番外終-②.暴れ馬公爵の優雅な結婚生活
「イチイチ!」
「ワンワン!」
「帰れ」
のどかな昼下がり。
嫁いだエイミーが子供を連れて里帰りしてきたので、せっかくの晴天だからと、庭で茶会をしていた。
エイミーの結婚から数か月後、私の妊娠が発覚し、急いでエリックと式を挙げた。
ほぼ同時期にエイミーの妊娠も発覚し、両親は相次ぐ吉事に泣いて喜び、私とエリックは、ギリギリセーフだと胸を撫でおろした。
しかしホッとしたのもつかの間、嫌な予想が当たって、エイミーが双子の王子を出産したのだ。
私とエリックは隙を見せないよう、息子のアーサーを鍛え上げた。
その甲斐あって、息子はエリックそっくりの優秀な後継ぎに育った。後はお披露目だけだ。
しかしそこに待ったをかけたのが、エイミーだ。
「自分の息子を、公爵家の跡取りにしたい」と、言ってきたのだ。
当然私達は無視して、社交に出るたびにアーサーを『次期当主だ』と、他家に紹介してきた。
外堀は埋まり、皆アーサーが次期当主だと認識している。
そこで業を煮やしたエイミーが、息子を連れて公爵家に乗りこんできたのだ。
「お願いお姉様。ニックもポールも優秀なの、きっとお姉様に似たのよ。どちらでもお姉様のように、立派な公爵当主になると思うわ」
エイミーの言葉に、睨みつける。
「公爵当主は、うちのアーサーよ。優秀な直系がいるのに、何故傍系に継がせる必要があるの?まさか乗っ取りを、企てているんじゃないでしょうね?」
睨まれたエイミーは、チラチラと私の左手を気にしながら、慌てて弁解する。
「も、もちろん違うわ。ただ王位を継げるのは1人でしょう?残った方は臣籍降下するしかない。母親としてそれが不憫で…。お姉様の所なら安心だし、お願いお姉様」
エイミーが拝むように、手を合わせて頭を下げる。
しかし私には、何の感慨もなかった。
「感情で当主を決めていたら、家が潰れるわ…エイミーあなた、どの家からも婿入りを断られて、焦っているんでしょう」
「うっ!」
私の指摘に、エイミーがあからさまに怯む。
王家から婚約を持ちかけても、『娘は病弱だから』『王子とは不釣り合いだから』などと理由をつけて、どの家も断っているのは、有名な話だ。
嫁ぐにしろ婿入りにしろ、王家(つまりはバカ王夫妻)が関わってくるので、皆敬遠している。
他家には私のように、四馬鹿に意見する力はない。関わったが最後、娘や家をメチャクチャにされるのが、目に見えている。誰がそんなのに関わりたいものか。
「そ、それはそうだけど、それだけで言ってるんじゃないわ。先ほども言ったけど、2人とも優秀なの。きっと良い当主になると思うわ………何だったら、お姉様のアーサーより優秀かもね」
エイミーが、わかりやすく挑発してくるが…。
「エイミー、挑発なら相手の顔を見て言いなさい。目線を合わせずに言っても、意味ないわよ」
「うう…」
よほど人が怖いのか、チラチラと人の左手を気にしながら、横を向いたまま言ってくる。
「まぁいいわ…。本当に優秀かどうか、この目で確かめて見るわ。呼んでらっしゃい」
私の言葉に、パッと顔を明るくして、双子を呼ぶ。
「「お呼びですか、母上、叔母上」」
呼ばれた双子たちが、笑顔でやってくる。
そこに間髪入れず、質問をする。
「貴方達に質問があるの。1+5は?」
「「6」」
「よろしい。では次、1+1は?」
「「「え?」」」
私の質問に、2人は驚いた様子で母親の顔を見、エイミーは私の顔を見た。
「早く答えなさい。3,2.1…」
焦った双子は、素直に答える。
そして、最初の台詞になる。
しばし無言の時間が流れた。
最初に口を開いたのは、私だった。
「エイミーあなた……仕込んだわね」
それに対しエイミーは目を合わせる事も出来ず、冷や汗を大量にかきながらも何とか答えた。
「……………………ハイ」
瞬間、私の左手が動いた。
先ほどから手元に置いていた鞭を、エイミーに向けて一振りした。
「ひぃっ!」
慌てて飛びのくエイミー。その拍子に、椅子から転がり落ちて、尻もちをつく。
双子達も慌てて避ける。
「エイミー貴方言ったわね。私とエリックが手塩にかけて育てた、アーサーより双子の方が優秀だと………それがコレ?」
ピシピシと鞭で威嚇しながら問いかけると、青ざめながら後ずさる。
それを追うように立ち上がると、目立ってきたお腹が重かった。
「ま、待って落ち着いてお姉様。そもそも鞭なんてどこから…」
「妊娠中であまり動けないから、習ったのよ。これなら扇子と違って、あまり動かないまま遠距離攻撃もできるし。それで?私と息子を侮辱しておいて、言い残す事はそれで終わり?」
「ひ、ひ、ひ…」
いつの間にか双子達は逃げており、私とエイミーだけだった。
「さぁ、お仕置きの時間よ。覚悟はいいわね」
庭中にエイミーの悲鳴が響き渡った。
(エリック視点です)
「父上、今何か悲鳴が…」
庭から聞こえた悲鳴に息子と2人、思わず手を止める。
「あぁ。王妃様と王子様方が、いらっしゃっていたからな」
「あぁ。また母上を怒らせたんですね」
「だろうな」
今はアーサーの勉強の時間だ。
妻と2人、執務の間に息子の勉強も見ている。
「叔母上も懲りませんね。この前母上に『直系を差し置いて、自分の息子を公爵家の跡取りにしたいなら、アーサー以上に優秀な人間に育てて見せろ』と、言われたのに」
「まぁ四馬鹿だからな」
「そうですね…はぁ」
アーサーと2人揃って、ため息をつく。
そこにバタバタと足音が近づいてくると、ノックもなしに双子が飛びこんできた。
「「アーサー、助けてくれ!!」」
上手く逃げた王子達が、アーサーに助けを求める。
呆れたようにアーサーがため息をついた。
「今度は何やったんだ?」
「やったのは俺達じゃない、母上だ!」
「叔母上に向かって『俺達の方がアーサーより優秀だ』なんて言って、怒らせたんだよ!」
「俺達は悪くない!」
「ちゃんと事前に母上に言われた通り、叔母上から1+5は?と聞かれたら6と答えたんだ」
「そしたら次は1+1は?なんて言ってきたんだ。話が違う」
「やっぱり『イチイチ』なんて、ひねりのない答えだから、怒ったんじゃないか?」
「何だと?それを言うなら『ワンワン』なんて、犬の鳴き声みたいじゃないか!」
「何言ってんだ、外国語で答えてるんだから、国際的で賢そうだろう!」
何やら勃発した王子同士の睨み合いを見ていると、突然ペンが飛んできた。
ペンは王子達の間を飛んで、壁に突き刺さった。
これにはさすがの王子達も口喧嘩を止めて、ペンを投げたアーサーの方を見る。
「勉強の邪魔だ、出ていけ」
母親似の迫力ある笑顔で言い放つと、震える王子達を追い出した。
私は思わず天井を仰いだ。
(我が国の未来は、暗いか明るいかわからないな…)
とりあえず我が子の将来は、気苦労と腐れ縁の連続である事は、確信した。




