挑む覚悟
ラバノギとの戦いで都市部に被害を出した結果、市民団体グローブリヴィングスの視察を受ける羽目になってしまったエクスレイド。
一方的な言い分でこちらを断罪してくるグローブリヴィングスに苛立ちを募らせるリヒト達だが、彼らに協力する科学者であるキップが「命を奪わず済む方法」を提示する。
彼らが推し進める新しいスタンダードを見に行くエクスレイドだが、徐々に様子がおかしく始めて……。
その報せは突然やって来た。
「はあぁぁぁ⁉ エクスレイドの活動に抗議⁉」
眉を顰めて目を瞑り、底困ったような顔をしながらアイリスは腕を組んだまま言った。
「そう、前々から来てたんだが、この前アーブトピアで戦ったせいでとうとう無視できないレベルにまで来てしまった」
ヴェルクとヒオは怒髪天の勢いで己が武器を構えて力の限り叫ぶ。
「どこのどいつだ抗議なんぞするアホは! ドタマカチ割ったる!」
「どんな思いで戦ってると思ってんだ! 全員脳天ぶち抜いてやる!」
室内で燃え盛った二つの火柱を消火するべく、リヒトとイーライがヴェルクとヒオの肩を掴んで椅子に座らせた。
「まあまあ、どんな抗議かも聞かずに怒るのは……違うだろ?」
「もしかしたら正当な抗議かもしれないじゃないですか」
イーライの言葉を受けウェンディはちらりとアイリスの方を見て言った。
「……でも隊長の顔を見る限り、そんな事はなさそうですけどねぇ~」
一度深く頷いてから、アイリスは語り始める。
「曰く、我々エクスレイドが行っているモンスター駆除は、倫理と人道に反する事である……と彼らは抗議しているようだ」
これには全員呆気に取られ、ヴェルクとヒオも怒りを通り越して脱力してしまった。
「こっちの世界にも、なんていうか……めんどくさい人達が居るんだ」
「やっぱり現実世界でもそうなんですか」
「うん、クマの駆除の是非ですっごい揉めてる。クマの被害はここと比べて全然小規模だけど、まさか災害級の扱いのモンスターに対してそんな事言う奴が居るなんてね、ちょっとびっくりだ」
脱力のあまり明後日の方向を向いていたヴェルクとヒオが復帰し、リヒトの近くに集まって来た。
「それがなぁ! 結構前から居たんだよ!」
「マギネットでも居るのよ! しかもそういうのが集まって団体まで作ってさ! 特にひどいのがグローブリヴィングスって所でね……」
「ヒオ、今回抗議に来たのはそこだ」
ヒオは座ったままリヒトのデスクに頭を投げ出し、聞こえるか聞こえないかレベルの小さな声で「サイアク」と連呼し始め、そんなヒオをよそにアイリスは説明を始める。
「上層部が色々と差し止めてくれていたようだがラバノギの一件で押し切られ、我々はグローブリヴィングスの視察を受けることになった。視察の後……何やら彼らが〝プレゼン〟を行うらしい」
「プレゼンって何ですか」
「曰く『新しいモンスター災害へのスタンダード』のプレゼンらしい」
「駆除以外の方法を持ってくるって事ですか?」
「彼らはそう言ってる」
ブーイングがひどいが、せめて対案を持ち出すだけマシかと、リヒトはそう思うようにした。
だがそんなのは間違いだったと、リヒトは思い知る事になる。
数分後に連絡が入って皆が身だしなみを整えて待っていると、複数の神経質そうな顔つきの男女が、ベースアヴァロンのホブゴブリンのスタッフに連れられてやって来て、まるで嘗め回すように部屋の中を見られた。
「お待ちしておりました、エクスレイド探査隊へようこそ、隊長のアイリス・マティルダ・ロックワースです」
アイリスが手を差し出すも全員がそれを無視し、雰囲気に耐えかねたスタッフが紹介した。
「えぇ……彼女がグローブリヴィングスの代表を務めているオーブリー・アンダーソンさんで、こちらが理事のローガン・スミスさんです」
探査隊全員、誰がオーブリーで誰がローガンかすぐに分かった、なんというか放つ雰囲気というか違和感が他とは違ってかなり色濃い。
「まあ、いいでしょう。始めさせてもらいます」
オーブリーの一言で視察が始まったが、始まったのは視察というより尋問紛いのインタビューだった。
「まずあなた方全員聞きたいのですが、命を奪っているという罪悪感は持っていますか?」
