モンスター6ランボール
ドリーム・ワールドの伝統的スポーツマジケットのジュニアリーグが始まり、リヒトはオトハと共に応援に駆け付ける。
妹が参加しているマティアスも交え、大会を楽しみにしていた所、モンスターが襲来!
果たしてリヒトとマティアスはモンスターを倒してジュニアリーグを守る事が出来るか!
夢を通して行く事が出来るもう一つの世界である夢境。
そこではある伝統的なスポーツが存在する。
その名は『マジッククリケット』、魔法とクリケットを合わせたそのスポーツは、マジケットの愛称で親しまれ、競技人口は九十億人から百七十億人だと言われている。
もちろんこの物語の舞台であるハイポリア大陸でも、子供からシニアまで老若男女問わず多くの人々から親しまれている。
これから綴る物語は、そんなマジケットと家族や友人を思う気持ちが起こした奇跡の物語である。
「いや~ごめんね、お休みなのに付き合わせちゃって」
「いやいいよ、暇だし」
ある休暇を取ったの日の事、リヒトはオトハと共にアーブのマジケットジュニアリーグ『エアーズ』の練習試合を見に来ていた。
というのもオトハはエクスレイドが運営している児童養護施設に教師として勤めることになり、その施設に入っている子供がエアーズに所属しており、その応援にリヒトと共に来ていたのだ。
「やっぱり世界のトレンドはクリケットなんだね」
「クリケットじゃない、マジケットだ。全然違うぞ」
「そんなに違うの?」
「ああ、施設訪問の時に子供達と一緒にやったけど、スゴいスポーツだった。現実世界のスポーツなんかと全然迫力が違う」
子供の遊びレベルですらこんな感想を抱くのだから、公式戦はどれほどのものなのかとオトハは少しワクワクした気分になる。
「そんなに言うのか……どんなスポーツか楽しみになってきたかも」
「見るだけでも楽しかったぞ、今度混ぜてもらうと……ってあれ?」
エアーズ所属の子供達の保護者の集まりの中に、見覚えのある顔を認めたリヒトは手を振って彼に呼び掛けた。
「おーい! マティアス!」
「ん? え⁉ リヒトさんじゃないっすか!」
お互いまさかここで会うと思っていなかった者同士、半笑い半驚愕で互いに腕を組む。
「いや~まさかここで会うとは、非番?」
「非番じゃないっすね、休暇取ったんですよ」
「そうなんだ、ていうかマティアスって子供いたの? 知らなかったな」
「ちょっ! 違いますって! 親父とお袋の代理で妹の練習試合見に来たんですって。それに俺二十になったばっかですよ!」
そういえばリヒトは以前に、マティアスは多忙な母と患っている父と妹を支える為にエクスレイドへ入ったと聞いた。
「前言ってた妹さんの応援か、良い兄貴じゃん」
「いえいえどうも……リヒトさんはどうして?」
「ああオトハがね、児童養護施設の教師やる事になったんだけど、そこの子がエアーズに入ってるからその応援にくっついてきたんだ」
「ああ、この人が青いルミナスに憑依されてたって言う婚約者さん……」
オトハは微笑みながらマティアスに手を振ってフルネームを名乗る。
「すっげぇ……美女」
「ハハハハハハ少しそこの日陰の方でお話しようか」
「いやいやいや他意はないですからね!」
「なんだよ、冗談に決まってるじゃないか」
「目が本気だったっすよ……」
「遊んでないで準備手伝って」
リヒトとマティアスは間延びした返事をして、オトハ達の方へ向かった。
そんなこんなで練習試合が始まり、リヒト達は精一杯の声援を送ってエアーズの選手たちを鼓舞した。
「すごいねマジケット……ていうか危なくない?」
ルールで制限されているとはいえ、マジケットでは魔法を使用しての打球や妨害が認められている。
その為公式な試合は一見すると危険に見えることがしばしばあり、偶に派手に吹き飛ぶ選手もいるのだ。
「ヘルメットとプロテクターつけてるし大丈夫だよ。それに魔法の方も種類と威力は厳格に定められてるからね。まあでも、ジュニアリーグの試合が始まるのはいよいよ明日だから、ちょっとみんな気が立ってるのはありそうだね」
