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復讐讃歌 〜青き瞳が世界を塗り替えるまで〜  作者: 抹茶堂
序章「仮面を被りし者」
3/25

侵入開始

 要塞国家リグレジア。

 国民の多くはこの国のことをそう呼ぶ。中には、監視国家やら閉鎖国家やら警邏国家やら様々な名前でこの国リグレジアを呼ぶ人もいるらしいが、個人的には要塞国家という名称が一番しっくりくると思う。


 上空から見下ろすと、どうやら正八角形をしているらしいリグレジアは、周囲を高さ八百メートルを超える巨大な壁によって囲まれている。壁に門の類は存在せず、外部からの侵入は愚か、内部からの脱出も完全に不可能だ。最もリグレジアの歴史の中で、壁の外への逃走を図ろうとした人間はいない。理由は単純明快。外の世界はとても人間が生存できる環境でないからだ。そこは死界と呼ばれる闇の世界で、誰一人として壁の外へ出ようなどという馬鹿げた考えは持たない。要塞国家リグレジアを要塞たらしめている要因の一つでもある巨大な壁も、死界と国家を完全に遮断するために存在していた。


 リグレジアは全部で九つのエリアで区分けされている。国家はかなり古くからこのエリア制を導入しているらしく、この制度は国民の貧富の差や警邏の組織体制にも大きく影響を及ぼしていた。

 まず、リグレジアの外郭の正八角形を縮小した小さい正八角形がエリア1として国家の中心に置かれている。エリア1は王政特区で王族と一部の特権貴族のみが住むことを許されている。残りの八つのエリアは、北のエリア2から時計回りに北東のエリア3、東のエリア4、南東のエリア5といった配置で区分けされている。先ほどエリア制が警邏の組織体制に影響を及ぼしていると言ったが、それは一目瞭然で、警邏第一番隊から第九番隊までそれぞれ同じ数字のエリアに配属されているのだった。

 ここはエリア4。つまり、警邏第四番隊が配属されているエリアだ。



 重力のままに落下して数秒後、出来る限り音をたてないように注意しながら、俺は高層ビルと第四番隊本部をつなぐ大きな配管に着地した。ストンっと微かに着地音が響く。大丈夫、まだ気づかれてはいないようだ。


 要塞国家リグレジアの特徴の一つに、建築物、それも高層のビルが非常に多い点があげられる。限られた空間で人口増加という時代の変化に対応するための手段だろう。ほとんどの建築物が隣接する形でそびえ立ち、生い茂る雑木林のように隙間なく国家を埋め尽くしている。

 また、リグレジアには非常に多くの配管が存在する。立ち並ぶビルとビルをつなぐ配管の数は大小無数にあり、そのつながりは連鎖を繰り返し、今となっては国中に張り巡っていて、巨大なネットワークを連想させる。おそらく、水道やガス、その他の人目に触れては困る何かを搬入運搬する際に使用するものなのだろうが、俺にとってこの配管は本部へ侵入するためのツールでしかなかった。