いきなり直球をぶん投げられ、全員面食らってしまう。
「まあそりゃ……モンスターだってハイポリアの住人ですから」
「でもアーブの人達が安全に暮らすのに、駆除するのは仕方のない事で……」
「なんて短絡的で排他的なんだ!」
「ホワイト・アールヴらしい発言ね」
この発言にリヒトは心底不快そうに顔を顰め、ヴェルクが立ち上がろうとするも、ヒオが肩を掴んで制止する。
「発言には気を付けていただきたい。この部屋に居る間に種族間差別は私が許しません」
アイリスの毅然とした発言に、一瞬口を噤むもグローブリヴィングスは止まらない。
「他の者も同じ考えと受け取っていいかしら?」
探査隊全員が頷いた事で、オーブリーとローガンは互いに顔を見合わせて失望したかのような溜息をつき、リヒトは「こいつらを啓蒙してやらねば」といった態度を隠そうともしない有様に苛立ちを覚える。
「あなた達は「モンスターもハイポリアの住人」と、そう言いましたね?」
「ではなぜ駆除という短絡的な選択肢に走ってしまうのですか?」
「いや……さっきから短絡的短絡的と言いますがね」
リヒトがそう切り出し、立ち上がってから言った。
「四十メートルとか五十メートルもある巨大生物が、火を吹いたり電撃を操ったりとかいう特殊能力を使って大暴れしながら襲って来るんですよ、僕らはモンスター〝災害〟を相手にしてるんです。もう一度言います、僕らが相手してるのは〝災害〟なんです。駆除する以外にどうしろって言うんですか」
そんな反駁に対しオーブリーは憐れみにも似た視線を浴びせ、リヒトはなんだか居心地の悪さにも似た寒気を感じる。
「あなた確か、最近転移してきたっていう人よね?」
「ええ、そうですが」
「可哀想に、染められてしまったのね」
「ハァ?」
「駆除しかない、エクスレイドがそう刷り込んだから染まってしまったんだね」
まるで反論になっていない、というか会話にすらなってない。
倫理を重んじている自分達の意見が絶対的に正しいと信じ切っているからこそ出てきた答えに、リヒトは心の声を抑えることが出来なかった。
「いい加減にしろよ、僕が自己判断も出来ないようなマヌケだって言いたいのか」
「まあ待てリヒト、彼がここに居るのは紛れもない彼の意志で、今の発言も誰に強制されたものでもありません。話を戻すと概ね私も彼と同じ意見を持っておりますが、その点に関してはどうお考えで?」
これまたグローブリヴィングス達が憐れむような視線をアイリスに向けた事で、リヒトは何かを感じ取ってしまう。
「あなたも可哀想な人ね」
「な……なんですと?」
「女性の身でありながらここまでの地位に昇り詰めるのに、色々と我慢がつきものだったのでしょうね」
「何を言うのか、ギルモアスならまだしも、私はアーブに来てからそのような事は一度もありません。撤回を求める」
もう我慢ならない、こういう手合いがリヒトが最も嫌うタイプの人間だ。
「さっきからまともな反論が返って来ないんですけど、なんですか? あなた方は倫理だの人道だの当たり前のことを掲げ、現実を見ずに空虚な理想を掲げて我々にイチャモンをつけに来たんですか? そういう事なら我々も暇じゃない、帰ってくれ」
「空虚な理想ではないとしたら?」
自動扉の向こうから声がしてから、皆が居る部屋に一人の男が入って来た。
「もうモンスターの命を奪わずに済む、それが空虚な理想ではなくなったとしたら?」
「……君は!」
部屋に入って来た男を見て、イーライは驚いたように目を見開く。
「キップじゃないか!」
「マイヤーズ先輩!」
「ああ、久しぶりだなイーライ。ウェンディも元気そうだな」
キップと呼ばれた男はイーライ、ウェンディと握手を交わし、皆に頭を下げて自己紹介をした。
「初めまして、魔法医をやっております。キップ・マイヤーズと申します」
「知り合いなの?」
「ああ、キップと僕はアマティスタ時代の同期なんです。でもどうして君がここに? 大学病院に居たんじゃなかったのか?」
キップは手をひらひらと振って否定し、近くの空き椅子に腰かけながら言った。
「今はフリーランスでね、本業は片手間に研究を再開したのさ」
「研究? 君の分野って生体及び人体への魔法の作用について……だったよね?」