つまりこの練習が試合前最後という事になる。
「ああそっか、薙刀やってた時、試合前は私も皆もどこかピリピリしてたっけ」
「まあ気を張りすぎるのも良くないけどね」
午後になって早めに練習が切り上げられ、コーチから今日は寄り道と夜更かしはしないよう言い渡されてこの日の練習は解散となった。
「終わったけど、これからどうする?」
「施設の子達を送って、その後帰ろうかな」
「そっか、俺も送るよ」
そんなやり取りをしていると、マティアスが一人のユニフォーム姿の女の子を連れてやって来た。
「おお、この子が妹さん?」
「そうなんすよ。ホラ、挨拶しな」
「はじめまして、リーゼロッテ・フェルナンデスです」
ぺこりと頭を下げたリーゼロッテを見て、自慢の妹だと言わんばかりにマティアスが微笑む。
「お兄ちゃんがいつもお世話になってます」
「おお、しっかりしてるね、兄貴よりもちゃんとしてるんじゃないの?」
「全くその通りで……って言わせないでくださいよ。明日も俺とリヒトさん試合見に来るからな、頑張れよ!」
「うん!」
マティアスとリーゼロッテと別れ、この日は何事もなく夜が過ぎていった。
翌日の午前七時、アーブ第二都市ヴァングリ・ラのジャスパー・スタジアムにて、エアーズはじめ様々なマジケットのジュニアリーグチームが続々と集まっていた。
「いやさぁ……エラいよこの子達は」
「だよねぇ……あぁ……」
伸びをしながら大欠伸をしたオトハは、エアーズやその他のマジケットジュニアリーグの選手となった子供達の顔をまじまじと眺める。
「こんな朝早くから集まってさ、エラいよ本当に」
「将来子供出来た時に、こんな早くに起きれるかな」
「子供ねぇ、習い事何させる?」
そう聞かれたリヒトは、腰に手を当てて天井を仰いだ。
「武道とか格闘技……とかになりそうかなぁ」
「やっぱそうなる? 親子三代格闘技?」
「いやさ、習い事とかで親が同じ目線のアドバイス出来た方が良くない?」
「あぁ、確かに門外漢なのに口出す親って、なんか将来墓蹴られそうだしね……なんてまだ気が早いか、先に結婚だね」
「ああ、帰ったらするか、結婚」
そんな話をしていると、クォーツシーバーから緊急事態を知らせる警報が鳴る。
「んお? 非番なのになんでだ?」
「出てみたら?」
オトハに断って人が居ない場所に向かって出ると、少し慌てた様子のイーライの顔がホログラムで表示された。
「どうしたんだい? 緊急招集じゃないっぽいけど」
『ええ、緊急招集ではありませんが、今ヴァングリ・ラに居るんですよね?』
「ああ、そうだけど……」
『これを見てください』
そこにはある山中に出現したモンスターの予想進路が表示されていた。
「これは!」
『ええ、このギュルテゴスはこのままだと一時間以内にヴァングリ・ラへ到達し……ジャスパー・スタジアムを蹂躙するでしょう』
「なんてこった……知らせないと!」
『既にスタジアム関係者とマジケットジュニアリーグの責任者には伝えました、リヒト君は治安維持兵と連携し、子供たちの避難をお願いします』
「分かったギュルテゴスは頼んだ」
リヒトはオトハとエアーズの監督やコーチにこの事を伝え、子供達に避難を促すように頼み、マティアスの方へ向かう。
「聞いた?」
「聞きました。モンスターが来るんですよね?」
「オッケー、僕達で何とかできないもんかな」
「うーん、転送機能はありますけど……」
クォーツシーバーには簡易的な空間転移魔術式が組み込まれており、無生物かつ巨大ではなければ特定の物体を転送する事が可能である。
「さすがにチャリオッツはダメか」
「はい……さすがに規定範囲外です」
「うん……ワンドライフルでモンスターに挑むのも流石に無謀すぎるし」
「いや……探査隊の人達って偶にチャリオッツ無しでモンスター狩りますよね? 出来ません?」
ラクスに成れば可能だが、そんな事を今言うわけにはいかない。
「いや今僕は一人だし、さすがに五十メートル級は無理だよ、三十メートルまで」
「三十でも大概ですって……」
