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レイクス戦記  作者: ゆう
第5章「再会の約束」

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第19話「誓いの証」

第19話「誓いの証」


 ヴァルトニア邸の大広間に、緊張感と、それとは不釣り合いなほど柔らかな高揚感が満ちていた。

 エルディナ聖王国の実権を握る女帝セレーナとの謁見。本来なら、一介の巫女見習いが同席することなど許されない場だが、今日この場に限っては、彼女こそが主役だった。

 玉座に準ずる豪奢な椅子に座る女帝セレーナが、扇で口元を隠しながら、隣に立つセリスへと視線を向ける。

「ヴァルトニア伯爵。……こちらの方は、いかなる身分として此処におられるのかしら?」

 俺は一歩前へ出た。背後でセバスやアルトミュラー、そして影の中に潜むゼフィールが、その言葉を待っているのを感じる。

「セリス=アルフェリア。……近く、俺の妻になる者だ」

「なっ……!?」

 隣でセリスが、まるで見えない雷に打たれたかのように飛び上がった。淡い金髪を揺らし、その顔は見る間に熟したリンゴのように赤く染まっていく。

「ちょ、レイクスさん!? 今、なんて、ええええ!?」

「……昨日、家に来いと言ったはずだ。それは、そういう意味だ」

 俺が淡々と告げると、遠くの柱の影から「お父さん、プロポーズ上手!!」というヴィーナの野次が飛んできた。

「……うるさい。ゼフィール、あいつを摘み出せ」

 俺の言葉に、セリスは赤面したまま、けれどどこか嬉しそうに俯いた。


 心臓の音が、謁見の間全体に響いているのではないかと思うほど激しく打っています。

 「妻」という言葉の響きが、頭の中で何度も反芻されて、熱が引いてくれません。

 呆然とする私に、ヴァルトニア家を支える三柱の方々が歩み寄ってきました。

「セリス様。ようこそ、ヴァルトニア家へ」

 執事のセバス様が、これ以上ないほど深く、恭しく頭を下げました。

「今日より、この屋敷の主はあなた様でございます。夫人として……何なりと、この老いぼれにご指導ください」

「あ、あの……! 指導だなんて、そんな! 私の方こそ、右も左も分からないので、よろしくお願いします……!」

 私が慌てて頭を下げると、影の中からゼフィール様が静かに囁きました。

「……影はいつも傍に。主と同じく、あなた様をお守りいたしましょう」

 さらに、鋼の巨人のようなアルトミュラー様が無言のまま、地響きがしそうなほど重厚な礼を捧げてくださいました。

 その光景に圧倒されていると、今度は栗色の髪を弾ませたヴィーナさんが、弾丸のような勢いで駆け寄ってきました。

「セリスさん! 私たち、家族になったんだね!!」

「え……家族?」

「だって! お父さんの奥さんになるんでしょ! じゃあ、セリスさんは私のお母さんじゃん!!」

「お、お母さん……っ!?」

 追い打ちをかけるような言葉に、私の顔の温度は限界突破しました。お母さん……。まだ十六歳の私に、こんなに大きな、そして素敵な娘ができるなんて。

 レイクスさんを見ると、彼もまた、珍しく困ったように視線を泳がせていました。


 賑やかすぎる家族(予定)の声を聞きながら、俺はセリスを促して、広間に掲げられたヴァルトニア家の家紋を仰ぎ見た。

 「雷・翼・指輪」――二百五十年前に俺が描き、セバスたちが磨き続けてきた意匠だ。

「……この家紋、素敵ですね」

 セリスが、少し落ち着きを取り戻した瞳でそれを見つめる。

「雷はレイクスさんの力で……翼は女神様の加護……そして、この指輪は」

「……お前との、結びの証だ。かつて失われ、そして今、再び俺の手に戻ってきた誓いの象徴だ」

 俺が指輪ストームリングを見つめながら言うと、セリスは静かに、慈しむような微笑みを浮かべた。

「はい。……今度は、離れません」

 俺たちはそのまま、大広間の正面に飾られた、初代ヴァルトニア伯爵――つまり、二百五十年前の俺を描いた肖像画の前に立った。

「……改めて見ると、この肖像画、すごく怖い顔をしてますね。お父さん、怒ってるみたい」

 セリスの言葉に、俺は苦笑した。当時は世界すべてを敵に回しても彼女を守ると、尖りきっていた頃だ。

「……そうか。自分では精一杯格好をつけていたつもりだったんだがな」

「でも……目が優しいです。悲しいくらいに、誰かを想っている目……。こういう人だったんですね、ずっと」

「でしょ!! お父さん、昔から不器用なんだから!」

 後ろからヴィーナが当然のように会話に混じってくる。俺は、右に「娘」、左に「妻(予定)」という、二百五十年前には想像もできなかった構図に挟まれ、小さく溜息をついた。

「……お前たちは、本当にうるさい」

 毒づきながらも、俺の口元は緩んでいた。

 肖像画の中の俺が、今の俺を見てどう思うかは分からない。

 けれど、この温かな喧騒こそが、俺が二百五十年かけてたどり着きたかった「誓いの証」なのだと、今ははっきりと断言できた。


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