266 リゼ、坑道を行く(1/2)
早足でどんどんリオネルさんの岩棚にかけつけていくゴーレムさんたち。
そこでリオネルさんは、岩棚をよじ登って、上まで戻ってきた。
わたしたちの隣まで戻るやいなや、警報が鳴り止む。
ゴーレムたちはぴたっと動きを止めたあと、ゆっくりした動きで、のそのそともとの通路に戻っていった。
最後に通路が閉じて、行き当たりの壁に早変わり。
「……って塩梅よ。ゴーレムがずっと警備してるから、のんびり金属カットしてる場合じゃねんだわ」
「ゴーレムぐらい倒せばいいだろう」
「それがなー、ここのゴーレム、増えてるらしいんだわ」
「……増える?」
「そ。倒すと泥の塊になって消えるんだけどさ、数ヶ月くらいするとまた出てくるようになる。一説によると、廃坑道のどっかにドワーフの生き残りがいて、せっせとゴーレムを作り直してるって話」
わたしも、今のお話にはピンと来た。
「コアが再生してる……ってことでしょうか……?」
「そうかもな」
ということは、そのゴーレムのコアは【ティアマトの血】でできている?
「リゼ。あのゴーレムを倒したとき、【ティアマトの血】は、遺骸でできていると言ったか?」
「……はい」
不思議な女の人は確かにそう言っていた。
「……そうか。だから『墓場』だったのか」
ディオール様が急に何か納得したように呟いた。
「コアがいまだに増えているというのなら、生産工場の一部が現役で動いている可能性もある。ずっとそうだったのか、あるいは――」
ディオール様は、ゴーレムが消えていった坑道の奥を指さした。
「――つい最近、施設を再稼働させた侵入者がいるのか、だ」
◇◇◇
坑道の入り口は施設内に八か所あった。
でも、そのどれもが崩れて、土砂に埋まっている。
調べて回ったけど、人間が通れそうな穴はとっくに塞がれてしまっていた。
「ありゃりゃ。盗掘業者の仕業かねえ」
「泥棒さんが出るんですか?」
「らしいよ。出所不明の魔法金属と宝石はだいたいここの盗掘って話」
はあぁぁ……
いろんな商売があるんだなぁ……?
「わたしも聞いたことがあります。素性の知れない行商人から、やけに安い裸石を見せられても手を出しちゃいけないって。高級品は日常雑貨とは全然性質が違うから、安く買い叩けばいいってもんじゃないって言われました」
それってこういう盗掘品も混ざってるからなんだなぁ、と思っていると、リオネルさんも頷いた。
「そーそ。安いからってどんどん買ってると、知らずに貴族の検閲を逃れた横流し品大量に掴まされたりすんだよね。で、勝手に共犯にされて、もっとでっけぇ悪事の片棒担ぐことになるわけ。二年前の俺に教えてやりてえよ」
「何かあったんですか……?」
「まあな。貧乏騎士団なんかやってると色々あるわけよ」
やっぱり騎士さんってお金に困ってるのかなぁ……?
王様ももうちょっと援助してあげたらいいのに、と思ってしまう。
お話をしながら別の入り口も探してみたけど、それ以上は見つからなかった。
通気口みたいな穴はいくつかあったけど、そのどれもがとても小さい。
猫ちゃんが通れそうな大きさしかない。
「わたしひとりなら何とか」
一応言ってみたけど、ディオール様たちは許してくれなかった。
「絶対にダメだ」
ディオール様が周囲を見ながら、状態を見積もってくれる。
「スコップでも掘れるはずだ。リオネル、何日でできる?」
「え? お前が掘るんじゃねえの? 魔法でちょちょっとやりゃいいだけじゃん」
「相性が悪すぎる。一時間かけて数センチ進むかどうか」
「よっわ! は? なんで? 氷の公爵さまだから?」
「その名前で呼ぶな。不愉快だ」
「なんだよじゃあ早くくさの公爵さまとかになれよ」
わたしは崩れた土を見ていて、なんとなくピンと来た。
……なーんかこれ、偽物っぽいかも?
自然界にない不自然な色の気配を感じる。
試しにルキア様の魔法を投げてみたら、しっかり手応えがあった。
わたしはそばにあった古いボロボロのスコップを握り締め、思いっきり土壁に突き立てる。
スコップで土壁はあっさり崩れた。
……というより、布が破れて、土に落ちた。
拾って、広げてみる。
やっぱりこれ、わたしがいつも作ってる姿隠しのマントだ。
「は? え? 布? リゼさん、どうなってんの?」
「これでカモフラージュしてたみたいですね。わたしが使ってる【幻影魔術】の【風景同化】とよく似てる……と思います」
あっれぇ~……?
でもこれ、作った覚えないなぁ……?
目印になるマーカーもない。
よく似ているけど、他の人が作ったものみたいだ。
「……似てる……というより、作り方も同じ……?」
そう、複製の生活魔法を使ったみたいにそっくりだ。
でも、複製の魔法は、手続き記録の魔法だ。おばあさまは『マクロ』と呼んでいた。
自分が過去にやったことのある動作を記録するものなので、ものだけをコピーする、ということはできない。
あくまで自分が作ったものを、同じ手順で再現できる、というだけ。
これはどんな人が魔法を使っても、条件は変わらない。
さらに、他人の『マクロ』は発動しない……させても、自分にできないことは再現できないのだ。
そしてこの魔織は、織るのに特殊な技術がいる。
特殊な構造の糸を紡いで、織る作業だ。
知識として構造を知っているだけ、もしくは【風景同化】の魔術式を知っているだけでは作れない。
それこそわたしと同じ暗号を覚えさせられたはずのお姉様にだって無理だった。
こればかりは指先の器用さがものを言う。
完全に均一な糸を、と言うのは簡単だけど、この感覚を説明するのは難しい。
完全な水平を取ってガラスを磨く、と言うのは簡単でも、達成するには気が遠くなるような長い時間の修行が必要だ。
わたしは細かい作業が得意だけど、それでも、ひたすら魔石を磨く修行期間がなければ、ガラス磨きだってうまくはできなかったと思う。
「……もしかして、ここに住んでたドワーフさんでしょうか……?」
そうすると……
中にはもっといろんな魔道具があるかもしれない……って……こと!?
「とりあえず入ってみるか」
止めていてすみませんでした。
ストックがだいぶできたので再開します。




