ジェイクの誕生日
特別な日がやってきた。ジェイクの誕生日だ。
私より2ヶ月だけ歳下のジェイクだが、前世の記憶がある私としては2ヶ月どころじゃなく遥かに、遥かに歳下に思っていて──つまりめちゃくちゃかわいいと思っている。
そんなジェイクの誕生日にどうして張り切らないでいられようか!かねてより計画していた最強牧場計画の一端である、食堂のリフォームが完成した(むしろ合わせて完成させた)ので、その場所で盛大なお誕生会を開催するつもりだ。
田舎の食堂と言うには似つかわしくない、資金をつぎ込んだ豪華な設備のキッチンに私とジェイクのお母さんは集結していた。
時刻はお昼過ぎ。ジェイクはまだ何も知らず──いや、フェイクの苺ジャムクッキーに今朝は大変喜んでいたが──まだ王都で仕事をしている。
私とジェイクのお母さんは、分担して料理の仕込みと会場の飾り付けをがんばっていた。
ジェイクのお母さんは実は泳ぎがうまいので自ら獲ったカニのサラダ、エビフライの用意を進めている。
私は、ウナカテクトリの生クリームとケツァルクックの卵を使ったカルボナーラと、私特製のミートソースのパスタを作る予定だ。
この辺りではお祝いのときにパスタ料理を作る風習がある。子供のときに、1分をほぼ正確に刻めるくらいに繰り返すリズム遊びがあるのだが、それをパスタを茹でる間にみんなで歌って踊って待つのがお決まりで、最高に盛り上がる数分でもある。
なお疲れるので茹で時間が短いパスタが推奨されている。
カルロとロック爺が穫ってきてくれたウサギに似たモンスターと香味野菜を大きな寸胴に放り込み、蓋をして竈に突っ込む。あとは3時間くらい弱火で加熱するだけだ。
「………」
これはミートソースというか、ラグーなのかもしれない。まあいい。ホロホロになったお肉を、ジェイクの健やかな成長を祈念して刻むつもりだ。
『発掘』スキルによって、私に切られた食材のポテンシャルは最大限に引き上げられる。
特にモンスターの肉などは恩恵が大きく、切る回数が多くなれば指数関数的にポテンシャルは伸び、様々な効果が見込めるはず。
ジェイクは強く健康になるはずだ。
仕込みが終わってしまったのでジェイクのお母さんの手伝いをして過ごした。
パンを包丁で刻み、パン粉を作る。こちらも発掘スキルが発動しているのでやばいパン粉になった。
今日の参加者である、カルロ、ロック爺、お父さん、ポンさん、アンジェラがやってきた。
(アンジェラのことを許していないけど今日は停戦とする)
ポンさんは
「ボクが作った計画書より豪華になってる」
と食堂を見回して驚いていた。実はグラソー男爵の指示により、やや貴族趣味になってしまった。その資金は税金だから複雑な気分だ。
ジェイクのお母さんは一度家に戻り、食堂の試食会という名目でジェイクを連れてきてもらう。
「来た」
カルロがジェイクのお母さんとジェイクの足音を察知して合図する。
「「「ジェイク、誕生日おめでとう!!」」」
扉が開くに合わせ大声で迎える。アンジェラは七色に光る花火を打ち上げ、床に落ちたところをミルが炎を食べて消火した。
「わわ……みんな」
ジェイクが目を丸くして驚く。そんなジェイクの肩を抱き、ジェイクのお母さんが微笑む。
美しい光景だ。
「ありがとう…僕、すごくうれしい」
頬をピンク色に染めてはにかむジェイクをみんなで眺める会に名称変更してもいいかもしれない。
全てが報われ、浄化されるのを感じた。
「ジェイク、おめでとう。今年は少しがんばっちゃった」
「ユリィ。僕はユリィの誕生日にあんなお花しかあげられてないのに」
眉を下げるジェイクに、私は首を振る。
「私はジェイクがいたからここまで来れた。それに、私の方がずっとお姉さんなんだから」
「2ヶ月だけだよ!」
何名かの笑い声が聞こえた。アンジェラを見ると何もかも見透かしたように笑っているように見える。
やっぱり私の中身が子供じゃないと気づいているんだろうか。
「さあさあ、皆さん召し上がって下さい」
ジェイクのお母さんが料理を勧めたり、飲み物を運んだり忙しそうなので手伝うこととする。
今日はお酒も用意してあるので、お父さんは既に酔っ払っていて、カルロも少しだけ飲んでいる。
「このエビフライはすごい、古傷が癒えるような気がする」
ロック爺に古傷があったのは初耳だった。
「じゃあパスタ茹でまーす!みんな3分カウントしてね!」
軽快な手拍子と、口笛が始まる。
お酒も入っているので少々乱れていたけど。
『春が来たりて
小麦蒔き
山は色づき
小川澄み
鳥が歌う声を聞け
その胸に手を当てて
隣人の手をとれよ』
これが春の歌詞で1分、夏の歌詞で1分と続く。
春夏秋冬で4分で、実はそのあとも歌詞はあるが大体の人は覚えてないのでリピートする。
「できました!!」
ドン!!
勢いよく大皿をテーブルに置く。
「こ、これは!!」
「ユリィ、なんてものを……」
一口食べた面々は驚愕の表情を浮かべる。味がまずいのかおいしいのかわからない。
「ユリィ、こんなもの普段は作ったらダメよ…」
アンジェラまで手を握ったり開いたりして何かを確かめている。
「魔力がすごいわ。男性陣は今夜は眠れないんじゃないかしら?」
「んー、ジェイク?どう?おいしい?」
「おいしいよ!!」
口の周りにソースをつけて食べすすめるジェイクがかわいいので良いこととする。ジェイクが怪我したり病気しなければそれでいい。
とはいえ味もちゃんとおいしかったようで、全ての料理が空になり、パーティーはお開きになった。
今年は材料が揃わなかったけど、来年にはケーキを作りたいな。
帰り際、私はそっとジェイクに話しかける。
「アミルも来れたら良かったのにね」
ジェイクと数秒、見つめ合う。
「仕方ないよ」
「ちょっと考えちゃった」
私のいつもより多い瞬きをジェイクは察して目だけで笑む。
あとで、北の山の採石場で。
ジェイクならわかってくれる。




