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復讐讃歌 〜青き瞳が世界を塗り替えるまで〜  作者: 抹茶堂
序章「仮面を被りし者」
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電脳管理室

 幸い螺旋階段には警邏の人影は見当たらず、誰にも遭遇することなく目的の十階に辿り着くことができた。

 さっきからずっと警報が鳴り響いている。この分だと電脳管理室の警備も厚くなっているかもしれない。


 頭の中のマップを拡大し、複数ある経路の中から効率的なルートを選ぶ。

 そして電脳管理室の扉がある通路に出る一つ手前の曲がり角で足を止め、角の向こうをこっそりと覗き込む。

 予想に反して、扉の前には警邏一人しかいなかった。

 俺は身を低くし、息を潜め、隼の如く間合いを詰める───なんて大袈裟なことはしない。あくまで自然体で、散歩に出かけるかのようにふらりと曲がり角を曲がる。たいしたものだ。視界の端で俺の姿を捉えたのだろう。俺が三歩も進まないうちに、俺の存在に気付いたようだった。

 だが、何の問題もなかった。気づくのが早かろうが遅かろうが全ては無意味。むしろ、俺に早く気付いてしまったせいで、彼は電脳管理室の警備を容易に破られることになるのだから、逆効果と言うべきかもしれない。


 声をあげられる前に俺は視る。

 警邏のブラウンの瞳を。

 光り輝く青の瞳で。


(侵入完了。警邏隊員一名の意識を掌握。催眠状態に移行)


 さっき八階で気絶させた二人と違って、今意識を乗っ取った警邏には催眠をかけることにする。俺は視ることにより彼に命じた。


(命令は速やかな電脳管理室の制圧及び占拠。その後、意識を切断し催眠終了)


 催眠状態に陥った警邏はすぐに電脳管理室の中へと消えていった。

 俺は扉に歩み寄り、聞き耳を立てる。

 男の話し声が聞こえた後、鈍い打撃音と叫び声が小さく響く。

 ここで俺も部屋に足を踏み入れることにする。先ほどたった一人の警邏で制圧できるほど電脳管理室内の連中も弱くはないだろう。

 扉が開かれると、そこには倒れ伏す男が三名とそのそばに立ち尽くす男が二名。催眠をかけた警邏とのリンクが途絶えているから、今立っている二人は彼が制圧しきれなかった警邏だろう。


「所詮、警邏一人じゃこの程度か。まあ、大して期待してなかったが」


 残りの警邏二名と対峙する。

 彼らには聞きたいことがあるから、すぐに気絶させたりはしない。


「貴様、侵入者か!そこを動くな!」


 彼らは険しい表情をして俺に拳銃を向ける。

 これでは会話にもならない。俺は両手を挙げて、こちらに戦闘の意思はないという偽りのジェスチャーをする。

 すると、何故か彼らは驚愕の表情を見せていた。

 声にならない声を無理やり口にしている通った様子で彼らの一人が口を開いた。


「あ、あ、きき、貴様の、そ、その眼。まさか、こ、光眼使い、か」


 俺は答えない。代わりにもう一人の警邏が答えた。


「お、落ち着け!見れば分かるだろ!この青く光る瞳。間違いない。し、しかも、こいつはただの光眼使いじゃな───」


(侵入完了。警邏隊員二名の意識の切断を実行)


 拳銃を向けただけで俺を止めたつもりだったのか、とにかく間抜けな奴らで手間が省けた。

 電脳管理室の制圧はすぐに終了した。

 扉を閉め、気絶した警邏の体で即席のバリケードをつくる。


「さて、始めるとするか」


 電脳管理室は一言でいうなら、この第四番隊本部施設とその支部にあたる駐屯所の全コンピューターネットワークを制御・管理する部屋だ。部屋を入ると正面に大きなモニターがいくつも並び、その下にはネットワークを制御するキーボードの類やレバー、タッチパネル等が設置されている。

 俺は一番中央のモニターに近づき、その下のタッチパネルの画面を凝視した。

 光眼はその瞳に宿す色彩によって扱える能力が異なるが、俺の持つ青の光眼の能力は『侵入』だ。あらゆる対象の内面世界に侵入して、思うがままに操作・支配することができる。もちろん、能力の限界は存在する。俺には内面世界、いわゆる意識に侵入して相手の意識を切断することや情報を読み取ること程度しかできない。催眠もできるが簡単な命令しかできず洗脳レベルの催眠は不可能だ。

