267 リゼ、坑道を行く(2/2)
坑道は、わたしとディオール様とリオネルさんの三人で進むことに決めた。
真っ暗な道を、ディオール様の魔法の明かりだけを頼りに進んでいく。
通り道の空気はときどきディオール様が火の魔法を使って確かめてくれる。今のところは大丈夫だそう。
「私の予想が間違っていなければ、つい最近誰かがここの道を使っているはずだ」
「盗掘業者?」
「それ以外にも色々とな。まあ、この先に誰もいなかったとしても、司令塔ユニットを破壊すれば、それで終わりだ。ゾンビさえ土に還せば、もう二度とネメシスの怒りを買うこともなくなる」
そ、そっかぁ……そうかも……
壊してしまえばおしまいなのだ。
「司令塔の反応は? あとどのくらい先だ?」
わたしは手に持っていたコアから信号を送って、反応を見る。
「あっちの方! まっすぐ三百メートルくらい先です!」
「……どういう仕組みなんだ、本当に」
この信号、光魔法由来なのに、なぜ暗闇の曲がりくねった坑道でもよく飛ぶんだって言って、ディオール様が怪しんでたけど、わたしには何を言われてるのか全然分からなかった。
ディオール様に分からないことがわたしに分かるわけないよねぇ。
実装だけならそんなに難しくない。
でも仕組みの説明となるとお手上げだと正直に白状したら、ディオール様は不満そうだった。
でも、今そんな場合じゃないもんね。
研究はあとにしてほしいよ。
ドワーフの坑道は、内部がアリの巣みたいに入り組んでいる。
街の広場みたいな大きいスペースや、誰かのおうちだったっぽい小部屋を通り過ぎて、一目散に司令塔を目指した。
「……この扉の奥です!」
大きな鉄の扉の前で宣言すると、ディオール様が自分やリオネルさんに防御用の結界を張り始めた。
「何かいると思いますか?」
この坑道はとっくに廃棄されてるので、いるとしたら隠れ住んでいるドワーフさんくらいなんだけど……
もしも本当にドワーフさんの末裔が住んでいたらどうしよう?
ゴーレムの作り方とか聞いてみてもいいのかなぁ?
どうやってあんなすごいもの作ったんだろう?
マントの作り方もわたしと同じみたいだから、すごく興味ある。
「分からない。念のためな」
わたしもドキドキしながら、持ってきた護符をぎゅっと握り締める。
動かないから無駄だろうなって思いつつ、いちおう持ってきたのだ。
ドワーフさん、仲よくしてくれるかな……?
侵入者にびっくりして、盗掘業者だと思われたら……
攻撃とか、してくるかも……?
「君はここで待っているんだ」
「えっ」
わたしもドワーフさんに会いたいんだけど……
ディオール様はわたしの気持ちも知らず、とっても怖い顔で言う。
「くれぐれも、くれぐれも顔を出さないでくれ。私が来てもいいと言うまで、絶対に中を覗くんじゃない」
えぇー……
「返事は?」
きつく睨まれたわたしは、つい反射的に返事をする。
「わ、分かりました!」
「本当に何があっても顔を出さないな? たとえば中で誰かが死にかけていたとしても、絶対に駆け出してきたりはしないでくれ。分かったな?」
「は……はい」
「本当に分かったのか? 絶対にだ」
「はい!」
言わないといけない雰囲気に負けて返事をすると、ディオール様はようやく満足そうにわたしを解放してくれた。
「リオネル。話がある」
今度はリオネルさんにお説教でもするのかなと思ったら、小声で何かボソボソと、内緒話を始めた。
「……は!? どういうこと!?」
「デカい声を出すな馬鹿。黙って聞け」
……な、なんだろ?
ふたりで話し込んだあと、ディオール様たちはようやく扉に手をかけた。
「覗かないでくれ。ここにいるんだ」
「……えと……はい」
しつこくそう言い残して、リオネルさんを先頭に、扉の奥に消えていった。
……えぇ……
置いてきぼりを食らってしまった……!
仕方がないので、わたしはそばにあった長い椅子に座って、休憩することにした。
周囲は何かの工場を思わせるつくりで、あちこちに、外にあったような塩田風のため池(?)がある。
中身は風化してしまって、茶色い土のようになっていた。
……なんかあれ、ゴーレムのコアを壊したときにでてくる土に似てるなぁ。
興味にかられて近寄っていき、ひとつまみ取り上げる。
……多種多様な粒子が混ざり合っているのか、広げてみると、いろんな金属光沢が見える。
魔法金属類を結晶化させて、乾燥・粉砕したら、こんな風にもなるだろうか。
面白いなぁと思って見渡していたら、すぐそばに、また別の部屋への入り口があるのを見つけた。
何の気なしに覗き込んでみる。
こちらも同じような部屋のつくりだったけど、そこにあるため池には、魔獣の骨が山ほど積み重なっていた。
わぁ……
……なんだか嫌な予感。
……もしかしてここ、もしてかしてなんだけど……
【ティアマトの血】の生産工場だったりする……?
魔獣の遺骸を加工する施設なんて、ネメシス様が見たら卒倒しそうだ。
……ディオール様たち、大丈夫かなぁ。
わたしは『覗くな』とあれだけ強く言われていたのに、中が気になってきてしょうがなかった。
……どうしよう?
考えながらうろちょろしていたら、変なものを見つけてしまった。
◇◇◇
押し開けた鉄扉はリオネルが文句を言うほどの重さだった。おそらくは人の手で開けることを想定していないのだろうとディオールは見ている。道すがらの水路に設置されていた、極めて複雑な水門と類似の機構でスイッチにより開閉していたか、もしくは、使役しているゴーレムに開けさせる設計か。
坑道はドワーフの体格に合わせて作られているからか、通路の天井が低く、頭を打たないように注意する必要があったが、ここは不必要なまでに天井が高い。居住用のスペースでないことは明らかだった。
扉の向こうには、さらにもう一枚扉がある。この構造が示唆しているのは、この先に巨大なゴーレムなどがひしめく施設が存在する可能性だ。たとえば安全対策として、ゴーレムないし魔獣の暴走を封じ込める用途で、二重扉設計にしている、ということは、十分に考えられた。
そして、もしもディオールがこの地下坑道で戦闘せねばならなくなった場合は、こういった場所にバリケードなどを持ち込んで築城する方法を取るだろう。
二枚目の扉をくぐり抜けた先にあったのは、巨大な吹き抜けのある空間だった。異様な魔力が空気中に漂っている。火と水、風と土、光と闇。通常は混在しえない魔力が、誰かの手で攪拌されたかのように均一に分散している。
空気の違いを肌身で感じ取ったのか、リオネルが無言で武器をやや外側のリーチに構え直した。動物のやる威嚇にそっくりだとせせら笑えば、打てば響くように「雑魚には刺激が強かったか?」と虚勢を張ってくる。
「何か居やがんな」




