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偶像世界でべしょりんは凛と生きる。  〜〜誰もが知る、誰も識らない、天才美少女なアイツ〜〜  作者: 吉津部 四嘘
ニノ章:サマー・ワンダー・ランド

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Record13:挑発と流れには乗れるだけ乗るべし。

「……死ぬほどつまんなかったよな、コレ⁉」


 シアターから出て真っ先にその思いを口にしたのは美雨軸先輩だった。無論、俺も同様の思いを胸の内に秘めていた。


 なんだあのコスプレみたいな衣装は。滅茶苦茶なストーリーは。中盤で出てきた三人目のヒロインは何のための存在だったんだ。


「いやー、酷かった! 期待通りの駄作だった!」


 高らかに笑うのは、率先してこの『ウソラヴ』を観たがっていた佐々木。キッパリ駄作と言う割には随分と嬉しそうだ。行動原理は一切わからないが、あまりいい趣味とは言えないな。


「いやそれ以上に! 私は文句を言いたい。何故私が鏡谷明桜の隣の席じゃないんだ!?」


 美雨軸先輩にとっては映画の内容など二の次だったらしい。


「仕方ないでしょう、俺の隣は物理的に二席しかないんですから」


 席順は右端から佐々木、俺、キサト、美雨軸先輩、別所。何故この並びになったのか、それは言うまでもなく、各々の安全を考えた結果だ。


「アタシは意外と悪くないと思ったけどね、この映画。原作見たことないけどちゃんとキメるシーンはキメてたし、なにより殺し屋幹部役の男性の演技は完璧だったと思うな」


 別所は擁護派らしい。多分学校の中で別所が良いと言えばそれは学校全体の意見へと変換されるだろう。だがこの場にいるのは別所に靡かない人間が大半だ。頭もロックな美雨軸先輩、何故だか別所に悪態を着く佐々木、そして俺。最後によくわからんキサトだが──


「何一つ覚えていませんわ……」


──絶望の表情で床のタイルを見つめていた。

 上映開始早々、思いっきり爆睡していたのは横目に見ていた。挙句の果てにエンドロールまで目を覚まさなかったんだ、そりゃ覚えているはずないだろ、観てないんだから。と、言ってやりたいところだったが、様子が変だ。


「……もしかして、その感じヒ(・)メ(・)の方か?」


 もう一つの人格の方に入れ替わったらしい。キサトの主人格とでも言うべきだろうか、身体との性別と合致した方の人格だ。本来共に映画を観るはずだった方の人格とも言えよう。


「まあ! わたくしのことをヒメと呼んでいただけるのですね! 嬉しいですわ! そうなんです、わたくしヒメです!」


 キサト、もといヒメはほんの数秒前までの落ち込みっぷりが嘘のように目を輝かせた。


「区別のためにその名前で呼んでるだけだ。それ以上の意味は無いから興奮するな。それより──」


 それより、他三人からの目が気になる。なんせ口の悪い、一見して男でしかないやつが急に文字通り女々しくなったんだから、違和感を覚えない方がおかしい。

 佐々木なんかはわかりやすくキョドっている。オロオロと、言葉に迷う様子はちょっと見るに堪えない。


「……説明してやってもいいか、ヒメ」


 斯々然々(かくかくしかじか)。


「……なんだその漫画みたいに都合のいいシステムは。そういう冗談は僕の顔だけにしてくれよ」


 姫路姫里(ヒメジキサト)の人格についての説明を聞いた佐々木の反応は半信半疑といったところだった。どう反応して良いのかわからない自虐までをも余計に添えて。


「佐々木、変に自分を貶すな。それに、冗談でもなんでもなく事実らしい。考えてもみろ、仮に嘘だとしたら痛々しすぎないか」


「それは、確かに、言えてるな……」


 我ながら嫌な説明の仕方である。実際、高校生にもなって「もう一人の俺が……」なんて言葉を厨二病臭い台詞を言わなければならないのはキサト及びヒメにとっても苦痛かもしれない。


