第3話「最初の共闘」
第3話「最初の共闘」
闇に沈む森の奥から、無数の赤い瞳が浮かび上がった。
魔族の偵察部隊——。数は二十を超えている。アルカディアの騎士候補隊にとっては、荷が重すぎる奇襲だった。
「総員、散開! 難民を円陣の内に入れろ!」
リースバルトの鋭い号令が飛ぶ。だが、練度不足の候補生たちは、魔族が放つ禍々しい瘴気に気圧され、足がすくんでいた。そこに、影のような速さで跳躍する下級魔族の一群が襲いかかる。
「くっ、これほどの手際か……!」
リースバルトが剣を振るい、一体を退ける。しかし、側面から回り込んだ別の魔族が、無防備な候補生の背後へと迫った。
「下がれ。死にたいわけではなかろう」
静かな、だが戦場の喧騒を突き通す声が響いた。
次の瞬間、漆黒の稲妻が夜の帳を切り裂いた。レイクスの放った「黒雷」が、空中で魔族を直撃し、跡形もなく消滅させる。
レイクスは抜き放った剣を片手に、無造作に敵陣へと歩み出した。
その姿に呼応するように、リースバルトも再び剣を構える。
「……援護する!」
「勝手にしろ。足だけは引っ張るな」
最初は、二人の動きは噛み合わなかった。リースバルトの理想に燃える無鉄砲な突撃を、レイクスが冷淡に無視するように立ち回る。しかし、魔族の包囲が狭まるにつれ、変化が生じ始めた。
レイクスが放つ「黒雷」が敵の陣形を崩し、生じた隙をリースバルトが正確に突く。五十年の経験を持つレイクスの老練な誘導に、若き騎士の直感が引き寄せられるように重なっていく。
「はぁ、はぁ……すごいな、お前……。呼吸を合わせているわけでもないのに、次の一手がわかる……!」
リースバルトが驚嘆の声を上げるが、レイクスは眉ひとつ動かさない。
最後の魔族を切り伏せ、レイクスは血の付いていない剣を鞘に収めた。その所作には、一分の乱れもなかった。
「お前は……一体何者だ? その剣、その魔力。ただの旅人のそれじゃない」
リースバルトが、切実な眼差しで問いかける。レイクスは月明かりの下で、少年の面影を残した横顔を彼に向けた。
「……ただの旅人だ。それ以上でも、以下でもない」
一拍の沈黙の後、リースバルトは深く頭を下げた。
「レイクス、頼む。俺たちの旅に同行してくれないか。君の力が必要なんだ」
即座に背を向けようとしたレイクスの足が止まる。
本来なら、関わるべきではない。人との関わりは、いずれ喪失の痛みを生むだけだと五十年かけて学んできたはずだった。
(だが、この騎士の目は……あの時見た理想主義者たちとは、少し違う)
内面で渦巻く孤独な諦観の隙間に、奇妙な好奇心が混じる。
「……少しだけだ」
レイクスの短い返諾に、リースバルトの顔がぱっと明るくなる。
こうして、大陸の歴史を大きく変えることになる、異質な二人の共闘が幕を開けた。




