ヘイヴン・オブ・モンスターズ
グループストリーマーを救出すべく、ダンジョンに入ったエクスレイド探査隊。
しかしそこは大勢の強力なモンスターが跋扈するモンスターの楽園とも言うべき地獄と化していた!
三手に分かれて奮戦する探査隊の前に現れたのは、謎の星の戦士ゼフェルだった!
突如現れた第二のルミナス・ギガントは、かつてソルティアの親友だった星の戦士ゼフェルだった。
異様な雰囲気を放ち、不穏な動きをするゼフェルに、エクスレイドとリヒトとソルティアは困惑するばかり。
果たしてゼフェルの目的とは?
リヒトは深く呼吸し、自分の胸の真ん中あたりに意識を向ける。
すると周囲の物体が次々と崩落していき、辺り一面は星が瞬く宇宙空間となり、目の前にエメラルドグリーンに輝く光の炎を纏った女の姿が現れる。
こうしてリヒトとソルティアが対面し、直接対話する準備が整った。
「なあソルティア、ゼフェルって元々あんな感じなのか?」
「いいや違う。ゼフェルは熱く、そして使命に対してどこまでも真っ直ぐな男だった」
「そうか、なんであんなになったんだろうな」
「分からない、まるで何かに憑りつかれているようなゼフェル……私も初めて見た」
ヒオはゼフェルが成った青いルミナスを見て〝怖い〟と評しており、それほどあの星の戦士には負のオーラが渦を巻いていた。
「怒りや憎悪に憑りつかれた……そんな奴を一度だけ見た事がある」
現実世界でウィルマース財団直下部隊『ブライト』の一員として活動していた頃、一度だけ真鳥市という街に向かって異星人絡みの事件を解決したことがある。
その際リヒト達ブライトの隊員はあるアバター使いの超能力者と接触した。
「あのアバター使いは全身から怒りと憎悪を殺意で煮込んだような気を発していた。僕はゼフェルにも似たものを感じたんだ」
「ゼフェルは怒っているのか、だとすれば何に?」
「モンスター絡みかもな。あるいは星の戦士本来の使命たる宇宙の歪みを正すための戦いで……」
「死徒絡みの……何かと戦ったのか」
地球人類からオリオン座一等星ベテルギウスとして知られる惑星を本拠地とする星の戦士は、〝死〟と呼ばれる宇宙を蝕む謎の存在により発生した歪みを正すべく〝死〟の尖兵たる死徒と戦い、そして全宇宙の生命の安寧を守る事を第一使命としている。
ソルティアが太陽系第三惑星たる地球に飛来し、龍神璃人と融合して戦っているのも、その使命によるものだ。
「ゼフェルも死徒と戦って……何かを失ったのか」
「僕達のように……」
現実世界でリヒトとソルティアがラクスとして最後に戦ったのは、死徒の因子を持った巨大生物セリオンだった。
ブライトの協力もあってセリオンは撃破したものの、セリオンは最後のあがきで異空間に繋がるワームホールを作り出してラクスを引き込んでしまったのだ。
それもただ異空間に引き込んまれてしまった訳ではなく、この戦いでソルティアは負傷し、ラクスとしての最強の力を二人は失ってしまったのだ。
「もし死徒絡みなら……かなり厄介なことになるぞ」
「懸念すべき事はまだまだある、誰かがゼフェルと融合してるって事だ」
ラクスはリヒトとソルティアの魂が極限まで融合する事で、二十五次元宇宙から呼び出される戦闘用の肉体である。
召喚のメカニズムとしては、二人の魂が融合する事でリヒトの魂の次元段階が一時的に上昇し、それにより彼の超能力者としての素質を引き出すことによって呼び出される。従って、ソルティアはリヒト抜きではラクスには成れないのだ。
「ゼフェルが君と同じなら誰かが彼と融合してるって事だ。どうにかしてその融合相手を探さないと」
「ああ、そしてゼフェルの目的を聞かないとな」
秘かに二人の次なるミッションが決まったのであった。
「おーい、おーい!」
「おお? ああ、どうした?」
「どうしたはこっちのセリフですよリヒトさん」
「ボーっとしちゃって……まるで意識だけ宇宙に飛んで行ったみたいな顔だったよ」
どうやらソルティアと話している間に何か通報があったらしい。
「ごめんみんな、何かあったみたいだな」
「ああ、新たな通報があった。ウェンディ、頼んだ」