「そうさ、学園都市時代は結局理論止まりで挫折したが、この人達の資金提供のお陰で、ようやくそれが実を結んだ」
やっと話の通じそうな相手が現れた事で、リヒトとヒオとヴェルクはお互いに顔を見合わせて安堵した表情を見せる。
「説明しよう、少しここの設備を使わせてもらうよ」
備え付けられたクォーツモニターにキップは自分のパッドを繋ぎ、資料の配布等をしてセッティングを終えた。
「グローブリヴィングスが提案する新しいスタンダードとは、君の技術を使ったものという事でよろしいか?」
「ええ、今日はそのプレゼンに来たんです」
「良かった、てっきりイチャモンつけるだけつけて帰るのかと思ってた」
ヒオがちらりとオーブリー達の方を見るが、全員ばつが悪そうにするでもなく憮然としている。
「どうやら不快な思いをされたようで……申し訳ない。では始めさせてもらいます、お手元の資料をご覧ください」
クォーツシーバーのホログラムを捲ると、まずキップの研究分野についての説明が始まった。
「さっきイーライが少し触れていましたが、私マイヤーズの専門分野は生体への魔法の作用についてです。生体と言っても、特に神経に対する作用を研究しています」
キップが言う事には昨年魔法獣医の資格を取得し、現在は人間ではなく主にモンスターの神経へ作用する魔法を研究中であるとのこと。
「前置きが長くなりましたが、今回提案させていただく新しいスタンダードは、この技術を使ったものになります」
曰く、特殊な魔術光波照射装置を用い、モンスターを鎮静化させる効果を持つ光波を照射し、大人しくしてしまう効果があるという。
「ここまでで、何か質問は?」
「……」
「これ……」
グローブリヴィングスの面々はどうだと言わんばかりの顔をしているが、探査隊全員は何とも言えない微妙な表情を浮かべている。
「マイヤーズ先輩、悪いんですけどねぇ……」
「こういうの、既にあるよ」
比較的無害な興奮しただけのモンスターを帰すための術式ならチャリオッツ全機に組み込まれている。
イーライとウェンディからの指摘が入るも、キップは余裕の笑みを崩すことなく両手でフィンガースナップをして二人に向けて指を差す。
「そう言うと思った! 次のページを捲ってください!」
次のページには比較グラフが載っており、従来の鎮静化光波と今回キップが開発したというマイヤーズ光波と呼ばれるものでは、鎮静化効果がかなり段違いである。
「中型のモンスター四種類で比較したグラフはこっちで」
確かにこの差では、駆除の代替案として視野に入れても良いかもしれない。
「確かに代替案として考えてもいいレベルだが、あくまでこれでは案止まりですな」
「……マイヤーズ光波はそれだけではありません。照射後短時間ですが、行動を操作する事が出来るのです」
行動を操作する。
こんな事が出来れば住処に帰す事も出来るだろう。
「待てよ……これって別の倫理的な問題が発生しないか?」
「何を言うの?」
「命を奪うよりマシじゃないか!」
「そうよ、間違いが認められないからそういう事を言うのね」
リヒトの意見は封殺されるも、イーライが別の視点から異を唱える。
「これ……本当に出来るのか? 理論上では出来るとかじゃないだろうね。その……悪いけど光波を当てるだけではこんな事出来ると到底思えないんだが」
仕立人の異名を持つ実績ある若き魔術師からの鋭い指摘に、グローブリヴィングスも心配そうにキップを見る。
「君ならそう言うと思ってた、だからこれは実演した方が早いだろう。場所を移そうか、ご足労願いたい」
グローブリヴィングスと探査隊はベースアヴァロンを離れ、アーブ国内の研究機関へと移動した。
「こんな研究機関を立てるなんて……」
「結構大規模だね、どっから金が出てるのやら」
リヒトの何気ない疑問は、ヒオがやったにぎにぎと懐へ何かを入れる仕草で解消された。
「噂だけどね」
「噂であってほしいよ」
ケイを降りて別の移動手段でやって来たグローブリヴィングスと合流し、彼らの案内である施設へと通された。
「ここでマイヤーズ光波の実験をしてるんだ」
「この広さ……まさか本当にモンスターで実験してるんじゃ」