 ここからは、時間の問題。どうせいつか気づかれてしまうのだから、少しでも迅速に侵入し、大胆に破壊し、素早く逃走して、警邏との戦闘を最小限に抑えることだ。

 俺は配管の上を全力で駆ける。

 幼い頃からバランス感覚や体力には自信がある。万が一にも足を滑らせて地面に叩きつけられるなんてへまはしない。

 サーチライトで照らされることなく本部施設と配管の結合部に到着する。

 地上の警邏にも気づかれていないようだ。


「このつなぎ方ならアレでいけるか」


 後方に五歩ほど下がる。腰にぶら下げていた黒い塊、M27型手榴弾の安全ピンを抜き、結合部に投擲する。小爆発が起こり、破裂音と煙が発生する。

 その直後、まだ煙が晴れる前に、俺は結合部に空いた大きな穴に飛び込んだ。

 火薬のにおいと配管の放つ特有のにおいが混ざり合い、奇妙な臭いが鼻孔を刺す。当たり前だが配管の中は真っ暗闇で、どうやら水もガスも流れていないようだった。

 すると、背後で反射した光の一部がその暗闇に差し込んできた。警邏のサーチライトだ。追うように敵の侵入及び襲撃を知らせる警報が鳴り響いた。

 なんとか間一髪で姿を見られずに済んだようだ。といっても、すぐに警邏が駆けつけてくるだろう。奴らの素早さにはいつも手を焼かされている。

 外套のフードを深く被りなおした俺は、今宵の復讐の無事遂行を願いながら、目前に広がる暗闇に向かって走り出した。



 暗い配管をひたすら進んでしばらく経ち、本部の中心部に到達したであろう場所で、俺は再びM27型手榴弾を使った。小規模でお手頃な爆発を起こせるのがこのM27型の良いところだ。小爆発が生んだ配管の割れ目からひっそりと通路に降りると、そこでは警報が盛大に鳴り響き、緊急事態を告げていた。

 ここで俺は本部に侵入するという計画の第一段階を達成したことになる。次の第二段階は本部の破壊だが、これを達成するには本部の中枢である電脳管理室に行く必要がある。


 俺はこの施設のマップを把握するため、誰でもいいから警邏隊員を探すことにした。施設の中心部に向けて適当に通路を選び、数回ほど角を曲がったところで警邏二名に遭遇した。

 俺が気づくのとほぼ同時に向こうも俺という侵入者の存在に気付いたようだった。手前にいた隊員が口を開いた。反射的に俺は両目を閉じ、すぐに開いた。

 警邏が叫ぶ。


「貴様、何者だ!施設の関係者ではな―――」

 

(侵入完了。警邏隊員一名の意識の切断を実行。)


「なっ、貴様いったい何をし―――」

 気絶し倒れる仲間を見て、もう一人の警邏が懐の拳銃に手をかけようとするが、時すでに遅し。もう既に視ているのだから。


(侵入完了。残りの警邏隊員一名にも同様の処置を施す。)


 追うようにして残りの隊員も床に崩れ落ちた。

 あっという間に、通路に立っている人間は俺だけになる。

 何とか間に合った。拳銃を使われたら厄介だ。銃声はよく響く。

 俺はうつ伏せに倒れている手前の警邏の体を仰向けにして、閉じられた瞼のうち片方を指で無理やり開けた。そして露わになった警邏の瞳を、視る。


(再び侵入完了。記憶にアクセス。本部施設のマップに関する情報を検索―――終了。施設内の構造に関する情報を発見。把握―――認識完了)


 警邏に侵入していた意識を戻して、たった今得たばかりの情報を整理する。

 それは警邏第四番隊本部施設のマップに関する情報だ。今俺のいる階が地上八階で、目的の電脳管理室が十階。また、第四番隊隊長の司令室と複数の会議室が密集しているのが九階。


「鉢合わせになったら面倒だな」


 警邏の本部施設といっても、施設中に警邏が配備されているわけではないはずだ。警邏が特に集中するのは、出入り口のある一階に、サーチライトで監視を行う最上階、隊員の宿舎と食堂がある五階と六階、そして九階だ。

 さすがに電脳管理室の周辺の警備を手薄にするほど警邏も甘くないはずだ。どちらにせよ戦闘は避けられない。でも、万が一に備えてこの眼をできるだけ使わずに事を進めたいというのが本音だ。

 何か良い方法はないか。少し思考を巡らせ、俺は警邏から得た情報の中に、全ての階を貫く非常用の螺旋階段があったことを思い出す。確か、この通路の果てにその扉があったはずだ。決まりだ。


 俺はその瞳の光彩を弱めることなく、螺旋階段へと走りだした。


少年の能力の詳細は少しずつ明らかにしていく予定です。

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