そうボヤキながらマティアスは何か使える物は無いかと転送できるものを探していた所、何かに気付いたように目を見開いた。
「リヒトさん! これ!」
「お? 何かあった?」
マティアスに言われて外に出ると、マティアスのクォーツシーバーから二種の乗り物が転送される。
「おお、これは?」
「一部チャリオッツの技術を搭載した試作品の魔導車と魔導二輪です! これならモンスターと対抗できる!」
「ファンタスティック! でかしたぞマティアス」
「みんなに伝えてきましょう!」
一旦戻ったリヒトは、オトハに今からエクスレイドとして出陣すると告げた。
「そう……私は行かなくていい?」
「僕一人で出るよ、君はここに残って子供達を守るんだ」
「わかった……怪我しないようにね」
「ああ、子供達は任せたよ」
リヒトはオトハとアームタッチを交わした後、リーゼロッテと目線を合わせて何か話しているマティアスの方へ向かう。
「大丈夫だからな、絶対試合は中止にさせないし、俺も絶対戻ってくる」
「……約束だよ」
「おう」
マティアスは立ち上がってこちらを向き、リヒトと共に戦場へ赴くのであった。
「僕はバイクで行く、君は車を使え」
「了解っす!」
リヒトがバイクに乗り込んでクォーツシーバーを翳すと、ナビモニター部分に文字が表示される。
「スピュメイダーね、速そうだ」
「こっちはカヴァスですって……期待していい感じっぽい」
「よし、行くぞ!」
スピュメイダーとカヴァスの魔力エンジンが唸り、凄まじいスピードでギュルテゴスの元へと向かって行くのだった。
「よし……こちらリヒト! ケイ、誰かいるか?」
『はえ⁉ リヒト⁉ なんで……かけてきた?』
驚くヴェルクをよそに、リヒトは更に続ける。
「色々あってそっちの方へ向かってる、援護するからギュルテゴスの特徴を教えてくれないか?」
『そ……そうか、奴は背中と頭部と四肢を外骨格甲板で覆っていてこちらの攻撃を中々通さない! それに全身を丸めて転がりながら移動する特性があってな! これが中々厄介なんだ!』
「攻撃を通さないか……わかった! 今奴はどこら辺に居る?」
『ヴァングリ・ラの初期段階防衛ラインは突破されてる! 都市への侵入を許すことになりそうだ!』
「わかった! 飛ばして向かう!」
どうやら厄介な相手になりそうだと内心溜息をつきつつ、リヒトはスピュメイダーのブースターを起動して更にスピードを上げるのであった。
それから数十分後、スピュメイダーとカヴァスは暴れているギュルテゴスと、それらを必死に食い止めようとしているケイとランスロット小隊の元へ辿り着いた。
「こりゃ硬そうだ」
「甲板の隙間を狙うしかないみたいです」
「僕達は下から攻撃できる。腹部を狙って攻撃だ!」
「了解です!」
カヴァスとスピュメイダーはそれぞれ左右に展開してギュルテゴスの腹部へ潜り込むべく急速に接近し始めた。
『こちらケイ! スピュメイダー応答せよ!』
ナビモニターからイーライの声がする。突然試作機に乗って現れた何者かを警戒したのだろう。
「僕だ、リヒトだ」
『リヒト君⁉ どうしてリヒト君が……スピュメイダーを?』
「マティアスから借りた、マティアスはカヴァスだ。いいか? 僕が今からスピュメイダーで奴の懐に潜り込んで腹を撃つ。そしたら顔を上げると思うから、そこを狙って撃つんだ!」
『無茶だ! 流石に危険ですよ!』
「承知の上さ!」
通信を切ってリヒトはウィリー走行しながらギュルテゴスに近付き、ついにその影の下に入ることに成功する。
「睨んだ通り……腹は柔らかいみたいだ!」
ワンドライフルを転送したリヒトはアタッチメントと弾丸の種類を素早く切り替え、脇の下や下腹部と言った皮膚が薄くなる部分を狙って銃撃する。
「こいつも持っていけ!」
スピュメイダーのカウルや各部フレームが変形して小型魔術砲が展開し、ギュルテゴスの皮膚が薄くなっている部位を攻撃する。
「俺も忘れるな!」
ドリフトを決めたカヴァスは円を描きながら車体各部を変形させ、魔術誘導爆弾と電光弾を発射しながらギュルテゴスを怯ませた。
「よし! 顔を上げたぞ!」
