第14話「セリスとヴィーナ」
第14話「セリスとヴィーナ」
レイクスさんに呼ばれて訪れたヴァルトニア邸は、まるでお伽話に出てくる騎士の城のようでした。門をくぐり、案内された中庭で私を待っていたのは、柔らかな**栗色の髪**を揺らす、同い年くらいの少女でした。
「はじめまして! ヴィーナです! おとうさんのむすめ!」
屈託のない笑顔で駆け寄ってきた彼女の名を聞いて、私は思わず瞬きを繰り返しました。
「……ヴィーナ。女神様と同じ、お名前なのですね」
「えへへ、そうでしょ! フォルネリアでお父さんが拾ってくれたんだ!」
「拾って……ふふ、レイクスさんらしいですね」
彼女の屈託のなさに、私の緊張は一気に解けていきました。けれど、彼女が纏っているものに目を向けた瞬間、巫女見習いとしての教養が、私にその「重み」を突きつけました。
「ヴィーナさん、そのローブ……マルターレス家の友好紋ですよね?」
「え? よくわかったね! これ、お父さんがくれたんだけど」
「聖泉領では、歴史の授業で深く学ぶ意匠ですから……。それに、その髪飾りも。ヴァルトニア家の紋章を模っていますね。雷光の形……とても綺麗です」
「そうなの! 私、最近知ったんだよ。これにそんな意味があるなんて!」
お父さんが連れてきたセリスさんは、なんだか不思議な人だった。
淡い金色の髪がキラキラしていて、空みたいな色の瞳に見つめられると、心がポカポカしてくる。
「きれいな人だ……」
なんだか、ずっと昔から知っているような、落ち着く感じがする。
それに、いつもは仏頂面のお父さんの様子が、セリスさんの前だと少し違う気がした。なんだろう……言葉は少ないんだけど、すごく大事に、壊れ物を扱うみたいに見てる気がする。
「セリスさんって……おとうさんのこと、知ってるんですか?」
私が尋ねると、セリスさんは少しだけ寂しそうに、でも優しく微笑んだ。
「少しだけ。でも……もっと知りたいと思っています」
「じゃあ、私がいっぱい教える! おとうさんのこと!」
「ぜひ、お願いします」
「昔ねー、お父さん、料理がすごくへたくそだったんだよ! 味付けを忘れて、ただの焼いた肉を出されたこともあったんだから!」
「ふふっ、本当ですか? 今のレイクスさんからは想像できませんね」
中庭の回廊から、二人の少女が談笑している光景を眺めていた。
**栗色の髪**をしたヴィーナと、金髪のセリス。
かつて俺の意識の中にいたセラと、俺が拾い上げた娘。
(……仲が良さそうだ)
「おとうさん!! セリスさんが私より詳しいよ!!」
ヴィーナが俺に気づき、大きく手を振った。
「セリスさん、このローブがマルターレス家との友好の証だって、ひと目で当てちゃったんだよ! おとうさん、知ってた?!」
「……それはそうだ。セリスは聖泉の巫女見習いだ。歴史と礼節については、お前の数倍は学んでいる」
「むー! お父さん、さりげなく私をバカにしたでしょ!」
頬を膨らませるヴィーナの横で、セリスが「ふふっ」と声を立てて笑った。
平和な時間は、長くは続かないだろう。だが、今この瞬間、二人の少女が笑い合っている光景を、俺は何よりも守り抜きたいと思った。