「はーい、今回皆さんはダンジョンに行ってもらいます」
曰く、マギネットで考古学の情報を発信しているインフルエンサーの『ディグハンターズ』というグループが、裏方やボディーガード含めた仲間達とダンジョンに入り、そのまま連絡がつかず既に五日が経過したという。
「もう五日も過ぎてるのか」
「ダンジョンの中なら……絶望的ね」
行方不明になってから七十二時間経つと、様々な要因から生存確率は大きく低下すると言われている。
その上絶えず空間が変化し続けるダンジョンでは、トラップやモンスターの襲撃によって命を落とす確率がぐんと高くなる。
「まあその~安否の確認だけでもっていう事でしたので、それに通報者へ送られて来た写真にはモンスターが映っておりまして、それの調査もしないといけません」
三十分前に友人であるという通報者へ送られてきたという写真はブレブレだったが、明らかに新種のモンスターが居ることが分かる。
「なんかろくでもない奴って事は分かるぜ、特に腕がな」
大写しの顔の後ろにブレブレのモンスターの左半身が映っているが、明らかに腕がおかしい。
「腕に何か変な能力を備えた奴が居るのかな」
「こんな奴がダンジョンの外に出たら危ないよね」
「そんじゃま行きますか! 探査隊出動!」
「それは私が言う言葉……」
探査隊は早速ケイに乗って付近のダンジョンに繋がる石門に向かい、座標が繋がっているか確かめた。
「このゲートは……繋がってますね、開錠準備入ります」
イーライが門に刻まれた紋様をスキャンし、開錠パターンを解読する。
「ゲート開門!」
イーライの声と共にリヒトの膝の上のピースが腕を上に突き出して力強くぴぃと鳴き、同時に魔術砲から光線が発射されてダンジョンへの門が開かれた。
「ねぇ……聞きそびれたんだけど、なんでピース連れてきたの?」
リヒトの膝の上のピースが不思議そうに首を傾げたのを見て、ヒオは思わず顔が蕩けかけるも何とか持ち直してリヒトの方を見る。
「案内役だよ、ピースはダンジョン生まれだし」
「案内役って……ピースはダンジョンで生まれただけでしょ」
「でも多分何か知ってそうだし、なー?」
リヒトに同調するようにピースは手を挙げて鳴き、なるべくピースを危険から遠ざけたいヒオが何か言おうとした所、そこにヴェルクが割り込んでくる。
「心配すんなってヒオ、ピースの奴こう見えて強いんだぜ? 目から光線出せるんだからよ」
「壁だってすり抜けられるし、目にも留まらぬ速さで飛べますもんね」
「うーん、私が過保護って事?」
「そういうこと、もし何かあればピースは僕が守るし」
「そっかぁ、不死身のリヒトが言うなら大丈夫か」
そんなやり取りをしているとダンジョンと外界を隔てていた位相の壁を抜け、ケイはダンジョン内部に辿り着いた。
「しっかしいつ見てもすげぇよな、前来た時とすっかり様子が変わってやがる」
「だからこそ危険なんです、滞在中に気が付いたら出口が使えなくなるかもしれませんからね」
「早く事態を解決するに限るな……よし、イーライは私について来い、ヒオとヴェルク、リヒトはピースと、ウェンディはケイで待機して各人の周囲の状況を把握して連絡を入れてくれ。行動開始!」
ケイとウェンディを残して皆は三手に分かれ、ダンジョン内部の状況の捜査に向かうのであった。
しばらくリヒトとピースと一緒に歩んでいたヒオとヴェルクだったが、分かれ道で別行動となり、本格的な探索が始まった。
「とりあえずその……なんだっけ? ディグハンターズ? のメンバーを探せば良いのかな」
「そうだな、だが気を付けなきゃいかんぜ、写真に写ってるモンスターやら、まだ見ぬ種のモンスターが居るかもしれねぇからな」
「分かってるって、とりあえず薄暗くて危ないからこれ使うよ」
ヒオは背負った矢筒から一本の矢を取り出して薄暗い通路の先へ放つと、そよ風に似た歌を奏でる。
「――――」
矢に刻まれた魔的刻印によって矢が特殊な音波を放ち、その細かい反響をヒオの耳が捉えた。
「これは……人がいっぱいいる。それも近いな、結構すぐだよ」
