第17話「雷光と祈りの共鳴」
第17話「雷光と祈りの共鳴」
大陸北部から吹き寄せる風が、腐った肉のような異臭を帯び始めた。ガルム=ネクロスの儀式が、ついにこのエルディナの地までその瘴気を届かせ始めたのだ。
「アルトミュラー、騎士団を展開しろ。民を近づけるな。ゼフィール、瘴気の発生源を叩く。……ここからは俺が出る」
俺が命じると、背後から「私たちも行く!」という声が響いた。栗色の髪を揺らし、ヴィーナが仲間たちを連れて駆け寄ってくる。
「……危険だと言ったはずだ。下がっていろ」
「でも! 私にも力がある! お父さんを守りたいんだよ!」
ヴィーナがそう叫んだ瞬間、彼女の掌から柔らかな光が溢れ出した。かつてフォルネリアで兆しを見せていた彼女の聖魔法が、今、絶体絶命の緊張感の中で明確な形を成していく。
空を覆うどす黒い雲から、不浄な瘴気が滴り落ちています。これが、ガルムという方の呪い……。
私は胸の香草袋を強く握りしめました。無意識に作り続けていたこの香りが、今の私を支えてくれる。
「……浄化の祈りを。女神様、どうか彼らに光を」
私の祈りに呼応するように、香草袋を媒介とした聖なる光が円環状に広がっていきました。押し寄せていた瘴気が、その光に触れた瞬間に淡い煙となって消えていきます。
ふと見ると、ヴィーナさんの光が、私の祈りと溶け合うように輝きを増していました。
「お父さんの雷と……セリスさんの祈りと……私の力が、繋がってる!」
「……この感覚は、なんだ」
驚愕が走った。俺の右手に宿る黒雷が、セリスの祈りとヴィーナの魔力に触れた瞬間、まばゆい黄金の輝きへと変質したのだ。
禍々しい破壊の力だったはずの雷が、今は邪悪を焼き払う「聖なる裁き」としてこの手に宿っている。
「雷光の聖剣……!」
俺が剣を振り抜くと、聖なる光を帯びた圧倒的な雷撃が空を裂き、厚い瘴気の雲を文字通り一掃した。
二百五十年生きてきて、こんなことは初めてだ。セリスの祈りが、俺の力を変えた。俺の雷が、誰かの想いによってこれほどまでに澄み渡るなど。
傍らで、アルトミュラーが感嘆の声を漏らすのが聞こえた。
「……これが、雷と祈りの守護者か」
戦闘が終わった。
荒野には瘴気の欠片もなく、ただ静かな月光が降り注いでいる。そこには、肩で息をするレイクス、祈りを捧げ終えたセリス、そして自分の手を見つめて震えているヴィーナの三人が並んでいた。
「……すごかった」
セリスが、汗の浮かんだ額を拭いながらレイクスを見上げる。
「……お前の祈りが、俺の力を変えた。セリス、お前がいなければこの結末はなかった」
「……あなたの雷が……聖なる光を帯びた。これが……私にできること」
「私も! 私も、ちょっとは役に立てたかな?」
ヴィーナが期待に満ちた目でレイクスの袖を引く。レイクスはしばらく沈黙した後、彼女の頭を不器用に撫でた。
「……ああ。お前がいてくれたから、俺は迷わずに済んだ。よくやったな」
「やった!!」
ヴィーナの歓喜の声が夜の平原に響く。それを見て、セリスもまた、花が綻ぶような笑みを浮かべた。
「三人でやったんですね」
レイクスは、かつて独りで戦い続けていた自分を思い出し、それから目の前の二人を交互に見た。
「……ああ。三人で、だ」
それは、二百五十年という永い孤独の果てに、レイクスがようやく手に入れた「守るべきもの」との新しい絆だった。