「いや、それでは私は納得できないな」


 美雨軸先輩はずんずんとヒメとの距離を詰める。何をするかと思えば、あろうことかヒメの胸部を鷲掴みにした。


「きゃあ!?」


「ぎゃあ!?」


 何故か掴まれた本人よりもデカい声を出す佐々木のせいで反応が遅れた。

 ぐにぐにとその感触を確かめるかのように、執拗に触り続ける。


「ちょっと先輩!! やめてください、何やってるんですか!?」


「え? 何って確認だよ。一番手っ取り早いと思って。ただ、厚着してるみたいで、もしかしたら詰め物かも……よし、脱いでもらって確認しよう」


「脱(ぬ)っ!?」


 佐々木が一番過剰に反応している。顔を真っ赤にして必死に目を背ける様は、思春期真っ只中という感じである意味では微笑ましい。

 だが、美雨軸先輩の暴走は止める必要がある。


「先輩、やめてください。そんなに疑うってことはつまり、俺の言葉って信用できないんですかね」


「な……私が、鏡谷明桜を信用していない……!? そんなはずない!! 超信用してる!! 大好きだぞ、鏡谷明桜!!」


 ようやくヒメから離れたかと思いきや、転回して俺へと飛びついてくる。既に想定の範囲内なので容易に躱せたが。


「明桜くん、結構ズルい言い回しするよね……」


「まあな、小悪魔系が流行っていると聞いたんで実践してみたまでだ」


 いや本当は全然聞いたことないけどな、そんな流行り。


「うぅ……わたくし、もうお嫁にいけませんわ……」


 ヒメは顔を手で覆い、その場にうずくまる。


「ところで、ヒメ……と呼ぶのは私的になんか抵抗があるな? ヒメ……ヒメ……ヒメ子! ヒメ子、一つ言いたい。その胸の塊が詰め物じゃないのなら、ブラはした方がいいと思うぞ」


「えっ」


 美雨軸先輩からのとんでもない指摘に、ヒメは自身の服の中へと目をやる。みるみるうちに顔は真っ赤に染まり、言わずともその事実は俺達にも伝わった。


「……またっ、また着けずにっ……外出時には必ず着けてとあれほど……!」


 ヒメは小さな声で嘆く。


「えーと、じゃ、じゃあさ! アタシ、ヒメちゃんの家に遊びに行きたい! まだ午後の予定も決まってないし、丁度いいと思うし! もし良ければって話だけど、ダメかな?」


 別所が気を利かせる。フォローしてくれることは構わない、むしろ有難い。だが待て、家に行くというのはどうなんだ。


 俺は基本的に女子の家に軽々しく上がったりはしない──そう考えたところで、一人の女子の顔が脳裏に浮かぶ。変態露出系水泳部部長(八尾木 七凪幠)の家に上がり込んだ記憶。我ながら不用心だったな。


 そう考えると、少なくとも今回は俺だけではない分随分マシに思えてきた。あくまでも友人と遊びにお邪魔するだけ、というシチュエーションに他ならない。とても健全だ──と言い切るには不安なのが若干名いるが。


「つまり……鏡谷さんがわたくしの家に? それであれば是非、ご案内いたしますわ。幸いわたくしの家はすぐそこですから」


 ヒメの顔と言葉尻が上がる。その食い付き具合は、下着だとか恥辱だとか、その辺のことが全てどうでも良くなるほどだったと示している。


「ん、なんかそっちの予定も決まったみたいだし僕は帰るわ」


 ああ、そういえば佐々木はゲストだった。誘っておいてなんだが、普通に馴染みすぎて忘れていた。

 いや、待てよ。今からヒメの家に行くとして、俺、ヒメ、別所、美雨軸先輩の四人で行くことになる。

 それは、俺としてはあまりに──


「佐々木、もし予定がなければこのまま合流して遊ばないか?」


 念の為、という理由で誘うのは忍びないが、背に腹はかえられない。別所なら大丈夫だと思うが──保険は貼っておこう。


「え、いや、別に予定は無いけどさ。一応ヒメ?さんとは初対面だし、そんな図々しいことはできないっていうか……」


 そうだ、本来佐々木は割と普通の感性を持った常識人だった。だが、表情と煮え切らない言葉から本心が滲み出ている。そうだよな、誘われたんなら行きたいよな、佐々木はそういうヤツだ。


