第11話「魔剣の遺跡へ」
第11話「魔剣の遺跡へ」
アルカディアから数日、一行は魔族の支配が色濃く残る北方の辺境、切り立った岩壁に隠された古代遺跡の前に立っていた。
「ここよ。伝説の鍛冶師ラマダンが、魔王の軍勢に対抗するために打ったとされる遺産——魔剣『スターレット』が眠る場所。古文書の記述通りならね」
リランダが銀緑色の髪を指先で弄びながら、翡翠色の瞳を輝かせる。彼女が入手した情報によれば、この遺跡は古代魔法の防護機構によって、五十年間、魔族の略奪からも守り抜かれてきたという。
「魔剣スターレット……。今の俺に、それを手にする資格があるだろうか」
リースバルトが、緊張した面持ちで腰の剣の柄を握りしめる。レイクスはその様子を、冷めた、だがどこか見守るような瞳で見つめていた。
「資格など、手にした後に証明すればいい。……行くぞ、時間は無限ではない」
レイクスを先頭に、三人は暗い遺跡の内部へと足を踏み入れた。
遺跡内部は、精緻な古代の術式が今なお拍動を続けていた。
壁面に刻まれたルーン文字が、レイクスの魔力に反応して青白く明滅する。しかし、その神秘的な雰囲気は、すぐさまリランダの悲鳴によって破られた。
「あいたたっ!? ちょっと、この床、動くなんて聞いてないわよ!」
リランダが装飾の施されたタイルを踏んだ瞬間、床がスライドし、彼女の足元から無数の矢が飛び出した。
「師匠、動くな!」
レイクスが即座に反応し、指先から放った極小の「黒雷」で矢をすべて叩き落とす。間一髪で助かったリランダは、「も、もちろん計算通りよ。トラップの感度を確かめただけなんだから」と煤けた顔で強がるが、そのローブの裾は無残に破れていた。
その後も、リランダが「あ、この宝石綺麗ね」と触れた瞬間に天井が崩落しそうになったり、隠し扉を開けようとして逆に三人を水牢に閉じ込めかけたりと、彼女の「ドジ」が古代の防護機構を次々と起動させていく。
「……リランダ、お前はもう俺の背中から一歩も動くな」
「うう、厳しいわね……。でもレイクス、あんたの対応力、五十年前より上がってるじゃない。さすがね」
呆れるレイクスだったが、リランダの引き起こす混乱をリースバルトが必死に剣で捌き、レイクスが魔法で制圧する。その奇妙な連携は、実戦さながらの緊張感と、どこか奇妙な信頼感に満ちていた。
遺跡の最深部。
そこは、星明かりを閉じ込めたような鉱石が埋め込まれた、広大な円形の間であった。
中央の台座に、一本の剣が突き立てられている。
鞘はなく、剥き出しの刀身は磨き上げられた鏡のように澄み渡り、そこには無数の星々が瞬いているかのような輝きがあった。
「あれが……スターレット」
リースバルトが息を呑む。
台座の背後にある石碑には、古代文字でこう刻まれていた。
『——邪な心を持つ者、これを手にすること能わず。清き魂と、明日を拓く意志持つ者のみが、この星を戴くであろう』
レイクスは台座の前で足を止めた。
彼の中に流れる魔王の血。それは、この清浄な輝きを放つ剣に対して、本能的な拒絶を感じさせている。だが同時に、天使の因子がその輝きに共鳴し、胸の奥を締め付けた。
「俺ではない。……リースバルト、お前が行け」
「俺が……?」
「お前の剣にはまだ形がないと言った。だが、お前にはこの腐敗した世界でさえ信じようとする、愚かなほどの清さがある。それは俺がとうの昔に捨てたものだ」
レイクスの言葉に背中を押され、リースバルトはゆっくりと台座へ歩み寄った。
彼が震える手を伸ばし、その柄に触れる。
その瞬間、遺跡全体が震えるほどの光が溢れ出した。
剣はリースバルトの魂を検めるように激しく明滅し、やがて彼の魔力と完全に同調する。
「……軽い。まるで、最初から俺の腕の一部だったみたいだ」
リースバルトが剣を抜き放つと、刀身から溢れる星の輝きが、周囲の闇を完全に払拭した。
レイクスは、その光の中に立つ若き騎士の姿を見つめ、無言で頷いた。
(ラマダンの遺産が主を選んだか。……マルターレスの名と共に、この剣はいずれ伝説となるだろう)
それは、五十年の孤独を生きてきたレイクスが、初めて「未来」というものの不確実な希望を感じた瞬間だった。
だが、感慨に浸る時間は短かった。
遺跡の出口へと戻る廊下、入り口から差し込む外光を遮るように、巨大な複数の影が立ち塞がっていた。
「……見つけたぞ。遺跡の結界が解けるのを待っていた甲斐があった」
低く、濁った声。
魔王直属、四大魔将の配下たちが、逃げ場のない通路を完全に封鎖していた。
「リースバルト。手に入れたばかりのその剣、さっそく試させてもらうぞ」
レイクスが静かに腰の剣を引き抜き、左手の指輪が戦闘の予兆に淡く光った。