ケイから放たれた榴弾と、三機のランスロットから放たれた熱戦がギュルテゴスの顔面に直撃し、そのまま腹を見せた姿勢で真後ろに倒れてしまった。
「よっしゃ倒した! このまま腹に……」
総攻撃を畳み掛けようとするも、ギュルテゴスは下半身を起こして球状に体を丸めると、ゴロゴロと周囲を転がって破壊し始めた。
「ああクソ! なんて野郎だ!」
「しくった、僕の作戦ミスだ」
暫く周辺を転がって蹂躙した後、ギュルテゴスは都市部へと向かって行った。
「マズい!」
「逃がしてたまるか……飛べカヴァスゥッ!」
マティアスがモニターを素早く捜査してレバーを引くと、カヴァスの各部が変形して飛行形態になると、ヴェイパーコーンを残しながらギュルテゴスを追いかけ、ケイとランスロットがそれに続く。
「あっちにはな……俺の妹だけじゃなくてな! 今日この日の為だけに必死こいて努力した奴らがいっぱい居る!」
自分の胸の内の熱意を言葉に出す度、マティアスのハンドルを握る手が強まっていく。
「俺はそれを見てきた……だからどんな思いであいつらがあそこにやって来たかよく知ってる! お前に邪魔させるわけにはいかないんだよ‼」
マティアスの必死の叫びは、スピュメイダーの通信機を通してリヒトにも届いていた。
『どうするリヒト?』
「……まず奴に近付こう。いい方法がある」
そう言ったリヒトは大きく深呼吸するとスピュメイダーの特殊機能をオンにする。
「重力制御モードとブースター……行くぞォォォオオオオッ!」
スピュメイダーの車輪とマフラーが発光し、初速から時速百五十キロを優に超すスピードでギュルテゴスの追跡を始めた。
「うおおおおっ! よっ!」
ウィリー走行しながら跳躍し、崩れた瓦礫から瓦礫へ飛び移りながら徐々に高度を上げていく。
「いいスロープ発見! 突っ込め!」
丁度瓦礫が重なって坂になっている部位目掛けてスピュメイダーを直進させ、重力軽減機能の数値を最大限まで高める。
「ハッ!」
スロープでの大ジャンプと共にリヒトはスピュメイダーからも飛び上がり、両手を広げて空中へ舞い上がる。
「おおおおおっ! ラクスゥゥゥゥゥウウッ!」
リヒトの身体がエメラルドグリーンの光に包まれ、大きく強く変わっていくのであった。
マティアスが必死で転がり続けるギュルテゴスに食らいついていると、カヴァスの真下から優しげな光が通り過ぎ、ギュルテゴスの前に立ちふさがった。
「ヴワァッ!」
エメラルドグリーンに輝く巨人はギュルテゴスを大きく吹き飛ばして進行を止めるも、巨人自身も周囲の建物を巻き込みながら吹き飛んでしまった。
「ラクス!」
「ギヨワッ!」
吹き飛んだラクスは全身を振って瓦礫と土埃を落とすと、左拳を胸に当てて斜め上に振り抜いて形態をグランサンダーに変えると、まだ球状のギュルテゴス目掛けて走っていく。
「ゼェッ!」
電撃を纏った拳の一撃を喰らったギュルテゴスは後退するも、ラクスの方も拳を痛めて腕を振って痛みを逃す。
「グランサンダーでも破れない硬さとは……驚いたな!」
転がりながら後退していたギュルテゴスは方向転換し、仕返しとばかりにラクスへと突進してきた。
「ヌイワッ!」
ラクスは何とかギュルテゴスを抱えると持ち上げてから思い切り地面へ叩きつけ、ようやく球状形態を解かせることに成功する。
「ゼヤッ!」
がら空きになった胴体へラクスがマグメーザーを叩き込み、ギュルテゴスは全身を跳ね上げて防御態勢に入った。
「フンッ!」
ラクスは構えると両腕に風の力を集め、ハンディストームを放つもギュルテゴスは咄嗟に背を向けて竜巻を受け流してしまう。
「ゼッ!」
再び姿を変えてブリザニングとなり、ラクスはグリッドミサイルマイトを一点に集中させて装甲を破ろうと試みる。
「ヌゥッ!」
しかしそれでもギュルテゴスの装甲を破る事は出来ず、ラクスはミサイルマイトをスパークランスに変え、片手から冷気を放出して装甲の一部を凍り付かせた。
「ゼェェェェエイッ‼」
凍り付かせた部位目掛けて炎を纏わせたグリッドスパークランスを突き立て、ついに小さな亀裂を入れることに成功する。