「おお、マジかよ! 行こうぜ!」
ヒオは空を手繰って矢を引き寄せると、ヴェルクと共に反響があった場所に向かう。
だがしかし照明の光は徐々に弱まり、やがて二人は鼻をつままれてもわからないような闇の中に放り出されてしまった。
「うーん、暗い」
「おう、待ってろ」
ヴェルクがハンマーに仕込まれた炉を点火すると、数メートル四方が照らされ……そして二人の前に顔が現れた。
「イヤァァァアアアアッ!」
「オワアアアアアアアッ!」
「ギュアアアアアアアッ!」
ヒオとヴェルクと闇に潜んでいた何かは同時に叫んで尻餅をつき、二人とも即座に臨戦態勢に入る。
「この野郎! 脅かしやがって!」
「いいい、いきなり来ないでよ! ビックリするじゃない!」
しかし二人の予想に反し、闇に潜んでいた何かは襲いかかるわけでもなく二人を見てすっかり怯えてしまい、地面に蹲って震えている。
「あぁ……なんか、ごめん」
ヴェルクが警戒する中、ヒオが蹲って震えている何かに近付く。
「人間サイズのモンスターね、大声を出してごめんね」
そのモンスターは震えながらもヒオの方を見上げ、垂れ目気味のつぶらな瞳を向ける。
「顔は齧歯類に似てる……けど二足歩行で、手が発達して複雑な操作が出来そう」
「典型的なダンジョン生まれの交雑モンスターだな」
ダンジョンではある神獣によりモンスターの交配実験が行われており、それにより生まれたモンスター達は様々な用途で使役された。
神獣の代替わりによって主を失ったモンスター達は交雑が進み、ダンジョンという特殊な環境も相俟って殊更に奇妙な生態をするモンスターが生まれるようになった。
「まあでもコイツァ、危険な奴じゃなさそうだな」
敵意が消えた事を感知したそのモンスターは「きゅうきゅう」と鳴きながら小さくその場で飛び跳ねると、ヒオの手を取って通路の向こう側を指差した。
「なにか伝えたいことがあるみたい」
「ついて行こうか」
ヒオとヴェルクはそのモンスターについていき、曲がりくねった通路を進むと、扉の前に出た。
「この扉は……」
「……声が聞こえる、まさか!」
モンスターが扉を開けると、中に五名の行方不明者が居た。
「あっ!」
「おぉポリック、帰って来たか……おや?」
ヒオとヴェルクは顔を見合わせ、クォーツシーバーに表示された情報と見比べる。
「バジル・ラーズ、人間、仕事はカメラマンだな?」
「お、おう。俺はラーズだけど……あんた達は何だ? 遭難者か?」
「こういう者です」
ヒオとヴェルクがエクスレイドの団員証明手帳を見せると、バジルは満面の笑みを浮かべてその場で飛び跳ねながら中の者達へ向けて叫んだ。
「みんな! 助けが来たぞ!」
その瞬間、他の四人の顔が一気に晴れ、腕を振り回しながら叫んで喜ぶのであった。
ヒオとヴェルクは部屋の中に招かれ、まずは他の行方不明者の身元の照合を始める。
「フェリス・ケッチ、アールヴ、助監督兼スタイリスト。ゲリンダ=ジェイス・ワン、吸血鬼、ディグハンターズメンバー。ホープ・キナイ、ハーフブリード、モンスター生物学者。ゾード・キッテン、人間、演出家……そんでバジル・ラーズね、そんで? あとはどうした?」
全員が顔を伏せた事で何があったかを察したヒオとヴェルクは、沈痛な面持ちで口を開いた。
「聞こうか」
「……最初は、上手く行ってたんです」
それが誰かは最早覚えていない、ダンジョンに入ったメンバーのうち誰かが隠れた仕掛けを解いてしまい、三体の大型モンスターが解放されてしまったのだ。
「みんな……そいつらに殺された」
「生き残ったのはアタシ達だけ」
「私達も危なかったんです、ポリックが匿ってくれてなきゃ絶対に死んでた」
どうやらヒオとヴェルクが遭遇したモンスターは生存者たちからポリックと名付けられ、恩人であり友人のようになっていたようだ。
「そうか……これからお前さん達を逃がすつもりだ、だが解き放たれたモンスターと遭遇するかもしれねぇから、特徴を教えてくれないか?」
「辛いだろうけど、なるべく詳細に思い出して、情報は多い程こっちが有利になる」
