がった者である、ほとんどの者が私欲を満たす為、口にするのも憚られる行為をしているのだろう。
「そろそろ着きますよ」
チャリオッツを停め、ケッチの案内である白塗りの住宅へ向かうと、二人の従者に傘を持たせた白ずくめの痩せた紳士風の男が待っていた。
「ドン・ゴルバス! 案内完了しましたよ!」
「おうおうご苦労ケッチ、ほれ」
ゴルバスは胸ポケットから札束を渡すと、ケッチは顔を綻ばせて受け取って何処かへ去って行った。
「待っておりましたエクスレイドの皆様方、私はキオーネ・ゴルバス。ドン・ゴルバスと呼ばれています。今回あなた方の世話を任されております」
ゴルバスが腕を差し出そうとしたが、傘の影の外に腕が出そうになったところで引っ込める。
「すみませんねぇ、私吸血鬼でして、こんな所じゃ抗陽光症薬は貴重なのですよ。だからなるべく日に当たらないように心掛けているのです、ご理解下さい」
「そうですか、こんな〝深昼〟にわざわざご挨拶感謝いたします」
「いえいえ、エクスレイドには憧れがあったんですよ。こう見えて機械やら乗り物が好きでしてね、一度この目で見ておきたかった。とにかく私の手のものがお世話をさせて頂きますので、思う存分使ってください……おい、部屋にお通ししろ」
ゴルバスの部下に連れられ、当分の拠点へと到着する。
「悪くないじゃん」
「風呂場は共同で男女が別れてるだけか」
「荷物を置いたら情報を基に作戦を練るぞ。君達にも参加してもらう」
「りょーかいです」
小休憩の後に探査隊とガウェイン小隊はウェンディの元へ送られてきた情報と、ゴルバスの部下から仕入れたさらに詳細な情報と勢力図を確認し、調査の目途をつけた。
「うーん、俺達が欲しい情報を引っ張り出すには中心部にアタックする必要がありそうですが、初日からそこに向かうのは流石に難しいかと」
クリフの言う通りいくらゴルバスの後ろ盾があるとはいえ、直接最も治安が悪い場所に行くのは命知らずである。
「外側から攻めていくしかないか」
「なあウェンディ、君の友達とやらに接触できないか?」
「ロッテにですか……連絡はしてみますが、彼女がそれに応じてくれるかどうかはあまり期待しないでください」
何もかも勝手が違うだけでこんなにも大変なのかと、全員溜息をつきそうになる。
「とりあえずサラダボウルの酒場に向かって情報収集した方が良いな」
「まあ事情通は酒場を当たれってぇのは定石だからな」
「そうだな、しかし酒場での情報収集は例によっていざこざが予想される。武装と警戒は怠らないように」
「了解!」
それから一時間後、ゴルバスの部下三名を加えた計十二人で、エクスレイドはサラダボウルの酒場へと向かった。
「さあ、視線に刺される準備は出来たか?」
「もちろん」
クリフが先頭を切って戸を開けると、入店のベルと共に無数の視線がこちらへと向く。
「はぁ……こういう時自分の身長が嫌になるぜ」
アイリスは他のメンバーをテーブル席に座らせ、ゴルバスの部下一人を連れてカウンターへと向かう。
「大人数で押しかけて申し訳ない」
「まあ別にそれはいいけど、あんた達は酒が目的って訳ではなさそうだね」
「……そうだな、では単刀直入に。我々はエクスレイドだ」
それを聞いたバーテンと周囲の客の目の色が変わり、一瞬エクスレイドに緊張が走る。
「えぇ⁉ 何々! お姉さんエクスレイドなの⁉」
「マジか! こんな所によく来たなオイ!」
「俺ファンなんだよ! 姐さんと呼ばせてください!」
安酒で駄弁っていた周囲の男達は、まるで少年のように目を輝かせてアイリスを取り囲んでいる。
「なんだか……思ってたリアクションと違うね」
「てっきり余所者がどうとか因縁つけられるかと……まあ隊長ならその辺の腕っぷし立つ奴程度なら百人纏めてかかっても敵わないと思うけどさ」
流石に困惑し始めたアイリスを見て、ゴルバスの部下は杖で床を打ち鳴らして男たちを威圧した。
「ホラホラ、エクスレイドのお姉さん困ってるから散った散った!」
バーテンに叱られた男たちが散った後で、アイリスは再び切り出した。
「んで? 何が欲しいの?」
「情報が欲しい」
「まあそうだろうね、いくら?」
ゴルバスの部下が無言で小切手を取り出し、サングラスを直す。
「このカネはドン・ゴルバスの名の下で保障される」
「白吸血鬼の所か、うん。いいだろう、んで知りたいのは何?」
「これだ」
アイリスのクォーツシーバーからキルゴレムとその中枢部の写真が投影され、バーテンは口元を歪めてそれをじっくりと観察する。
「これをアーブに差し向けた者が居る、我々はその目的と正体が知りたい」
「うーん……おい! ハイメ!」