「ゼヤッ! オオワッ⁉」
痛みに悶えながらギュルテゴスは振り返って腕から電撃を纏った熱線を放ち、ラクスは大きく吹き飛ばされる。
「ギヨワッ! ヌゥオッ!」
吹き飛ばされて建物へぶつかる直前、ラクスは空中で姿勢を立て直し、グリッドスパークランスに水を纏わせて振り回してギュルテゴスを拘束して釣り上げようと試みる。
「ヌオッ! ドォラッ!」
渾身の力でギュルテゴスを空中へ放り投げ、それと同時にラクスは全身を液状化させてギュルテゴスへ組みついた。
「あの技は!」
ラクスの全身が赤く輝き始めると同時に大爆発を起こし、周囲一帯に超高温の水蒸気が発生する。
「な……何ですかあの技は!」
「自爆技だよウェンディ、バイオクローとの戦いで五十メートル級の個体を一瞬で蒸発させた凄まじい技さ」
「自爆して……大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ隊長、水蒸気となって分散した体を再構成する事も出来るので」
イーライが言った通り周囲一帯の水蒸気が収束してラクスの身体を再構成し、疲れたように膝をつく。
「自爆したらさすがに消耗するみたいね」
「まあ大丈夫でしょう、さすがにあの技を喰らえば……」
皆の予想に反して空中から巨大な球が落下し、ギュルテゴスは腕を振り回しながら咆哮する。
「嘘だろ、なんて奴だ!」
スティームサージすら耐え切ったギュルテゴスの驚異的な耐久力に、リヒトはもはや戦慄していた。
「もはや手は一つしかないぞ」
「うん……」
ソルティアが言っている手は分かっている、エトワールギアだ。
「でもエトワールは滅多に使う訳にはいかないからな」
強すぎる力は腐敗を生む、それがリヒトの信条である。
願いの力によって思考をダイレクトに形にするエトワールギアはあまりにも強大であり、故にリヒトは短期決戦でのみ使うように心がけている。
「制限の関係で三分しか使えないからな、このままもう少し粘るか」
「ああ、もう少し付き合ってくれ」
ラクスはまた姿を変えてエーテルバーストになると、黄金のオーラを解き放ってデルゴラスの力を纏い、無数のクラッシャーエッジを放った。
「デルゴラスの力なら!」
しかしギュルテゴスはこれまでと違って防御には回らず、電撃を纏った熱線を放ってクラッシャーエッジを撃ち落とし始めた。
「フッ! ゼヤッ!」
ギュルテゴスの対応を見るやラクスは即座にデルゴラスの力で強化されたスクリューバーンを顔面に放って怯ませると、腕に大地の力を収束してジオブレードを作り出し、斬りかかろうとすれ違いざまに斬りかかろうと走り出す。
「ゼェッ⁉」
しかし刃が通る直前ギュルテゴスは腕の装甲でジオブレードを受け流し、ラクスへ直接熱線を放って吹き飛ばしてしまった。
「ヴオオオオオワッ!」
吹き飛んだラクスは高層ビルにめり込み、そこへ容赦なく球状になったギュルテゴスが突っ込んできて更に遠方へと倒れ込む。
「ギヨワッ! ヌアアアアアッ!」
そこへ追い打ちをかけるように倒れたラクスの上をギュルテゴスが轢いて回り、エクスレイドもギュルテゴスへ攻撃を加えるもあらゆる攻撃を弾いてきたギュルテゴスの装甲を破る事は出来なかった。
「ねぇイーライ、ラクスがギュルテゴスの装甲にヒビ入れた所あったよね?」
「……そこを狙うのは至難の業ですが、やってみます!」
「大丈夫だイーライ! 俺は外さねぇ!」
転がり続けるギュルテゴスの装甲のヒビを狙い、イーライはなんとか照準を合わせる。
「今だ! 撃ってください!」
「しゃあっ! 今助けるからなラクス!」
ケイの大型魔術砲から放たれた針状の光線がヒビの中に入り込み、ギュルテゴスは球状になったまま大きく跳ね上がって距離を取る。
「やった!」
ようやくラクスは立ち上がるも、その足取りは覚束なく、メテオシンボルも赤く染まってしまう。
リヒトとソルティアの魂の融合によって高次元から呼び出される無敵の戦闘用肉体ラクスは、三次元宇宙では数分間しか顕界する事が出来ない。
満身創痍の中、ラクスは状況を打開する事が出来るか?
