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肆拾六つ目の記録 復活 ⑥

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

 ケファの肉体が再度動き出すと、一番下の右腕を払うと、真二の呪いで作られた巨人は一瞬で風船の様に破裂した。


 その瞬間、ケファの首に八重が構えた刀の刃が当てられた。刃はケファの薄皮を僅かに裂いていたが、それ以上に刃は進まない。


 そして、ケファと八重の視線は交わり、ケファは八重の存在に目を見開いて驚いていた。


「貴方は……何故、何ですか?」

「それが分からないと?」

「……いえ、いいえ、いいえ、分かってはいるのです。答えは何時も頭の中に、しかし外にある。……初めまして、()()よ」

「何時、貴方が私の従兄になったのですか。私の従兄は貴方では無い。その虫では無い。その虫が寄生した、死屍た哀れな赤子だ」

「その聖霊すら母によって産まれた」

「虫はモシュネ様の子では無い。虫は悪意の意思から産まれた矮小な意思です。それも分からないのですか? その目は、その四つの瞳は、一体何を見ると言うのですか」


 ケファはそれでも困惑していた。自分で八重のことを従妹と結論付けたが、そんな人物がいるはずも無い。


 それは、あり得ない。しかし目の前の八重は、現実として存在する。


 ケファは遂に、彼等彼女等に祈ることを辞めた。敵は何れも教えを知らない者であり、可哀想な人々だと思い祈り、真央以外殺すことは極力避けようとしていた。


 しかし、もう祈りは届かない。敵に祈りは届かない。ならもう、裁きの時を待つ死者へと変えよう。それがせめて、今のケファに出来る最大の慈悲である。


「死を以て祈りなさい。不可解な子よ」


 ケファの三つの右腕を八重に向けると、彼女の腹に大きな風穴を空けながら吹き飛ばした。


 八重の風穴からは容易くピンク色の臓物が溢れており、しかし八重は苦痛の表情の一切を見せない。


 寧ろ八重は勇ましく、言葉を発した。


「"前一(ぜんいち)騰虵(とうしゃ)火神(かしん)家在(かざい)巳主(ししゅ)驚恐怖畏(きょうきょうふい)凶将(きょうしょう)"」


 その言葉が形となる様に、八重は口から炎を吐き出した。その炎は更に大きく膨れ上がり、羽根を広げる大蛇の姿となった。


 それは、騰虵(とうしゃ)と呼ばれる八重の式神である。その蛇は渦を巻くように這い回りながら、ケファへと襲い掛かった。


 だが、ケファが三つの内、真ん中の左腕を少しだけ上げると、その直後に炎は細切れに千切れた。


 その瞬間に、騰虵の影に隠れていた正鹿火之目一箇日大御神が姿を表し、散ってしまった炎を自らの手に集め、それを大きく掲げた。


 炎は鉄へと変わり、ケファの上から雨霰の様に鉄の針が降り注いだ。しかし、ケファが目線をその針の雨に向ければ、途端に鉄は砕け散った。


 破片から、砂になるまで粉々になったそれだが、その鉄の砂の中に真央が飛び込んだ。


 鉄の砂は、再び烈火へと変わり、真央を包む鎧となり、また剣となった。


 真央が炎を掴み、その形を長く、太く、刃を鋭く、より、殺す為の形状。ただそれだけを追い求め、ケファを確実に燃え滓にする刀剣を。


 真央の手の炎は、また鉄へと変わった。しかしそれは針なんて生易しい物では無く、破邪の御太刀を超える大太刀であった。


 破邪の御太刀は、本来実戦用では無い。寧ろその観点から見れば、酷い出来だ。重く、まず人ではそれを振ることもままならない。だが、真央なら、彼女の怪力ならば話は別だ。


 その、よもや6mは超えるかも知れない大太刀を、彼女は軽々しくケファの頭に向けて振り下ろした。


 鉄塊の重量、真央の怪力、昴の神秘、□■□■□■□の未知。ケファの奇跡は、その暴力を前に打ち砕かれた。


 最早その斬撃は、斬ると言うより、叩き潰すと言う表現の方が正しかった。その荒々しく、美しく、まるで真央の様なその鉄塊は、ケファの肉を粉々に叩き切った。


 その一瞬、ミューレンは走り出した。即座に再生を始めたケファの肉塊を力強く睨み、ミューレンはその肉塊に自信のある拳を叩き込んだ。


 また、まただ。ケファはミューレンに反抗出来ない。体が硬直する、と言うよりかは、ミューレンを敵だと思えない。恐らく、虫はミューレンを攻撃しようとしないのだ。そしてケファの意思は、虫と比べ優先されない。


 ケファの意思は虫以下なのだ。つまりこの意思は、虫の物。


「何だ、これは」


 疑問しか浮かばない。それが何であるかも、理解しているのに。


 だからケファは駄目なのだ。理解だけが真実では無い。真実とは、理解して分かる物では無く、また理解無くして真実へは辿り着けない。それすら分からぬ愚か者は、果たしてその力の器なのだろうか。


 即座に八重は"扉"を潜り、再生し掛けているケファの胸に蹴りが炸裂した。


 心地良く響いた音は、まだ完全に再生していない為か一部露出していた心臓を踏み潰した。


 本来ならば、それだけで致命的な物にはならない。だが、八重の攻撃は別。この中で、ケファを除けば誰よりも未知なる力を扱えている。ケファの命が潰えるまでは行かずとも、それが脅威なのは確か。