 また、内面世界というのは何も人間に限った話ではない。コンピューターの内面世界であるネットワークにも侵入ができる。いわゆるハッキングだ。

 意識が脳から瞳へ、そしてネットワークへとダイブする感覚。意識が加速し世界が震えるような不思議な感覚に襲われる。

 

(侵入完了。警邏第四番隊ネットワークの掌握開始───完全掌握まであと少し───完了)


 人間の意識に侵入するのとコンピュータネットワークに侵入するのとでは脳の感覚が大きく違う。人間の意識が小さな水たまりだとしたら、ネットワークは膨大な情報の海に漂う感じだ。ゆえに確固たる精神力がないと自分の意識を見失ってしまい、意識遭難を起こす危険がある。


 今回、俺が本部に侵入した目的は二つ。

 一つは、とある情報の入手。

 俺はネットワークを駆け巡り、情報の海からそれを探し出そうと試みる。


(ノード財団に関する情報を検索開始───該当件数ゼロ。

 エリア1に関する情報を検索開始───該当件数ゼロ。)


 該当件数ゼロだと。しかも両方とも。そんな馬鹿な。

 エリア6のネットワークでも同じ結果だった。これはもう、一つの結論に至らざるを得ないようだ。

 まあいい。この事実が発覚しただけでも十分な収穫だ。

 もう一つの目的を果たすとしよう。少なくともこの目的は、もうこうやって侵入してしまっている以上、果たせないわけがないのだから。


(ネットワークの中枢ゾーン、『コア4』にアクセス開始───完了。『コア4』の破壊及び全データの消去開始───消去完了まであと少し───消去完了)


 突然、世界が崩壊していく感覚に襲われる。コアを破壊した影響だ。

 俺は意識を脳に戻した。

 この時、扉の向こうが騒がしいことに初めて気付いた。

 もう電脳管理室に俺が侵入したことがばれているようだ。

 やれやれだ。毎度毎度のことだが、結局最後は警邏と戦闘する羽目になる。もっと隠密に侵入して破壊することが理想だがなかなか現実は思うようにいかない。

 まあ、だからといって奴らを倒すことを億劫に感じたり、ましてや罪悪感を抱くなんてことはあり得ない。戦闘を避けたいというのはあくまで計画をスムーズに進め、一日も早く復讐を完遂するためだ。

 奴らの着ている警邏専用の制服を見る度に、溢れ出そうとする殺意と怒りを抑えるのに俺がどれだけ神経を注いでいることか。

 今にも蹴破られそうな扉に近づき、吐き捨てるように呟く。


「貴様ら警邏をいくら殺したところで俺の復讐が成就するわけではない。それが貴様らの生かされている唯一の理由であることを忘れるな」


 警邏数名程度の掃討など光眼を使えばすぐに済む。

 電脳管理室の前に群がっていた警邏を排除した俺は、一番近くにある窓に向かった。外に出られさえすれば脱出は可能だ。リグレジアにある建築物の性質上、配管はどこにでもある。実際、侵入する前に偵察してみたが本部の四方すべてに隣接する高層ビルとつながる配管が確認できた。


 脱出できそうな窓を発見。窓を開けて、左斜め下にあった配管に向って跳躍。無事着地する。あとは、街中のビルとビルを蜘蛛の巣のようにつなげ、所狭しと建物の隙間を埋め尽くしている配管をつたって逃走するだけ。そんな甘い考えが俺の脳裏を過った瞬間だった。

 一つだけではない、複数のサーチライトが一斉に俺に向けられた。

 大量の光に照らされて視界が真っ白になる。肌が焼けそうなくらい熱い。

 リグレジアの夜の闇は纏わりつくように濃く重い。ライトの突き刺すような輝きは、闇の中で生きている俺を射止めるには十分すぎるほど強烈だった。

 顔は仮面で隠されているから正体がばれる心配はないが、このままでは警邏に追いつかれてしまう。

 まずい。すぐに逃げなくては。

 俺が慌てて配管を駆けようとした時だった。

 まだ視界が完全に復活していなかった俺は、それの存在を耳で察知した。


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