「さて……どうやって倒すかね」
残された時間は少なく、なおかつギュルテゴスに有効打を与える方法はまだ思いつかない。
さすがに無いと思うが、エトワールギアですら通じなかったら完全に打つ手が無くなる。
あれこれ考えていると、テレパシーが聞こえてきた。
『リヒト、ソルティア、聞こえるか?』
「ゼフェル? どうしたんだ?」
『今オトハが聞いているもの、見ているものをお前達に送る』
リヒトが聞き返そうとする前に空間内部に映像が浮かぶ。
「これは……」
エアーズの選手である子供たちがQVの中継映像を見ながら、ラクスやエクスレイドへと声援を送っていた。
その中にはリーゼロッテは勿論、以前施設訪問した際にリヒトと共にマジケットをやった子供もいた。
「あの子達は……私達の勝利を信じている」
『少しは力になっただろうか?』
ソルティアとゼフェルの会話を聞きながら、リヒトは子供たちの願いの力で眩い輝きを放つエトワールジェムを取り出す。
「そうか! 思いついたぞ!」
「どうした⁉ 倒す方法を思いついたのか!」
「ああ! マジケットだ!」
そう言ってリヒトはエトワールジェムを掲げ、スパークルトランサーに装填した。
「宇宙の闇、星の光、それらを繋ぐは願いの力。星を我が手に……エトワールッ‼」
力なく立っていたラクスであったが、まるで気合を入れるように全身に力を込めると宇宙を思わせる輝きがその身を包み、エトワールギアを身に纏う。
「ゾアッ!」
エトワールギアを前にしても臆する事無く、ギュルテゴスは転がりながらラクスへ向かうも、強烈な蹴りで吹き飛ばされ、方向転換しながら再びラクスへと向かおうとする。
「そう来るのを……待ってたのさ!」
リヒトはエトワールレットにエーテルバーストジェムを装填し、ギア全体にエーテルの力を行き渡らせる。
「ンンンン……ゼヤッ!」
「ラクスが何か生成したぞ!」
ラクスが掲げているのは棒状の物体で、板状のものにハンドルが付いたような形をしていた。
それはまるで。
「マジケットの……バット?」
マジケットバットを生成したラクスは腰を落として打球の構えを取り、転がりながら向かって来るギュルテゴスへ向かい合う。
「ギュルテゴスを……打つつもりか⁉」
バウンドしながらこちらへ迫るギュルテゴスを見て、リヒトは深く呼吸して心を落ち着ける。
「来るぞリヒト!」
ラクスへ飛び掛かろうとギュルテゴスが飛び上がった直後、ラクスは全身を使ってバットを振る。
「一球ゥッ!」
「入ゥ魂ッ!」
バットにエネルギーが収束してギュルテゴスが大きく吹き飛び、そこへエレメントドリルビームを叩き込み、ギュルテゴスは色とりどりの光の粒子を放ちながら爆散してしまった。
「うおおおお! 6ランだ! ラクスがモンスターを打ち上げた!」
まさかの方法でギュルテゴスを撃破したラクスに、全員大歓声を上げた。
「ゼワッチッ!」
空に舞い散る色とりどりの光の粒子をくぐり、ラクスは空の彼方へ飛び去って行った。
無事にマジケットジュニアリーグは開催され、リヒトとマティアスも無事に開会式に間に合った。
「アーブ王国マジケットジュニアリーグ開会にあたり、決して忘れてはならない事があります」
アーブマジケット連盟会長の言葉がジャスパー・スタジアムの中に響き渡る。
「モンスターの襲撃により一時本大会は開催を危ぶまれました。しかし、アーブの心強い守護者たるエクスレイドと、我々の友人ラクスが全力で戦ってくれたことで、本大会は無事開催出来ました!」
ストレートな賞賛に、リヒトとマティアスの胸に熱いものが込み上げてくる。
「エクスレイド及びラクスへの感謝を胸に、今日は選手一同、全力でプレーする事を期待します」
連盟会長の言葉が終わった直後、リーゼロッテがこちらを振り返ってマティアスへ笑いかけ、これによりマティアスは限界を迎えてしまった。
「うっ……うぅ……」
「おぉ? おいおい、大丈夫?」
「俺……エクスレイドに入って良かったぁ! うおおお……」
大泣きするマティアスに苦笑しつつ、内心リヒトも同じ思いでいた。
「誰かに賞賛してもらう為にやってる訳じゃないけど、こういう風に言われるとやっぱり嬉しいものがあるね」
「だからと言って……無理するなよー」
「はい、気を付けます」
リヒトはオトハと共に、自分が守り抜いた子供たちの笑顔を見ながら微笑むのだった。
To Be Continued.
本当はギャグ回にするつもりが、どういう訳かちょっとした感動モノに……ですが結構お気に入りです。
子供の夢を守る大人とはいいものです。
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ではまた来週お目にかかりましょう。




