天空のシエロ
アーブトピアを襲うグリアンゲロ軍団を、ラウンドナイツが迎え撃つ。
その最中オトハは、医療隊のピーターと共に避難所を目指すことに。
多くの敵に囲まれながら、オトハは自分のやりたい事を見出していく。
あの日の奇跡の続きがもう一度起こる時、アーブトピアに青き影が舞い降りる!
この戦い、決して見逃すな!
マル族自治区を秘かに蝕んでいた炎の道と忘れ去られた神々の脅威を取り除き、今回の一件はすべて無事に終わった……筈だった。
狡猾なる偽りの救世主は第二の計略を備えており、次なる標的をアーブ王国首都アーブトピアに定めた。
暗雲立ち込めるアーブトピア、果たしてこの国の運命や如何に。
マル族自治区から帰って来て数時間後の事、オトハはベースアヴァロンにて宛がわれた部屋にて戦っているリヒトの事を考えながら寛いでいると、何やら騒がしい事に気が付いた。
「なんだろう?」
部屋の扉を開けると、何やら職員達が慌ただしく走り回っているではないか。
「えっ……なに?」
一体何が起こっているのか分からなかったが、少し耳を傾けてみると「空」と「雲」という単語が聞こえてきたため、オトハは近くの窓へと走った。
「!」
おかしい、こんな天気は見た事がない。
黒く分厚い雲が空全体を覆っている、それだけならまだ分かるが、雲全体が渦を巻いている。こんなのは明らかに異常だ。
「君がシノザキ・オトハ君だね?」
「えうっ⁉」
急に背後から落ち着いた渋みのある中年の男声がして、オトハは驚いて身を震わせる。
「ああ、すまない。驚かせてしまったようだね」
背後に立っていたのは、マジックギターを背負った四十後半程の強面の中年男で、その顔に反して素敵な笑顔を浮かべていた。
「初めまして、私はエクスレイド医療隊所属のピーター・ディスコ=ファンケンシュタイン。アーブトピアへ入れないリヒト君の頼みで君の護衛にやって来た。どうぞよろしく」
「そうなんですか、よろしくお願いしマス……」
とりあえず助けが来てくれたことに一安心したものの、アーブトピア上空のこの不気味な状況は変わらない。
「あの~ファンケンシュタイン先生」
「ピーターで構わないよ」
「ピーター先生、あれって何なんですか?」
「ハイポリアで急速に勢力を伸ばした新興宗教『炎の道』。その唯一神グリウェの御使グリアンゲロが降臨し、アーブを炎に包もうとしている……この雲はその前兆だ」
「それじゃ今は!」
ラクスとなるリヒトは今ここには居らず、探査隊も居ない、かなり危険な状況である。
「今ラウンドナイツの出動命令が下り、現状出て行ける全ての小隊が出動する事が決まった。君は避難してもらう、いいね?」
オトハが頷いたのを見るとピーターはマジックギターを構え、ベースアヴァロンの出口を指した。
「避難所は少し遠いぞ」
「大丈夫です、体力には自信あります!」
「よろしい、出発だ!」
ピーターがオトハを連れてベースアヴァロンを出た直後、付近から轟音が響いて地面が大きく揺れた。
「うわああっ!」
「オトハ君!」
オトハを庇ったピーターが周囲を見ると、ロールシャッハを思わせる爛れて引き攣った皮膚を持つ異形の巨人が、笑い声にも似た不気味な声を響かせる。
「来たなグリアンゲロ……」
更に周囲を見回すと無数のアークグリアンゲロが次々と降臨しており、アーブトピアは笑い声にも似た不気味な声に包まれた。
「始まったか、炎による世界の浄化が!」
無数のグリアンゲロが降臨する中、曇天を複数のチャリオッツが飛んでいた。