バーテンはテーブル席で他の客同士のカードゲームを微睡みながら眺めていたツナギ姿のほろ酔いの男に声をかけ、指でカウンターに来るように促す。
「へいへいよぉ、しがない下っ端機械工に何の御用で?」
「お前さんいろんな所で魔術機械いじってんだろ? これについてなんか知らねぇか?」
「うーん?」
ハイメはアイリスが差し出したキルゴレムを見た後、何か思い出したかのように手を叩いて言った。
「思い出したぞ! 俺これ作ったんだ!」
「なっ!」
まさかの一発で核心に大きく近付くとは思っておらず、少し離れた所で聞いていた探査隊メンバーが一斉に駆け寄ってくる。
「本当かよ!」
「聞かせて聞かせて!」
「思い出せますか! 記憶補強魔術で協力できますよ!」
「奢る! この店で一番高いの頼んで良い! だから教えてくれ!」
興奮し沸き立つ四人を、ウェンディが間に立って宥めた。
「ちょちょ……皆さん落ち着いてください! 物事には順番がありますから……それでハイメさん、作ったというのはあなたが設計したという事ですか?」
「いんやァ! 俺はゼロをイチにする事は出来ねぇよ。こいつの建造に関わってるってだけさ」
そう言ってハイメはボトルの安酒を口に含み、六人が見守る前で続ける。
「あるグループがよぅ、なんかいきなり機械工と魔術師を沢山集めだしてな、まあその中に居たのが俺な訳だが、それでもってこれを作ったんだよ」
「その目的は聞いてないか?」
「うーん、全部は聞いてないけども、これで俺を捨てた奴らを見返せるって言ってたっけ?」
「そうか……じゃあハイメさんを雇ったそのグループは?」
ハイメが指折り数えて何か言おうとした時、派手な服を纏った一団がやって来て、それを見たハイメの顔が青ざめる。
「あああ……アイツらだよ! ひぃぃ!」
大人数で押しかけて来た者達のせいで一気に酒場の空気が冷え込み、バーテンはうんざりしたように怒鳴りつけた。
「ここがどこか分かってるのか! 厄介事なら……」
バーテンの言葉をワンドブラスターの一撃が遮り、さすがにバーテンも体を竦め、周囲の客達も信じられないものを見るかのような目で一団を見る。
「黙ってろ! これは俺達スティーリーギャングの威信をかけた問題だ!」
「鋼鉄入りのギャングか」
ゴルバスが用意した勢力図の情報には、確かにその名があった。
「しっかしダサい名前で……」
「言うなって」
スティーリーギャングと名乗った者達のリーダー格の構成員が、アイリスの頬に刃渡り数十センチもある分厚いボウイ・ナイフを突き付け、下卑た笑顔を浮かべて言った。
「アーブの女ァ……大人しく帰んな。ボスも嗅ぎ回られるのが不快でしょうがないってよ」
「断ると言ったら?」
「そりゃ……ヒヒッ、あんたァ上モノだからな、いくらで売れ……ぐおっ!」
アイリスにナイフを突き付けたギャングの腕をリヒトが捻り上げていた。
「やめろ、不愉快だ」
「このっ! お前ッ! 何したかわかって……」
「怪我したくないだろ、もう帰れ」
「怪我したくないだァ? この野郎! アニキの手ぇ放しやがれ!」
リヒトへ殴り掛かろうとした若い衆は数秒後、目にも留まらぬ速さでリヒトに顔面を掴まれ、床に後頭部を叩き付けられた。
「……は?」
「なんでよりによってリヒトに行くかねぇ」
クリフが呆れたように呟き、完全にプライドを傷つけられたスティーリーギャングは一斉にワンドブラスターを取り出してリヒトに向け、それを制止するようにエクスレイドがワンドブラスターを向けた事で完全に一触即発の雰囲気となる。
「……バーテン、もう少し礼金を加算しよう」
「はえ?」
「迷惑料と……この店の修繕費として!」
アイリスが目の前に居たギャングを蹴り飛ばした事で店を覆っていた緊張は一斉に弾け、サラダボウルの酒場は完全に戦場と化した。
「ハッ!」
イーライは素早くカウンターに飛び込むとワンドライフルを転送してスタンショックモードに切り替えて構成員に向けて銃を乱射し、それを回避しながらウェンディも二丁のワンドライフルで援護する。
「全員! 野郎は全員殺せぇ! 女は生かして売り飛ば……」
そう叫んだリーダー格の男の肩に矢が刺さり、すぐに痺れて動かなくなった。
「最低……」
そう呟きながらヒオは後ろから抱き着こうとした者を張り手で殴り倒し、至近距離から腹に矢を突き刺そうとした所、予想外にしぶとい男が起き上がって殴り掛かって来た。
「うっ⁉」
「っとぉ! アブねェ!」
男はヒオへ殴り掛かる前にヴェルクのタックルを喰らって吹き飛び、壁を壊して屋外の地面に突き刺さってしまった。
「ちとやりすぎたかな……大丈夫か?」
