表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/14

番外①.初めて勝ったぞ!

婚約破棄が成立して少し経った頃、俺とエイミーは放課後の図書室でイチャついていた。

後ろではサイラスとビルが、周りでは他の生徒達がこちらを温かく、見守ってくれている。

恋人と過ごす、平和な日常風景だった。


「それでな、この前の健康診断で、血糖値がかなり高くなってたんだ」

「えぇ~~」

「全く…エライ目にあった。エイミーは大丈夫か?あれから毎日、公爵家で晩餐を取っているのだろう?」

ジェームズの心配する言葉に、エイミーはギクッとした。

(言えない…お姉様のヘルシーメニューのお陰で、私だけ正常値に戻ってるなんて…)

「え、えぇ。色々運動とか、頑張っているから…オホホホホ~~」

何故か横を見ながら笑うエイミーを、不思議に思いながらも「まぁ、エイミーが健康ならいいか」と流した。

「それよりよく国王陛下達が、私達の婚約を許してくれましたね。てっきり反対されると思ってたのに…」

不思議そうに言うエイミーに、俺はギクッとした。

(言えない…仮にも国王一家が怪談でお漏らしして、弱みを握られたなんて…)

しかもその時の対価として、『一生アイリーンが何をやっても罰しない』という、王命の勅書を取られた。

(つまり今後アイリーンに何かされても、止める事はできないという事だ…)

知らないところで道連れにされたエイミーから、そっと目をそらす。

「ま、まぁ俺の説得のお陰かな…ハハハハハハ」

エイミーが不思議そうに首を傾げるが、俺は乾いた笑いで誤魔化した。



「御機嫌よう、お2人共。良い日和ですわね」

突然目の前に、アイリーンが現れた。

「きゃっ!」

「な、何だ!」

この前の恐怖は、まだ記憶に新しい。

後ろのサイラスとビルも、逃げ腰だ。

「うふふ、そんなに驚かなくても、取って食ったりしませんよ?」

いつものように、扇子で口元を隠しながら微笑んでいる。

「な、何の用だ」

怖いが早く帰ってほしいので、勇気を振り絞って用件を聞く。

「婚約祝いを、お届けに来ました」

「婚約祝いだと?」

疑わし気に聞く俺に気を悪くした様子もなく、アイリーンが続ける。

「ホラ、妹が婚約したというのに、お祝いの言葉だけで何も贈っていないでしょう?たとえ相手が顔と身分だけの馬鹿…もとい、元婚約者であっても、やはり家族としてお祝いの品を贈るべきだと、思いましたの」

そう言って鞄から、綺麗に包装された2冊の本を取り出すと、俺の前に1冊ずつ置いた。

「さぁ王子、エイミー。お好きな方をどうぞ」

「何?……両方ともよこすんじゃないのか?」

「いえ、どちらか1冊ですわ。お2人にピッタリの本を選びました、さぁお好きな方をどうぞ」

「わぁ~い、お姉様ありがとう」

エイミーが無邪気に喜んで、片方の本を取ろうとするのを、慌てて止めた。

「待てエイミー!アイリーンが持ってきた本だぞ、何があるかわからないから、うかつに触るな!」

「そうですよ!毒が塗ってあるかもしれません!」

「刃物が仕込んであるかも!」

後ろに控えていたサイラスとビルも、慌てて止める。

そんな俺達の態度に、アイリーンが不満を漏らす。

「まぁ失礼な。刃物が仕込んであるような厚みじゃありませんし、毒が塗ってあったらとっくに私が、被害にあってますわ。いいから早く選んで下さい、サッサと贈って帰りたいんです」