「こちらランスロット小隊、標的を確認した」
「こちらガウェイン小隊、こちらも把握……つっても無数にいるがね。トリスタン小隊、到着したか?」
「トリスタン小隊現着、無数の標的を確認……どうやら大仕事になりそうだね」
合計九機のチャリオッツが、無数のグリアンゲロ犇めくアーブトピア上空を飛び回る。
「どうやって倒す? あいつらって一匹殺したら増えるんだろ?」
「賢く倒さないと堂々巡りになるな」
ただでさえ無数のグリアンゲロがアーブトピアに居るというのに、これが増えたらたまったものではないだろう。
「以前の戦いを鑑みるに、おそらくあの雲が奴の力を増幅させている。だからグリアンゲロを直接叩くよりも先に雲を処理するべきだろうね」
最初にグリアンゲロと戦ったランスロット小隊のルシアンが作戦の提案をする。
「じゃあ雲は俺達ガウェインが処理しよう」
「俺達は太陽の騎士の名を冠する小隊だからな、空を晴らすにはうってつけだろうよ」
「わかった、雲の方は君達ガウェインに任せたぞ!」
ランスロットとトリスタン各小隊はガウェイン小隊と別れ、アーブトピアの方へと降下していく。
「雲の方はガウェインに任せるとして、どうやって奴らを倒さずになおかつ破壊行動を止めさせる?」
「とりあえず一つの場所に誘導しよう、そうして一点に固めた所を氷漬けだ!」
「その作戦乗った! チャーリーの作戦で行くぞ!」
「ああ! 全機散開!」
六機のチャリオッツが一斉に散開し、それぞれがアークグリアンゲロへと攻撃を仕掛ける。
「食いついた! こっちよ!」
アークグリアンゲロは笑い声を思わせる咆哮を轟かせながらGイゾルテを追いかけ、カリスタは地の利とトリスタンモデルの素早さを活かしてアークグリアンゲロを翻弄する。
「カリスタ! B6ポイントの交差点に誘い込める⁉」
マルヴィナからの通信が入り、カリスタは後方のモニターを見ながら操縦桿を握る。
「交差点⁉ わかった……やってみる!」
Gイゾルテは後方から迫る火球や火炎放射を回避し、ついでに進路上へ現れたグリアンゲロも引き付け、マルヴィナから示された合流地点へと向かって行く。
「あと五秒!」
「うん! わかった!」
緊迫の五秒間、交差点上にてGイゾルテとWイゾルテが交錯し、アークグリアンゲロの集団が追突してしまった。
「やった!」
「よし! このまま!」
二機のイゾルテが上昇し、集団追突したグリアンゲロへ照準を定める。
「「特殊冷凍魔術砲! 発射!」」
二基の魔術砲から青い光線が迸り、反撃の暇もなく全てのグリアンゲロが凍結してしまった。
「よし!」
チャーリーが立案した作戦は功を奏したようだ。
場所は移ってアーブトピア上空、黒く分厚い雲へと三機のガウェインが近付いていく。
「あんまり近付くと危ないんじゃないか?」
「計器異常は今のところ見られないが、もしかするとジャミングを喰らうかもしれないからな。適度に距離を取って攻撃だ!」
「ああ、一点集中で行くぞ! 渦と渦の隙間を狙え!」
小隊全員が雲の一点を集中して射撃するも、通常攻撃用の魔術砲では全く効果が上げられない。
「さすがに無理か……」
「まだ諦めるなカイ! 今度は熱線魔術砲だ!」
照準を同じ場所に定めたまま熱線を放つと、一瞬ではあるが晴れ間が見えた。
「おお!」
「いいぞ、だが油断するな! このまま照射を続けるんだ!」
クリフの発破でカイとバイロンは熱戦魔術砲の威力を上げ、雲を熱線で裂いていく。
だがしかし、雲はまるで意思を持っているかのように隙間を修復し、複数の渦が合体して巨大な渦を作り出した。