「あら、別に構いませんわよ。鏡谷さんのお友達を拒絶する理由はわたくしにはありませんもの。むしろ、美雨軸さんが言っていたようにわたくしも佐々木さんと仲良くなりたいですから」


 なんだか、周囲の人間から手篭めにされている気がする。いつか最終防衛ラインである米白にまで手が及ぶかもしれないと考えると恐ろしい。落ちてくれるなよ、米白。

 まあ、今回は佐々木が嬉しそうだから良しとしよう。


「ああそうだ、佐々木。そのリュックサックの中身ってなんだ?」


「え、これ? 財布と、スマホと、タオルくらいだけど……あ、上着入れて欲しいのか?」


 大した重量では無さそうだな。


「いや、そうじゃなくて。もし良ければリュックごとヒメに貸してやってくれないか」


「別にいいけども……何のために?」


 佐々木はリュックを下ろし、俺の方へ差し出す。俺でなくヒメに渡して欲しいのだが。ここで中身ごと渡すあたり、佐々木の不用心さと素直さを感じる。


「前に抱えれば多少気にならないんじゃないかとな。ほら」


 一度無駄な過程を踏んで、ようやくヒメの元へリュックが渡る。


「……鏡谷さん、佐々木さん、お気遣いいただきありがとうございます。ではお言葉に甘えてお借りしますね」


「しかし明桜って昔から気が回るよな。僕には無理だわそういうの」


「そうだろ? 佐々木は俺をよく見てるな。もっと褒めてくれて構わないぞ。褒めるところしかないからな」


「この自賛さえなければアタシも褒めてあげるのに……」


「いやいいわ。別所から褒められても素直に喜べる気がせん」


「なんで!?」


「教えてやる義理はない。早く行こうぜ。ヒメの目が先走ってるから」


 なんで、ってそれは──きっと、別所の方が。

 その先を考えるのは、やめた。





 ヒメ及びキサト宅。なんと徒歩三分で到着した。本当に近かった。てっきりスムーズに俺を誘うための嘘かと。


 そして案内されたのはヒメの部屋。当のヒメ本人は案内するだけ案内して真っ先に他の部屋へと駆けて行った。着けるものを着けに行ったのだろう。


「これは、確かに博打同好会会長(キサト)の部屋だな……」


 部屋のド真ん中にある麻雀卓がそれを示していた。他にもポーカーテーブルやルーレットテーブル、壁沿いにはスロットやパチンコの筐体が大量に並べられている。


「不健全な匂いがする! 最高にロックだ!」


 マジか、これがロックなのか。それなら八尾木なんてもっとロックだぞ。法に抵触しそうって意味で。


「その辺ひっくり返したらタバコとか出てこない? 僕怖いんだけど」


「ヒメちゃんをなんだと思ってるの!?」


「怪しいのはヒメじゃなくてキサトの方なんだよな……」


 言われたら不安になってきた。よく見ればこの部屋にはベッドも勉強机も、生活感を感じるものが何一つない。

 これが本当に女子高生の自室か……?


