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ハイポリアの勇者 ~超空想綺譚~  作者: 南乃太陽
ラウンドナイツ

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暗躍する炎

マル族自治区で動き出す炎の道、そして更に忘れ去られた神々がエクスレイドに立ちはだかった。

キングモンスターや炎の御使、そして忘れ去られた神の三体がマル族の平和を脅かすとき、海の怒りが爆発する!

果たして暗躍する炎をかき消す事は出来るのか?

 ジュリー・リゾートの近く、マル族自治区にやってきたエクスレイドの隊員達。

 本当なら楽しい休暇が始まる筈であった。

 しかし、迫り来る昏き炎により、休暇は特別任務となってしまう。

 果たして再び動き出した『炎の道(グリウェ)』の目的とは、そしてエクスレイドはその企みを止める事が出来るのか?




 リヒトとオトハは砂浜を歩くローブの集団を観察し、これから何をするのかをしっかり見届けようとしていた。


「ねぇ……あの人達は一体何をしてるの?」

「分からない……分からないけど、ろくでもない事なのは間違いないね」


 やがてローブの集団は砂浜の上で足を止めると、簡易的な祭壇をその場で組み、代表者数名が儀式を始め、その他構成員が祈祷を始めた。


「よし……」


 リヒトはクォーツシーバーを使って特殊アタッチメントを転送してワンドライフルに装着し、怪しい儀式を執り行っている中心人物を狙って引き金を引いた。


「――」


 オトハが驚いて何かを言う前にリヒトが口を塞ぎ、指を顔の前に立てて静かにするように示す。


「静かに……大丈夫、今撃ったのは追跡マーカー弾だ」

「ごめん、てっきり暗殺でもするものかと」

「しないよそんな事、正当な裁きの場所に引き渡さないと。さあ、観察を再開だ」


 暫く様子を伺っていると、遠方から二つの影が儀式団に近付いて来るではないか。


「新しい奴が来たな」


 やがて二つの影が祭壇近くまでやってくると、両者ともローブを取って顔を露わにした。


「!」


 現れた二人の影のうち、片割れの禿頭の男は初めて見る存在だったが、もう片方の女には見覚えがあった。


「キング……メーカー!」


 アーブトピアに突然現れ、ラクスとエクスレイドに挑戦を叩きつけたアンダーユニバースよりやって来た『忘れ去られた神々』の一柱。

 その後全く出てこないと思っていたら、まさかグリウェを信仰する『炎の道』と結託していたとは。


(となると、片割れの奴も忘れ去られた神々の一柱である可能性が高いな)


 これから一気に大変になるぞと内心思いながら観察を続けていると、キングメーカーの片割れの禿頭の男が祭壇に上り、腕を何度か交差して光球を作り出すと、それを仰々しく夜空に掲げて見せる。


「……おお」

「これは……」


 海の遥か一点が仄かに青く輝き、そこから青い光の束が男の掲げた光球に吸い込まれていく。


(一体何をしてるんだ?)


 息を顰めて観察を続けていると、ソルティアが語り掛けてきた。


『リヒト、あれはまずいぞ』

『そんなにヤバいのか?』

『あの光は強大な力の持ち主の生命エネルギーだ、奴らはそれを吸収している』

『いよいよキナ臭くなってきたな、そのエネルギーか何かでまたナントカキングを作り出すつもりじゃないだろうな』


 リヒトの予想した通り、禿頭の男はキングメーカーに光球を渡し、それを見たキングメーカーは満足げにニヤリと笑って光球を懐に仕舞った。

 リヒトはエーテルバーストジェムに触れ、キングメーカーの言葉を聞き取ろうと試みる。

 

「……ご苦労トランスデューサー、そしてグリウェの信奉者達よ。いずれここが『炎の道』の拠点となる日も近いだろう、では私は戻らせてもらうよ」


 キングメーカーが虚空へ手を翳すと空間がひび割れて別位相の扉が開き、キングメーカーとトランスデューサーはそこへ入って消えてしまった。


「戻るよオトハ」

「う、うん。戻るのはいいけど、ちゃんと説明してよね?」

「勿論ちゃんとさせてもらうよ。ささ、見つからないうちに急ごう」



 

