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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【七章進行中】  作者: くまだ乙夜
七章 復讐の天秤編

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275 星座の魔法(3/4)


「できました!」


 針の穴みたいだった星に流星の尾みたいな架空の地図線が加わって、一気に星空が賑やかになる。キラキラ輝く星と一緒に、無数の線もぴかぴか瞬いて、倍くらいの明るさになった。


 冗談みたいな光景だけど、こうやって【魔術式】が発動したんなら、本当にこの線が存在してたってことだよね?


「フェリルスさんの言うとおりでしたね! すごいです!」

「……すごいのは君だ」


 ディオール様も一緒になって星空を見上げながら、しみじみした口調でそう言ってくれた。


「この技だけでほとんどの魔術師が脱帽する」

「えへへへ……きれいな魔法ができました!」


 わたしは調子に乗って、取得する星の数を、二千個から一気に一万個に書き換えた。


 夜空が激変して、無数の刺し子をしたみたいに、光の網が広がっていく。


「これはお祭りとかでやったら盛り上がりそうですね」

「別の意味でも大騒ぎになるだろうな。簡単に使うんじゃない」

「じゃあ、わたしとディオール様の秘密ですね! フェリルスさんが悔しがりそうです!」


 こうして線がつながると、星座の形がよく分かる。


 わたしは冬の星座というと、うろ覚えのはぐるま座かキマイラ座くらいしか知らないけど、補助線が引いてあれば見つけられそう。


 そんなことを考えながらふと隣を見たら、同じく星座を探しているのか、真剣な顔で星空を見上げるディオール様の横顔が見えた。


 ……この人は、冬の星空もよく似合うなぁ。


 インクにラピスラズリを砕いて混ぜたような、黒に近い藍色の夜空だった。ところどころ紫色に揺らいで見える、その色の加減がディオール様の魔力と少し似ていて、神様が特別にあつらえてくれたみたいに似合っている。


 指先も冷たくかじかむような夜気に晒され、ディオール様は、血の気の失せた真っ白な唇をしていた。青ざめた肌の頬や鼻の頭はその反対に紅潮してほんのり赤く染まっていて、この世のものではないみたいに幻想的で、美しかった。


 わたしは見ていてなんとなく恥ずかしくなってきて、目を逸らした。


 ……こんなにカッコいい人だったっけ?


 もとから美人さんだったけど、最近は少し眩しいくらいだ。


 一緒にいると緊張してしまうことが増えた。


 最初のころは怒らせてしまいそうで怖かったのだけど、今は違う。


 ドキドキして落ち着かなくなる。


 ディオール様が見つめる先の夜空に、何があるのだろう。


 今何を思っているのかが知りたい。


 隣に立って、そっと確かめてみたい、と思ってしまう。


「……あの、さっきのことなんですけど」


 聞いているのだかいないのだか、こちらを振り返りもしないディオール様に、わたしは焦れったくなる。


「ディオール様、この先どうするかを考えろって言ってくれたじゃないですか」


 それがどうした、とでもいうように、かすかにこちらを瞳で追うディオール様。


「わたし、ディオール様と、もっとお話がしてみたいです」


 知りたい、と思うのだ。


 この人の考えていることを覗いてみたい。


 同じものを見て、触れて、感じてみたい。


「日頃から仲良くしてたら、どっちかが異変に気づいたかもしれないって、さっき言ってましたよね? だったら……」


 ……というより、わたしがそうしたいのだと思う。


 でも、そのことはちょっと恥ずかしくて、言えなかった。


「聞きたいのに聞けていないこと、たくさんあるんです」


 王様に取り立てられているから言えないこともたくさんあるって言ってたけど、きっとわたしが頼りないせいもあるんだろうなぁ。


 それはわたしがもっとがんばって、秘密を打ち明けても大丈夫だと思ってもらえるような人間にならないとだよね。


 ディオール様は夜空から目を背けて、わたしに向き直った。


 険の抜けた穏やかな目つきにドキリとする。


「隠していることがそうあるわけでもないが。聞かれたことにはたいてい答えているつもりだった。必要もないのに話す、という行為に馴染みがないだけだ」


 もとから寡黙な人なのは分かる。


 わたしからもっとお話を聞いてみたら、何かが変わったのだろうか。


「何か気になっていることでもあるのか? 不安があるのなら、何でも言ってくれていい」


 そう。わたしはきっと、ずっと不安だった。


 優しいディオール様には何の文句もないけれど、それでも、不確かな場所に立たされているような気持ちはいつも持て余していた。


 わたしはここにいてもいいのかな。


 寒そうにしているこの人の手を取っても、怒られたりしないかな。


 わたしは調子に乗りやすいから、いつか、優しいディオール様の忍耐の限界を踏み越えてしまうのではないかと思うと怖かった。


 せっかく親切にしてやったのに、これ以上を望むのは図々しいと言われて見放されたらと思うと、怖くてとても自分から手を伸ばしてみる気にはなれなかったのだ。


 わたしは勇気を出して、ディオール様の手を掴んでみた。


 指が氷のように冷たい。


「祝福魔法が停止されちゃったとき、ディオール様、怯えてましたよね。騎士さんたちに殺される、って」


 あれは今思い返してもちょっと異常だった。


 魔法が少し出なくなっただけで、いつかの仕返しに命をねらうなんて、ありえなさすぎる。


「……過去にいろいろあったんだ。その話はしたと思っていたが」

「はい。いろんな人がそのときのことを教えてくれるんですけど」


 断片的なうわさ話だけだと、そんなに深い恨みを買っているっていうのが、やっぱりピンと来ないんだよね。


「騎士さんたちって、そんなに怖い人たちなんですか?」


 問われたディオール様は、やっぱりあまりいい顔をしなかった。


 たぶん、わたしには関係ないって思ってるんだろうなぁ。


 寒そうにしているディオール様の手をぎゅっと握りしめる。


 ふりほどかれたら、この話はおしまいにしよう。


「彼らは私からするとあまり理解できない種類の行動原理で動いている。予測ができない、会話が成立しない状態のことを怖いというのなら、確かに怖いよ」


 ふわっと最後らへんの声が揺れて、ディオール様がわたしの手をきゅっと握り返してくれる。


 本当に怖いんだろうなぁ……


 と、わたしはちょっと可哀想に思った。


「バリガントさんも、怖い人でしたか?」

「……ほとんど関わりがなかった。腑抜けているようだから、いい印象は持っていなかったが、怖いという感じではなかったな」

「じゃあ、ディオール様を恨んでるのは別の人なんですか?」

「ああ」


 短い返事は、きっとこれ以上踏み込まないでほしいって合図なんだと思う。


 それでも、聞きたいと思ってしまうのは、きっとわたしのワガママだ。


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