「すみません、大変お待たせいたしました」


 かしこまった台詞と共に後を追って来たヒメは、随分と風貌を変えていた。


 だらしなく伸びたように見えた髪は丁寧に結われ、清楚なハーフアップにチェンジ。服装はゴスロリ系ワンピースにメタモルフォーゼときた。


「かわいーっ!! なにその服!! どこのブランド!? 写真撮っといていい!?」


 先程に比べると女子らしさの増したヒメの姿に別所が目を輝かせる。


「アソー・コリツィの品ですが……わたくし身体が大きいものですから、こちらは特注品(オーダーメイド)なんです。お写真はいくらでも撮っていただいて構いませんわ」


「私の知らないブランドだな。もっとも、私は音楽ブランド以外知らないがな!!」


 三人が女子トークに花を咲かせている中、俺と佐々木は立ち往生でそれを眺める他無かった。





「よし来たロン!!」


「佐々木さん、フリテン、反則(チョンボ)ですわ。満貫罰符です」


「ちょんぼ……? 黄色い鳥……?」


 佐々木が多分違うものを想像していることはわかる。


「要は役なしだからアガれないってことだ。さっき教えて貰っただろ」


 何故か俺達は成り行きで麻雀をしていた。ヒメが雑談しながらするには丁度いいと提案したのだが、問題は俺と佐々木がルールを把握していないところにあった。

 俺にはヒメが付き、なんとなくアドバイスをくれるのだが、佐々木は手元のスマートフォンでルールを調べながら打っている。

 実際初心者の俺から見てもめちゃくちゃな打牌だ。


「ヒメ、俺はもう大丈夫だから佐々木に付いてやってくれないか」


「かしこまりました。では佐々木さん、頑張りましょうね」


「お願い……します……?」


 佐々木が髪や服装を変えた姫路姫里(ヒメジキサト)を女性として認識し始めたせいで、段々と話し方がわからなくなってきているらしい。

別所にはあんなに悪態ついてるのに、本当に何故なんだろうか。


「そういえば、お昼を随分過ぎていますわ。出前でも取りましょうか。そしてその代金を賭けて打ちませんか?」


「俺初心者なのに!?」


 ヒメの鬼のような提案に唖然とする。でも確かに腹は空いた。時間もいい頃合いだ。


「私は構わないぞ!! 兄やその友達に鍛えられてるからな!! 負けるはずがない!!」


「アタシも別にいいけど、ただ──」


 別所が俺に目配せする。多分気にしているのは俺のことではなく佐々木だ。俺は長期休みにアルバイトに勤しんでいるが、佐々木はそうとは限らない。


「高校生五人の昼食代ってそこそこ値が張るけど、皆出せるのか」


 俺の問いに佐々木一人だけが全身全霊で首を横に振る。やはりそうだ。高校生なんて普通そんなものだ。


「大丈夫ですわ、佐々木さん。わたくしが付いている限り負けませんもの。もしも無様に敗北するようなことがあればわたくしが全額負担いたしますわ」


「随分と自信があるみたいだな、ヒメ子」


「当たり前だよ美雨軸さん。ヒメちゃん、プロの雀士だよ」


「え、ずるくないか?」


 ずるいな。主にその事実を隠していたあたりが。


「その事実を聞いて俺も気乗りしないんだが。第一、俺達は高校生だ。もっと健全な遊び方をだな──」


「えー、二人はやりたくないの? そうだよね、負けるってわかってる勝負だもんね」


 稚拙な煽りだ。別所のそのニヤけ面も意図してのものだとわかる。だからここは冷静に。挑発に乗るな。


「もしかしてわたくし、見誤ったのでしょうか。逆境でも怯まないような男らしさととロックなハートをお持ちかと考えていたのですが」


 俺が男らしくない?

 笑わせる。


「やるに決まっている!!」


 俺と美雨軸先輩、二人の声が揃った。





「違いますわ、佐々木さん。その捨牌だけは有り得ません」


「ええ? でもこれ捨てればリーチだし……」


「この河なら、こういう形にした方が気持ち良く上がますわ」


 佐々木の指導を横目に見ながら淡々と手番を回していく。


「そういえばそろそろ解雪祭(げせつさい)の準備が始まるな」


 音を立てて牌を捨てながら、美雨軸先輩がボヤく。


 志嶺高校には文化祭が年二回ある。七月上旬に行われる解雪祭と、十一月下旬に行われる積雪祭(せきせつさい)だ。


 二回も開催される理由は、志嶺高校に所属する全ての団体がいずれかの文化祭に参加できるように、と便宜上されているが、去年は夏の大会を控えた運動部やコンクール前の吹奏楽部なども関係なく両方の文化祭に参加していた。