 ベクの民宿に戻ったオトハは事の真相を知らされた。

 なんとこの休暇自体が特別任務の一環であり、マル族自治区からの依頼を受けてのものだった。

 

 その内容というのが、数日前から夜毎に怪しい儀式を行う集団がおり、抗議や警告しても効果がなく困り果てていた。

 だがある日ついに一族の若い衆が『炎の道』のシンボルであるメダリオンを拾った事で事の重大さが露呈し、紆余曲折を経てエクスレイドに連絡が行ったのだ。


 そこでエクスレイドはミラがマル族出身である事と、彼女の祖母が民宿を営んでいる事を利用し、休暇でそこを訪れた体で秘かに調査を行う事にしたのである。


「やはりそうだったか……」


 リヒトからの報告を受けたアイリスは腕を組んで眉を顰める。


「それにまさか炎の道(グリウェ)とキングメーカーが手を組んでいたとは」

「今思い返すと、最初の襲撃(カチコミ)の時点で既に手ェ結んでたのかもな」

「それに謎の忘れ去られた神も居ると……状況は思ったより悪そうですねぇ」


 アーブとしては炎の道が単体で動いていると考えており、グリアンゲロを繰り出すことを警戒していたため、エクスレイドを送り込んだ。

 だが繰り出されるのがグリアンゲロだけでなく、キングメーカーが繰り出すキングモンスターや、更に謎の力を持つ忘れ去られた神が居るとなると、かなり話が変わってくる。


「奴らが事を起こす前に我々から動くべきかと」

「奴らの拠点は分かるのか?」

「ええ、この通り」


 リヒトがクォーツシーバーで投影した地図には、ある一点に赤い点が表示されていた。


「マーカーを撃ったんですか!」

「ああ、これで奴らがどこにいるか見当がつく」

「そうか、よくやったぞリヒト。では翌日九時に炎の道のマル族自治区拠点へ突撃を掛ける。後でベディヴィア小隊も交えてブリーフィングを行う! では一旦解散!」



 

 一旦解散になった後、リヒトはオトハに頭を下げる。


「ごめんな、楽しい休暇がこんな事になっちゃって」

「いいよいいよ、この国を守る仕事じゃん。仕方ないよ」

「んまぁ……予想外な事に敵がいっぱい出て来ちゃったから……ごめんだけどオトハには明日の朝アーブトピアに戻ってもらう事になりそうかな」

「そっか、今の私は一般人だからね……何か力になってあげたいけど、ここは素直に従う事がそうかな」

「マジありがとうな……無事終わったら二人で良い所行こうか」

「いいの? じゃあ期待しちゃおっかなぁ!」


 複雑な事情も、隠していた素性も全て呑み込んで受け入れてくれたオトハに、リヒトは深く感謝するのであった。




 探査隊とベディヴィア小隊が集合し、翌日朝の炎の道襲撃作戦の計画を練り、解散した時には既に二時になっていた。


「やはり奴らが動いていたか」

「こら許せんな、マル族の皆さんの優しさに浸け込むような真似しやがって」


 非常に良くしてもらった経験から、マティアスは炎の道に対する怒りに燃えている。

 そんなマティアス以上に怒っているのが、ミラだ。


「私の故郷を……土足で踏み荒らすような真似は絶対に許さない!」

「ああ、明日は存分に動けるように今のうちに備えておこう。その怒りは明日にとっておけ」


 冷静なアルフレッドに言われた事で、ミラは少し落ち着く事が出来た。


「メルギ様が眠る海は……私が守る!」



 

