第2話「剣の誓い、義の騎士」
第2話「剣の誓い、義の騎士」
雨が上がり、湿った土の匂いが立ち込める中、一団の騎馬隊がレイクスの前で足を止めた。
先頭に立つのは、燃えるような意志を瞳に宿した黒髪の青年だ。彼は馬を降りると、泥に汚れた難民たちの惨状と、その中心で淡々と佇むレイクスを交互に見た。
「君が……この惨状から彼らを救ってくれたのか?」
青年は、外見年齢十五歳ほどのレイクスを見て、迷わず「少年」に向けるような声音で問いかけた。その背後に控える騎士候補たちも、魔族を退けたのがこの小柄な放浪者だとは信じがたいといった表情を浮かべている。
「……礼なら、あそこに転がっている魔族の死骸に言うがいい」
レイクスは感情を排した声で短く答えた。その所作には、少年の瑞々しさなど微塵もなかった。落ち着き払った視線と、重みのある言葉の響き。青年の顔に困惑が広がる。目の前にいるのは「少年」ではなく、戦場を幾度も潜り抜けてきた熟練の士であるかのような錯覚を覚えたからだ。
「失礼した。俺はアルカディアの騎士候補、リースバルト・マルターレスだ」
青年——リースバルトは姿勢を正し、真摯に名乗った。
彼はそのまま、熱っぽく語り始める。「俺たちは、魔族の支配からこの大陸を、人々を解放するために剣を執った。君のような腕利きの協力者がいれば……」
「理想で人は救えない」
レイクスがその言葉を冷たく遮った。
「力だけが現実を変える。五十年の間、俺はそれだけを見てきた」
リースバルトの顔が、僅かに強張る。二人の間には、青臭いほどに熱い理想と、半世紀の絶望に裏打ちされた冷徹な現実が、激しく火花を散らした。
その夜、彼らは街道沿いの広場で野営を組むこととなった。
焚き火の爆ぜる音が響く中、リースバルトは一本の練習用の剣を手に、レイクスのもとへ歩み寄った。
「納得がいかない。君の言う『力』というものが、どれほどのものか……俺に教えてくれないか」
騎士候補たちの見守る中、即席の仕合が始まった。
リースバルトの動きは、十八歳の若者らしく俊敏で、その一撃一撃には迷いのない正義が込められていた。しかし、レイクスの視点から見れば、それはあまりに脆く、無防備だった。
レイクスは最小限の動きでその剣筋をいなすと、一気に踏み込み、リースバルトの喉元に抜き放った剣の切っ先を突きつけた。
「……速すぎる」
リースバルトは息を呑んだ。そこにあるのは、単なる技術の差ではない。何十年もの間、死線を踏み越え続けてきた者だけが持つ、圧倒的なまでの「経験」の重みだった。悔しさが彼の顔を歪めたが、同時にその瞳には、レイクスへの拭い難い尊敬の念が芽生えていた。
剣を収めたレイクスが、森の奥へと視線を向ける。
老成した感覚が、静寂の中に混じる異質な殺気を捉えていた。
「来るぞ。客だ」
闇の向こうから、魔族の偵察部隊が這い寄る気配が、確実に近づいていた。
**第3話「最初の共闘」へ続く**




