248 リゼ、貢ぎ物の製作を命じられる(1/2)
◇◇◇
お店は襲撃を免れていた。
被害の規模では銀行とか、大きな商店がすごいらしくて、そっちに騎士さんや警備兵さんたちが大勢出動しているのを見かけた。
でも、うちみたいな小さいお店が並んでいる商店街はまだ襲われるほど治安が悪化してなかったみたいで、通り一面、ピカピカのままだ。
よ、よ、よかったぁぁぁ……!!
わたしは安心して、郵便受けから手紙を回収したあと、お店から商品を全部引き揚げると、ショーウインドウを完全に空っぽにした。お店はやってないですよ、という、分かりやすいサインだ。
商品搬入用の勝手口、バックヤードに続く扉、棚、そしてお客様用の出入り口にも、あちこちに鉄の鎖で大きな錠をかけ、最後に扉に張り紙をする。
『休業中』
これでもう、だいじょうぶ! のはず!!
「助かりましたあぁぁぁ……! ディオール様、ありがとうございます!」
休業の張り紙を並んで眺めながら、ディオール様にお礼を言うと、いつもみたいに軽く「別に」とあしらわれてしまった。
「何もしていない」
「でも、助かりました! 魔法が使えなくなっちゃったときはもうおしまいだって思ってましたけど、ディオール様がいてくれたおかげで未来に希望が持てました!」
「……その割に、鼻歌を歌いながらクッキー焼いていなかったか?」
「絶望していても人間はおなかがすきますし、美味しいクッキーがあったら嬉しいんですよ」
「君を絶望させ続けるのは難しそうだ」
「おいしいものがなかったらちょっと分からないですねぇ!」
でも、魔術がなくたっておいしいものは作れるってことが分かっちゃったからねぇ。
なので、わたしの未来はとっても明るい。
ディオール様が仕方ないなぁと言わんばかりにくすりとして、わたしの頭を撫でてくれる。
「さて。次は、あいつのところか」
ディオール様がとても嫌そうにつぶやき、わたしの顔を覗き込んだ。
「君も来てくれないか? おそらく今回は、君の力が必要だ」
「え?」
わたし?
◇◇◇
わたしはそのまま馬車に揺られて、まっすぐ王城に伺候した。
お城の中は街の大騒ぎが嘘みたいに静かで、いつも通りの厳粛な雰囲気を保っている。
わたしは何も言われてなかったので、準備もしていない。
お城には当然だけど、ドレスコードがある。
男性は貴族、魔術師、もしくは騎士の装い。
女性は貴婦人の格好か、神様のお参りに着ていけるようなワンピースが入場の条件だ。
帯剣貴族、なんて言葉があるけど、貴族は基本的に帽子を被って帯剣していなければならないので、お城に入る平民も、入り口でレンタル料を払って、剣を借りる。
平民の女性も、あんまりにも普通の格好じゃ止められてしまって、入り口でドレスを借りることになる。
わたしも止められるのかな? と思ったけど、通してもらえた。
い、いいのかな……? と思いつつ、キラキラぴかぴかの廊下を進んでいく。行き交う人たちはちゃんとドレスアップしていて、とっても優雅だ。
向かった先は、見たことない広間だった。
大勢の側仕えの人たちに取り巻かれていた金髪の男性が、わたしたちの方を振り返る。
「ロスピタリエ公爵! 無事だったんだね! よかった……」
とたんに人払いが始まって、ざーっと人がドアの向こうに消えていった。
「怪我はなかった?」
「体調に問題はありません。魔術の復旧もある程度叶いました」
「それは、本当なら、すごいことだけど……」
指先から火を出してみせたディオール様に、アルベルト王子は感嘆のため息を漏らした。
「どうやって?」
「精霊経由のインジェクションです」
「……君専用かな。いずれにしても、心強いね。このあとは父上の警備に戻る予定?」
「いえ、陛下にはまだ内密にしておいていただければ。それより、バフの復旧に向けて、ひとつご提案が」
ディオール様が、両手をわたしの肩に、ぽん、と置く。
「彼女はルキアの加護が手厚いようなので、バフの停止が過去の記録にある通りであれば、貢ぎ物の奉納が効くかもしれません」
「それも検討はしてるんだけどね……最短で十年だったかな?」
「はい」
「え!?」
十年もかかるの? と思っていると、王子様が苦笑した。
「驚くよね。記録によると、怒りを解くまで、ひたすら強力な攻撃用の魔道具を火にくべつつ、各地の神殿で祈祷を総計で一万回以上したそうだよ。十年でようやくルキア神から光が戻って、それからは祈祷のたびに少しずつ祈りが届き、火や水の魔法を初めとした生活魔法がじょじょに取り戻されていった……という風に聞いている」
「そんなに長く水や火を止められてたら辛いですねぇ……」
「うん。それで、上位存在のルキアに直訴するのが効果的だろう、とは、専門家も言っていたんだけどね」
そういえば、そんな話をウラカ様もしていたなぁ。
もうあんまりよく覚えてないけど……
「バフ停止の迂回攻撃を探していて気がつきましたが、今回のバフ停止、ネメシスの権限の及ぶ範囲でしか作動しておりません。ネメシスの禁止を解ける力を持った女神であれば、解除も可能かと」
「そう。それで、女神ルキアに正常化してもらえるよう祈るんだったね。ただ、その祈りを届けるための経路が塞がれてしまっているのが問題、というわけで」
「そこで、リゼの力を借りるんですよ」
ディオール様が、今度はわたしに目を向けた。
「君にはルキアが気に入るようなものを奉納物として作ってほしい」
「……ルキア様が……?」
とっさに思い浮かんだのは、光の魔法で編み上げる魔織。タルンカッペだ。
でもあれは、魔糸紡ぎの魔法が使えないと作れない。
「でも、わたし、今、魔道具作れないですよ?」
「それでいいんだよ。ただの道具を作ってもらいたいんだ。人の手で、職人として、魔法を使わずにね」
と、今度はアルベルト王子。
「祝福魔法の根幹は、上位存在が下位の生命に力を分け与えること、なんだそうだよ。その意味では、生活魔法はすべて祝福魔法とも言える。その中でも、パッシブに作用し、威力にバラつきが出る……つまり、祝福者の寵愛の度合いによって威力が変わるものを、今は特に【祝福魔法】と呼んでいる、んだっけ?」
「そうですねぇ」




