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レイクス戦記  作者: ゆう
第5章 幕間:黒銀のローブと誓いの短剣

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第8話:パーティーの反応

第8話:パーティーの反応


 アルカディアの朝、マルターレス家邸の食堂。

 豪勢な銀食器と、焼きたてのパンの香りが漂う優雅な空間の中で、私――ドラグーンのレナは、手つかずのまま冷めかけたハーブティーを前に深く息を吐き出した。

「……改めて考えると、とんでもない子を護衛していたんだな、私たちは」

 私の呟きに、向かい側でトーストを齧っていたナツキが、大袈裟に肩をすくめて応じる。

「いや本当に。まさか『ヴァルトニア家』だなんてね。吟遊詩人が三日三晩歌い続けても足りないような、雲の上の英雄一家じゃない」

「私たち……最初に出会った時は、ただの『お上りさんの新人冒険者パーティー』だって思ってましたよね」

 クロエが犬耳を少ししょんぼりと垂らしながら、スープの皿を見つめる。

「フォルネリアから出てきた、ちょっと魔法が使える世間知らずなお嬢様……。その正体が、大陸最高の血筋だなんて、誰が想像できるっていうのよ」

「私……実はまだ、少しパニックになってます」

 末っ子のエリカは、いつにも増して顔を青くしてスプーンを震わせていた。昨夜、リストール卿が見せたあの畏まった態度と、語られた歴史の重みが、彼女の華奢な肩にはまだ重すぎるのだろう。

「でもさ」

 ナツキがジャムのついた指を舐めながら、窓の外へ視線を向けた。

「ヴィーナってば、全然変わらないじゃん。あんな大騒ぎになって、門番たちが土下座までしたっていうのに……当の本人は、今朝も普通に『なんでみんな謝ってるの?』って顔して庭を散歩してるし。あれこそがヴィーナだな、って思ったよ」

「……そうだな。その揺らぎのなさが、彼女の最大の強さかもしれない」

 私は、庭園でゼム・バルゼノアと話し込んでいる白いローブの背中を遠目に見る。自分を取り巻く状況がどれほど劇的に変化しても、彼女の芯にある純粋さは一向に摩耗しない。

「あの……」

 エリカが小さな声で口を開いた。

「実は、最初から少しだけ気になっていたんです。ヴィーナちゃんの聖魔法……使い方が、どこか普通じゃないなって。教科書通りじゃないのに、すごく温かくて、深いところから溢れてくるような感じがして……。だから昨日、ヴァルトニア家のお嬢様だって知った時、驚きよりも先に『やっぱり』って思っちゃったんです」

「エリカ、気づいてたなら言ってよ!」

 クロエが身を乗り出すと、エリカはブンブンと首を振って否定した。

「言えるわけないですよ! あ、あなたもしかして、あの伝説の伯爵家の娘さんですか? ……なんて、そんなの失礼すぎるじゃないですか!」

 その必死な様子に、テーブルにはわずかな笑いがこぼれた。

 だが、その後の静寂は少し重い。

「これから、どうなるんだろうな。ヴィーナが自分の家の真実を知り、エルディナで本当の『立場』に戻った時……彼女の中で変わってしまうこともあるかもしれない」

 私は年長者として、避けて通れない懸念を口にした。

 貴族としての義務、血脈の重圧。それらが彼女の自由な翼を折ってしまわないか。

「大丈夫だよ、レナさん」

 ナツキが力強く断言する。

「ヴィーナは変わらないって。家がどうとか、お父さんが伝説の人だとか、きっと最後には笑って吹き飛ばしちゃうよ」

「そうですね。変わらないことが、ヴィーナ様の強さであり、私たちが惹かれたところですから」

 クロエも同意するように頷く。

 その時、食堂の扉が勢いよく開いた。

「みんな! ゼムさんが一緒にエルディナまで来てくれるって!」

 当のヴィーナが、朝の光を背負って飛び込んできた。その後ろには、巌のような表情を崩さないものの、どこか敬意を孕んだ眼差しのゼムが控えている。

「えぇっ!? あの老兵ゼムさんが護衛に!?」

 ナツキが口を開けて驚く。

「……ますます、一介の冒険者パーティーとは思えない布陣になりますね」

 クロエが苦笑いする。

「ひ、一気に目的地までの緊張感が……」

 エリカは再び椅子の上で小さくなった。

 私は立ち上がり、ヴィーナの元気な顔を見て、ようやく自分も笑みを浮かべることができた。

「そうか。それは頼もしいな。……よし、それじゃあ出発の準備をしよう。お父さんの待つ、エルディナへ」

「うん! 出発だよ!」

 ヴィーナの無邪気な声が、朝の食堂に響く。

 彼女の旅は、まだ「何も知らない」まま続けられている。

 けれど、その隣を歩く私たちの決意は、昨日までとは比べ物にならないほど、強固なものへと変わっていた。


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