「ああ、その通りさ、ほら」
キップが扉を開け、仕切られた柵の中に居るもの見た途端、探査隊は衝撃を受けた。
「これって!」
「嘘だろオイ……」
中に居たのはグロウプタイルという中型に分類されるモンスターで、何度かエクスレイドも交戦している狂暴極まりない危険なモンスターである。
「こんな奴どうやって捕まえたんだ」
「捕まえた? とんでもない、彼はここに来てもらったのさ」
これがマイヤーズ光波の力だというのなら、確かに駆除という選択肢を塗り替えるだけのポテンシャルはあるかもしれない。
だがそんな事を考える前に、このグロウプタイルの一挙手一投足にはどこか違和感が付き纏っている事を、ヒオは感じ取っていた。
「このグロウプタイル、なんか変じゃない?」
「確かに、なんというか動きというか、どこかがおかしい気がする」
「まあ大人しく押し込まれているという時点でおかしいと言えばおかしいですけどねぇ」
確かにウェンディの言う通りこの時点で変なのだが、それ以上に何かがおかしい。
「なるほど、神経にダイレクトに作用し、鎮静化及び行動制御を行うと……確かに画期的とも言えるけど、今の所マイヤーズ光波による行動制御が効果的かは僕は少し疑わしいと思ってる」
イーライの厳しい意見にキップが反論する前に、グローブリヴィングスの面々がしゃしゃり出てきた。
「ふーん、仕立人とはいえ、誤った考えに固執してしまうのね」
いい加減いちいち鼻につく言い方を止めろと言いたくなったが、言ったら言ったで拗れそうだったため、リヒトは堪えた。
「実際に操っている所を見せた方が早いでしょうな。マイヤーズ先生、見せてあげてください」
「そうですね……魔術は実践が肝心だ」
キップは水晶通信で指示を飛ばすと、マイヤーズ光波照射用の魔術砲が展開し、グロウプタイルの頭部へと照射される。
「ねえ……聞こえない?」
ヒオが尖った耳を動かし、グロウプタイルの鳴き声に耳を傾ける。
「鳴き声が……どうかしたのか?」
「ほら……明らかに変じゃない?」
「変って、鳴き声の事か?」
「本当にこれ、鎮静化してる?」
確かにヒオの言う通り、鎮静化してリラックスしている筈のグロウプタイルは、嫌がるようなもの悲しい鳴き声を上げている。
「まるで……ストレスを感じてるみたい。隊長、これ調査すべきですよ」
「わかった、ありがとうヒオ。イーライ、少し調べてみてくれ」
「了解です。スキャンかけます」
イーライがワンドライフルを取り出したその時、一斉にグローブリヴィングスのメンバーが前に出た。
「さっきからなんなの! これが画期的なのが分からない⁉」
「画期的かはともかく様子がおかしいのは確かなんです」
「いいえ、この子は正常よ!」
「どこが!」
ここで初めてヒオが声を荒げ、グローブリヴィングスが一瞬たじろぐ。
「こんな辛そうに鳴いてるの分からない⁉ さっきから聞いてれば命を奪うのがどうのって宣ってるけど、高いストレスが溜まり続ける環境に晒し続けるのは良いワケ⁉ 答えてみなさいよ! 全ての命を守る団体の名に懸けてね!」
ヒオにそう捲し立てられて一瞬怯むも、オーブリーはすぐに睨みつけながら言い返す。
「多くの命を奪ってきたあんた達がそれを言うの⁉ ここに居るグロウプタイルの友人や親兄弟を殺してきたかもしれないあんた達が!」
「ええそうよ! 私達は多くのモンスターを殺してきた! そうせざるを得なかった! だからこそエクスレイドは月に一度、奪わざるを得なかった命に対して黙祷を捧げてる! 開き直るつもりはないけど、少なくとも私達は命に対して向き合ってるつもりでいる! あんた達はどうなの? 奪わないというだけで満足して、命に向き合えてないじゃない!」
オーブリーが奇声を上げ、ヒオに掴みかかろうとした時、グロウプタイルが突然頭を抱えて咆哮し、身を捩って暴れ始めた。
「な……何⁉」
「マイヤーズ先生! 早く光波を!」
「あっ……ああ……」
「キップ待て! 光波は……」
イーライの制止も遅く光波が照射されたが、グロウプタイルが大人しくなったのは最初の二十秒ほどだけで、頭を振ると全身の鱗を蠕動させ始める。
「まずいです! この子巨大化します! 逃げて!」
