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80 命じられた役目

「……お人好しな貴方には、せっかくだ。教えてあげましょうか。何故、僕たちが今、こんな状況に追い込まれているのかを……」


 フレドリックは小さく息を吐き、部屋の中央に置かれた椅子へと歩み寄り、腰を下ろした。


「父上は、貴方の力のことを最初から知っていたようです。ですが……僕は違った。僕は、何も知らされていなかった」


 少し遠くを見るような視線を向けながら、フレドリックは静かに語り始めた。


「貴方がこの国に嫁いで来て間もない頃、偶然、僕はヒーリングの力の存在を知りました。その時は、まだ力を持つ者が貴方だとは分かりませんでしたが……父上が、わざわざユーハイムから貴方を迎え入れ、そして異様なほど早急に子を望んでいた。その不自然さから、貴方こそが鍵なのではないかと疑うようになったのです」


 口調は淡々としていたが、その瞳には強い執念が宿っていた。


「調べを進めるうちに分かったことは、貴方の持つ力が継承されるためには、相手が王族の血を引く者でなければならないという事実でした」


 そう言うと、フレドリックはふっと視線を窓の外へと投げた。


「……それならば、僕でもいいはずだと思った。僕も王の血を引いている。兄上でなければならない理由など、どこにもないと」


 ユリアの指先が震えた。

 フレドリックの声は静かなのに、そこには怒りが滲んでいた。

 

「もし僕が選ばれていれば……父上の望む通り、貴方との子を作る努力をしたはずなのに……」


 その言葉の意味を理解した瞬間、ユリアの血の気が引いた。

 

「そもそも、兄上は僕と違って力もあり、プライドも高い。父上の思惑通りに動くような人間ではありません。……もちろん父上も、それを分かっていたはずです。だからこそ、兄上には貴方の力のことを伝えなかった。二人が自然と愛し合い、子を成すとでも本気で思っていたのでしょうか……そんなの、あまりにも愚かだ」


 鼻で笑うように、フレドリックは吐き捨てた。


「その後の調べで、王族の血がより強いほど、子に受け継がれる力も強くなる可能性が高いと知りました。その時……僕は、怒りで気が狂いそうでしたよ……」


 フレドリックは天井を仰いだ。


「確かに僕も父上の子です。しかし、兄上たちとは母が違う。兄上たちの母上は、他国の高貴な王女。……一方で、僕の母上は元踊り子の妾です。その違いだけで、僕は幼い頃から疎まれ、見下されて生きてきた……」


 低く、噛みしめるような声だった。


「だから、その事実を知った時……父上も、兄上も、心の底から恨みましたよ」

「どうして……エルフナルド様まで? 原因を作ったのは、先王陛下のはずでしょう?」


 思わず、ユリアはそう口にしていた。


「父上のことは、幼い頃から何度も恨んできました。しかし……生きていく上で、父上の言葉は絶対です。僕のような存在は……尚更。逆らうことなど、許されない」


 一度言葉を切り、フレドリックは自嘲気味に続ける。


「それでも、僕なりに考えたのです。何かを変えなければ、僕は一生、兄上の影で生きるだけだ。ずっと二番目……。だからこそ、兄上から何か一つでも奪いたかった。兄上が一度も考えたことのない感情でしょう。兄上に、僕の気持ちなど分かるはずがない」


 その視線が、真っ直ぐユリアを射抜く。


「だから……兄上から奪うことにした。――貴方を」


 ユリアは反射的に反論しようと口を開いた。しかし、フレドリックの目に浮かんだ寂しげな色を見た瞬間、言葉が喉に詰まった。


「僕は貴方の力を確かめるため、貴方の侍女や薬師を襲わせ、力を使わせようとしました。結果は失敗でしたが……市場で起きた火事で、ついに貴方の力をこの目で見た。それから、力の存在を周囲に広め、貴方を奪う計画を立てたのです」


 一拍置き、低く続ける。


「……ですが、それも失敗した。貴方の父親が動き、僕が味方につけた者たちを奪ったからです。その後のことは、貴方も知っている通り」


 フレドリックの口元が歪んだ。


「二度の失敗で、僕の動きは父上に知られました。父上は、兄上と貴方の関係が上手くいけば、最初から僕に貴方の力の話をするつもりはなかったのでしょう。僕が嫉妬し、反乱を起こすことを、最初から見抜いていた……」


 そして、ユリアを見据えたまま問いかける。


「……父上に、僕が何と言われたか、知っていますか?」


 鼻で笑いながら、フレドリックは続けた。


「『フレドリックは、どうしてもあいつとは子を作らないようだ。今までの行動は見逃してやる。――これが最後のチャンスだ』……と。聞いた瞬間、怒りで全てを壊したくなりました」


 フレドリックは小さく、どこか虚ろな笑みを浮かべ、再びユリアへと一歩近づいた。


「だとしたら……尚更です。私と子供を作るなんて、間違っているわ。それこそ、先王陛下の思うツボでしょう? フレドリック様は、先王陛下を恨んでいたはず……本当に、それでいいのですか? 悔しくはないのですか?」

 

 ユリアの言葉は、責めるというよりも、必死に問いかける響きを帯びていた。

 しかし――その言葉は、フレドリックの中で必死に押さえ込まれていた何かを、決定的に壊してしまっていた。

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