 翌日早朝、やって来た迎えにオトハを預けると、エクスレイドは事前にベクに頼んで地下倉庫に仕舞っておいた仕事着に着替えた。


「ヴェルク、私の弓取って」

「私の剣も頼めるか?」

「はいはいよ」


 ヴェルクがヒオの弓とアイリスのクレイモアを渡し、その後ろでリヒトとイーライがワンドライフルを調整する。


「オトハさん、帰しちゃったんですか?」

「ああ、今の彼女はもう一般人だ。なるべく巻き込みたくはないからね」

「そうですか、リヒト君にとって彼女は日常の象徴なんですね」

「ああ、色々隠し事してたのに、受け入れてこれまでと変わらない接し方をしてくれる……本当に感謝しかないよ」


 ワンドライフルを背負い、ブラスターの方の点検も終えて準備を整えてから、リヒトは続けた。


「だからこそ僕達は是が非でも守らないと。奴らの企みを止めてやる」


 準備を終えた探査隊は、新しい任務へ向けて歩き出すのだった。




 そうして迎えた朝九時丁度の事、ジュリー・リゾートとマル族自治区の中間地点の古びているが大きな建物の前に、サングラスをかけたリヒトとヒオが立っていた。


「ん」

「うん」


 ヒオとのアイコンタクトの後、リヒトがドアを何度か叩いた。


「おい! 出ろ!」


 少し乱暴にドアを叩くと、すぐに中から複数の人が出てくる。


「な、なんですかいきなり!」

「非常識じゃないですか!」

「文句なら国に言ってくれ、僕達はエクスレイドだ」


 リヒトとヒオが見せたライセンスに一瞬動揺する信者達だが、すぐにしらを切り始める。


「エ……エクスレイドが何の用ですか?」

「モンスターが出たんですか?」

「分かってるんでしょ? 私達がどうしてここに来たか」


 ヒオの追求により、信者達は益々挙動不審になる。


「な……なんですか! 私達はただシェアハウスしてるだけですよ!」

「皆来てくれ! この人達に説明してやってくれ!」


 中でコソコソしていた信者達がわらわらと集まって来て、それで気が大きくなったのか逆にこちらを威圧してきた。


「普通に生活している私達に何の権限があってこんな真似をするんですか!」

「我々はただ……」

「いい加減にしろィ!」


 突然声を荒げたリヒトに信者たちは勿論、ヒオも体を震わせる。


「普通に生活だと? 大人しく聞いてりゃいい気になりやがって、よくそれだけまことしやかに嘘が吐けるな。この切り札出さにゃどうにもコトが収まらねぇってか?」


 そう言ってリヒトはクォーツシーバーから追跡マーカーによって撮れた音声を流した上で、落としたメダリオンという確たる証拠を突き付ける。


「そ……そんな!」

「もうネタ上がってんだよ、監視対象組織の構成員、全員来てもらうぞ!」


 リヒトが指を鳴らすと空の一部が色付き始め、ケイと三機のベディヴィアが現れ、観念した信者たちは歯を食いしばりながら建物から出てきた。


「あんたそんなキャラだっけ?」

「日本の時代劇の主人公の真似だよ、意外と効果的なもんだね……おい、まだ居るだろ」

 

 信者の一人が青ざめた顔を向けるが、リヒトは構わず建物内部へと呼びかけた。


「キングメーカー! 居るのは分かってる、出て来い!」


 その呼びかけに呼応するように空間がひび割れてキングメーカーとトランスデューサーが現れ、リヒト達に向けて不気味な笑みを向ける。


「よく分かったなエクスレイド。こいつらの正体だけでなく、我々の存在まで見抜くとは」

「お前はここで私達が倒す、覚悟なさい!」


 ヒオが弓を引いたのを見たキングメーカーは、ニヤリと笑ってトランスデューサーの肩に手を乗せる。


「ちと早いが、始めよう。やれ」

「ああ、良いんだな」


 ヒオの弓が放たれるよりも早くトランスデューサーの腕が天を向き、すると信者達の胸部から赤い光の束が放出して昇天していき、それと同時に信者たちは苦しみ始めた。


「なっ⁉」

「貴様!」


 リヒトがワンドライフルで二柱の神を撃つも、トランスデューサーが手を翳して光のバリアを形成する。


「喜べ信者達、お前達の生命エネルギーはグリウェの御使の力として変換される。大いなる神の下僕としてこれ以上ない名誉な結末だろう? では後は任せたトランスデューサー、私はフィッシャーキングを開放する」

「うむ」



 

 リヒトとヒオがキングメーカーを追いかける前に、快晴だった空を分厚く黒い雲が覆い、複数の渦が発生する。


「この雲! グリアンゲロの時と同じ!」

「同じじゃない、今回は複数だ!」


 それと同時に空の一部がひび割れ、サメを思わせる姿をした二足歩行のモンスターが出現した。

 

