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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【七章進行中】  作者: くまだ乙夜
七章 復讐の天秤編

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273 星座の魔法(1/4)

◇◇◇


 ……次に目が覚めたとき、わたしは坑道の冷たい土の上に寝そべっていた。


「リゼ! 気がついたのか!」


 そばでわたしを介抱してくれていたのは、泥だらけのディオール様だ。


「あれ……ここは……」


 坑道は一部の壁が崩れ落ちて、外が見えている。背後には星が輝いていた。


 わたし、なんでこんなに泥だらけに……?


 ……思い出した瞬間、わたしはもう一回気絶したくなった。


 すっごく怒られる予感を察知したのだ。


「気は済んだか?」

「………………はい」


 つめたーい問いかけに、わたしは神妙にうなずいた。


 穴なんていくら掘っても、バリガントさんはきっと帰ってこない。


 ネメシス様がいなくなって、停止されていた祝福魔法も戻ってきたのなら、きっと簡単には手が届かないところに行ってしまったのだろう。


 理解を拒んでいたその事実がようやく胸に落ちて、わたしは涙が出てきた。


「で、でも、こんなの、こんなのって、あんまりです……!」


 わたしが半泣きになったせいで怒気をくじかれてしまったのか、ディオール様が戸惑ったように黙り込む。


「わたしがもっと、オルゴールを直すときに、事情を聞けていれば、わたしにもできることがあったはずなのに」


 わたしなら【ティアマトの血】の仕組みが分かったし、姿隠しのマントだって作ってあげられた。


 ネメシス様を怒らせない方法でゴーレムを動かすことだって、もしかしたらできたかもしれない。


 ……本当に?


 でも、あれは、死者を冒涜する行為にはならないの?


 ハディヤさんの復活なんて、本来は、願ってはいけないことだった。


 止めてあげるのが正しい行いだったはず、だけど……


 ……奥様を失ってあんなに苦しんでいたバリガントさんに、わたしが簡単にそんなことを言っていいと思っているの?


 何も知らないわたしが言ったって、言葉が届くわけがないのに。


 だってわたしは、大切な人を亡くしたことがない。


 暴走してあんなことまでしてしまう気持ちが、わたしには全然、想像もできていなかったのだ。


 ……落ち込んでいたら、ディオール様が優しい目でわたしを見た。


「過ぎたことを言っても仕方がない。その理論で言うのなら、私にも介入の余地はあったから、同罪だ」


 慰めてくれようとしているのか、話し方がいつもよりずっと柔らかい。


「エストの騎士団長とは、以前から顔見知りだった。君がオルゴールを直していた話は聞いていたのに、依頼主が彼だと気づけなかった。奥方がドワーフだったという情報が欠けていたせいで、すべてにおいて後手に回ることになった」

「……お友達だったんですか?」

「違う。戦争で少し作戦行動を一緒にしていたことがあるだけだ」

「じゃ、じゃあ、ディオール様、何にも関係ないじゃないですか……?」

「君にとっても客のひとりに過ぎないだろう。何も関係がない」


 それはそう……でも……あれ……???


 だんだん混乱してきた。


「リオネルによれば、騎士団長の奥方の件は有名な話だったそうだ。なぜ知らないのかと驚かれたよ。なんというか、騎士団の連中にあまり興味がなくてな」


 それは分かる。ディオール様、いつも何にも興味なさそう。


「たらればの話ではあるが、あの当時、もう少し会話の機会などを持っていれば、個人情報が耳に入ってきていたのかもしれない」

「ディオール様……ぜんぜんお話してくれないですもんね……!」


 わたしが思わず日頃の不満を込めて言うと、ディオール様は少しばつが悪そうにした。


「……そうだな。私がもう少し自分の話を君にもしていれば、君の方でももっと早くバリガントのやろうとしていたことに気づけていたのかもしれない」


 ……お?


 珍しくディオール様が自責めいたことを言うので、わたしはちょっと驚いた。


「しかし、それじゃキリがないだろう。あとから振り返ってああすればよかったと言うのは簡単だが、意味のない後悔だ。あのときもっと地形に注意して君を止めていれば、と言っても、君が勝手に墓穴を掘って生き埋めになった事実は変えられない」

「そ……そうですね!」


 雲行きが怪しくなってきた。


 怒られるのかな? とビクついているわたしに、ディオール様は、とても優しく言う。


「意味があるのは、これから先どうすべきか、という反省だけだ。君はこの先、どうすればいいと思う?」

「え、えーと……まずは……心配かけたことをごめんなさいします……」

「そうだな。穴を掘ったところで意味がないと分かったろう?」

「……はい」

「よろしい」


 そう言って、ディオール様はお話を終わらせてくれた。


 ……も、もしかして、お説教神回避した……?


 心底ほっとしつつ、わたしは坑道の外に出ようとするディオール様に続いて、外に出たのだった。


◇◇◇


 埃っぽい地下から這い出て、冷たい冬の空気を吸い込んだら、いきなり身体が冷えた。


 さ、さむぅ……


 土だらけ泥まみれの両腕を擦り合わせながら、見上げた先は満天の星空だった。


 雲ひとつない澄みわたった夜空は、凍えるような空気に晒されているせいか、余計に冷たく輝いて見えて、わたしは思わず足を止めた。


 わー、きれいだなぁ……


 穴掘りとか神様とかゴーレムとか、いろんなことがありすぎて疲れた心にものすごく沁みる。


 虚無的な気持ちで、少し見とれてしまった。


「ディオール様! お星さますっごいですねぇ……!」


 星を指さすと、ディオール様もわたしの隣に立ち止まった。


 何とか砂漠(長くて忘れた)に向かって移動を始めてからずっと、夜空が綺麗だなぁと思っていたけど、今日はマチ針で無数の穴を空けたみたいに、たくさんの星がきらめいて見える。


「たくさん穴を空けた時みたいです!」

「……穴?」

「えっと……こう、真っ黒な布に針でプスプス穴を空けて、上からかぶると、ちっちゃい穴から光がたくさんもれてきて、ちょうど星みたいに見えるんですけど」


 お裁縫をしないディオール様にも分かるように説明しつつ、わたしはばーっと大きく手を広げた。


「今日の夜空はものすごくがんばって穴を空けたときみたいにきれいです。すごいですねぇ……こんなにいっぱいキラキラさせるには、お星様何個必要なんでしょうか? 穴開け百回とか千回じゃきかないと思うんですけど……」


 複雑な刺繍を全部ほどいたあとの、穴だらけの布とかで、たまにやったりすることがある。


 わぁ……きれいだなぁ……


 だって苦労して縫い付けたもんなぁ……


 あぁ……こんなに穴だらけになって……


 と思うと、ものすごく複雑な気持ちになるのだ。


 今の気分は、そのときの虚無感に似ていた。


 ディオール様は少し噴き出しながら、きれいな星空から目を離して、わたしをまじまじと見た。


「君は独特な感性をしているな」

「そですか? お裁縫する人だったら一回はやってみたことあると思いますよぉ……」

「だとしても、今ここで出てくる感想とは思えん」


 ディオール様はなんだか面白そうに笑っている。


 変だって笑われてる気もするけど、喜んでもらえたならまぁいっか。

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