「う……うん、ありがとヴェルク」
リーダー格の男に撃った矢を回収すると、ヒオとヴェルクは二人で暴れているギャング集団の方を向いた。
「足止めするから、あとはヨロシク」
「おうよ」
ヒオの囁く歌によって放たれた矢が空中で分裂し、そこから電撃が放たれてギャングを一斉に痺れさせ、ヴェルクはその隙に全員投げ飛ばして酒場の外へと放り出してしまう。
「こういう時自分の力が誇らしくなるな」
「ちゃんと損壊箇所に気遣ってるね」
「たりめーよ! 援護に行こうぜ!」
当然この大乱闘にガウェイン小隊も参戦していた。
「うおっ! とぉ! オラァッ!」
もはや誰もワンドブラスターを持っていない、全員徒手空拳の殴り合いである。
「そんなもんかぁ……バッド・ハンズゥッ!」
鼻血を流しながらクリフが強烈なアッパーカットで構成員を吹き飛ばし、片側の鼻を抑えて血を吹き出す。
「来るなら来い! 全員ぶっ飛ばしてやる!」
小隊長のクリフがアドレナリンで興奮しきっている中、カイは冷静さを保ちながら周囲のものや地形を利用して次々とギャングを倒していく。
「ダークアールヴがァ!」
「ダークじゃない、ノクス・アールヴだ」
カイが構成員の頭を叩きつけたテーブルの横では、逆にバイロンが頭を抑えつけられていた。
「放せこの……」
硬い木の感触を後頭部に感じながら、テーブルにあったジョッキを取ると思い切り頭に叩きつけて怯ませ、その隙に椅子を取って殴り掛かる。
「おわっ!」
「避けんなァッ!」
避けた拍子に相手の構成員も椅子を取り、そのまま椅子を得物にした戦いが始まった。
「くたばれ余所モンが!」
「チンピラ風情が!」
お互い渾身の力で振り下ろした椅子が背中にぶつかって壊れ、二人は暫く睨み合った後、その場で背中を抑えて悶える。
「いぃ~ッ!」
「つぅ~ッ!」
そしてこの大乱闘の引き金を引いた者同士のアイリスとリヒトは、大勢のギャング構成員に囲まれながらも二人で大立ち回りを演じていた。
「トッ! やあっ!」
「せいっ! ホワタァッ!」
アイリスのクレイモアの振りで鍛えた腕力と、リヒトの長年の格闘経験と磨かれた技が次々と襲い掛かり、あっという間に数を三分の二まで削ってしまった。
「どうします隊長?」
「分かれて効率よく倒そう!」
「了解ッ!」
リヒトは跳躍して自分達を囲む構成員の半数を引き付け、アイリスとの別行動に成功する。
「こういう百人組手……一回やってみたかったんだよな」
「ンだとォ!」
「ナメやがって!」
「スティーリーの名に懸けてこいつは絶対殺っぞ!」
リヒトはニヤリと笑って両手で相手を挑発すると、これまで父から教えられながらも危険な技として対人での使用を許されなかった技を惜しむことなく使い始めた。
急所に対してリヒトの拳や手刀や指先、そして爪先が様々な方角から突き刺さり、喰らった者は否応なくその場で崩れ落ちてしまう。
「クソッタレ!」
「ケルピーの餌にしてやる!」
「極め技解禁!」
今度は襲い掛かってくる者の関節を極めるどころか拉いで破壊し、リヒトは次々と構成員を戦闘不能にしていく。
「まだ居るのか……投げ技解禁!」
一向に減らない構成員に飽きてきたリヒトは、合気と柔道を応用した技で大勢の構成員を巻き込みながら数を減らしていき、ついにリヒトが引き付けた構成員は一人を残すのみとなった。
「ウゥ……このド畜生野郎が!」
そう言って残った構成員は二振りのナイフを取り出し、二本とも逆手に持って構える。
「ハァ……そう来たか」
「さすがにこれじゃ……おっお前も手が出ねぇだろ!」
「おいおーい、刃先が震えてるぞ」
「うるせぇ! 殺す!」
ナイフを構えた構成員は奇声を上げながら走り出し、リヒトは深呼吸して構えた直後、全身の力を込めて踏ん張ってから足を突き出し、構成員の腕の骨と肋骨を粉砕した上で吹き飛ばしてしまった。
「これが鉄刃脚……我ながら恐ろしいな」
『また腕を上げたな』
「そう? ありがと」
無数の技を試してご満悦のリヒトは、他のメンバーの援護に向かうのであった。
大乱闘の最中で完全に逃げ遅れたハイメは床に蹲って震えていると、満身創痍の構成員がやって来て、襟首をつかんで裏口へと向かおうとしていく。
「ひっ! ひぃぃぃぃぃいいいい!」
「あっ! 待て!」
ハイメを連れて行こうとしている構成員を認めたウェンディはスタンモードのワンドブラスターを撃ちながら追跡し、ハイメを連れ戻そうと追跡する。
「た! 助けてぇ!」
ハイメを連れて逃げようとする構成員から銃撃を回避しながら、ウェンディは酒場の裏口に向かう。
(麻痺弾は射程が短い! もっと近付かないと!)