ウェンディの一声で全員が施設外へ逃げ出し、その数秒後に天井を突き破って巨大化したグロウプタイルが出現した。
「なんだよ! こんなデカいグロウプタイル初めて見たぞ……」
グロウプタイルはその名の通り、体長を自由自在に伸縮する事が出来る。
だが三階建ての建物を超えることまずはない筈だが、どういう訳かこのグロウプタイルは五十メートル近くまで巨大化している。
「なんで……なんでなんだよ!」
「そんな事言う前に調べろ!」
イーライがワンドライフルでグロウプタイルを走査すると同時に、グロウプタイルは跳躍して他のエリアの建物を次々と破壊し始めた。
「止むをえまい……私達で対処に当たるぞ! イーライはそのまま分析を続け、ヴェルクとウェンディはケイに搭乗、ヒオとリヒトは私と共にグロウプタイルを攻撃! 場合によっては駆除も視野に入れる! 状況開始!」
「なにを言って……」
「了解!」
各人が一斉に動き出したのを見てリヒトは素早く物影に隠れると、エーテルバーストジェムを取り出す。
「行こうソルティア」
「……あのグロウプタイルを倒さないつもりだな」
「ああ……あのグロウプタイルの行動がなんだか不自然だったから、まずそれを調べたい」
「そうか、状況によってはいつでも倒せる準備をしておいてくれ」
「勿論さ!」
出現したスパークルトランサーにジェムを装填してレバーを押し込むと、リヒトの身体は大きく強く変わっていった。
上空から優しげな光と共にラクスが現れ、腕を大きく広げて構えつつグロウプタイルの前に立ち塞がった。
「ラクス……モンスターの殺し屋!」
忌々し気にローガンが吐き捨てたのと同時にその真上をケイが通過し、グロウプタイルへ非致死性の電撃魔術砲を浴びせるも、グロウプタイルは益々暴れ出す。
「ゼヤッ!」
施設を破壊して回るグロウプタイルをラクスが羽交い絞めにするも、グロウプタイルはより一層大暴れして制止が効かなくなる。
「ウェンディ、鎮静効果をありったけブレンドした術式出してくれないか? この際何でもいい、治療効果もつけてくれていいぞ!」
「わかりました! これを……これも入れて……我が意の儘に!」
あまりの暴れぶりに手を焼いたラクスがグロウプタイルを放し、少し距離を取ってから鎮静効果のあるエーテルレストを照射する。
「俺達も協力するぜ!」
エーテルレストを後押しするようにケイの魔術砲から鎮静化光波が放たれ、グロウプタイルに照射されるも、それすら突っ切ってラクスを蹴飛ばし、施設の破壊へと向かい始めた。
「あいつ、僕達に目もくれず……」
「もしかして施設を壊す事が目的なのか?」
普通のモンスターなら真っ先にラクスへ向かって行く、だがこのグロウプタイルは施設を破壊して回る事自体が目的であるかのように見える。
「一体何がしたいんだ?」
その疑問が今、解かれようとしていた。
「どうして……こんな事に……」
暴れ出すグロウプタイルによって次々と脱走するモンスターを見て、キップは両膝をついて呆然として呟く。
「モンスターだろうと命を奪わないで済むと思ったの……に?」
そんなキップの胸倉を、イーライが乱暴に掴んで立たせた。
「イーラ……ぐぽあっ‼」
突然イーライがキップの顔面を渾身の力で殴りつけ、キップは地面に倒れ込む。
「な……何するんだ!」
「調べたよ……全部分かった」
イーライは手首を揉み、五指を何度か開閉してから続けた。
「あのグロウプタイルがあそこまで巨大化し、あんなに暴れてるのはストレスが原因だった……何故かわかるか?」
倒れたキップの胸倉を掴み、イーライは捲し立てた。
「自分の意思や思考に反して神経が全く違う指令を出し、思うように体が動かせなくなったせいだ。マイヤーズ光波のせいでな‼」
キップは目を見開き、愕然とした表情を浮かべる。
「でも……モンスターは鎮静化して……大人しくなって……」
「鎮静化してなんかない、暴れなくなったからそう見えてただけだ! 実際はずっと意思を抑えつけられる苦しみを味わってたんだよ! ここに連れて来られた日からずっとな!」
今暴れているグロウプタイルは、何週間にもわたるマイヤーズ光波による行動抑制でストレスを溜め続けたのだ。