「クッ! デカくなりやがった!」
「何か来る! 高度を下げろ!」
渦の中心から炎を纏った巨大な人型が出現し、徐々に炎の翼を持つプリンシパグリアンゲロの姿になった。
「なんだこいつは!」
「装甲持ちで角も派手……グリアンゲロの上位個体か!」
キャノピー越しに熱で濁ったプリンシパグリアンゲロの瞳がこちらをぎらりと睨みつけ、割れんばかりの笑い声にも似た咆哮が機体全体を揺らす。
「どうやら長い任務になりそうだな!」
アーブトピアの空での激戦の最中、ピーターとオトハは瓦礫と振動を掻い潜りながら、避難所へと向かっていた。
「車でもあったら良かったんだがな!」
「むしろ車の方が! 危なくないですか!」
ピーターのサポートがありつつこれまで進んで来たオトハだったが、ここで最悪の事態が発生した。
「ピーター先生! あれ!」
「どうしたオトハ君!」
ピーターがオトハが指を差した方を向くと、一際巨大な渦から複数の火球が複数射出され、そのうちの一つが数メートル先に落下してきた。
「うわっ!」
「くっ!」
粉塵と爆炎が晴れ、その先で二人が見たものは、等身大のグリアンゲロであった。
「人と同じ大きさの……グリアンゲロ!」
オトハとピーターの姿を認めたグリアンゲロは、獲物を見つけた猛獣のような笑い声そっくりの鳴き声を挙げ、ピーターはマジックギターを構えながらオトハの前に出る。
「下がっていろオトハ君、奴の相手は私がやる」
グリアンゲロは腕の目のような器官から炎の剣を取り出すとこちらへ向かって走り出し、ピーターはマジックギターの弦を爪弾いて衝撃波を飛ばし、グリアンゲロを怯ませる。
「ハッ!」
マジックギターから飛んだ光球がグリアンゲロを包み込んで動きを止め、その隙にピーターは斬撃波をいくつも飛ばしてグリアンゲロを八つ裂きにしてしまった。
「オトハ君! 今だ!」
オトハを連れてその場から離脱するも、グリアンゲロはバラバラになった破片から復活・再生し、大挙して押し寄せてきた。
「再生したし増えてる!」
「すまない……走れ!」
二人は走ってその場から逃げ出そうとしたものの、グリアンゲロの集団は不気味な動きをしながらオトハとピーターを追いかけ、仕留めようと腕や炎の剣を振り回す。
「うっ!」
うち数体がオトハとピーターの前に着地して炎の剣を振り回し、何とか避けたものの近くにあった階段の金属製の手摺を切り裂いてしまう。
「くっ!」
左右と前を囲まれた上で背後には壁、完全に積み状態である。
「オトハ君……君だけでも」
逃げろ。
そうピーターが言いかけた時、近くで何かが折れる音が聞こえ、何事かと思って振り返るとなんとオトハがグリアンゲロによって切断された手摺を折り、まるで薙刀のように構えていた。
「……オトハ君?」
「私だって戦えます、一対多は……得意なんです!」
オトハは手摺を振ってグリアンゲロを次々と薙ぎ倒し、その腕前にピーターだけではなくグリアンゲロですら唖然としていた。
「相手が悪かったね! 薙刀三段の腕、とくと味わえ!」
炎の剣を叩き落とし、胸や頭を狙って殴打や打突を繰り返し、ついに全員ダウンさせてしまった。
「フゥーッ……先生! 行きましょう」
「……あっ、ああ! そうだな、行かねばな」
思わぬオトハの能力に、ピーターは感心するのであった。
グリアンゲロの集団を倒した後に最短ルートで避難所へ向かおうとした所、至る所で暴れ回っているアークグリアンゲロのせいで瓦礫が崩れて道を阻まれており、二人は迂回を余儀なくされた。