何とかより近付こうとした所、突如物陰から現れた女が構成員の頭を鈍器で殴りつけ、気絶してしまった。
「……えっ?」
「ふぅ! 一丁上がり!」
白い作業着を着た女は顔につけたゴーグルを下げ、ウェンディに向かってにこりと笑いかけた。
「いよっ、ウェンディ!」
「……ロッテ⁉」
記憶より少し逞しくなったロッテはニヤリと笑うと、ハイメに手を貸して立たせてウェンディに近付く。
「久し……ぶりだね」
「ほんっとうにそう、もう三年ぶりとか?」
「来てくれたんだ」
「そうだね~、友達の頼みだから……と言いたい所だけど、色々複雑事になって来てさ。このままじゃ私の身もマズいから、今から一緒に行動する事にするね、いい?」
いたずらっぽく笑って頬を掻くロッテに、ウェンディは微笑んで手を差し出す。
「いいよ、一緒に行こう!」
ロッテと合流したウェンディが見たものは、軽症か無傷のエクスレイドの面々と、スティーリーギャングの死屍累々と、カウンターの中で震えているバーテンだった。
「おう、その人は?」
「初めまして、ロッテ・ヒースです」
「ああ! 君が例の情報提供者?」
「ええ、思った以上にこの件が複雑化してきたので、解決までの間はご一緒させてください」
予想外の助っ人にエクスレイドは沸き立ち、これからの展望に光を見出すのであった。
その後、全員でバーテンに謝り倒しながら迷惑料と店の修繕費の小切手を支払い、ロッテとハイメを伴って拠点へ帰還した。
「ギャングのうち何人かは既にドン・ゴルバスの部下があの騒動に紛れて連れて行って、今尋問にかけてるようだ」
「隊長それ……尋問じゃなくて拷問ですよね?」
「まあそこは各自のやり方があるんだろう……恩義がある以上口は挟めない」
クリフとバイロンの手当てが終わった所を見計らい、ロッテは口を開いた。
「実はですね、私も個人的にスティーリーギャングとあのゴーレムの事について調べていたんですが、一つ興味深い事が分かりまして」
「興味深い事?」
「この一件、どうも外部の組織が絡んでいるみたいなんです」
ロッテの言う通り、どうも事態はかなり複雑らしい。
「その外部の組織の尻尾は掴んだ?」
「いいえ、でもスティーリーギャングのボスであるイェルドと、外部の協力者と思わしき人物二名が話しているのは見ました」
ここでヒオはピンと来て、クォーツシーバーから画像を投影した。
「それってもしかしてこんな格好してた?」
「ああ! そうです! 片方はそんな恰好でした!」
ヒオが表示したのは橙色のローブを纏った人物のもの、そう炎の道の信徒の姿である。
「炎の道か……」
「またあいつらか、懲りない奴」
「ちょっと待ってくれ、何でヒオはわかったんだ?」
「信徒のノクス・アールヴの子がここから連れて来られたって聞いてね、ピンと来たんだ」
思わぬ所が点と点で結びつき、エクスレイドの面々は背筋が伸びる思いをする。
「もしもし、よろしいですか?」
ゴルバスの部下がほんのりと赤く湿ったハンカチで手を拭いながら現れ、皆の視線が集まる。
「連中が工場兼アジトの場所を吐きました。そちらに共有しておきます」
皆のクォーツシーバーの地図に点が表示され、具体的な場所が示された。
「どうします隊長?」
「クリフ」
「かすり傷です」
「バイロン」
「いつでも行けます」
頼もしい返事を聞いたアイリスは立ち上がって皆に宣言した。
「敵は混乱している、攻めるなら今! 作戦を立て次第敵陣へ乗り込むぞ!」
「了解!」
初の国外任務の行く末は一体どうなるのであろうか?
To Be Continued.
エクスレイド初の国外任務はまさかの無法地帯でした。
しかし無法地帯であろうとも、彼らの正義は揺るがず、どんな相手もドンと来いでございます。
さあ、次回は黒幕との対決でございます。
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次週後編、見逃さないでください。




