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ある夏の日、或巫礼人の場合

7月16日。


私は、スマホの画面を見つめて溜息をこぼした。


友人、香川幸太郎にメッセージを送っても、既読がつかなくなって一週間が経過している。


今まで、こんなことは無かった。


記者である彼は多忙ではある。


しかし、返信をする事はなくても、既読はついていたのに、なにかあったのだろうか?

部屋で倒れている?


さすがに心配になり、私は香川の部屋を訪れた。


俺は掃除が嫌いだから、掃除をしてくれ!と渡されていた合鍵を使い、「お邪魔します」と声をかけ香川の部屋に入る。


いつもと変わらぬコーヒー豆の香りに混ざってなにかが腐った匂い、ごちゃごちゃした書類。



相変わらず整頓はできていないようだ。



仕事関係の書類もあるだろうに、部外者である自分に片付けを任せていいのかと思う。


まぁ、信頼されている、というのは悪い気分では無いですがね。


いつから放置されてるのか分からないカップ麺にハエが集っており、テーブルや棚の上には薄く埃が積もっている。


腐った匂いの原因はこれか、とカップ麺の汁を捨て、シャバシャバと水で濯いでシンク横の食器置きに伏せておいた。


部屋を見渡し、ああしばらく家には帰っていないのだろうな、という印象をうけた。


「一体どこに……」


本棚を眺めれば、記者である彼が担当しているオカルト雑誌が並んでいる。


1冊を手に取ってペラペラと捲ってみると、『新興宗教』『イエティ』『神隠し』などオカルトがオカルトしている文字が踊っている。数ページ読んでみる。


こういうものはあまり読まないが、なるほど、創作読み物としては面白いかもしれない。


それをとりあえずあった所に戻し、次はデスクトップパソコンの置いてある机に目を向けた。


モニターの横に付箋で英字の羅列がつけてあるが、まさか。


パソコンを起動しパスワードの画面でその文字を入力すると、易々と開くことができた。


「パスワードの意味が無いでしょう……」


この場にいない友人に注意をする。


次会ったら直接注意してやろう。カチカチとパソコンを弄る。


スケジュール帳には、7/2~7/9 取材。

検索履歴には『我孫子村』『我孫子村 ルート』『我孫子村 宗教』

とあった。


既読がつかなくなったのは、7/9の朝のメールからだ。


この我孫子村、とやらの場所に取材に向かったのだろうな、という仮説を頭の中で組み立てる。

スマホが壊れた?それとも、陸の孤島と化している?はたまたなにか事件に巻き込まれた?



なにはともあれ、この我孫子村という場所に向かえば何かしら香川の情報を得られるだろう。


何か困っているなら、首を突っ込む好奇心旺盛な大切な友人の助けになろう。


「手のかかる友人を持つと苦労する」


誰に言うともなく、呟き、私はその部屋を後にした。


さて、とスマホで我孫子村について調べる。


拍子抜けするほど簡単にヒットした。

言ってはなんだが、とても簡易的なホームページだった。スッスッとスクロールしていく。


人口100人ほどの小さな村。

山と海に囲まれ、旅館は一つだけ。

素泊まりで3500円と安い。


1泊……いや、2泊3日にしよう。


3日もあれば何かしらの香川の足取りは掴めるだろう。


せっかく旅館に泊まるなら、と食事付きを選んだ。

自分のスケジュールと併せて日程の調整をする。


出発は4日後になった。


もう一度、香川の最後のメッセージを見る。

7/8に来ている『ヨシッ!』と書かれた看板を持つ猫の呑気なスタンプ。


全くもってヨシッ!じゃないからわたしが貴方を探しに行くんですがね。


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