「あれがフィッシャーキングか」


 フィッシャーキングの咆哮と共に空に渦巻く雲から炎の天使が次々と降り立ち、ロールシャッハを思わせる爛れた皮膚をしたおぞましい姿を現す。


『グリアンゲロだ!』

『違う、よく見ろ』


 今回現れた個体はグリアンゲロとは異なり、体の一部に装甲のような器官が追加され、角もより派手になっていた。


「言うなれば……大(アーク)グリアンゲロ!」


 アークグリアンゲロは笑い声にも聞こえる奇声を発しながら周囲の建物を破壊し始め、そこにフィッシャーキングも加わる。


『総員攻撃開始! アークグリアンゲロ及びフィッシャーキングを殲滅せよ!』


 アイリスの一声でケイと三機のベディヴィアが旋回し、全機一斉に偽りの御使と王の名を冠した魔獣を討ち取るべく動き出す。


『私の故郷から出てけッ‼』


 ミラのベディヴィアから氷結魔術砲が発射され、三体のアークグリアンゲロを氷漬けにし、それをアルフレッドとマティアスのベディヴィアが熱線で粉々に破壊する。


『ウェンディ! 混淆(ミクスチャ)頼んだ!』

『我が意の儘に(アブラカダブラ)! コレで行けます!』

『おうよ! 発射!』


 等間隔で発射される冷凍光線と熱線に、次々とアークグリアンゲロが粉砕されていく。

 

 ラクスがグリアンゲロに使っていた冷凍からの加熱で撃破という戦法が通じた事を喜んでいたのも束の間、なんと空間が歪んで撃破された全てのアークグリアンゲロが再生し、その上でしれじれがグリアンゲロを三体も呼び出して再出現した。


『嘘だろオイ!』

『再生だけではなく……下位個体を引き連れて現れるとは!』


 アークグリアンゲロとグリアンゲロは、腕から火球と熱線を放ってチャリオッツ目掛けて攻撃を始め、フィッシャーキングも口の中から大量の歯の弾丸を飛ばす。


『散開して回避!』


 空中に放たれる熱線や火球の間を縫い、四機のチャリオッツが空で舞い踊る。


『数が……数が多すぎる!』

『リヒト! ヒオ! どうにか援護できないか⁉』



 

「そうは言っても!」


 リヒトとヒオの方も決して手持ち無沙汰に見ていた訳ではなく、トランスデューサーと戦っていた。


「ハッ! やっ!」

「フンッ……ヌウゥンッ!」

「ああっ!」


 弓の重さを利用したヒオの近接格闘を掻い潜り、トランスデューサーは手から光弾を放ってヒオを吹き飛ばす。


「せあっ!」


 リヒトによるワンドライフルの射撃を光のバリアで防御しながら、トランスデューサーはリヒトにも光弾を放つ。


「ハッ! おおっ!」


 光弾を紙一重で避けたリヒトはトランスデューサーに徒手空拳で挑み、学んだ格闘技術全てを活かして顔面に一撃入れることに成功する。


「ううっ! ……フフ、やるな人間。だがもう遅い」

「何?」

「ここはもうじき我らの手に落ちる、この数相手には無理だろう」

「だから何だ、僕達は決して諦めない!」

「どうだかな? フフフ」


 トランスデューサーは海を一瞥するとニヤリと笑って跳躍し、空に開いた空間の亀裂へと去ってしまった。


「チッ……ヒオ、大丈夫か?」

「うん、平気」


 リヒトがヒオを介抱していると、イーライの絶叫が聞こえてきた。


『大変だ! 海の方から何か強烈なエネルギーが迫って来ています!』

『なんだって⁉』

『それは本当ですか⁉』


 海の方を見ると水面の一部が燐光を放っており、それが徐々に強くなっていくのが見える。


「確かに何かが来てるみたい……それもとんでもない何かがね」


 皆が警戒する中、リヒトだけが何か別のものを感じ取っていた。


「違う……あれは!」


 燐光が水面にまで浮上し、盛大に水飛沫を挙げながら水中から飛び出してきたのは、巨大な旋回する円盤だった。


「……まさか!」


 ヒオの脳裡に、ミラから聞いた話が蘇ってくる。


「あれって……もしかして!」


 水中から現れた巨大な円盤はその勢いのままグリアンゲロの大群に突っ込んで蹴散らし、水蒸気の中からその姿を現した。


『うそ……メルギ様!』



 