しばらく考えたり、お互いに写真を見合ったりした後、五人は情報をまとめた。
「最初に出たのは四足歩行で、動く岩みたい。ノロそうに見えて、意外にすばしっこい奴」
「次に出たのが手が腱と歯で出来たチェーンソーみたいになってて、しかも毒性の強いフェロモンを放出して周りの生き物をアンデッドに変える厄介な奴。アタシ達の半数がこいつにやられた」
「最後の出たのは二足歩行で角持ちで、とにかく力が強くて乱暴者な奴です」
二人は生存者たちから得た情報を伝えるべく、クォーツシーバーで通信を始めた。
「みんな今良い?」
『良くないッ!』
リヒトの大声と共に焦り顔が表示される。
「良くない⁉ どうしたのよリヒト?」
生存者たちが匿われている部屋からかなり離れた場所で、リヒトは中型モンスターの群れに追いかけられていた。
「悪いね、かけ直す! この通りだから!」
『は⁉ 何このモンスターの数! ちょっと大丈……』
リヒトは通信を切ってから後方へ大きく跳躍し、空中からワンドライフルで自分を追いかけてきた爬虫類型モンスターを次々と撃ち抜いていく。
「ソルティア! ジェムの力を!」
「気を付けて使うんだぞ!」
出現したスパークルトランサーにブリザニングジェムを装填すると、リヒトは手を振り抜いて地面を凍らせ、動けなくなったモンスターの間を駆け抜けながら火炎を纏った拳で次々と粉砕していった。
「来たな!」
追加で来た増援を跳躍で回避すると、リヒトは足に炎を灯して群れの真ん中に蹴りを叩き込む。
「こいつで……最後だ!」
ジェムをグランサンダーに変えてからワンドライフルを取り、周囲のモンスターに土石流弾を浴びせて完全に粉砕させてしまった。
「フッ……おお!」
スパークルジェムを抜くとピースが飛んで来てリヒトの腕に収まり、リヒトは労う様に喉を撫でてやる。
「お疲れさん……あ?」
同胞の死骸に隠れていた最後の一匹が飛び出し、リヒトへ向かって飛び掛かる。
「ホラホラホラァ!」
リヒトがそのモンスターに向けてピースを突き出すと、小さかった角が一気に伸び、その間から強烈な光線が放たれて完全に焼き尽くしてしまった。
「……おお、なんだ? 角が生えたのか」
一気に角が生えた事で痒いのか、ピースは不機嫌そうにしながら手で頭を掻いている。
「かっこいいじゃん、うりうり」
ピースの頭を掻くのを手伝いながら、リヒトはクォーツシーバーを起動してヒオとヴェルクに繋いだ。
『無事だったか』
「なんとかね、あとピースのお陰」
『え? ちょっと待ってピースに角生えて……』
「それは何でもないんだ、んでさっきは何だったの?」
ヒオとヴェルクは生存者に会い、三体のモンスターが解放された事、そしてそのモンスターの特徴をリヒトに伝えた。
「待ってくれ、岩みたいな奴?」
『遭遇した?』
『まさか倒したなんて言うんじゃなかろうな』
「いや、さすがに違う。そんな感じの大型モンスターの死体を見つけたんだ。背中が抉れてて、首はねじ切られてた」
先程リヒトを追いかけていたモンスター達は、その死体を漁っていた連中である。
「気を付けておくよ、いつ遭遇するかもわからないからね」
『そうか、情報ありがとう。ただもう少し早く教えてくれたら私としては助かったんだがなぁ』
途中から話を聞いていたアイリスが口を挟む。
「あ、隊長。どうかしたんですか?」
『実はだな』
リヒトが居る場所からそう遠くない、数キロ離れた場所で。
「うわあああああああっ! ぎぃやああああああああっ!」
絶叫しながらワンドライフルをアンデッドの群れに向けて乱射するイーライを、アイリスはワンドブラスターと斬撃飛ばしで援護していた。
「今チェーンソーの手のモンスターに遭遇してな、イーライが大変なことになってる」
『……成程』
何故か不明だが、イーライはアンデッドが大の苦手なのだ。哀れなイーライ、ダンジョンでアンデッドに遭遇するのは二回連続である。
「なんでだよぉ! アンデッド化がトレンドなのかよぉ!」
「落ち着けイーライ! そろそろ本体が来るから一旦引くぞ」