「良いかよく聞け! そこのあんた達もだ!」
イーライはグローブリヴィングスの面々にも指を突き付けてから、胸の中に秘めた熱を込めて語り始める。
「理想を追い求めるのは悪い事じゃない、モンスターとの共存、大いに結構! だがな! 現実は決して甘くないんだよ!」
普段のイーライからは考えられない程鬼気迫る様子に、オーブリーですら黙って聞いている。
「人をアンデッドにする毒霧を撒き散らすフォゴン! 得体の知れない存在に送り込まれたグリアンゲロやキングモンスター! 子供を食い殺そうしたズオーギラン! 他の命を傷つけて楽しむバイオクロー! 外宇宙から来たラバノギ! あんた達の理想の前にはな、こんな奴らが立ち塞がっているんだ! あんた達ならどうする⁉ 何が出来る⁉ 言ってみろ! 答えてみろ!」
イーライの問いに誰も答える者が居なかった。
答えることが出来なかった。
「極端な例を挙げたが……モンスターとの戦いはもっといろんな事情が絡んでくるんだよ。絶えず変化する危険な状況に……あんたたちが今日さんざん見下してこき下ろした、僕の大切な友人達が命の危険に直面しながら戦ってるんだ。だからどうか生半可な気持ちで戦いに首を突っ込んで……彼らの邪魔をしないでくれ!」
握った拳が震える程の感情のぶつけ先を見失いつつ、イーライはキップを離すとクォーツシーバーへ向けて喋り出した。
「隊長……攻撃を一切中止してください」
『何? 中止だって⁉ しかも一切って……』
唐突なイーライの言葉に、ヒオも驚いて割り込んでくる。
『どうして⁉ 何か分かったの? 攻撃しない方が良いの⁉』
「しなくて良いのではありません……もうする必要が無いのです」
イーライは悔しさが入り混じった眼差しで暴れ回るグロウプタイルを見上げ、先程下した見立てを告げた。
「あのグロウプタイルが前例のない程巨大化し、そして暴れ出した原因は高ストレス環境に長期間に渡って晒された事によるもの、そんな中あんなふうに巨大化して大暴れすれば……心臓に高い負荷がかかるでしょう」
施設を壊して回っていたグロウプタイルだが、よく見ると息が上がっており、一分もしないうちに肩で息を始めた。
「ゼッ……」
ラクスが様子のおかしいグロウプタイル止めようと手を伸ばしたが、グロウプタイルはなおも破壊を止めず、ついに膝をついて倒れてしまった。
「あのグロウプタイルは……持ってあと数分の命なんです!」
倒れてまでもグロウプタイルは施設へと手を伸ばし、やがて動きも緩慢になり始めた頃、ラクスはグロウプタイルを抱き寄せると、エーテルヒーリングを照射して全身に走る痛みを取り除いた。
「ラクス……あいつの痛みを取り除いてくれてるのか」
「せめて……最期ぐらいは安らかに……」
顔に刻まれた苦しそうな皺が徐々に取れて穏やかな顔になると同時に、探査隊に見守られながらグロウプタイルはついに息を引き取った。
「……クソッ!」
イーライは近くの瓦礫を殴りつけ、ラクスもグロウプタイルの頭上で握った手を震わせている。
「全部……俺のせいだ……マイヤーズ光波なんて作った……俺の! 俺は……なんてことを!」
無事に事件は収束した、独りよがりの理想に翻弄された、一つの命が消えた事によって。
苦々しい結末に終わった戦いを噛み締めながら、ヴェルクとウェンディがケイで上空を飛び回りながら、周囲の情況を確認する。
「モンスターの大脱走、中にはほっとくとアブねぇ奴もチラホラいるけど、全員暴れてないな」
「マイヤーズ光波で制御されてるからですね……センパイ、このモンスターってどうなるんですか?」
イーライは少し間を置いて、重苦しい残酷な答えを告げた。
「マイヤーズ光波の効果が切れた途端にストレスの反動が来るだろう、そしたらさっきのグロウプタイルのように手が付けられない程暴れる可能性が高い……だからもう……ここに居るのは全員殺処分になるな」
下された診断を聞いたキップは、項垂れつつもイーライの近くに向かって懺悔の言葉を述べる。
「俺は目が曇っていた……君に勝てると唆され、大事なものを見失っていたのかもしれない」
「申し訳ないと思うなら、これからは本質を見失わず、真に共生する道を模索しろ。それが君に出来る……せめてもの贖罪だ」
