エピローグ
「どういうことですか!」
ソフィアの怒声が、ヴィンセントの屋敷に響いた。
両耳を塞ぎながら、ヴィンセントは首を傾げる。
「えっと……何か、問題あったかな?」
ヴィンセントの態度が本当にわからないというものだったから、ソフィアは更に声を荒げた。
「問題しかないですよ! これどういうことですか!?」
そう言ってバンとテーブルの上に一枚の通知書を叩きつける。
それには『廃嫡』の二文字が踊っていた。
ソフィアではない。
そこにはきっちりと、ヴィンセントの名が書かれていた。
「どうしてこんなことになるんですか!? というか何したんですか!?」
「えっと……話せば長くなるけど、良いかい?」
「ヴィンセント様なら短く出来るでしょう」
「わかった。じゃあ事実だけ端的に伝えようか」
「お願いします」
「伯爵家代々伝わる秘宝をオークションに売り飛ばしたらマジギレされた」
ソフィアはきょとんとした顔をしてヴィンセントの顔を見つめる。
ゆっくりと眼鏡をはずし、目頭を抑えた。
耳で聞いたはずなのに、目の錯覚を疑った。
そのくらい、意味がわからなかった。
「……すいません。もう少し、その……結論だけではなく、言葉を足して意味を理解出来るようにしてください」
「わかった。と言いたいんだが……事実はそれだけだしな。あ、秘宝について詳しく説明しようか? ホーリーグレイルって言うんだけど……」
「気にはなりますが、本筋の説明をお願いします。どうしてオークションになんて……」
「理由は二つ。金が必要だったからと、公的に売ったという証明が欲しかったから」
「お金はわかりますが……証明? 百歩譲って盗んだとしても、証拠が残るのはまずいのでは……」
「逆だよ。証拠がないと不味いんだ。ちなみに、国王もグルだ」
「ぶーっ!? は、はい!? どうして陛下が!?」
「以前ちらっと言ったけど、おれ……こほん。私の家というのは家族仲が好ましくなくてね」
「あ、私相手なら気にせず普通にしゃべって良いですよ? それ以前にどうして話し方を変えたんです? 王宮内で働いていたからですか?」
その質問はよほどバツが悪かったのか、困った顔でヴィンセントはそっぽを向いた。
「……内緒です」
「えー! どうしてですかー?」
「ま、まあ良いだろう別に。話を戻すぞ。私は元々家族仲が好ましくなく、機会があれば離れたいとさえ思っていた。だから国王と相談し、一番良い形になるよう調整し、話し合って、その結果が国宝オークションだ」
「あれ? 伯爵家秘宝が国宝にランクアップしてません?」
「元々王家の秘宝を譲り受けたものだからな」
「とんでもない罪状になってません?」
「なったな。だからこそ、事実上の追放だ。いや、うまくいって良かった」
「なんでそんなことを……」
その言葉を聞いて、ヴィンセントはバツの悪そうな顔をした。
「……私は君に、許されざることをした」
「いや、それはもう別に……」
「君がどう思おうと、私は許されてはならない。奴隷となり、君に一生をかけ償うと決めた。そんな私は本来こんなことを願ったらいけないし、口にすることさえ許されない。だから、これから言うことは大変傲慢で、最低で、我ながら外道だと思うが……聞いてくれないだろうか?」
「は、はい! 何でも聞きます」
ごくりと唾を飲み、真剣な面持ちとなりソフィアはヴィンセントを見つめた。
ヴィンセントは、言いづらそうにしながら、短く、そして間接的に、自分の望みを口にする。
「王家に連なるグレイス伯爵家は、王の遠縁か他国の姫君以外と婚姻が許されない。それが嫌だったから、私は身分を捨てた」
ソフィアは少しの時間言葉の意味を考える。
理解出来た時、その顔は真っ赤になった。
「……誕生日に渡せず、大分遅くなったが……受け取ってくれるだろうか?」
そう言って、ヴィンセントはネックレスを取り出した。
ヴィンセントの表情はいつもと変わらない。
けれど、見てわかる程度には耳が赤くなっていた。
ソフィアは少しだけ微笑んだ後、恥ずかしそうに頭を彼の方に傾ける。
ヴィンセントは彼女の首に手を回し、慣れぬ手つきでネックレスを付けた。
これにて完結となります。
二人の始まりを楽しんでいただけたでしょうか?
もし面白かったと思いましたら、ブクマ評価の程なにとぞよろしくお願いします。
広大なネットの本棚にて、またどこかであなたと巡り合えますこと、心よりお待ちしております。




