諦めという選択肢は面白くない
祭りの翌朝、ヴィルディアは静かだった。
昨日の喧騒が嘘のように、雪だけが静かに積もっている。
一行はアレンの執務室にいた。
「……まずは雪像の件だが」
アレンが重い口を開いた。
「触っただけだ」
ジルが即答する。
「アレンさま、雪像は見ましたか」
アリシアが遮るように言った。
「……見た」
「顔だけ残っていましたよね」
「そうだな」
「イケメンでしたね?」
沈黙。
「フォローになっていない」
アレンがため息をついた。
「主、雪像、作る?」
「嫌だ」
「修復部門がありましたわね」
「参加するな」
「……話を戻すが」
アレンが額に手を当てた。
「指輪を追うのか」
「ああ」
「怪鳥の目撃情報ならあてがある」
「聞かせてくれ」
「中央のシェルター都市カレイドへ行け。あそこには各地から情報が集まる。あの怪鳥の動きも例外じゃない」
アリシアが僅かに表情を変えた。
「カレイドか」
ジルがアリシアを一瞥する。
「久しぶりだな」
「はい」
アリシアは短く答えた。
唐突にアレンが立ち上がり言う。
「少し外す。すぐに戻る」
*
「一つ聞いていいか」
アレンが席を外したのを見て、ジルがセレナに問いかける。
「なんですの」
「諦める、という選択肢はないのか」
「指輪をですか」
「ああ」
セレナが少し考えた。
珍しく、間があった。
「……ありませんわ」
「理由は」
「面白いからです」
「面白い」
「ええ」
セレナが微笑む。
「指輪を追う過程で、色々なものが見られたでしょう?悪魔が雪に埋まったり、怪鳥に横取りされたり」
「どれも迷惑な話だ」
「わたくしは楽しかったですわ」
ジルは少し考えた。
「……お前が一番厄介だな」
「ありがとうございます」
「褒めていない」
*
神妙な顔をしたアレンが戻ってくる。
「もう一つ頼みがある」
「何だ」
「カレイドへ向かいたい者がいる。道中、同行させてほしい」
ジルが無言でアレンを見た。
「雪像の件の代償だ」
「……なるほど」
「断れるか」
「断れないな」
「また愉快な仲間が増えて良いではありませんか」
セレナが楽しそうに言った。
「今日中に合流させる。事情は本人から聞いてくれ」
「分かった」
ジルは窓の外を見た。
南の空は晴れていた。
「荷物をまとめておく」
「主、もう、出発?」
「追加の厄介ごとを押し付けられる前にな」
アリシアだけが、窓の向こうをじっと見ていた。
その視線の先がどこなのかは、誰も聞かなかった。
カレイドへの道は、まだ始まってもいない。
それでも何かが、少しずつ動き出していた。




