番外②.四馬鹿は逃走する
四馬鹿は周囲に誰もいないのを確認すると、そっとドアを開けて中に入った。
「時間がない。手分けして探すぞ」
大バカ王の言葉に、3人が部屋のあちこちに散って、各々家探しを始めた。
ベッドの下を覗きこみ、引き出しを探り、クローゼットを漁る。
しばらくしてバカ王妃が、歓声を上げた。
「あ~~、見ーつけた!」
得意そうに、何かを掲げている。
よく見ると指輪だった。
「ん、何だ?」
「その指輪がどうしたんだ?」
「見た事ない宝石ですね…」
3人に注目されて、バカ王妃が得意げに胸を張る。
「んふふ~~。これはお姉様の婚約指輪よ。エリックに贈られたって、言ってた。珍しくお姉様がアクセサリーを喜んでたのと、すごく綺麗だったので覚えてたの。確か北の国にしかない宝石で、ミステリアスオパールとか言ってたわ。婚約の為にエリックがわざわざ取り寄せたんですって」
「へぇ~~」
「ミステリアスオパール…?どこかで聞いたような…」
「よし、それにしよう」
大バカ王の言葉に、3人が反応する。
「それにしようって………何をするんだ?」
「え、婚約指輪を盗むって………さすがにそれはちょっと…」
「私もあんまりだと思うわ…」
2人から非難のまなざしを向けられて(目的を忘れたバカ1人は除く)、大バカ王がたじろぎつつも反論する。
「な、何を言ってるんだ、俺達は公爵の弱みを握るために来たんだぞ!そもそもエイミー!これを探していたんだろう?なら最初からこれを弱みにするために、探してたんじゃないのか!?」
「違うわよ!すごく綺麗だったから、「私も欲しいな~」と思って、おねだりするつもりで探してたのよ!盗みは犯罪よ!」
「だったらなおさら、これを持っていけばいい!それで万事解決だ!」
「さすがにそこまでできないわ。人の物を盗むなんて…しかも婚約指輪を盗むなんて最低よ!」
珍しくエイミーから正論を言われて、大バカ王は一瞬ひるんだが、負けずに言い返す。
「そうでもしないと、一生暴れ馬公爵の言いなりだぞ!それでもいいのか!?」
ジェームズの言い分に、今度はエイミーがひるんだ。
「それは…嫌だけど…」
「ほら見ろ」
「でもやっぱりよくないわ、他の物にしましょう!」
「いやこれが1番効果的だろう、何といっても婚約指輪だぞ!?そこらの高価な品とは訳が違う、これならきっと公爵も、こちらに逆らえないだろう」
「そんなのダメよ!心のこもった品を盾にするなんて、人として最低じゃない。最低よ、最低!」
「何だと!?自分だって弱みを握る案に乗ったくせに!」
口論する2人を眺めていたサイラスとビルだが、そのうち飽きて1人は素振りを、もう1人は念のためと他の品を物色し始めた。
その5分後、悲劇?は起きた。
「うわぁっ!」
物色に夢中になっていたサイラスが、うっかり衣装棚を漁ってしまい、下着を引っ張り出して慌てて放り出す。
放りだした下着はビルの顔面に落下し、目隠しされたビルがビックリして、素振り途中の剣を放り出す。
放物線を描いた剣はエイミーの頭上に向かって落ち、「危ない、エイミー!」とジェームズが咄嗟にエイミーにタックルする。
驚いたエイミーの手を離れた指輪に、見事剣が命中し指輪は真っ二つになった。
「「「「………」」」」
誰もが一瞬の惨状に、言葉が出なかった。
「ど、ど、どうしよう…」
「お、俺のせいじゃないぞ、素直に渡さないエイミーが悪いのだ!」
「何よ、私は当たり前の事を言っただけでしょう!それを言うなら、室内で剣を振り回す、ビルが悪いのよ!」
「な!お、俺は悪くないぞ!?目隠しさえなければ、剣を放さなかったんだからな!下着を放り投げるサイラスが悪いんだ!」
「ぼ、僕だって悪くない!下着なんて出てきたら、誰だって吃驚するだろう!弱みになる物を探せなんて命じた、陛下が悪い!」
「お、俺は悪くないぞ!?弱みを握らなきゃ黙らない、公爵が悪い!公爵に責任を取らせるべきだ!」
そう言って大バカ王が部屋を飛び出そうとするのを、3人がかりで慌てて止める。
「待って下さい!公爵に責任を取らせるなんて、できるわけないでしょう!?何て言うつもりなんですか!」
止められた大バカ王が不満そうに、後ろを振り返る。
「何てって…普通に『公爵のせいで公爵の婚約指輪が壊れてしまった、責任取れ』って…」