「贈る態度じゃないが…まぁいい。貰える物は貰っておこう」

不安を感じるが、とりあえず手近にあった赤いリボンの本を、手に取った。

包装を破いて中を確認して……俺は憤慨した。

「何だこれは!!」

出てきた本をバシッと、テーブルに叩きつけた。


『良い子の為の足し算引き算・6歳~8歳用』


周囲からプッと、吹き出す音が聞こえた。

周囲を見回すと、慌てて顔をそらしたり、後ろを向いたりしているが、全員笑いをこらえていた。

「まぁ何を怒ってますの、王子。王子にピッタリだと思って、わざわざ取り寄せましたのに…」

困ったように首を傾げて、アイリーンが言う。

その態度に、更に腹が立った。

我慢できず、椅子を蹴って立ち上がる。

「バカにするな!足し算引き算くらいわかる!」

「では王子、1+5は?」

「そんなもの簡単だ!答えはイチゴだ!」

「…………………は?」



その瞬間、図書室は静寂に包まれた。

ポトッと、アイリーンの扇子の落ちる音だけが、やけに響いた。

アイリーンは落ちた扇子を拾うことなく、瞬きすらせず、目と口を開けたままこちらを見ている。

「……………………王子、もう一度伺います。「算数の」問題です。1+5は?」

「何度も言わせるな!1に5を足すのだから、答えはイチゴだ!!!!」

胸を張り、仁王立ちで答えると、何故か再び、図書室は静寂に包まれた。

アイリーンも無言で俯いてたが、やがて笑い始めた。



「フ、フフフフフフ…確かに私としたことが、失敗でした。これは王子には、合わなかったようですね…」

そのまま震える手で、足し算引き算の本を回収していく。

その様子に、俺は自分の勝利を確信した。

「フン!俺の頭脳に恐れをなしたようだな、思い知ったか!」

「えぇ思い知りましたわ。どうやら王子の頭は、私の予想以上だったようです、今回は負けを認めましょう。後日王子にふさわしい本を、お届けしますわ…」

そう言って、アイリーンは出て行った。

(やった!初めて勝った!)

「見たかお前達!初めてアイリーンに勝ったぞ!!」

勝利の喜びに包まれながら振り向くと、何故か3人の様子がおかしかった。

「おい良いのか?フォローしなくて…お前の得意技だろう?」

「いや、さすがにこれは…ちょっと……」

何故かお互いに、肘で小突きあうサイラスとビル。

「早まったかしら…でも次期国王だしなぁ~~」

小声でぶつぶつと呟くエイミー。

「ど、どうしたんだお前達?俺がアイリーンを撃退したところを、見ていないのか?」

俺が声をかけると、3人ともハッとした後、笑顔で喜んでくれた。

「さ、さすが王子だなぁ~~」

「ほ、ホントですねぇ~~」

「あのお姉様を負かすなんて、ホント凄いわぁ~~」

「そうだろう、はっはっは」


初勝利で有頂天になっていた俺は、3人のひきつった顔も、周りのうんざりした顔も、陰で「バカ王子改め、国1番の大バカ王子」と言われる事も、気づいていなかった。



~数日後~


「この大バカ者ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

父上に呼び出された俺は、いきなり雷を落とされて面食らった。

「ど、どうしたんですか父上?………ぶっ!」

理由を尋ねると、いきなり何かの本を顔面にぶつけられた。

鼻を押さえながらよく見ると、父上の横に大袋が置いてあった。どうやら同じ本が、大量に入っているようだ。

「理由はそれだ、大バカ者!!」

「はぁ?」

訳が分からず、落ちた本を拾ってみた。


『よいこのさんすう・3歳~5歳用』


「何ですかこれは?…………ハッ!もしや俺に弟か妹が!?」

名推理を思いついた俺に、父上が否定する。

「お前宛だ、バカ者!!」

「な、なんで俺が!?どういうことですか!」

「どうもこうもない!お前この前アイリーン嬢に「1+5は?」と聞かれて、「イチゴ」と答えたそうじゃないか!!!!」

「な、何でそれを!?」

「アイリーン嬢が、いきさつを書いた手紙を送ってきたのだ!幼児用のドリル500冊と一緒にな!!!!!!」

「な!?」

「王妃はショックで寝込んだぞ!『あまりにも知能が低すぎて、妹の将来と国の未来が真剣に怖いので、これでしっかり勉強させて下さい』という一文を見た時の、儂の情けなさと恥ずかしさがわかるかぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

父上が泣き喚きながら、ドリルを手にとっては投げつけてくる。

「とにかくお前は、そのドリルでしっかり勉強しろ!全問正解するまで、部屋から出てくるなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

父上の猛攻撃に俺はなすすべもなく、部屋に監禁されることとなった。




それから3か月間、俺は幼児用ドリルと戦い続けた…………。








~余談、アイリーンが退散した後の図書室~


ビル「そういえばアイリーン嬢が置いて行った、もう1つの婚約祝いって何だろう?」

サイラス「そういえば、見てなかったな…」

ジェームズ「せっかくだから、こちらもいただこう。忘れて行ったアイツが悪いのだ」

エイミー「宝石の本とかかしら?それともファッション雑誌?」

期待しながら、中を見ようとする4人。

期待の顔が、恐怖に変わった。


「世にも恐ろしい世界の怪奇話500選」


4人は全力で、その場を逃げ出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