第20話「再会の約束」
第20話「再会の約束」
風が止まり、世界が静止したかのような午後だ。
俺は、淡い金髪を揺らして歩く少女を連れて、再びあの場所へと向かう。
巡礼村の片隅。名もなき石碑が、かつて俺が愛した女性の眠る場所だ。
百七十年前、俺はこの場所で、彼女の魂が空へと還るのを見送った。そして十五年前、彼女の面影を宿した魂が、再び別の命として芽吹くために俺の中から旅立っていった。
「……ここに来たかったんです」
セリスが、柔らかな声で呟く。蒼に翠を帯びた瞳が、静かに墓碑を見つめている。
「……俺もだ」
俺は墓碑の前に立ち、ゆっくりと膝をつく。
指輪に宿る雷光が、今は静かに、祈りを捧げるかのように凪いでいる。
「……来たぞ、セラ」
俺は墓碑に向かって、心の中で語りかける。
「……お前が新しく命を授かった、このセリスと一緒に来た。……それに、あの時二人で見つけたヴィーナも、今は立派に成長して、この家の主として元気にやっているぞ。……ようやく、こうして報告できる。……ありがとう」
その言葉を口にした瞬間、冷たい石碑が、一瞬だけ陽光に照らされて温かく輝いた気がした。それは、長い旅路を歩んできた俺への、彼女からの最期の返信なのかもしれない。
私は、墓碑の前で静かに手を合わせ、目を閉じます。
胸に下げた自作の香草袋から、懐かしい香りが立ち上ります。
(……セラさん)
心の中で、その名をお呼びします。
私の中に残る、断片的な夢の記憶。焚火の温かさ、雷の光、誰かを愛おしく思う気持ち。それらはすべて、あなたが大切にしていたものなのですね。
「私はあなたじゃありません。姿も、名前も、今の人生も、すべて私自身のものです。……でも、あなたが願ったことを、私は引き継ぎます」
私は、隣で俯いている、若すぎる外見をした英雄を見つめます。
「この人を、守ります。あなたが守りたかったけれど、守りきれなかった時間の分まで。……彼に、もう二度と独りの夜を過ごさせはしません。……よろしくお願いします、セラさん」
祈りが終わって顔を上げると、身体がふわりと温かい空気に包まれていることに気づきます。
「……不思議ですね。ここに来ると……とても温かい気がします」
「……そうだな。お前が、ここにいるからかもしれない」
「おとうさん! セリスさん! 見ーつけた!!」
感傷的な空気を一気に塗り替える、快活な声。栗色の髪を弾ませながら、ヴィーナが全力で坂を駆け上がってくる。
「ヴィーナも一緒に行く!」
「……どこへ」
「えっ? お父さんたち、どこ行くの?」
「……お前が今、決めたんじゃないのか」
「じゃあ! ご飯! みんなで食べに行こう! お祝いだよ、お祝い!」
ヴィーナの提案に、セリスは思わず声を上げて笑う。
「ふふ、大賛成です、ヴィーナ」
「……やれやれ。わかった。邸に戻ろう」
ヴァルトニア邸への帰り道。三人で歩く道すがら、ヴィーナが弾んだ声でセリスに詰め寄る。
「セリスさん! ヴァルトニア家の説明、まだ全部してもらってないよ!」
「では、今日から一緒に学びましょう。私も、まだまだ知らないことばかりですから」
「やった! 猛勉強して、おとうさんより詳しくなっちゃうもんね!」
「……勝手にしろ」
レイクスはぶっきらぼうに答えるが、その口元は微かに緩んでいる。
邸に帰り着くと、セバス、ゼフィール、アルトミュラーの三人が整列して迎えてくれる。
それは主従の儀礼を超えた、一つの家族が帰る場所へと戻ってきた、静かで温かな光景だ。
【章末エピローグ】
─ KR250年。セリス=ヴァルトニアとして、彼女はこの家に来た ─
─ 185年前に誓った「二度と奪わせはしない」という祈りが、形を変え、今ここに結ばれた ─
─ レイクス=ヴァルトニア。250年の旅路の果てに ─
─ 彼はようやく「守れた」と、心の底から思えるようになった ─
─ そしてその傍らには──自分を慕う娘がいて、愛する妻がいて、揺るぎない忠臣たちがいる ─
〔第5章「再会の約束」完〕
─ そして──物語はまだ続く ─




