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レイクス戦記  作者: ゆう
第1章「解放戦線編」

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第5話「師との再会」

第5話「師との再会」


 フォルネリア辺境侯国の国境を越え、一行が足を踏み入れたのは、精霊の気配が色濃く漂う「深森しんしん」だった。大気はしっとりと冷たく、木々の隙間からは時折、淡い光の粒が舞い上がる。

「……ここなのか? レイクス。こんな森の奥深くに、君を鍛えた師匠が住んでいるなんて」

 背後で馬を引くリースバルトが、心細げに周囲を見渡す。騎士候補生たちは森の入り口で待機させ、レイクスとリースバルトの二人だけで分け入っていた。

「黙ってついてこい。……案内はこれで終わりだ」

 レイクスが足を止めた先には、巨大な古木の根元に同化するように建てられた小さな石造りの工房があった。屋根からは紫色の煙がたなびき、時折「パチパチ」と不穏な音が漏れ聞こえてくる。

「師匠。……入るぞ」

 レイクスが扉を開けた瞬間——。

「きゃっ!? ちょっと、今いいところなのよ、この配合が——っ!」

 **ドォォォォォン!!**

 轟音と共に、工房の窓から真っ黒な爆煙が吹き出した。

 唖然とするリースバルトの目の前で、煙の中から一人の女性が這い出してきた。

 銀緑色の長い髪は毛先が少し焦げ、翡翠色の瞳には涙が浮かんでいる。深緑色のローブを纏った彼女は、顔を煤で汚しながらも、その立ち居振る舞いには隠しきれない神秘的な威厳が宿っていた。

「……あいたたた。やっぱり竜の髭は三ミリじゃなくて二ミリだったかしら……。あら? レイクスじゃない」

 リランダは煤けた顔のまま、レイクスを見てポカンと口を開けた。だが、その視線が隣に立つリースバルトへ移ると、途端に鋭い光を宿す。

「……レイクス。あなた、何てことしてくれたの。余計な人間おまけを連れてくるなんて、私の隠れ家が隠れ家じゃなくなるじゃない」

「俺の意志じゃない。こいつが勝手についてきただけだ」

 レイクスが渋面で答える間も、リースバルトは呆然と工房の残骸……もとい、リランダの「爆裂魔法」の跡を見ていた。周囲の地面は抉れ、頑丈なはずの石壁が消滅している。

「……今のは、爆裂魔法……ですか? 詠唱もなしに、これほどの出力を……?」

 リースバルトの驚愕に、リランダは「あら、失礼ね。これは魔法じゃなくて、ちょっとした錬金術の事故よ」と服を叩いた。彼女は不格好に転びそうになりながらもリースバルトに歩み寄り、その顔をじっと覗き込む。

「ふうん……。アルカディアの若造ね。……面白い目をしているわ。真っ直ぐすぎて、いつかポッキリ折れてしまいそうだけど」

 リランダの評価に、リースバルトは背筋を正した。彼女の纏う魔力の重みが、並の魔術師の比ではないことを本能で悟ったのだ。

 工房の中に招き入れられた一行(といっても、爆発で椅子の一つが消し飛んでいたが)は、リランダが淹れた苦い薬草茶を前に腰を下ろした。

「それで? 坊やを一人連れてきたってことは、あなたもようやく『解放戦線』に参加する気になったのかしら?」

 リランダの問いに、レイクスの指がぴくりと動いた。左手の指輪を無意識に撫でる。

「……俺には関係ないことだ。人間が魔族を追い出すのも、魔族が人間を支配するのも。俺はそのどちらでもない」

「相変わらずね。でも、本当に関係ないと言い切れる?」

 リランダの翡翠色の瞳が、レイクスの内側を見透かすように細められる。

 一瞬、レイクスの脳裏に、閉じ込めていた記憶の断片がほとばしった。

 KR0年。黒い雷雨が大陸を覆ったあの夜。空は不気味な紫に染まり、地平線の彼方から迫り来る火と闇がすべてを呑み込んでいった。

 母の、冷たくなった手。

 逃げ惑う人々を、ゴミのように蹂躙する魔王の軍勢。

 魔王ザガル=モルドの影が大陸を覆い、誇り高かった国々が瞬く間に灰へと変わった、あの絶望の感触。

 五十年前。まだ自分の中に「子供」の心が残っていた頃の、痛み。

「……過去は、ただの記録だ。俺を動かす理由にはならない」

 レイクスが吐き捨てると、リランダは深く溜息をつき、茶を飲み干した。

「強情な子。……まあいいわ。でもね、あなたがどう思おうと、運命はあなたを放っておかない。……近いうちに、ここへ『解放戦線』の使者がやってくるわ」

 リランダの言葉に、リースバルトが身を乗り出した。

「使者!? それは、反抗軍の幹部ということですか?」

「ええ。アルカディアからも重要人物が来るはずよ。……レイクス。あなたは『掃除』が得意だと言っていたわね。だったら、その力をどこで使うべきか、少しは考えなさい」

 リランダの声には、師としての厳格さと、どこか慈しみのような響きがあった。

 レイクスは何も答えず、窓の外、深森の奥に広がる静寂を見つめていた。

 新たな嵐の予感が、精霊たちの囁きと共に森を揺らし始めていた。

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