 水棲神獣メルギ、ハイポリアの海の守り神。

 その怒りに満ちた咆哮が、周囲を大きく揺らした。


『メルギが……目醒めた!』


 足元のグリアンゲロの頭を踏みつぶすと、口にエネルギーを収束し、強烈な高圧水流をグリアンゲロの大群の半分を薙ぎ払ってしまった。


「すっげぇ……」


 残ったアークグリアンゲロの指示で、グリアンゲロが炎の剣を取り出してメルギに向かって行くも、電気を帯びた強烈な張り手を食らって初陣は消し飛び、第二陣も反対の手の電撃張り手で消滅してしまう。


『やはり神獣とだけあって……凄まじい力ですね』


 メルギは胸から青白い電光の塊を放って再生すら許さずグリアンゲロを完全消滅させ、残った三体のアークグリアンゲロへ意識を向ける。

 さしものアークグリアンゲロも、怒りに満ちた神獣相手でに若干気圧されているのか、あの笑い声にも似た不気味な鳴き声は少しだけ弱々しい。


「フフフ……何か忘れちゃいないか!」


 どこかからキングメーカーの声がしてフィッシャーキングがメルギに体当たりを仕掛けるも、メルギは肘から鋭い毒針を生やして肘打ちを叩き込んだ。


「おおっと……残念だがそいつに毒は利かない、やれフィッシャーキング! のろまな亀を釣り上げろ!」


 フィッシャーキングは咆哮すると口から歯を弾丸のように射出し、メルギは胸から電光をバリアのように放出してそれを防ぐと、再び口から高圧水流を放つ。


「火炎だ! フィッシャーキング!」


 フィッシャーキングの腕から迸る炎が、メルギの高圧水流とぶつかり合う。


『神獣メルギを援護する! フィッシャーキングを集中攻撃!』

『了解! 凍り付けッ!』

『プロミネンスバァァァァアアアアアンッ!』


 三機のベディヴィアから凍結魔術砲が、ケイからは最強熱線であるプロミネンスバーンが放たれ、フィッシャーキングに伸びていくが、アークグリアンゲロの妨害により阻まれてしまった。


『本当に忌々しい天使共だ』


 普段冷静なアルフレッドでも、厄介な事ばかりしてくるグリアンゲロに流石に苛立っている。


「邪魔はさせないぞエクスレイド……フィッシャーキング! もっとお前の力を見せてやれ!」


 火炎を放つフィッシャーキングの背鰭(せびれ)が発光して同じ形の光弾を次々と放ち、それを見たメルギは再び電光バリアを張って高圧水流の照射を止め、甲羅の隙間から無数の光弾を飛ばしてそれに対抗する。


「かかったな! 御使達よ!」


 チャリオッツを追っていたアークグリアンゲロの標的がメルギの方へ向き、取り出した炎の剣を振ってメルギへ炎の斬撃を飛ばし、それを甲羅に食らったメルギは一瞬怯み、そこへフィッシャーキングの目から放つ怪光線が直撃して膝をついてしまった。


『メルギ様ッ!』

「今だトランスデューサーッ!」




 トランスデューサーが再び亀裂を通ってフィッシャーキングの足元に現れ、腕を交差して体中に力を込める。


「ウォォォオオオオッ!」


 みるみるうちにトランスデューサーの姿が変化して巨大化し、黒と橙の体色をして小さな三本の角を備えた小鬼(フィーンド)を思わせる異形の姿となる。


『あれは!』

『恐らくアバターです、奴も戦闘に参加するという事です!』

 

 トランスデューサーは膝をついたメルギを蹴飛ばすと、手を翳してメルギから発する光を吸収し始め、それに伴ってメルギが苦しみ始めた。


『あいつ! メルギ様に何をしたの!』

『イーライ! ウェンディ! 頼んだ!』


 イーライとウェンディが数値や反応等を計測すると、驚くべき結果が表示された。


『あれは生命エネルギーです! メルギは命そのものを吸われている!』


 通信を聞き、リヒトの脳裡で昨日の儀式の様子が思い起こされる。

 

