261 リゼ、コアの解析をする(2/3)
「突撃準備が整いました」
リオネルさんは突撃号令を出さずに、まずディオール様の顔を見た。
「なあ、ディオール。これ、魔法抜きで倒せる見込みある?」
「ない。全員死ぬ。下がらせた方がいい」
リオネルさんは仕方がないなぁという顔で、騎兵さんたちを振り返る。
「俺が出る! 総員退避、ひとつ前のマイルストーンで待機!」
号令一下、騎兵さんたちが素早く元来た道を戻っていくのを眺めつつ、リオネルさんが言う。
「あーしかし困ったね。一斉に飛んできたら俺じゃ対抗手段ねえし、お前は無能だし、詰んでね?」
「誰が無能だ。ちょっと知らない魔獣に当たっただけだろう」
「なんで知らねえんだよ。お前脳みそしか取り柄ないのに何? 知識もなかったら何が残んの? アイスクリーム製造機?」
「言ってろ槍投げゴリラ」
「ハルバードだっつーの!」
な、なんで喧嘩してるんだろう……?
はらはらしているわたしをよそに、リオネルさんがまくしたてる。
「あいつの攻撃は主に目からビームな。光魔法系統。視線で認識されると焼かれるから、見られないようにするのがカギ。濃い霧で目とビーム潰してからトドメってのがセオリーだけど、こっちも見えなくなるから魔法使い必須。近接戦闘職が近づくのは自殺行為、秒で焼かれる」
そこでディオール様は、わたしを振り返った。
「だそうだ。どうだ?」
わたしはしゅばっと元気よく、先生に回答するときの感じで挙手。
「わたし【姿隠しのマント】作れます!」
「消えるやつね!? いけんじゃん!」
【魔糸紡ぎ】は光魔法の系列なので、問題なく動く。
わたしは速攻でマントを三着編んだ。
馬車用もその場で用意して、お馬さんたちにはここで待機していてもらうことに。
タルンカッペを素早く羽織ったリオネルさんが、小声で言う。
「一体だけ釣ってくる。ディオール、霧かなんかでその他の注意引いといて」
「倒せるのか? 私が氷で仕留めた方が確実だと思うが」
「それだと群れ全体でパニックになる。霧に乗じたサイレントキリングが確実」
「それはそうかもしれないが……魔力なしのハルバードでどうやって致命傷を与えるんだ?」
「そりゃもう腕力でよ」
「馬鹿なのか?」
ディオール様すぐ馬鹿って言う。
「うっせーな、目ぇかっ開いて見てろ! タマぶち抜いてくっからよぉ!」
リオネルさんがスッと気配を消し、あたりから消え失せる。
すごい潜伏能力だなぁ……と思っているわたしの横で、ディオール様が珍しく長めの呪文を唱え始めた。
呪文に呼応して、魔力がぐるぐると渦を巻く。
ものすごく遠くにパッ、パッ、と光る何かを生み出した瞬間、セラフィムたちが一斉にそちらに注目した。
すぐさま消すと、セラフィムたちはしばらくそっちを警戒していたけれど、そのうち意識が薄れて、三々五々散開していく。
その次にディオール様は、氷や炎などをちょっと出しては消した。
その繰り返しで、どうやらセラフィムたちの反応を確かめたようだった。
「……そういうことか。なるほどな」
独り言のように言って、大きく魔法を張り直した瞬間、あたりがぼやけて、真っ白な霧に包まれていった。
……と同時にあたりも急速に冷えていった。
さ、寒い!
早く終わらないかな? と思いつつ、震えながら待つこと数分。
いきなり濃霧を切り裂いて、明るい光が飛んできた。
光はわたしを狙ったものではなかったみたいで、変な方向に逸れて飛んでいった。ほっとする間もなく、四方八方から光が霧を割いて、あちこちに乱れ飛ぶ。
ジュッと音を立てて湯気が上がり、一瞬視界が開けたけれど、すぐにまたあたりが霧に沈んだ。
ひとつかふたつ、明るい光にぴかっとされ、直撃した――かと思いきや、軌道を逸らされ、パッと虹色の分散光をまき散らして、消えた。
「あ、あの……」
「虹が出たな。綺麗だ。霧に光を当てると、ああしてスペクトルが生まれて――」
そんな話してる場合?
「り、リオネルさん、帰ってきませんけど……」
「囲まれてるんだろう。いい気味だ」
薄情なことを言うディオール様は、すごく楽しそうだった。
「た、助けなくていいんですか!?」
「何も見えないのにか?」
「え、ど、どうしたら……!?」
「あいつは殺しても死なない。心配はいらないから、君も見物しているといい」
といって、ディオール様は悠々と腕を組んで、時々光る霧の中をニヤニヤ嬉しそうに眺めていた。
ほ、本当に大丈夫なのかな……?
剣術が出ない、魔道具も使えないってことは、今のリオネルさん、ただの人だ。
当たったら即死のビーム出す相手に囲まれてたら、いくら強くても危ないと思うけど……
ハラハラしているわたしの顔色を読んだのか、ディオール様がぽつりと付け加える。
「……光は水滴が多い場所だと、レンズ効果で分散する。あれも光魔法だということだが、どうも霧の濃度次第ではまあまあ減衰させられるようだ」
「あ、そ、そうなんですね!?」
「光を集約させると熱を出すが、霧の冷却効果で出力も落ちていると見た」
だから余裕で見物していられるってこと?
「霧を出せという指示は実に的確だ。回避力に優れたリオネルをひとりだけ放り込んだ方が、視界最悪の状態では同士討ちも避けられて理にかなっている」
そ、そうなんだ……
信頼があってのことなのかなぁ。
やがて霧中の光も消え失せて、しんと静まり返る。
流れていく霧の微細な影の他には、何も動いていない。
大丈夫かなぁぁぁ……?
「獲った!」
リオネルさんが勝ち誇ったように言い、フードを落として姿を見せる。
高々と掲げた手には、赤い玉が握られていた。
無事だったんだ!
「本当に倒しちゃったんですか!? すごいすごいです!!」
「まぁな!」
得意げなリオネルさんから、わたしは赤い玉を受け取った。
見た目はいつかの山で遭遇した『真理』と同じだ。
急いで中身を探っていくと、異種言語らしきものが目に付いた。
「……あれ、これ、ドワーフ語……?」
「ドワーフ語だと?」
「今見せますねぇ」
わたしは以前見聞きしたドワーフさんの魔術式のときと同じように、ひとまず【重ね文字】を可視化させた。
それからサイズを大きくして、みんなに見えるようにすると、ディオール様が少し息を呑んだ。
現代のレーザー砲も霧で減衰するそうです。




