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レイクス戦記  作者: ゆう
第5章「再会の約束」

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第16話「セリスに話す」

第16話「セリスに話す」


 再び、この場所へセリスを連れてきた。

 かつてセラを埋葬した墓碑の周囲には、春の終わりの柔らかな風が吹き抜けている。しかし、俺がこれから口にするのは、その穏やかさを切り裂くような現実だ。

「……話がある」

 俺の言葉に、セリスは静かに足を止めた。

 彼女は何も言わず、ただその蒼に翠を帯びた瞳で俺を見つめている。その眼差しは、すべてを見透かしているかのように澄んでいた。

「危険が迫っている。……お前とヴィーナを狙っている者がいる」

 俺は、シャーラから受け取った警告と、ゼフィールが掴んだ情報を整理して伝えた。死霊術師ガルム=ネクロスの儀式が始まっていること。そして、魔王の配下たちが女神の加護を強く受ける聖泉の巫女――セリスを、魔王復活の障害として、あるいは格好の供物として排除しようとしていること。

「お前が持つ聖魔法と『夢見の力』は、奴らにとって脅威だ。……そして、ヴァルトニアの養女となったヴィーナもまた、俺を揺さぶるための標的になっている」

 俺の声は、自分でも驚くほど低く、冷たく響いた。それは、心の奥底で燃え上がる、形にならない怒りの証左だった。


 墓碑の傍らで聞かされたお話は、恐ろしいものでした。

 大陸を影で支配しようとする魔族たちが、私と、あの明るいヴィーナさんの命を狙っている。

「……私とヴィーナを、ですか」

「ああ」

 レイクスさんの横顔は、彫刻のように硬く、苦しげに見えました。

 私はしばらくの間、風の音を聞きながら、自分の中にある声を探しました。不思議と、身体が震えるような恐怖はありませんでした。ただ、果たすべき何かが、すとんと胸の内に落ちてきたような感覚。

「……わかりました。私は、逃げません」

「……危険だと言ったはずだ」

 レイクスさんが、咎めるような視線をこちらに向けます。

「知っています。でも……逃げることが、私の答えじゃない。……セラ様が、逃げなかったと聞きました。百八十五年以上前、戦火の中でも最期まで、この地で祈り続けたと」

 レイクスさんの目が、僅かに見開かれます。

「私はセラ様じゃありません。別の人間です。……でも、同じ状況になったなら、私は彼女と同じ選択をします。それが今の私自身の意志ですから」

 私は自分の胸にある香草袋をぎゅっと握りしめました。

「この力を使います。私の聖魔法でガルムという方の呪術を祓えるなら、やります。……レイクスさんが守ってくれるなら、私はその間、ずっと祈り続けます」

 沈黙が訪れました。永すぎる時を歩んできた半魔族の英雄は、私の言葉を、その重みを咀嚼するように目を閉じました。

「……俺が守る。……二度と、奪わせない」

 その言葉は、誓いでした。

 かつてのセラ様という女性を守れなかった自分を、二百五十年かけて超えようとする、魂の叫びのように聞こえました。

「……信じます。レイクスさんなら、絶対に」

 私は、静かに微笑みました。そして、もう一つだけ、聞かなければならないことを口にしました。

「ヴィーナも……守れますか?」

 レイクスさんは一瞬だけ言葉に詰まった後、力強く頷きました。

「……ああ。あの子も、俺の大切な娘だ。……二人とも、必ず守る」

 その答えを聞いて、私の目から、温かなものが一粒だけ溢れました。

「……よかった。……本当に、よかった」


「信じます」

 その一言が、俺の胸に深く突き刺さった。

 セラは最期に「レイクスを助けたい」と言って旅立った。

 そして今、その魂を継ぐ少女が、俺に命を預けると言っている。

(……二人を守る)

 セラの魂を宿しながら、別の人間として今を生きるセリス。

 そして、あの子がいなくなった後に、セラが残してくれたかのように出会った娘、ヴィーナ。

 KR64年にセラと出会い、KR250年に至るこの果てしない旅路は、すべてこの瞬間のためにあったのかもしれない。

「……今度こそ」

 俺は墓碑を背にし、目の前の少女――セリスを見据えた。

 二百五十年前の俺は、何も持たない無力な子供だった。

 だが今の俺は、ヴァルトニアの名を背負い、最強の三柱を従える当主だ。

 この手に宿る黒雷も、指輪に秘めた雷光も、すべてはこの瞬間のためにある。

 二百五十年という永い時を経て、俺の誓いはようやく、完成の時を迎えようとしていた。

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