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レイクス戦記  作者: ゆう
第2章「不滅の系譜」

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第9話「南翼将ドラマの疫砂」

第9話「南翼将ドラマの疫砂」


 KR70年代後半。エルディナ聖王国の南端、肥沃な大地を誇る国境沿いの村々は、かつてない絶望に包まれていた。

 空はどんよりとした鉛色に濁り、乾いた風が運ぶのは、喉を灼き肺を腐らせる不吉な砂――「疫砂」だ。一度吸い込めば熱に浮かされ、数日で命を落とす。この不可解な病の蔓延は、ついにエルディナ聖王国の王都リュミナへも報告が届く事態となった。

 砂塵に沈む街道。そこに、風に銀髪をなびかせる少年が立っていた。

「レイクス、今回は珍しく早かったわね。いつもはもっと『俺の範囲外だ』とか言って渋るのに」

 傍らで魔導書をめくり、浄化の結界を維持しているリランダが、少し意外そうに声をかけた。レイクスは表情を変えず、ただ前方の砂の壁を見つめた。

「エルディナに被害が出た。それだけだ」

「相変わらずね。でも、その『それだけ』のために四翼将の一角を相手にするんだから、村人たちは泣いて喜ぶわよ」

 二人の前方の砂塵が渦を巻き、一人の男が形を成した。砂色の長衣を纏い、顔を砂布で覆った無機質な存在。四翼将が一人、南翼「疫砂王」ドラマ=シハル。その黄金色の瞳には、憎悪も歓喜もなく、ただ無慈悲な死の静寂だけが宿っている。

「雷光の半魔族よ……。疫砂は貴様の雷も蝕む。この地の生命いのちが尽きるまで、砂塵は止まぬ」

 ドラマが手を掲げると、周囲の疫砂が意思を持つ大蛇のようにうねり、レイクスたちを包囲した。

「……試してみろ」

 レイクスは腰の剣を抜き、左手の『雷光の指輪ストームリング』に意識を沈める。

 黒雷は使わない。あれは目立ちすぎる。今のレイクスに必要なのは、敵を「掃く」ための冷徹で確実な一撃だ。

「リランダ、封印を」

「任せなさい! 七星封鎖――解除アンロック!」

 リランダの魔力が大地を叩き、ドラマ=シハルを中心とした空間を光の鎖が束縛する。ドラマが操る疫砂の供給源が強引に遮断され、猛威を振るっていた砂の蛇が形を崩した。

「……っ、この程度の呪術……」

 ドラマが砂塵を再構築しようとした瞬間、レイクスが動いた。

 指輪から放たれた白銀の雷光が剣身に吸い込まれ、細かな火花を散らす。

「**『ライトニング・エッジ』**」

 それは魔法と呼ぶにはあまりに静かな、剣技の延長線上の技。

 ドラマは黄金の瞳を細めた。「これだけか?」という侮蔑がその瞳を過る。他の魔将を討ったという黒雷に比べれば、あまりに細く、頼りない一閃に見えたからだ。

 だが。

 次の瞬間、ドラマ=シハルの視界は真っ白な閃光に塗りつぶされた。

 レイクスの剣は、ドラマが砂の壁を築くよりも早く、その喉元を正確に貫いていた。

 指輪の雷は、剣を通じてドラマの体内に直接叩き込まれ、彼の魔力の核を内部から焼き切った。

「……な、ぜ……。たった、これだけの……」

「派手な力だけが戦いではない。七十年、そうやって生きてきた」

 レイクスが剣を引き抜くと、ドラマの体は砂のように崩れ落ちていった。

 術者の死と共に、空を覆っていた疫砂の雲が急速に薄れ、エルディナの空に久方ぶりの陽光が差し込む。

 四翼将のうち、南翼が消滅した瞬間だった。

「……ふぅ。これで一人目ね。ザグラムの部下はねをもぎ取るのは」

 リランダが額の汗を拭いながら、地図を取り出した。

「残るは東のバルガ、西のセリュ、そしてあの食えない幻影のリルか……」

 レイクスは剣の血を払い、鞘に収めた。

 南方の砂漠の先に視線をやり、彼は短く告げる。

「ゆっくりはやれん。次へ行く」

 エルディナを守るため、そして「家」の安寧を盤石にするため。

 雷光の伯爵は、次なる不浄を掃くべく、再び歩き出した。

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