アイリスと共に一旦その場から放れ、遠巻きに様子を伺っていると、アンデッドの群れを踏みつぶしながらあのモンスターが現れた。
「一応識別のために名前を付けておいてくれないか?」
「えぇ? ああ、はい……そうですね、ゾギガとかどうで……うおっ!」
「!」
壁が粉砕された事による爆音がして振り返ると、ゾギガの前に〝乱暴者〟と評された二本角のモンスターが出現した。
「あいつはどうする?」
全体的なシルエットとしては、側頭部からねじれた偶蹄類のような角を持つ代わりに鼻に角を持たない二足歩行のサイのようであり、視力は退化しているのか眼球は白濁している。
「あいつは……ゴンペイジ……ダンペイジ、ドンペイジで行こう。奴はドンペイジです」
「分かった、皆に招集をかけるぞ、私達は一旦様子を見て適宜動こう」
「了解です」
ドンペイジはドラミングのように胸を叩いてゾギガを威嚇し、ゾギガも腕のチェーンソーを回して宣戦布告をする。
「これじゃまるでモンスター達の楽園ですね」
「冗談じゃない……」
ゾギガはチェーンソーを振り上げるも、ドンペイジがそれよりも早く蹴りを叩き込んで吹き飛ばしてしまった。
それでも一矢報わんとゾギガは倒れながらも尻尾のドリルで攻撃しようとするも、ドンペイジはその尻尾を掴んで壁に叩きつけて引き倒してしまう。
『リヒトです、ゾギガとドンペイジが見えてきました。もう少しで合流出来そうです』
「気を付けろ、二匹の戦いで瓦礫が崩れやすくなってる」
引き倒されたゾギガはなんとか起き上がって、チェーンソーを思い切りドンペイジに叩き付けるも、ドンペイジの分厚い皮膚には文字通り歯が立たない。
ドンペイジはゾギガを嘲笑うような鳴き声を上げると顔面に張り手して吹き飛ばし、再びドラミングをして、口から土石流を吐き出しながら去って行った。
「うおっ!」
土石流に含まれていた岩石が辺り一帯に飛び散って壁や柱を吹き飛ばし、危うくアイリスとイーライがその崩落に巻き込まれかける。
「くっ! はっ!」
「おおおっ!」
アイリスは瓦礫を一刀両断し、イーライがそれをワンドライフルで粉砕する。
「危なかったァ……」
もうもうと立ち込める粉塵を二人して手で払っていると、粉塵でぼやけた向こう側に見慣れない人影が見えた。
「おい君! 遭難者か⁉ 早く逃げ……」
アイリスが言い終える前に人影は懐から何かのデバイスを取り出してそれを九十度傾けると、強烈な輝きが周囲を覆い尽くし、咄嗟に目を覆いながら隙間から覗き込むと、衝撃的な光景が広がっていた。
「あれは!」
「青いルミナスだ!」
青いルミナスことゼフェルは、足元のアイリス達には目もくれず、倒れたゾギガに向かってゆっくりと歩みを進める。
「ムウンッ!」
そしてこの様子は、合流しようとしていたリヒトにも見えていた。
「ゼフェルもここに来ていたみたいだな」
「……モンスターを狙っているのか?」
起き上がったゾギガは両腕のチェーンソーをゼフェルの肩へ振り下ろし、激しい火花が飛び散るもゼフェルは全く意に介しておらず、頭突きを見舞って怯ませる。
「トワッ!」
怯んだゾギガへ畳み掛けるべく両腕に備わった手甲から刃を出現させると、チェーンソーをその刃で一刀両断してしまった。
「うう……」
「グロい……」
ゾギガのチェーンソーは腱とキチン質の刃で構成されている、つまりこう見えても立派な臓器であり、それを切断してしまったのだから大量の血と行き場を失った腱がぶらりと垂れ下がる。
「デエエエェェッ!」
手を切られて痛みのあまり絶叫するゾギガへ向けて容赦なく刃からの光線を放ち、爆散させてしまった。
「白刃の閃光……グロウエッジか」
爆散したのを見届けたゼフェルは、またあの箱を取り出して黒い靄を回収し、後ろを振り返って何かを探す素振りをし始める。
「ソルティア、あの黒い靄はなんだ?」
「もしかすると……モンスターの怨念かもしれない」
「怨念? そんなもの集めて何に使う気だ?」
リヒトの疑問は、再び壁を粉砕して現れたドンペイジによって霧散してしまった。
「どうするリヒト?」
「ここは様子見で行こう」
ドンペイジがドラミングしてゼフェルを威嚇し、ゼフェルは前方に腕を伸ばして棒状の光を生成する。
