第12話「スターレットの誓い」
第12話「スターレットの誓い」
遺跡の出口、冷たい風が吹き抜ける回廊に、魔族の親衛隊が放つ殺気が充満していた。
先頭に立つのは、魔将の力を色濃く分かたれた中級魔族。その異形な爪が石床を削り、耳障りな音を立てる。
「逃がさぬと言ったはずだ。その剣、我が主に捧げる貢物に相応しい」
魔族の突撃。だが、その瞬間に爆ぜたのは闇を切り裂く「星の輝き」だった。
「——させない! 守るための力が、ここにある!」
リースバルトが踏み込む。手にした魔剣スターレットの刀身から、白銀の光が溢れ出した。
伝説の鍛冶師ラマダンが込めた「清き心が光を宿す」という術式が、リースバルトの淀みなき意志に呼応している。彼が剣を振るうたび、軌跡には星屑のような燐光が舞い、魔族の放つ瘴気を浄化していく。
その様子を、レイクスは「黒雷」を指先に纏わせながら無言で観察していた。
以前までのリースバルトの剣は、ただ速く、ただ鋭いだけだった。だが今は違う。スターレットという「器」を得たことで、彼の内にある正義が明確な「形」を成していた。
「……ようやく、形になったか」
レイクスが短く呟くと同時に、自らも影のように跳んだ。
リースバルトがスターレットの光で敵の目を逸らし、その死角からレイクスが「黒雷」の一撃を叩き込む。
言葉を交わす必要はなかった。五十年の経験を持つレイクスが、リースバルトの動きの先を読み、完璧なタイミングで追撃を入れる。若き騎士の直感と、老練な戦士の経験——相反する二つの力が、戦場で一つの完成された円を描いていた。
最後の魔族を切り伏せ、静寂が戻った遺跡の入り口で、リースバルトは肩で息をしながらスターレットを鞘に収めた。その指先は微かに震えていたが、瞳の光はかつてないほど力強い。
「レイクス……。俺、決めたよ」
リースバルトは、遥か南方に霞むアルカディアの空を見つめた。
「俺はこの剣、スターレットと共に歩む。そして、魔王の影に怯えるアルカディアを必ず解放してみせる。それが、この力を託された者の責任だ」
「責任、か。……言葉にするのは容易だが、背負い続けるのは地獄だぞ」
レイクスは冷たく突き放すような言葉を吐く。しかし、その視線はリースバルトを真っ直ぐに捉えていた。
「だが、その誓いが嘘でないというなら……俺がその最期まで、証人になってやる」
「ああ。見ていてくれ。マルターレスの名にかけて、俺は義を貫く」
リースバルトが口にしたその言葉。それは後に、彼が興すマルターレス家の家訓——**「功により栄え、義により在る」**という誇り高き指針の、最初の種火となった瞬間だった。
その時、空を裂く一筋の信号弾がアルカディアの方角から上がった。
解放戦線独自の、全軍召集の合図だ。
「来たか……」
レイクスが目を細める。
リランダが背後から駆け寄り、真剣な面持ちで二人を見た。
「のんびり誓い合ってる時間はなさそうね。解放戦線の本隊が動き出したわ。作戦名は『アルカディア奪還』。……いよいよ、この大陸の命運が決まる戦いが始まるわよ」
レイクスは無言で歩き出した。
五十年前、炎に包まれた故郷。
そこへ再び戻る時が来たのだ。今度は、一人ではなく。