「見たほど被害は大きくなさそうだが、復旧は大変そうだな」
ピーターの独り言を聞きながら、オトハは空を翔けるチャリオッツと大暴れするアークグリアンゲロの様子を見て、薙刀代わりにした階段の手摺を握り締める。
「どうかしたか?」
オトハは伏し目がちに振り返って何か思順した後、オトハは決心してピーターの目を見て口を開いた。
「青いルミナスって覚えてますか?」
「ああ、情報は追っていたが、それがどうかしたのか?」
「あれは……私だったんです」
ピーターは驚いて目を見開き、少し慌てたオトハは複雑な事情を掻い摘んで説明する。
「そうか、婚約者二人揃ってとは……奇妙な縁があるものだ」
「えっ⁉ 知ってたんですか?」
「ああ、偶然リヒト君がラクスになる所を見てね、彼には秘密にしてくれよ?」
「そうなんだ……今後気を付けるよう言っとこ……」
話が逸れてしまったとオトハは軌道修正を試みる。
「話を戻すと、今は私の中に居た星の戦士は死んでしまったので、もうルミナス・ギガントにはなれません。それが……少し悔しくて」
「悔しい……か」
「今の私には逃げることしかできないのが……悔しいんです」
ピーターは近くの瓦礫に腰を下ろして鼻筋に指を当てて少し考えた後に、オトハに向かって問いを投げた。
「本当にそうか?」
「えっ?」
「君は逃げるだけしか出来ないのか?」
「……でももう、私にはあんな巨大な怪物に立ち向かう力はありませんよ」
ピーターは首を振り、オトハが持つ手摺を指差して続ける。
「君はいざとなれば誰かの背に隠れるのではなく、脅威に立ち向かう勇気を持っている。その勇気を見込んで星の戦士は君を選んだんだ、それは今も変わらない。君のその心に燻る悔しさは、まだ自分に何か出来る事があると思っているからなんじゃないのか?」
「私に……出来る事」
薙刀代わりにした手摺を見て、オトハは以前の自分の発言を思い出す。
『ゼフェルは……まだ死んでない、そしてきっと帰ってくる。そんな気がするんだ』
『私には分かるよ、短い間だけど一緒に戦ったんだし』
オトハの中で悔しさという感情が徐々に変化していき、ある決心が生まれた。
「ピーター先生、行きたい場所があります」
「ほう、どこだね?」
「戦士の閨です!」
避難所へのルートを変えて戦士の閨に向かう最中、オトハはふと気になって前を歩くピーターの背に向かって聞いた。
「ピーター先生、もしかして教師か何かやってました?」
「教師ィ? そうだな、色々やってきた人生だったから、教師もやってたかもしれないな」
「やってたんですね、私教師なのでなんとなくわかりましたよ」
「おお、そうだったのか、元同業者だったとはな」
ピーターは一癖も二癖もあるような人物だが、きっと名物教師と言われるような存在だったのだろうと、オトハがほんの少し羨望の念を抱いていた所、再び雲の渦から轟音と共に火球が発射される。
「またグリアンゲロが!」
「急ぐぞオトハ君、奴らに見つかると面倒だ!」
幸いなことに近くにはグリアンゲロは落ちて来ず、ストレートに目的地付近まで行くことが出来た。
だがしかし。
「あっ!」
「これは……」
戦士の閨の殿堂へと繋がる階段に、グリアンゲロの集団がひしめいているではないか。
「簡単にはいかないという訳だ」
ピーターはマジックギターを、オトハは階段の手摺を構えると、二人で目を合わせて深呼吸した後、雄叫びを挙げながらグリアンゲロの集団へ突っ込んでいく。
