247 リゼ、クッキングを始める(2/2)
「おそらく魔獣や高位精霊の生命活動が停止されるような、完全な魔力の流れの禁止までには至っていないんだろう。であれば、急ごしらえのルール変更なのだから、地道につつけばどこかに綻びが出るはずだ」
「何の何の何ですか?」
「【祝福魔法】停止に、ハックができないかを探る」
何の話かさっぱり分かっていないわたしの顔色を読んだディオール様が、「忘れてくれ」と言って、わたしからフェリルスさんを取り上げた。
「あ! フェリルスさんをどうするんですか!?」
「実験に付き合ってもらう。しばらく集中するから、悪いが違う遊びをしててくれ」
「そ、そうですか……」
さ、さようなら、わたしの子……元気に育ってね……
そしてディオール様は、我が子と引き裂かれて涙目のわたしを置いて、突風みたいに去っていってしまった。
……なんだったんだろ。
あ、わたしのお店!
見にいきたいってお願いするはずだったのに、言いそびれちゃった。
でも、ディオール様、今魔法使えないし、恨みのある人に狙われてるし、お外には出ない方がよさそうかな……?
わたしがひとりで行った方が安全だったりする……?
ちょっと悩んだけど、やっぱりおうちで待機することにした。
だって、宝石目当てに剣を持った人たちが襲ってきたら、わたしがいたところでお店は守り切れないし……
それだったら、無闇に近づかない方がいいよねぇ。
……
ディオール様も、ハックをするとかしないとか言ってたし、えらい人たちが何らかの対策を立てるまでじっとしておこう。
そうだそうだ。そうしよう。
今のわたしにできるのは――
わたしは赤々と燃える冬の暖炉を前に、キッチンのミトンを嵌めた。
そろそろケーキの第二弾が焼き上がるころなのだ。
そう。
暖炉クッキングを極めることが、今のわたしにできる唯一の有益な仕事だ。
◇◇◇
次の日も状況は変わらなかった。
火が出ない、お水が出ない、魔法が使えない。
わたしは薪の火加減を操りながら燃やして、お湯をわかして、クッキーを焼いたりして遊んでいた。
暖炉の火で作るお菓子もなかなかオツ。
おいしく焼けたものをディオール様にお裾分けしたりして、一日が過ぎた。
「ディオール様! クッキー第五弾! じょうずに焼けました!!」
「そんなに持ってこられても……いや、そんな顔をしないでくれ。食べる。食べるよ。ありがとう」
ディオール様はヤケクソみたいにお礼を言って、「そこに置いておいてくれ」と、山になってるテーブルを指さした。
「……そろそろクッキー以外も焼きますか?」
「いや、いい。フェリルスが目を覚ましたら一瞬で食べるはずだからな。無駄にはならないはずだ」
「ディオール様も! 食べてください! 今回はですね! 安定して弱火が保てるようになったので、前のやつより当たり外れが少ないはずです!!」
「そんな工夫が」
ディオール様が感心してくれた。ちょっと照れるなぁ。
「器用なものだな。君は魔道具師でなくてもやっていけそうだ」
「……!!」
急になんてこと言うんだろう、この人?
「えっと……魔道具師じゃダメなんですか? は、廃業? 廃業が迫ってるってことですか? バフ停止のせいで???」
「いや、そういうことでは」
「わ、わたし、魔道具師がいいんです! バフの停止終わらないとすごく困るんです……!」
「分かっている。対策は考えているから、心配しなくていい」
「本当ですか!?」
あーびっくりした。急に意味深なこと言うから、もうダメなのかと思っちゃった。
「ちゃんと復旧できるんですよね……?」
「ああ。少なくとも私は、多少魔術が戻ってきた」
「もうですか!?」
ディオール様は手のひらの上に、ふわっと小さい火を出して、消した。
そ、それは、ともし火の魔法!?
本当に魔術が戻ってる……!
「色々試したが、魔術禁止の結界と原理は同じのようだ。禁止を迂回する方法が多少判明した」
「あ、これ、禁止結界と同じですか……!?」
「ああ。君も以前結界を破っていたから分かると思うが、魔術の法則をいじりすぎると環境が壊れるから、結界で一括禁止設定にしても、細部で矛盾が生じるのはよくあることなんだ。今回はリカバリー役の精霊経由でわずかにインジェクションが効いたおかげで、ごく簡単な魔術ならアクセス権を一時的に回復できた」
なるほど?
今回は分かった気がする。
魔道具はだいたいどこも除外設定なので、そこらへんからイジると、魔術禁止も迂回できることが多い。
わたしには精霊がいないから、ディオール様とおんなじやり方では無理だろうけど……
知ってる方法を順番に試したら、何かしらは突破できる可能性が出てきた。
「ちょっと探ってみます!」
「そうするといい」
ディオール様は魔術が復旧できたおかげで心に余裕が戻ったのか、すっかり頬に赤みが戻って、つやつや健康そうな顔色を取り戻している。
昨日のちょっと泣きそうだったお顔も可愛かったので、見られなくなってちょっと残念、だなんて、本人には絶対言えないけどねぇ。
「今もう一度、自分用の環境と【短縮魔法】を組み直している。禁止にしたネメシスの検知に引っかからないよう魔術式を複雑にしているから時間はかかるが、最低限は何とか使えるように急ぐつもりだ」
「あ、ショートカットが使えるようになったんですね? じゃあ、かなり本格的に復旧できそうですね」
「検知に引っかからなければ大丈夫だろう。慎重を期して、検知しにくい、自然環境に溶け込む魔術だけ使うつもりだ」
よく分からないけど、ディオール様が大丈夫って言うならきっと大丈夫なんだろうなぁ。
「じゃ、じゃあ、わたし、どうしても今すぐ行きたいところがあるんです……!」
わたしのお店!!
まだ無事でいて……!!




