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神なき世界で悪魔にモテたので、ついでに人類救済します。  作者: ナナツメ蜜柑


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39/39

情報には厄介ごとが付いて回る

 合流の約束の刻限より、三十分早く扉が開いた。

「やあ、待たせたね」

 全く待たせていなかった。


 現れたのは軽薄そうな笑顔の青年だった。

 外套の内側にいくつもポケットがある。

 風など吹いていないのに流れる髪の毛が飄々とした印象を増長させる。


「ロイ」

 アリシアが低い声で言った。


「久しぶりだねアリシア。元気そうで何より」

「元気じゃないです今」

「僕のせいじゃないよね」

「これからそうなる予定です」

「……知り合いか」

 ジルがアリシアに確認する。


「情報屋のロイ。あまり知り合いになりたくない人です」

「正直だね」

 ロイが笑った。


「アリシア、そこまで言うの、珍しい」

「嫌な情報でも売られたのだろ」

 ジルが淡々と答えた。


 ロイがジルを見た。

「君が例の悪魔にモテる人か」

「誰から聞いた」

「情報屋なので」

「……なるほど」

「また厄介ごとが増えたな」

 ジルが静かに言った。


 アリシアが深く頷いた。

 珍しく完全に同意していた。



「それで」

 ジルがアレンを見た。


「この男がヴィルディアで売った情報とは何だ」

 アレンが微妙な顔をした。


「……北の守備隊の交代スケジュールだ」

「誰に売ったんだ」

「商人に」

「なぜ商人がそれを必要とする」

「その情報は高くつくぜ?」

 沈黙。


「ちなみに」

 ロイが軽い口調で続けた。


「雪まつりの内容も悪魔達に売った」

 アレンのこめかみに青筋が立った。

「……早急に退都してくれ」

「また来ますね?」

 ロイが爽やかに笑った。


「主、ロイ、すごい人」

「間違っても参考にするなよ」



 出発の準備を整え、市内を移動し始めた。

 問題はすぐに起きた。

「あ、あいつ情報屋のロイじゃないか」

 通りがかりの役人が声を上げた。

「おい待て!」


「なにか勘違いですかね?」

 ロイがジルを見ながら言う。


「明らかに恨みがありますよあれ!?」

 アリシアが焦ったようにジルを見る。

「走るぞ」

 ジルが即断した。


「巻き添えですね」

「理不尽です!」

「主、速い」

 ルナがロイの荷物を持って走る。


「助かります!」

「後で、主の好み、教えてもらう」

「ばっちり調査しますよ!」


 角を曲がり、市場に飛び込む。

 露店の間を縫うように走る。

「セレナさん! 早く!」


「ごきげんよう」

 セレナが役人に微笑んだ。

 役人が止まった。

「……あ、これはご令嬢、失礼を――」

「なにかありまして?」

「こちらに悪魔を連れた不審な一行は来ませんでしたか?」

「いえ。わたくし一人でしてよ?」

「それは失礼しました。ご令嬢もお気を付けて」

 役人が敬礼して去った。


 路地の影でジル達が息を切らしていた。

「……セレナだけ毎回楽をしていませんか」

 アリシアが膝に手をつきながら言った。


「品格の差ですわ」

 ロイがセレナをまじまじと見た。

「……彼女は何者」


「説明が難しい」

 ジルが答えた。

「情報として売れそうだ」

「売るなこれは忠告だ」

「冗談ですよ」

 間があった。


「半分は」

「どうなっても知らんぞ」



 城門まで見送りに来たアレンは、ロイに向けて一言だけ言った。

「カレイドの役人には話を通しておく」

「……どんな話をするつもりですか」

「情報屋なら察しろ」

 ロイが初めて苦い顔をした。


 アリシアがアレンに深々と頭を下げた。

「本当に申し訳ありませんでした」

「君たちは悪くない」

「色々とありがとうございます」


 ジルは無言でアレンを見つめる。

「行くぞ」

「主、出発」

 セレナが優雅に手を振った。

 アレンが小さく手を上げた。

 ロイが大きく手を振った。

「……ロイ」


 アリシアが隣に並んだ。

「カレイドに何か用があるんですか」

「さあ」

「さあ、ではないでしょう」

「こんな世界じゃ都市間を行き来するだけで儲けられる」

「……信用できない人ですね」


「信用より情報の方が価値があるからね」


 ジルがその会話を聞きながら、南の空を見た。

 問題の怪鳥はまだ遠い。

 カレイドはさらに遠い。

 厄介ごとは、いつも近くに転がっている。

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