「ここはアーブを守り散った戦士が眠る神聖なる場所! 貴様らのような存在が土足で上がっていい場所ではない!」
「私の邪魔を……皆の平穏の邪魔を! する奴は全員! 叩き! のめすっ!」
マジックギターの衝撃波や、オトハの手摺から繰り出される重い一撃にグリアンゲロは次々と吹き飛ぶも、次々と分身を増やして二人に向かってきた。
「オトハ君! 連中は私に任せろ! 君は君のやるべきことをやれ!」
「はい! ピーター先生!」
ピーターは積極的にグリアンゲロを引き付けて戦い、オトハは手摺を振り回して邪魔になるグリアンゲロを次々と叩き伏せ、ついに目的の殿堂へと辿り着く。
「ハァッ! ごめんなさいッ!」
大声で謝罪の意を述べると、オトハは手摺を殿堂の扉に突っ込んでこじ開け、中に入ってゼフェルの遺留品を探す。
「……あった! これだ!」
箱の中に入った粒子保管器とブロンズ化したアストラルリアライザーを取り出し、オトハは声の限り叫んだ。
「ゼフェル! 居るんでしょ! 私の中にまだ居るんでしょ!」
粒子保管器とアストラルリアライザーは何の反応も示さない。
「分かってるんだから、あなたの光が……私の中にまだあるって! まだ完全に死んでないんだって! 私は分かってる! だからお願い……もう一度一緒に戦って。あの時みたいに……私の願いを叶えて!」
アストラルリアライザーを持つ手に力がかかり、小刻みに震え出した。
「星の戦士はこの宇宙の無辜なる命を守るんでしょ? だったら今立ち上がらないでどうするの! お願い……答えて!」
半ば絶叫するように呼び掛けるも一切反応がない、視界の端にはピーターがグリアンゲロをオトハに近付けさせまいと奮戦する姿が見える。
もはやここまでなのだろうか。
「……ゼフェル」
アストラルリアライザーに向かって、オトハは囁くように言った。
「私がここに居るのは、あなたと私が巡り合って起こした奇跡……その奇跡は星の光すら灯して見せたんだ。まだ奇跡は続いてるって、私は信じてる。だからお願い……一緒に行こう?」
薄闇の中で、俺を呼ぶ声がする。
もう休みたいんだ、全て終わったんだから静かにしててくれ。
「いいや、まだだ」
まだだって? 何故だ、もう散々戦っただろう、二度としたくない思いも経験した。
使命も果たしからもういいだろう。
「まだあなたの使命は終わっていない」
終わってない?
「お前はまだ死んでないだろ?」
「最後のその時まで、戦い続けるのが我々星の戦士だ。まだ君は最後の時を迎えていない」
……どうして。
どうして一緒に逝けなかった。
どうして俺だけが生き残ったんだ。
「そんな事言うな! お前らしくない」
「お前が生き残らなくては、あのゾヴガリンはもっと多くの命を奪っていた」
「これは運命なんです。先輩が居なきゃ、あの地球って星も危なかったんですから」
「綺羅星の力でお前の命が繋がったのも運命なんだよ」
運命か……イヤな言葉だ。
「全くだよ。だけど今のお前にとってはむしろいい事じゃないか?」
「俺達は意識が宇宙に溶けるのを待つしか出来ねぇけど、お前は違う」
「あなたはまだ、沢山の命を守れるじゃない」
恨んでないのか?
俺一人生き残って。
「恨む⁉ どうしてですか!」
「このままあなたが腐ってたら、それこそ私達恨むわよ!」
「お前は戦えるんだ、それにお前を必要とする奴が居る」
俺を必要としてる奴……か。
「行ってこい」
「行って」
「行ってください」
「行きなさい……ゼフェル」
俺の光はまだ枯れてない。
俺はもう一度……戦うんだ!