「そうか、昨日の光は!」

 

 あの儀式でメルギの生命エネルギーを吸っていたのだ。

 更にトランスデューサーはもう一方の腕をアークグリアンゲロに翳してエネルギーを送り込むと、三体のアークグリアンゲロが合身して新しい姿となった。


「メルギの生命エネルギーを利用してもう一段階進化したのか!」

『大(アーク)から権(プリンシパ)に……プリンシパグリアンゲロ!』


 プリンシパグリアンゲロはあの笑い声にも似た鳴き声を周囲に轟かせると、黄色い炎を周囲に振り撒き、生命エネルギーを吸われているメルギを苦しめる。


『お前達は……絶対に許さないッ! ウオオオオオッ‼』


 ミラのベディヴィアが急速発進し、トランスデューサーとプリンシパグリアンゲロ目掛けて攻撃を加える。


『ミラ!』

『行かせてやれヴェルク。アルフレッド、マティアス、ミラのカバーをしてやれ』

『了解』

『後ろは任せろミラ!』


 トランスデューサーの光弾や、プリンシパグリアンゲロの火炎を回避しながらミラは攻撃を加えていく。


『最終魔術砲……ジュースティングッ! ショットォッ‼』


 ベディヴィアの砲門から槍の形をした光弾が射出され、トランスデューサーは片手で抑えようとするも、予想外の威力によろけて後退してしまう。


『私の故郷でこれ以上好き勝手させない! メルギ様は……私が守る!』


 ミラの宣告を聞いたトランスデューサーは、両手を広げて嘲笑する仕草を見せ、フィッシャーキングにここへ来るように手招きして言った。


「諦めろ若きマル族よ、ここはもうじき我らの手に落ちる。そしてグリウェがここの守り神となる、世代交代さ」

『そんなの誰が認めるか!』

「そうか、では新時代の礎となるがいい!」



 

 三体の敵からの一斉攻撃をミラのベディヴィアが喰らいかけたその時、空中から優しげな光と共に巨大な人型が現れてミラを庇った。


『……ラクス‼』


 天に掲げた右腕を下ろすと、ラクスはミラの方を見てもう大丈夫だと言わんばかりに頷き、戦いの構えを取る。


「お前がラクスか、会ってみたかったぞ」

「フン、ここで会ったが百年目! 前回のリベンジだ!」


 まず仕掛けてきたフィッシャーキングの尻尾の一撃を跳躍して回避しながら膝蹴りを入れ、後ろから襲い掛かって来たプリンシパグリアンゲロの胸に貫手を叩き込んだ上でレイストライカーを放ち、横から来たトランスデューサーにもスパークルシュートを放つ。


「うおっ! なかなかやるじゃないか、だが俺に光線は効かない、俺はあらゆるエネルギーを変換して使うことが出来るのさ」

「フッ!」

「例えばお前のこの光線を、こいつの力にするとかな!」


 ラクスはスパークルシュートを止めるとアストロイドボムの構えを取る。



「エネルギーを吸収するなら、こいつはどうだ⁉」


 リヒトはスパークルトランサーにデルゴラスジェムを装填して力を開放し、全身にデルゴラスの力が行き渡る。



 構えと同時にラクスの全身から黄金のオーラが発せられ、それが収縮して金に燃えるアストロイドボムが形成される。


「フッ! ゼヤッ!」


 ラクスはそのまま黄金のアストロイドボムを両手に装着すると、渾身の正拳突きをトランスデューサーに叩き込んだ。


「うおおおああああっ!」


 斬撃と打撃を一度に喰らうという全く味わったことのない感覚にトランスデューサーは大きく怯み、その隙にソリッドレイを纏った蹴りと突きの連打を喰らう。


「調子に乗るな!」


 フィッシャーキングの火炎を寸での所で回避し、鰭から放たれる光弾も全てボムから放つ光輪で撃ち落として、両手のボム同士を叩きつけて衝撃波を放った。



「今回もラディアンスで決めてやる! サテライトハンマーを喰らえッ!」



「ゼヤッ!」


 衝撃波で怯んだフィッシャーキングの頭に狙いを定め、ラクスは両手を組んで跳躍する。


「ゼオオオオオリャッ‼」


 ラクスは組んだ両手を振り下ろし、フィッシャーキングにサテライトハンマーを叩きつけて撃破してしまった。



 

