260 リゼ、コアの解析をする(1/3)
「平和でのどかでハッピーな、普通の村なんだわ。ゾンビの群れに襲わせていいようなところじゃねえよ。被害者出る前になんとかしてやりてえ」
すごく真面目に言うので、わたしも釣られて、神妙な気分になる。
王都は結界でぐるりと囲まれてるけど、辺境に行けば行くほど備えが薄くなるから、怖い魔獣が民家の軒先をのっしのっししてることも多いって聞く。
そこにゾンビがうようよ押し寄せてきたら……きっとパニックになっちゃうよね。
犠牲が出る前になんとかしたいと思うのも当然だ。
わたしもお手伝い頑張ろう……!
「そういやディオール、ちょっと聞きたいことあんだけど」
お喋りなリオネルさんは、話の切り替えもすごく早い。
「こないだ王家が俺のところに来た。今までぼったくってたもん返してくれるとさ」
「……何を?」
「ほら、色々だよ。税金代わりの魔獣素材の現物とか? いろいろぶんどられてるじゃん?」
「……は?」
「あれ? しんねーの? 騎士団はどこも魔獣討伐で出た素材は全部ジモティの貴族に持ってかれることになってんだよ」
「……それでどうやって経営が成り立ってるんだ?」
「討伐手数料が貴族から入る。一匹いくらな。でもそれも引き取ってもらえる数に上限あんだわ。素材のおいしいとこをかっさらわれて、余った分が俺らの取り分。貴族の資金にも限りがあるから、手数料払えないぐらいいっぱい狩ってトントンってとこ」
「対等な商取引が成立していない」
「だろ? ぼったくりって言いたくもなるだろ? やってらんねえよ」
リオネルさんはなぜかものすごく楽しそうに笑ってから、また真顔に戻る。
「持っていかれるのは癪だけど、貴族の特権ってことでまあ理解はできる。でも返すってのは? しかもジモティでなくて王家の方がって、どういうこと?」
「知らん」
「即答!? いやもう少し悩んで? 困ってんだよ。王の側近として何か知ってること絶対あるだろ?」
「そう言われてもな。経済については、本当に何の教練も受けていない。素人の意見と変わらん」
でも、ディオール様は「あくまで私見だが」と言いつつ、声を潜めた。
「……敵の数を調整しているんじゃないか?」
「敵ってなんだよ?」
「どれとは言わんが。王家に反抗的な組織なんて無数にある」
「つまり、どっかとやり合ってるから、そこと手を組まれないようにってこと?」
話が難しくなってきた。
「じゃあこれ、うちだけ優遇とかだったりするわけ? バレて四騎士団から孤立すんのだけは避けたいんだけど、大丈夫そう?」
「なら断ればいい」
「嫌だね、こんな美味しい条件初めて見たもん俺。なんだかんだうちもでっけえ魔獣がスタンピードして苦しいときはよそから人借りるから、嫌われたくはねーけど、装備が充実したら、よそに人を貸せる余裕も出てくる」
「だからその、貸せる余裕のある騎士団が、どうやって余剰を作っていたのかという話でもあるんだろう」
ディオール様が謎かけみたいなことを言うので、リオネルさんは黙ってしまった。
「……噂ベースならいくつか心当たりないでもないけど、やっぱあれ本当なの?」
「どれだ? 私は経済関連の動きはまったく把握していない」
「あーいいや。お前の立場悪くしそうだもんな。あとはこっちで調べてみるわ。ありがとな。やっぱお前いい奴だよ」
何の話か分からないけど……
騎士の人って貧乏なのかな……?
わたしは聞いていて、そこだけが気になってしょうがなかった。
騎士の人は気前がいい人が多くて、ぱーっとお金を払ってくれるので、きっと高給取りなんだろうなぁと勝手に思っていたけど、あれってそうじゃないんだなぁ……
街の治安を守ってくれているのに世知辛い話だ。
今度騎士の人が来たらおまけしてあげよう。
そんな風に思ったのだった。
◇◇◇
現地につくまで四日ほどかかった。
周囲は草原から景色が切り替わり、荒れた土ばかりの土地になっていた。
途中で遭遇した魔獣はどれも獣や虫のような雰囲気で、異常が起きているようには見えなかったけど、その日の魔獣はもう、見た目からして違った。
「あ……あの、あの変な天使みたいなの……な、何ですか……?」
目玉がいっぱいついている。それで、その胴体に、翼が生えているのだ。
こんな魔獣見たことも聞いたこともない。
しかもその目玉が、どうも、それぞれ別の生物のまぶたを持っていて、バラバラに視線を動かしている。
こ、こわい……!
そんなのが何十匹も群れて、あちこちを群体で移動していた。
そのうちの一匹が急に空を大きく旋回したかと思いきや、こちらに向かって飛んでくる。
激しい閃光が起きて、あたりの地面をビーッ! という嫌な音を立てて、なぎ払った。
直撃しかけた騎士さんたちが慌てて馬を止め、立ち止まる。前がつかえて続々と騎士さん達が馬を止めたせいで、わたしたちは完全に立ち往生することになった。
変な翼の生き物が上空を旋回する。
そこにすかさずリオネルさんが短剣をぶん投げた。
生き物がひらりと避けた先に、他の騎士さんたちが投げた短剣がいくつかかすめていく。
生き物がまたビームを発して、地面をえぐる。
お返しにとひゅんひゅんナイフが飛んでくる状況で、生き物はこっちのことを手強いとみたのか、戦意をなくして、群れの方に飛んで逃げていく。
「ボケっとすんなよディオール! 遅っそいんだよ! 結界ぐらい張れよな雑ー魚!」
リオネルさんがディオール様に品のない野次を飛ばした。
わたしはビクリとしたけれど、ディオール様はどこ吹く風で淡々と返す。
「攻撃ぐらい百発百中で当てろ脳筋」
「無茶言うなって!」
「無駄吠えしてないで切り込め雑魚」
「俺が雑魚だったらお前腹子じゃん。生まれてねえじゃん」
リオネルさんが軽口を叩きつつ、空を見上げる。
変な生き物の群れは規則正しく動いていて、隊列を作って飛ぶ渡り鳥や、草原を覆い尽くすイナゴの群れみたいだった。
「すっげえ、初めて見た。多眼のセラフィムじゃん」
Sランクか、もしかしたらそれより上ぐらいの、とんでもないレアモンスターだと教えてくれる。
「しかも群れてら。あーあ。ちょっと近寄りたくねえなあ」
「リオネルにも突っ込んでいきたくない魔獣がいたのか。驚きだな」
「今剣術も止められてんのよ、分かってハニー」
といいつつ、なぜかリオネルさんはケラケラ笑っている。
……なんでリオネルさん、面白くなさそうなとこでも笑ってるんだろう。
「あれって群れるやつだっけ? ディオール、どうなん?」
「どんな魔獣か知らんが、高位魔獣は原理的に群れられないはずだ。相当な量の魔力食いだから、広範なナワバリにせいぜい一、二体しか存在できない」
「だよなぁ? じゃあやっぱゾンビの亜種だと思っていいってことだよな?」
「そのはずだ」
リオネルさんが魔獣を警戒しながら、わたしの様子を窺ってくる。
「リゼさん! 司令塔みたいなのがあって、それを倒さないと無限に復活するってことだったけど」
「はい」
「今探せる?」
「はい。あの、コアを一個手に入れてくれれば解析できます……!」
「うっそぉん、倒せってことぉ……?」
馬車の前後についていた騎馬隊が隊列を作って、リオネルさんに命令を聞きにきた。