ピーターとグリアンゲロの集団との戦いがすぐそこまで迫っている事を察知したオトハは、立ち上がって加勢しようとしたその時、アストラルリアライザーに無数のヒビが入った。
「えっ?」
ヒビの隙間から眩い光が発生すると共に粒子保管器が割れて中の粒子がオトハの中に流れ込み、オトハの中で強大な何かが膨れ上がっていくのを感じた。
「熱っ!」
オトハは発熱したアストラルリアライザーを取り落し、落ちた衝撃でヒビが全体に広がって、ついに以前のような美しい装飾品の姿を取り戻したのである。
「これは……」
『全くお前は……すごい女だよ』
「ゼフェル⁉」
『おかげ様で残り火みたいな状態から復活出来た。正直これにはびっくりだ』
オトハの脳裡に初めてゼフェルと出会った時に見た、眩いばかりのセレストブルーの光の炎を纏った人型の姿が蘇る。
「良かった……本当に良かった!」
『ああ、感動の再会と行きたい処だが、どうもアーブが危ないんだろ?』
「うん、今大変なんだ。力借りるよ!」
『ああ、俺の力を使えオトハ!』
オトハは叫びながら殿堂を出て、グリアンゲロの集団へアストラルリアライザーを突き付け、そこから発生する光で全てのグリアンゲロを消滅させてしまった。
「フッ……」
垂れた前髪をかき上げると、少し疲れた様子のピーターがゆっくりとオトハの方へ歩み寄る。
「……オトハ君、君のやりたい事は叶ったのか?」
「はい。私はもう秘かに守られる者でも、願いが叶うまで待つ者でもありません。私は二人で一人の……戦士になりました」
「そうか」
「見ててくれませんか? 私が……青空を取り戻す、その瞬間を!」
ピーターが頷いたのを見たオトハは深呼吸をするとアストラルリアライザーを構え、機関部を九十度回転させて秘められた力を開放し、曇天に向けて突き出した。
「おおおおおおおっ!」
自分の身体が大きく強く変わっていく。
この姿ならば誰にも負けない、そんな気持ちさえした。
上空で戦っていたガウェイン小隊であったが、強大な力を持つ上に黒雲から無限にエネルギーを供給する事が出来るプリンシパグリアンゲロの攻略は困難を極め、有効打を与えることが出来ずに劣勢の戦いを強いられていた。
「クソッ! 俺達はどうすりゃ良いんだ!」
バイロンが苛立ちのあまり座席を殴りつけ、機体を大きく上昇させて翻って攻撃を加える。
「効かないか!」
最終魔術砲を無暗に使えば事態の悪化を招く事になる、もはや八方塞がりかと思われたその時、上空から一筋の光が差し込んできた。
「光⁉」
「太……陽?」
プリンシパグリアンゲロも何事かと上を向いた途端、猛烈なスピードで迫って来た青い何かにぶつかって地上へ叩き落とされた。
「なんだアレは!」
プリンシパグリアンゲロを叩き落としたそれは地上へ降り立ち、手の中のピーターを下ろしてから雲の晴れ間の日光と青空の下で、ついにその姿を晒した。
「空より来たりし星の戦士……シエロ!」
彼の名はシエロ、たった今誕生した青き体を持つ奇跡の巨人である。
「シェアッ!」
シエロは腰を落として構えると先程叩き落としたプリンシパグリアンゲロへと走り、首根っこへ組みついて遠方へ投げ飛ばしてしまった。
「あれは!」
「青いルミナスか⁉」
「いや、容姿が全然違う……新しいルミナスか!」
『ラウンドナイツ! 聞こえるか!』
各隊員の乗機にピーターからの通信が入る。
「その声は医療隊の!」
『私の事はいい、いいか? あのルミナスは私を助けた、つまり味方なんだ! 彼を……シエロを援護してやってくれないか!』
「シエロ……それがあのルミナスの名前?」
「分かりました! 作戦を変更、我々はこれより、第三のルミナス・ギガントことシエロの援護に回ります!」
『頼んだぞ!』