 ただ祭りにかこつけて騒ぎたいだけではないか、というのが個人の見解だ。


「あー、そんなのあったな。文芸部は確か部誌の頒布くらいしかしてなかったけど」


「軽音部は当然ライブをやってたぞ! 聴いていたか鏡谷明桜!! 私の魂の叫びを!!」


「そりゃ一応聴いてましたよ。あれは俺から見てもかっこよかったですよ」


「惚れたか!?」


「惚れてないです」


「残念だ!」


 惚れてはいないが、去年の解雪祭での軽音ライブは他のステージ発表と比べても異様な盛り上がりを見せていた。感極まってちらほら泣いているやつまでいた始末だからな。

 まあ、あのライブに美雨軸先輩がいたことなんて当時の俺は認識すらしていなかったが。この人の存在すら知らなかったし。


「解雪祭! つ、ま、り、生徒会のお仕事の季節ってわけ。これから明桜くんには、いーっぱい働いてもらうからね?」


 ああそうか、今回から俺は運営側か。文化祭における生徒会の仕事がどんなものか知らないが、面倒なことは目に見えている。


「七月六日と七日だったよな。全くの手付かずだが間に合うのか?」


「当然! アタシの計画はパーペキなんだから!」


「ぱ、ぱーぺ……?」


 何故かワードチョイスが半世紀前だ。現代っ子佐々木には伝わるはずもなく。


「六日と七日といえば、時雨坂(しぐれざか)高校の文化祭日程とそっくりそのまま同じですのね」


 ヒメのその言葉を機に、別所の牌を打つ手がピタリと止まる。

 時雨坂高校、通称『アメ高』。この近辺に位置する四つの私立高校のうちの一つだ。独特な教育方針が名物のスパルタ進学校として名を馳せている。


「えっ、ちょっと待って。アメ高の文化祭は例年九月開催だよ? 間違っても志嶺高校(ウチ)と被るはずないって!」


「今年は特例だそうですよ。時雨坂の友人からの情報ですから間違いありません」


「そんなはず……えー?」


「俺には別所がそんなに引っ掛かる理由がわからんのだが。別に問題ないだろ」


「大アリだよ!!!!!!」


 うるさい。


「アメ高の文化祭といえば志嶺に負けず劣らずの盛大さなの! そんなところの外部来校者の取り合いになるわけ!」


「そうか、とりあえずわかったから手番を回せ。テンポよくいかないと俺達は一生昼食にありつけないぞ」


「そ、それは、ごめんじゃん……」


「で、来校者の取り合いになるのがどう問題なんだ……あ、それポンで」


 別所が捨てた牌をもらい、両面(リャンメン)待ちテンパイ。会話の裏で着々とアガリの準備を進めていた。

 ルールをある程度理解した今ならわかる。要は麻雀は確率で動くゲームだ。数学に強くて助かった。


「うちの文化祭は生徒が楽しむことは勿論だけど、それ以上に入試を控えた中学生やその親御さんへのアピールも兼ねてるの。だから一般来場者の数が生徒会実績に直接影響するわけ。わかった?」


「つまり、生徒会長さんは自分の評価が落ちるからこんなに焦ってるわけか」


「そんなこと言ってないからね!?」


 佐々木は何故煽る。だがまあ、そう言っているように聞こえたのも事実で。


「どちらにせよ頑張るしかないのなら言ったところでじゃないのか? あ、立直(リーチ)だ」


 美雨軸先輩の言うこともまた正しい。人を集めるという目的自体は変わらないのだから、過度に意識したところでだ。日程が被ってしまったものは仕方がない。


「そういう問題じゃなくてぇ……」


 ムスッとした態度で別所はこちらを見つめる。媚びを感じる目線の角度だ。

 俺がそんなものに惑わされるとでも。

 俺は引いた牌を即切り──


「あ」


 どこか上の空だったのだろうか。

 今この牌を切るのはまずい。そう思った矢先に、だ。


「ロン!」


 時、既に遅し。

 俺と佐々木を除く三人の声が揃った。


「緑一色(リューイーソー)、役満ですわ、鏡谷さん」


「国士十三面待ち! 二倍役満ね!」


「私はえーと、立直(リーチ)、一発(イッパツ)、二盃口(リャンペーコー)、混一色(ホンイツ)、赤ドラ、ドラ2、裏ドラ2の数え役満……恨まないでくれよ? 鏡谷明桜」


「……言うまでもなく、鏡谷さんの負けですね」


「そう思うなら言わなくていい……」


 財布にいくら入れてたっけな。

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