「うおおおおっ! 畜生めッ!」


 またもやラディアンスに撃破されてしまった事に、キングメーカーの悔し気な絶叫が響く。


「フッ! ギヨワッ!」


 がら空きのラクスの背にプリンシパグリアンゲロの火炎攻撃が直撃してよろけそうになるも、立て直してレイストライカーで反撃する。


「ゼワッチッ!」


 空へ逃げたプリンシパグリアンゲロをラクスが追い、戦いの舞台は曇天へと移った。



「気を付けろリヒト。奴の力の源はあの雲だ」

「先に雲を片付けるか」


 精神空間内部でそんな事を話していると、何者かがテレパシーに介入してきた。


『ラクスよ……やはり貴様の強大な力は我々にとって脅威だ』

「お前はグリウェか⁉」

『どうだラクスよ、その力を我々に役立ててみないか? 我々の配下として真の平和な楽園を築くのだ!』


 リヒトは眉を顰め、グリウェに向かって怒鳴りつける。


「誰かを踏みつけて、誰かの生活を蔑(ないがし)ろにしてまで築く楽園に何の価値がある! 僕はお前のよう救世主の皮を被ったケダモノを絶対に許さないッ‼」


 リヒトはエトワールジェムを取り出して掲げ、詠唱を始めた。


「宇宙の闇、星の光、それらを繋ぐは願いの力!」


 ジェムをスパークルトランサーに装填してから左手にエトワールレットを出現させると、ボタンを押し込んで秘められた力を開放する。


「星を我が手に、エトワァァァァアアアアルッ‼」



 ラクスの姿が眩く光り輝き、プリンシパグリアンゲロは腕で顔を覆って後退する。


「オオオッ……ゾアッ‼」


 光の中から現れたのは、紫紺をベースとした偏光色に白金のラインが走る宇宙を思わせる鎧を纏った最強形態、ラクス・エトワールギアであった。



「一撃で決めてやる、エトワールアイギスッ!」


 エトワールアイギスを取り出したリヒトはカバーを開き、エトワール、コメット、ラディアンス、デルゴラスの四種類のジェムを装填した。


「グラビティソーサー‼」



 ラクスのメテオシンボルから放たれた四つの光がエトワールアイギスに宿ると、盾の外周から黄金の巨大な光輪が発生し、みるみるうちにラクスよりも巨大化する。


「オオオオッ!」


 圧倒的な力を前にプリンシパグリアンゲロは雲の中に帰ろうとするも、それより前にラクスが光輪のエネルギーチャージを完了させていた。


「ゼェイリャッ‼」


 巨大な光輪は無数に枝分かれして空を飛び回り、プリンシパグリアンゲロを細切れにした上で空を覆い尽くす分厚い雲を引き裂き散らしてしまった。


「フオッ!」


 グリアンゲロを撃破したラクスは曇天の隙間から覗く太陽の光を背に着地し、その威風堂々とした美しい姿に、一瞬その場に居る全員が息を呑む。


「そこまでだラクス!」

「ゼッ!」


 振り返って構えると、トランスデューサーがメルギを人質に取っていた。


『メルギが!』

『お前ッ!』

「この場から立ち去れ! そしたらこの老いぼれ亀の命だけは助けてやる!」



 ラクスの精神世界内部で、リヒトの怒りは頂点に達していた。


「最悪の卑怯者め、お前の好きなようには絶対にさせるか!」


 リヒトはブリザニング、ラディアンス、エーテルバースト、エトワールのジェムをエトワールアイギスに装填すると、アイギスを構えてソルティアに言う。


「ちょっと変則的に行くぞ!」

「わかった! 気合を入れて行こう!」

「メイルストロームバスターッ‼」



 ラクスのメテオシンボルから四つの光がエトワールアイギスに宿り、盾の表面に水を思わせる青いエネルギーが収束していく。


『ラクスが技を撃とうとしている!』

『でもメルギ様が!』


 全員が困惑する中、ラクスはエトワールアイギスをメルギを羽交い絞めにしているトランスデューサーへと向ける。


「ホォォォオッ……ゼヤァァァアアアアッ‼」


 エトワールアイギスから渦を巻く水の奔流が発射され、メルギとトランスデューサーに迫った。


『ラクス!』

『メルギ様!』

「うおおおおおっ!」

 