思わぬ邪魔が入った事に焦ったプリンシパグリアンゲロは、背中の炎の翼の火力を高めてアーブトピア各所に出来た氷漬けのアークグリアンゲロの集団を救い出し、シエロの周囲に向かわせた。
「ディヤッ!」
対するシエロはアストラルハルバードを生成すると第一陣を切り裂き、次々とアークグリアンゲロを細切れにしていく。
「シィ……ディヤッ⁉」
しかしそれが狙いと言わんばかりにアークグリアンゲロは笑い声を上げながら再生分裂し、シエロを取り囲んでしまった。
「倒したら増えるんだ……やっちゃったなぁ」
「ほとんど切断技しか持たない俺達だけでは不利だな」
「何とかならない? ラクスみたいになんか色々変わったりとか」
「それは出来ないが……もしかしたらこれが使えるかもしれない」
ゼフェルの声と共にオトハの腰元に光が収束してホルダーが形成され、中を見るとコイン状の物体が入っていた。
「何コレ……カジノのチップ?」
「モンスターの怨念を集めた時に出来た副産物でな。これを使うとモンスターの能力を一時的に使用できる」
「なんかすごそう! リアライザーで使えばいい?」
「話が早いな、そういう事だ!」
オトハはラバノギの絵柄のモンスチップを取り出してアストラルリアライザーに装填すると、九十度傾けてラバノギの力をその身に宿す。
「シィェアッ!」
シエロはラバノギの能力を発動して腕から光球を発生させ、向かってきたグリアンゲロを吸引して動きを止め、更に腕からの電撃鞭で一掃してしまった。
それを見たアークグリアンゲロは悔しそうに叫びながらシエロ向かおうとした所、魔術砲やフェイルノートレーザーを受けて後退する。
「こっから先は行かせるか!」
「シエロ! ここは私達が引き受けた!」
「あんたはあの雲を何とかしてくれ! あれがこいつらの力の源なんだ!」
シエロは頷くとアーブトピアを覆う雲を確認すると、大きく屈んでから腕を広げて跳躍した。
「ジェアッ‼」
風を切って空を飛ぶ高揚感を味わいながら、オトハは次に取るべき行動を考えていた。
「ただやみくもに光線とか撃ってもエネルギーを消費するだけだよね」
「うってつけがある、これだ」
モンスチップホルダーから一枚のチップが射出されてオトハの手に収まり、そのモンスターの記憶が流れ込む。
「炎の天使を打倒するのは……マクスウェルの悪魔! これならやれる!」
空中で静止したシエロはズオーギランチップの力を発動し、右手に熱気、左手に冷気の力を宿して腕を広げ、両腕を合わせてマクスウェル・デーモン・フォトンを放って雲を一気に消滅させてしまった。
「おお! 雲が!」
「太陽が! 青空が戻った!」
「やったぞ! シエロがやってくれた!」
エネルギーの補給元である雲を消されたグリアンゲロは一気に統率が乱れ、その隙にゾギガチップの力でチェーンソー状の光の刃を得たアストラルハルバードで一掃される。
「雑兵共が消えた!」
「今だ! 今度はこっちから仕掛けるぞ!」
ラウンドナイツは分裂への懸念から使えなかった強力な兵装を出し惜しみなく使って次々とアークグリアンゲロを撃破し、あれだけ無数にいたアークグリアンゲロは徐々に数を減らしていった。
「シィ……ジェイワッ⁉」
加勢しようとタイミングを伺っていたシエロだが、真横からプリンシパグリアンゲロの攻撃を喰らって建物を巻き込みながら倒れ伏す。
「ジェ……シィエエ……ムゥンッ!」
お返しとばかりにプリンシパグリアンゲロは哄笑を上げ、炎の槍を取り出してシエロを貫こうとするも、グロウエッジを喰らって怯んだ所に身を翻して起き上がったシエロにバイオクローチップを使った斬撃を喰らい、吹き飛ばされてしまった。
「ジェヤッ!」
体勢を整えて構えた所で、メテオシンボルが赤く変わった。