「あれがゼフェルの切り札にして得意武器、アストラルハルバードだ」
棒状の光を掴むと光が消失して以前の戦いで投擲した槍に変わり、ゼフェルはそれを持ってドンペイジに斬りかかる。
「トワァーッ!」
振り下ろされたアストラルハルバードをドンペイジが腕を交差して防ぎ、蹴りをゼフェルへ叩き込もうとするも間一髪で避けられる。
「シャアッ! ムウンッ!」
ゼフェルは回避した勢いでアストラルハルバードを振って斬撃を飛ばすも、ドンペイジはそれに耐え切り、逆にゼフェルへ向けて突進してきた。
「ドゥオオオオッ!」
ドンペイジの渾身の体当たりで怯んだところに連続で突きを喰らい、膝をつかされながらもアストラルハルバードで防御態勢を取る。
「ヌゥッ……ドゥオワァッ!」
ゼフェルのメテオシンボルが赤く変わり、活動限界時間が近い事が分かる。
「早い、まだ三分も経ってないぞ」
「私達のように共に経験を積んで絆を深め合っていない上、訳あって戦闘慣れしてない者と融合したのかもしれないな」
「このままじゃ融合者が死ぬ。ゼフェルには悪いけど……邪魔させてもらうぜ!」
リヒトの腕にスパークルトランサーが出現し、グランサンダージェムを装填してから近くを飛んでいるピースを振り返る。
「行って来る、いい子にしてろよ」
ピースがサムズアップを返したのを見てから、リヒトはレバーを押し込んで腕を天に掲げた。
メテオシンボルが赤く染まり、窮地に陥ったゼフェルの前に眩い光の柱が現れ、徐々に装甲を纏った美しい人型に変わっていく。
「フッ……」
輝きと共に現れたラクスはゼフェルを一瞥すると、ドンペイジに向けて戦いの構えを取った。
「ゼヤッ!」
ドンペイジは連戦に血が躍ったのか、殊更激しいドラミングをしてラクスに向かって走ってくる。
「オオッ! ゼヤァッ!」
向かってきたドンペイジにラクスは組み付くと、そのまま流れるように投げ飛ばして地面に叩きつけてしまった。
「フゥッ! シャアアッ!」
倒れたドンペイジの足を掴んだラクスは天井目掛けて思い切り投げ飛ばし、ドンペイジは床と天井をスーパーボールのようにバウンドし、最終的に瓦礫に押し潰されてしまう。
「グランサンダー……なんというパワーだ」
「大地と風の力を宿しているという事は、大自然の猛威を宿した姿とも言えますね」
だが乱暴者と称されたドンペイジもさるもの、すぐに瓦礫を跳ね除けて起き上がると、口から土石流を放ってきた。
「ゼヤァァァアアアアアッ‼」
ラクスは両腕から岩石が混じった竜巻を飛ばし、逆にドンペイジを吹き飛ばしてしまった。
「リヒト、今こそデルゴラスの力を使う時!」
「ああ、グランサンダーに大地の番人たる神獣の力! この組み合わせは激アツだぞ!」
ジェムホルダーからデルゴラスジェムを取り出し、スパークルトランサーに装填してレバーを押し込むと、リヒトの体から黄金のオーラが発生する。
「ハイポリアの神獣の力! 味わってみろ!」
ラクスが腕を交差するとメテオシンボルが黄金に輝き、ダブルバイセップスのポーズを取るとデルゴラビティを思わせる黄金のオーラがラクスを包み込む。
「あれはデルゴラスの!」
「あの戦いで力を吸収したのか!」
全身に纏った黄金のオーラが右腕に収束していき、同時に風属性の力で電撃が腕から迸る。
「フッ!」
ラクスは電撃迸る黄金のオーラを発する右腕を振りかぶり、渾身の力でドンペイジの顔面に拳を叩き付けた。
「ゼェィヤァァアアアアアッ‼」
電撃で痺れた所に体の内部に重力振動が行き渡り、ドンペイジは断末魔を上げながら爆散してしまった。
「パンチ一発で……とんでもないパワーだな」
「神の名を冠する獣の力なだけあるな」
リヒトとソルティアが話していると、別の声が聞こえる。
『邪魔するなと言った筈だが』
「この声……ゼフェルか?」
ゼフェルがテレパシーに割り込んで来たようだ。
『だが……助けられたようだな、そこは感謝する』
再び取り出した箱にドンペイジの怨念を吸収すると、ゼフェルはアストラルハルバードを使って独力で起き上がる。