「そんな事言ったら、お姉様の部屋に入り込んで、指輪を壊してしまった事がバレちゃうじゃない!絶対ダメよ!」
エイミーの制止に、バカが不思議そうに首を傾げる。
「何でバレるんだ?」
(((あぁそうだった、国1番の大バカ王だった…)))
3人は深くため息をついた。
サイラスがもう1度ため息をつくと、説明する。
「いいですか。公爵にそんな事を言えば必ず「何故自分のせいになるのか」「どういったいきさつで指輪が壊れたか」を、聞かれますよ?そうなったら、我々が公爵の弱みを握る為、公爵の部屋に入り込んだ事を言わなければならなくなります」
「あ…そうか」
ようやく大バカ王が納得して、黙りこむ。
視線は破損した指輪に向かっていた。おのずと3人の視線も壊れた指輪に向かう。
「これ、どうしよう…」
「素直に謝れば、許してもらえるかな…?」
「ただのアクセサリーならともかく、婚約指輪だしなぁ…」
「弁償は当然として、同じ物を用意するとしても、北の国にしかない宝石となると輸送費が………あ!」
突然大声を上げたサイラスに、3人がいぶかしげに見る。
真っ青になったサイラスが、冷や汗をダラダラ流しながら言った。
「思い出した……ミステリアスオパールって、最近北の国で開発された特殊な加工を施された宝石で、北の国でも一部の職人にしか作れなくて、最低でも普通の宝石の10倍はするって…それに北の国からの輸送費を考えると…………」
サイラスの言葉に、他の3人も真っ青になって指輪を見る。
決断は早かった。
「「「「逃げよう」」」」
4人はそっとドアを開けて外に出ると「はぁ~~~~っ」と、大きく息をついた。
そこに声がかかる。
「あら4人共、そんなところで何をやっているの?」
聞き覚えのある声に、大きく心臓が跳ね上がる。恐る恐る声の方を振り向くと、1番会いたくない相手と、2番目に会いたくない相手がいた。
「や、やぁ、公爵。こ、こ、こんな所で会うとは奇遇だな。は、は、は」
思いっきり冷や汗をかきながら、目を泳がせつつ、大バカ王が平静を装って(るつもりで)声をかける。
思いっきり怪しい様子に、アイリーンがスッと目を細める。
「…ここは私の部屋の前ですので。貴方方こそ人の部屋の前で、何をしているのですか?」
「い、い、いや何、気分転換に散歩していたら、通りかかっただけさ。は、は、は」
「…そうですか」
それきりアイリーンは何も言わずに、じっと大バカ王の顔を見据える。
視線を感じながらも、恐ろしくて直視できず、ジェームズは顔をそらしながら、無言で冷や汗をダラダラかき続けた。
他の3人も、恐怖と緊張で口を開く事が出来ず、しばし沈黙の時間が流れた。
「エリック」
しばらく見ていたが、4人共それ以上のリアクションがないと見て取ると、アイリーンは背後にいたエリックを呼ぶと、察したエリックが頷いた。
「失礼します」
「あ、待て」
ジェームズが止める間もなく、エリックは4人を押しのけて、背後にあるアイリーン用の客室に強引に入った。
が、すぐに部屋から出てきた―――破損した指輪を持って。
「部屋が荒らされておりました、家探ししたようです。それとこれが、室内に落ちてました」
そう言って、アイリーンの前に壊れた指輪を差し出す。
「………」
アイリーンは数秒間目を見開いて、エリックの手の中にある破損した指輪を見ていたが、やがてギギギ、と音が聞こえそうな動きで、4人に向き直る。
「………貴方達が壊したのね」
「みんな、逃げろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」
ジェームズの叫びを合図に、4人は一斉に、思い思いの方向に全力で逃げ出した。
逃げ出した4人を見送ると、アイリーンが口を開いた。
「……思ったより早く、機会が来たわね」
「そのようですね」
エリックが、眼鏡をクイッと上げて言う。
「すぐにメイド長に知らせて城門を封鎖。あと兵を追加して、厩舎と厨房に見張りを置いて。それが終わったら、例の物を城内にばら撒いて」
「承知しました」
「全く…次から次へと」
エリックは一礼すると、足早に立ち去った。
それを見送ると、アイリーンは深々とため息をついた。