「赤くなった、そろそろ決めないと」
オトハとゼフェルの魂の融合によって高次元から呼び出される戦闘用肉体シエロは、三次元宇宙では数分間しか顕界する事が出来ず、その時間はラクスのものよりも短い。
よって長時間の戦闘はオトハの魂の焼尽の危険が伴うのだ。
「焦らずとももう終わる、今の俺達ならな」
「うん! 決めるよゼフェル!」
シエロは最後の仕上げに取り掛かるべく左掌を上に、右掌を下に向けた状態で腕を広げてエネルギーをチャージし、ラウンドナイツの方もアークグリアンゲロを一掃してシエロに加勢するべく近くへやってくる。
「シエロが大技を決めようとしてるぜ!」
「私達も最終魔術砲だ!」
「ああ! 決めるぞ!」
合計九機のチャリオッツの魔術砲にエネルギーが収束し、その全ての標的がプリンシパグリアンゲロへ向かう。
「フルパワー……いや! オーバーで行くぞ!」
ラウンドナイツ、シエロ双方のエネルギーチャージが終わり、シエロが右腕に左手をあてがってエネルギーをスパークさせた所で、皆一斉に叫んだ。
「「「クルテナボンバァァァァァアアアアアアッ‼」」」
「「「アロンダイトスラァァァアアアアッシュッ‼」」」
「「「ガラディーンバァァストォォォオオオオッ‼」」」
「「アストラルバリォォォォオオオオオンッ‼」」
色とりどりの光がプリンシパグリアンゲロへと伸びていき、ついにアーブトピアを脅かした炎の天使は一人残らず撃破されたのであった。
「良かった……無事に奴らを追っ払えた」
「シエロが居なけりゃどうなってた事やら」
感謝の眼差しを受けながら、シエロは再び取り戻した青空を仰ぐ。
「シィ……ジェアッ!」
雲一つない青空の彼方へ飛び去っていくシエロを見送り、ラウンドナイツはベースキャメロットへ帰投するのであった。
雲が晴れた事で無事に帰還する事が出来たリヒトだったが、避難所にオトハの姿が無く、心臓が潰れるような思いをしていると背後から目隠しをされた。
「だーれだ」
「……あのなぁ! 良かったぁ……」
いたずらっぽく笑うオトハを抱き締め、リヒトは心から安堵する。
「良かったぁ……本当に……一時はどうなる事かと」
「大丈夫だって、私が守られるだけの女じゃないって事、リヒトが一番よく知ってるでしょ」
「ああ、あったねそんな事」
高校時代の出来事を思い出しつつ、リヒトは気になっていた質問をぶつけた。
「ねぇ、あのシエロって呼ばれてるルミナスはもしかして……ゼフェル?」
「あぁ……そうかもね。アストラルハルバード使ってたし」
「融合相手ってさ……オトハじゃないよな?」
そう聞かれたオトハはニヤリと笑い、リヒトも釣られて笑い出す。
「どうでしょうねぇ?」
「オトハだろ? そうなんだろ?」
「ひひ~ん」
舌を出して腰に提げたアストラルリアライザーをちら見せし、オトハはその場で走り出した。
「あっ! アストラル……ちょっ! 待てオトハ!」
「教えませ~ん!」
リヒトから逃げながら、オトハは一人心の中で呟く。
(これで……これでリヒトに少し追いつけたかな? とにかくこれで私はリヒトを守れる力を手に入れた)
並ぶ者がない程の力を持つリヒトを誰が守るのか。それは自分しかいないと、オトハは胸を張って言うだろう。
(これからは……一緒に戦って行こう、リヒト!)
オトハの心は青空のように晴れやかだった。
To Be Continued.
オトハの言う通り、やはりゼフェルは蘇りました。
以前のように一人ではなく、二人で一人の星の戦士です。
ラクスの心強い味方となってくれるでしょう。
今後も二人の星の戦士の活躍をお見逃しなく。
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ではまた来週!




