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出発、或巫礼人の場合

出発、或巫礼人の場合


香川捜索実行日の前日、私は愛用の折りたたみ自転車の最終チェックをしていた。



自転車と言っても、実際は乗れないし、乗っても走ることは出来ないように改造してある。



重要なのは、折りたたみ自転車の車輪部分。車輪を本体から外して中央のツマミを捻ると、シャキン、と音を立て内側からゴム部分をに開けた穴を通ってトゲが飛び出す。


最初はなんとなく趣味の工作が高じて、というものではあった。


試作品1号を作って香川に見せたら「お前なんてもの作ってんの……」とドン引きされた事を思い出す。その顔が面白くて試作品が増えていった。


試作品2号では前後の車輪を合体させて太さを増して命中精度と頑丈さを上げた。

3号ではモーターをつけてみた。

4号では軽量化を図ったが難しかった。1度振り下ろしただけでフレームが歪んでしまい、ボツになった。

5号では車輪の合体をもっと素早く行うために改良を行った。

6号では針の太さを限界まで太くした。重すぎて持ち上がらず、何事も程々が良い、ということに気がついた。ボツになった。

7号では針の太さ、頑丈さに注目した。



そして、8号に至った。


片手で持ち上げられる重量。良し。針の太さ、良し。


さらにスイッチを入れるとモーターにより中央部分から回る。

先程油を差したためさらに滑らかに動くようになったようだ。


「動き、よし」


棘で抉りながら敵対する相手に多大なダメージを与えられると予想される。まぁ、人間に対しては使った事はないので殺傷力の程はわからないが。


長時間モーターを動かせないのと重量感がある。というのがデメリットではある。

でも電池が切れたら物理的に殴ればまぁいいだろう。


その場合重量感、というのはメリットなる。


試しに右手に持ち用意した発泡スチロールに向かって振りかぶって車輪で殴り付けると、意図も容易く真っ二つになった。


刃物ではなく棘が削るようにして作った切り口は汚い。


「殺傷力、おそらくは、良し」


車輪を撫でる。


「チェーンソーを持ち込む訳にはいきませんからね……」


銃刀法に違反しそうですし。

この場にこの車輪の方がアウト寄りではないのか、と注意する人物はいなかった。


首を突っ込む事が趣味で度々大怪我や憔悴していた様子を見せていた香川。


何があったか、と聞いても首を横に振り、「そんな心配するな!」と笑っていた。


私がかつてどん底にいた時、そこから救い出してくれた時も、何も特別なことはしてない、、となんでもないような顔をして友達になろうと手を差し伸べてくれた。


そんなお人好しな彼が何かに巻き込まれているとしたら、今度は私が助けなければならない。

友を救うためなら何でもやろう。彼を阻む全てを払ってみせよう。


それこそ私は人殺しであろうとも。


もう一度車輪を撫で、私は眠りについた。



起床時刻。6時。

アラームをつけずとも癖付けされた体内時計のせいで決まった時間に目が覚める。

たしか、村の迎えのバスは9時半出発だった。

15分ほど前に付けば問題ないだろう。


同乗者が二人いる、との事だったので遅れないようにしなければ。

テレビをつければ変死体事件の新たな被害者が、というニュースがやっていた。

物騒な世の中になったものだ。


車輪を磨き、丁寧に折りたたみ自転車の袋に入れた。

わざわざ取り出して注視しなければ“折りたたみ自転車”にしか見えない。


組み立てて目の前で乗って見せろ、と言われればバレるだろうが、まさか目の前でそんな事を言うような警察はいないだろう。



シャツにジャケットを羽織る。

どうもジャケットを着なければスイッチが入らない。

時刻が近づいて家を出た。

迎えに指定された駅まで行くと、しゃがみこんでいる髪の長い外国人の男とその連れらしい男がいた。

どちらも顔がいい。



連れらしい方も整っておりモデルかと思うルックスをしているが、外国人の男は近寄り難いと感じるほどとんでもない美形である。


どちらも一緒に街を歩くのはごめん蒙りたい相手だ。



通勤するOLがその2人の男を2度見し、数人連れ立った女子高生らしい子も顔をにやけさせながらヒソヒソと彼らの方をちらちら見ながら話している。

多方、話しかけるか迷っている、と言ったところか。


駅前に9時半にバス迎えのバス。赤いポストの前。

彼らがいるのはその赤いポストの前だ。


「すみません」


近寄って髪の長い方の肩に手を置くと、非常に驚かせてしまったようで変な声を上げられてしまった。


顔の整った方が代わりに応対してくれた。

我孫子村に行くバスについて聞けば、2人はやはり同乗者だったらしい。


「随分荷物多いっすね」

「ああ、これは折りたたみ自転車です。あったらいいかな、と思いまして」

「趣味なんです?」

「ええ、まぁ」


荷物について聞かれたので、答える。

趣味、ではあるので嘘ではない。乗るほうじゃなくて、作る方ですけど。


対応してくれた方は古戸、髪の長い方はキアノ、というらしい。

喋れば近寄り難い、という印象は払拭された。

なんてことない、気さくな人物、だった。


バスがやってきて、そのまま古戸さんに誘われるがままトランプに興じる。

キアノさんはゲームが得意らしい。


彼らの仲の良さを伺わせる二人の掛け合いは、いつかの香川と私を思い起こさせた。


がんばる

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