そしてラクスはグロウプタイルの弔いの為か、死骸の傍に立ってしばらく動かずにいた。
「隊長、なんであのグロウプタイルが必死になって施設を破壊して回ったか、私わかるような気がします」
「どうしてだと思うんだ?」
「解放したかったんじゃないでしょうか、自分と同じ見えない鎖で繋がれたモンスター達を」
苦い空気が充満する中、オーブリーとローガンは顔を見合わせてから脱走したモンスター達を見る。
「これがバレたら一大事ね」
「消えてもらうか、目撃者には」
オーブリーがMQのボタンを押すと、まだ潰れていなかったマイヤーズ光波があるモンスターに照射され、途端に唸り声を上げてアイリスとヒオの方へ向かった。
「ヒオォッ!」
「うっ⁉」
咄嗟にヒオが矢を番えて狙いを定め、何が起こったか瞬時に理解したイーライがワンドライフルをオーブリーに向け、ラクスが振り返ったその刹那の瞬間、空から巨大な何かが降って来た。
「うっ! なにこれ……」
「……槍?」
空から降って来た独特な形状をした巨大な槍は、ヒオに向かってきたモンスターを穿ち、完全に息の根を止めている。
「フッ⁉」
「なんだよあの槍……」
「……ヴェルクさん! あれ!」
ウェンディが窓の外を指し、ヴェルクやクォーツシーバー越しに聞いていた隊員達が空を見上げると、そこには衝撃的な光景が広がっていた。
「な⁉」
「あれは!」
「ルミナス・ギガント!」
ラクスに次ぐ第二の輝きの巨人が、中天に浮かんでいる。
だがそのルミナスは優しく清浄な雰囲気を放つラクスと異なり、ドロドロとした異様な雰囲気を放っていた。
「あのルミナス……なんだか怖いですね」
全身が青と黒で構成された鎧に覆われ、ラクスと同じく銀色の楕円形の瞳をしているのは分かるが、頭部の兜のバイザーのスリット越しにしか見えない。
「ンンッ……ハァァ」
青いルミナスは腕を交差すると指を開き、腕に電撃状のエネルギーをチャージすると、両腕を前に突き出した。
「トワァァァァァァアアアッ‼」
青いルミナスの両手の間から放たれた光の奔流が、脱走したモンスターを次々と葬っていく。
「全部……消し炭に」
青いルミナスは地面に降り立つと、正四面体の箱を取り出し、空に掲げて宙に発生した黒い靄を吸収した後、投げた槍を回収して肩に担いだ。
「……ゼフェル?」
「は?」
「リヒト、体を貸してくれ」
体の主導権がソルティアに移り、ラクスが青いルミナスにテレパシーで呼び掛ける。
『ゼフェル? ゼフェルだよな?』
『……』
青いルミナスはゆっくりとラクスの方を振り返り、テレパシーを返してきた。
『誰かと思えば……ソルティアか』
『君はゼフェルなんだな! どうして地球に来たんだ⁉』
『昔のよしみだ、警告してやる』
ゼフェルと呼ばれた青いルミナスは、槍を二分割して手甲に仕舞いこむと、ラクスの方をまっすぐ見て言った。
『……俺の邪魔はするな』
ゼフェルはそれだけ言い残すと腕を広げて飛び立ち、空の彼方へ消えてしまった。
ソルティアとの融合を解除したリヒトは、治安維持兵によるグローブリヴィングスの連行を手伝った後、先程起こったあまりの出来事に呆然とする仲間達と何食わぬ顔で合流した。
「さっきのは……一体」
「リヒト、あれ見たことある?」
「いいや、あれは初めて見た、そもそもラクス以外の星の戦士の初めて見るんだ」
苦い空気を一気に吹き飛ばした謎の星の戦士ゼフェル、彼の目的は一体何なのだろうか。
『あのゼフェルとかいう星の戦士、誰かと融合してるのか』
『アバターを纏っているから、その可能性が高いな』
『そもそも誰なんだよ、あいつ』
『ゼフェルは槍の名手たる星の戦士……そして』
ソルティアは少し間を置き、続きを告げた。
『私の一番の友だった男だ』
To Be Continued.
イーライの魔術や仲間への思いが垣間見える回にしたく、こういったお話を書いてみました。
そして最後に現れたゼフェル、彼の目的は一体?
物語は新しい局面へ向かいます、ぜひお楽しみに。
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ではまた来週お会いしましょう。




