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96 戦争の真実

 コンコンッ


 ユリアの部屋をノックする音が響いた。

 扉へ視線を向けた瞬間、血相を変えたカリルが勢いよく部屋に入ってくる。

 

「陛下! 先王陛下がお目覚めになったとの報告がありました!!」

「……本当か?」


 エルフナルドは思わず椅子から立ち上がっていた。


「はい。たった今、医官より。意識ははっきりしており、会話も可能とのことです」

「分かった。すぐに行こう」


 エルフナルドは短くそう告げ、カリルと共に先王が静養している部屋へ向かった。


 あの日――エルフナルドの剣に貫かれた先王の胸の傷は深かった。

 致命傷には至らなかったものの、長く意識を失ったまま、生死の境を彷徨っていた。

 眠り続ける父を前に、エルフナルドは何度も葛藤した。


 ――この手で殺してしまいたい。

 ユリアをあそこまで追い詰めた元凶である父上を……。


 だが、同時に思い留まらせるものもあった。


 ――全てを知らなければならない。

 父上の口から、全てを聞き出してからだ。

 生かすか、殺すかを決めるのは、その後でも遅くはない。


 先王の部屋の前に立つと、エルフナルドは一度だけ目を閉じ、深く息を吐いた。


「陛下……大丈夫ですか?」


 立ち止まったままのエルフナルドを見て、カリルが控えめに声をかける。


「ああ。問題ない」


 扉を開けると、ベッドの上で上半身をわずかに起こした先王が、濁った目でこちらを見ていた。


「……ご気分はいかがですか?」

「気分が良さそうに見えるか? 実の息子に刺された父親が」


 その言葉に、エルフナルドは冷笑を浮かべた。


「死の淵から生還した者の台詞とは思えませんね。……やはり、あの時息の根を止めておくべきでした」


 睨み据えるエルフナルドに対し、先王は苦々しげに自分の身体へ視線を落とした。


「……お前のせいで、手も足もまるで動かん」 

「神経を断ち、心臓を狙いました。わずかに外したのが悔やまれます」


 エルフナルドの声には、隠しきれぬ悔恨が滲んでいた。

 あの時、確実に殺すつもりだった。だが、動揺が一瞬の迷いを生み、刃は致命点を外した。


「……あの娘と、フレドリックはどうなった?」

「ユリアのことを、貴方に答えるつもりはありません。フレドリックは目を覚ましています。もっとも、もう貴方の言葉に従うことはないでしょう」

「……そうか」


 先王は短く呟き、目を閉じた。


「私が貴方を生かした理由は一つです。全てを話してもらうためです。貴方がしてきたこと、その全てを」


 しばし沈黙が落ちた後、先王は鼻で笑った。


「……いいだろう。どうせこの身体では、もう何もできん。だが覚悟はあるのか? あの娘を想っているお前には、耐え難い話になるぞ」


 嘲るような視線を向けられても、エルフナルドは何も答えず、ただ静かに見返した。

 やがて先王は、ユリアに関わる全てを語り始めた。

 その言葉の一つ一つが、刃のようにエルフナルドの胸を抉ったが、彼は表情を崩さず、最後まで聞き続けた。


「……これで全てだ。もう隠していることはない」


 エルフナルドは静かに問いかける。


「我が国がユーハイムに戦争を仕掛けた理由は、兄上の仇討ちではなかったのですか?」

「建前だ。目的は最初から、あの娘の力だ。だが公にすれば他国に嗅ぎつけられる。だから敵討ちと資源確保を理由にした」


 先王は、リヒターの死、戦争の真の意図、全てを淡々と語った。


「これで満足か?」


 エルフナルドの沈黙を見て、先王は不敵に笑う。


「感情を隠しているつもりか? あの娘もそうだった。絶望に沈む人間の顔ほど、愉快なものはない」

「……何が言いたいのです?」

「あの娘に兄の最期を教えてやった時の表情は、実に――」


 次の瞬間、エルフナルドの瞳が凍りついた。


「どうだ? 殺したくて仕方がないだろう? さあ、殺せ!」


 低く叫ぶ王に、エルフナルドは首を横に振った。


「いいえ。貴方は殺しません」

「な……に?」

「貴方の望み通りにはならない。貴方には、生きて苦しんでもらう」


 エルフナルドは背後の護衛に命じた。


「連れて行け」

「待て! 何故だ!!」


 その問いに、エルフナルドは答えなかった。

 先王は地下牢へと連行された。


「……よろしいのですか?」


 カリルが小声で尋ねる。


「殺せば父上の思い通りだ。神経を断たれた身体で、光も届かぬ地下牢で生き続けてもらう。死ぬことすら許されぬ地獄だ。……世間には病死と伝えろ。この件は一切口外するな」

「……かしこまりました」


 エルフナルドは踵を返し、再びユリアの元へと向かった。


 ――今度こそ。

 守るために。

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