 メルギを貫通したメイルストロームバスターがトランスデューサーを吹き飛ばしたのを見たミラは、一瞬パニックに陥りかける。


『そんな!』

『落ち着けミラ! ラクスはただ撃ったわけじゃない!』


 メルギには貫通したのにトランスデューサーは吹き飛ばされた、その違いをアイリスは見抜いていたのだ。


『……ハハッ! すごいぞラクス! 彼はメルギを助けたんですよ!』


 イーライの調査によると、失われたメルギの生命エネルギーが急速に上昇しており、ラクスはメルギを傷つけるどころか、むしろ癒していたのである。


『あの水の光線がメルギを癒し、トランスデューサーを吹き飛ばしたんです。やっぱりすごいな』




「うぅ……くそっ」

 

 予想外の攻撃を喰らいつつ、立ち上がったトランスデューサーが見たものは、自分を囲むラクスとメルギ、そしてエクスレイドの四機のチャリオッツだった。


「う、嘘だろ⁉ こんな! こんな事があってたまるか!」


 喚き散らしてももう遅い、もう勝負はほぼついたようなものだ。



「これで決めてやる」


 エトワールレットにコメットジェムを装填し、ボタンを押し込んでエトワールギアに秘められた力を開放する。


「リヒト! 息を合わせるぞ!」

「ああ!」



 ラクスは左腕を天に掲げ、そのまま下ろして腰溜めにすると右腕を水平に伸ばしてエネルギーをチャージし、その間にメルギと四機のチャリオッツが一斉攻撃の準備を整える。


『ジュースティングショット!』

『プロミネンスバーンフルパワーッ!』

「ファイナル!」

「コメットォッ!」

「「|ノヴァアアアアアアアアアアアアアアアアッ‼《ノヴァアアアアアアアアアアアアアアアアッ‼》」」


 最終魔術砲とファイナルコメットノヴァに加え、メルギの超高圧水流を食らったトランスデューサーは、断末魔それらを吸収する事が出来ず、爆散してしまったのであった。


「ソォアッ……」


 戦いを終えたラクスはメルギの方を向き、メルギもラクスの方を振り返る。


 

『ありがとう星の戦士よ。今度会った時は私があんたを助ける番さ』



 メルギはミラのベディヴィアを一瞥して小さく頭を下げると、巨体を揺らして再びハイポリアの海へと帰っていくのであった。


「ゼワッチッ!」




 再び動き出した炎の道と忘れ去られた神々の脅威を退けたエクスレイドは、飛んだ休暇になったと皆大きく伸びをする。


「ていうかさ、リヒトってどこ行ってたの? 気が付いたらいなくなってたと思ったらひょっこり現れるし」

「そりゃまあ……グリアンゲロに立ち向かって行ってたんだよ」

「そう? あんまり一人で突っ込むの危ないからやめなよ? オトハさんも心配するよ?」

「ハイ、気を付けます」


 グリアンゲロの炎や戦闘で建物に被害は出たものの、無事に事態が収束した事で、エクスレイドはマル族からとても感謝された。


「いやーありがとうございました、おかげさまでメルギ様も無事で……良ければこの後もウチに泊まってて休暇を取ればいい」

「本当ですか!」

「いやー嬉しいな! またあのハンバーガー食べちゃお」


 皆が喜んでいると、アイリスのクォーツシーバーに連絡が入った。


「はい、こちら探査隊長」

『アイリス隊長! 大変だ!』

「……どうかされたんですか?」

『アーブトピアに……奴らが再び!』


 皆の緊迫した視線が、アイリスの方へ注がれる。


『グリアンゲロだ!』



To Be Continued.

メルギさん登場しましたね。

グリアンゲロ相手に大暴れするシーンは書いてて非常に気持ちが良かったです。

そしてまだ続くグリアンゲロ達の暗躍、果たしてアーブトピアはどうなっちゃうの?

という訳で次回もお楽しみに。

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ではまた来週お会いしましょう!

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