「何故モンスターの怨念を集める?」
『俺の戦いに必要だからだ。これは俺だけの……俺一人の戦いだ』
「しかし私達は志を同じくする仲間じゃないか。決して一人で……」
『それがどうした』
ソルティアの発言を遮り、ゼフェルは背を向けて歩き出す。
『これは俺だけの戦いだ、誰の助けもいらない、そして誰の邪魔も許さない』
ゼフェルはそのまま光の塊となって飛んで行き、ダンジョンから出てしまった。
「ゼフェル……一体君に何があった?」
ソルティアの呟きに、リヒトは精神世界の中で眉を顰めるのだった。
「助けてくれてどうもありがとうございます……迷惑をかけてすみませんでした」
「いえ、これが使命ですので」
ゾギガとドンペイジの脅威がラクスと青いルミナスによって取り除かれ、生存者たちは無事に全員救助された。
「今後ダンジョンに行く事は控えた方が良いでしょう。もっとも二度と踏み入れたくはないでしょうが」
アイリスの言葉に全員深く頷いた後、共に連れて来られたポリックが緊張気味にゲリンダの方を見る。
「あの、この子はどうなるんですか?」
「この個体はダンジョン生まれでありながら、凶暴性を持たないモンスターです。だから我々が保護してダンジョンモンスターの研究に協力してもらおうかと思います。我々を訪ねてくれれば、きっと会えますよ」
それを聞いた生存者たちは、一斉に笑顔になってポリックを囲む。
「良かった! 俺達の命の恩人!」
「絶対会いに行くから!」
大勢の人々に囲まれているポリックを見て、リヒトの背中にしがみついていたピースが肩に上って来た。
「良かったじゃん、友達が出来たな」
ピースが嬉しそうにこくこくと頷いてポリックの近くに向かうと、ポリックは驚いたように目を見開き、まるで土下座をするようにその場で平伏し始める。
「おうおう、どうしたどうした?」
ポリックは首を傾げるピースに向けて崇拝するかのように何度も頭を垂れ、生存者たちが引き離すまでそれは続いた。
「どうしたんだろうね、ポリック」
「ああ、あの子ポリックって言うんだ」
「うーん、もしかしてピースって高貴なモンスターなのかもしれませんね」
「ああ、祭壇の上に卵があったからね」
「じゃあポリックは召使として生み出されたモンスターなのか」
「召使が命を救う……か。最強の召使だな」
果たしてピースは何者なのだろうか?
「ピースお前……偉い奴なのか?」
ピースは首を傾げるだけで答えない。
「まあ僕の命の恩人だからな、偉いに決まってるよな!」
分からない事だらけだが、ピースはピースだ。命の恩人にして、大切な親友であり仲間である。
「それにしても、次から次に謎が降ってくるな」
このドリーム・ワールドの事や忘れ去られた神々について、そしてゼフェルの目的。
「謎だらけでも僕達がやる事は変わらない。この戦いはまだ、やりかけだから」
「私がいつも傍にいる。これからも共に戦おう!」
人気が無くなったダンジョンに、コツリコツリと足音が響く。
「ヘェ~エ、手をチェーンソーにされたのか……爪と腱を材料にしたチェーンソー……ンフフフフフフ、面白い! これだからダンジョンで掘り出し物探しはやめられない!」
楽しそうな女の声と共に、ステッキが空を切る音が響く。
「もう一匹はただの力バカ……うん? ドラミングするのか、面白いじゃないか」
薄闇の中から姿を現した女は、奇抜な装飾がついた燕尾服を纏っており、更に顔面の半分を道化師のようなメイクを施しているという奇天烈なファッションをしていた。
「もう少し掘ったら……面白いヤツと出会えるかな? ンフフフフフフ、ハハハハハハ!」
高笑いを残し、女はダンジョンの薄闇に消えていく……。
To Be Continued.
またまたピースが活躍しました、この子はかわいいだけじゃないんです。
ゼフェルが衰弱している理由は一体?
この辺気になりませんか? これが明かされる日を楽しみにしておいてください。
感想コメント、Twitter(現X)のフォロー、友達へのオススメもよろしくお願いします。
ではまた来週も読んでくださいね!