 だからこそ、ケファは、直接繋がっているアンデレとヤコブの脳を使い始めた。


 ケファの脳では無く、二人の脳に再生の一切を任せ、ケファは戦いにだけ集中することを決めた。


 ケファは今の自身の弱点を理解していた。それの改善とまではいかないが、自覚することに重きを置いた。


 ケファの体は一気に再生し、同時に言葉を呟いた。


「"天頂へと届く光(アンブカジュラソン)"」


 その言葉を聞いた八重は、顔を青くさせた。真央も危機を本能で察知し、ミューレンを片腕で抱えてケファから距離を取った。


 ケファの六つの腕は、それぞれ黒恵、ミューレン、真央、八重に向けられていた。特に黒恵と真央は徹底して、二つの腕を向けていた。


 ケファの掌に、清浄な輝きが集まった。そこにあるだけで、輝きに触れた物を、空間すら例外無く消し去る光りである。


 それが真艫に当たれば、何であろうと消滅する。復活、再生、治療の余地も無く、魂の一片すら残さないだろう。八重はそれを理解し、そして特に黒恵、昴、ミューレンを、未来の為に、まだ来ぬ自由の為に、"窓"を使った。


 ケファの輝きが放たれれば、八重はその輝きの向かう先に"窓"を開いた。その"窓"の先は、自分自身であった。


 六つの輝きを集め、一つの巨大な光りにしたのだ。そして八重は必死の形相で、刀を投げ捨てその輝きに両手を向けた。


「『天頂へと届く光(アンブカジュラソン)』!!」


 未知の言語を叫んだ八重の両手から、ケファが放った輝きと全く同じ物が放たれた。しかし、八重の方が幾らか程度が良いらしい。


 だが、ケファの物は六つの輝きを束ねている。その相乗効果により、消滅の力は単純に六倍では無く、それ以上になっている。


 八重の輝きと、ケファの輝きが激突した。互いが互いの輝きを消し合い、その直後には、ケファの輝きの一部が八重の体を貫いた。


 輝きに触れた箇所は白い灰の様になっており、それぞれ八重の蟀谷、左頬、右肩、右脇腹、左太腿、両方の足首をぼろぼろと崩れていった。


 人魚を喰った影響により、八重の体は本来再生を始める。だが、この輝きはただの傷では無い。消滅したのだ。エネルギー保存の法則すら無視して、完全に消し去る裁きの輝きとも言える清浄なる光り。


 すぐに回復出来るはずも無い。自分が時間を稼ぐと言いながら、このざまか。八重は自分が情けなくなった。


 瞬間、辺りに酒の匂いと、季節外れの紅葉が風に乗って舞い散った。


 ケファの体に紅葉が触れると、小さいながらも確かな爆発が起こり、その肉を更に吹き飛ばした。


 その追撃なのか、禍鬼がケファの真正面に姿を現した。


「さァ! ブッ殺してやるよォ!!」


 ケファよりも一回りも、二回りも巨大な禍鬼の拳が、ケファの頭上から何度も、何発も落とされた。その拳は禍鬼の力により、屑鉄に覆われており、その重量と威力が格段の物になっていた。


 だが、ケファの目の中にある金色の瞳だけが動き、それが禍鬼に向くと、禍鬼の巨体は軽々しく空へと吹き飛ばされた。


 しかし禍鬼は驚異的な体幹によって体勢を立て直し、その剛腕を力強く振るった。


「"更科(さらしな)"ァ!!」


 瞬間、吹き荒れる熱波。紅葉の炎は、禍鬼にとっての愛に溢れており、それに満ち満ちていた。


 だが、ケファの口から吐き出される愛の炎を上回る程の巨大な愛を、彼女は持っていなかった。いや、失ってしまっていた。


 その炎は簡単に愛の炎によって掻き消され、辺りはまた灼熱の地獄へと変わった。


 しかし、すぐにミューレンが地面にルーン文字を刻めば、その炎は一瞬で消え去った。


 だが、先程まで混乱と困惑を一度でも頭に浮かんでしまえば動きが止まってしまうケファが、真っ先に、真央の反応速度すら上回る速度で、彼女の背後に現れていた。


 先程までの思考パターンとは大きく異なる。その所為で真央も予想が出来ていなかった。


 咄嗟にミューレンから手を離すと、そのミューレンの先に黒恵の"扉"が開かれ、彼女だけは安全な、黒恵の横に移動させられた。


 真央は、安心し切った表情を浮かべた瞬間、ケファの三つの掌が彼女の背に押し付けられた。


 その瞬間に、真央の体に赤い罅が全身に走った。激痛、なんて物では無い。下手をすれば、この痛みだけで人がショックで死んでしまうのでは無いか。真央がそう感じさせる程の激痛。


 経験の無い激痛に、真央は反射的に胃の内容物を吐き出してしまった。


 本来、赤い罅から体が裂けて即座に絶命するのだが、真央の黒い呪いが赤い罅を埋め、絶命を上回る速度で再生と回復を始めた。


 無論、ケファはそれすらも予想しており、たった一言呟いた。


「"紐を解く手(ユースヴァフェン)"」


 怖気付いた。


 真央は、その言葉に怖気付いた。これだけは、必ず避けなければならない。聞いたことも無い言葉に、真央は恐怖を抱いた。死へ向かう、最も恐ろしい恐怖だ。


 だが、真央の体は、思う様に動かない。自分が思う様に動かせない。


 その窮地を救ったのは、何と夏日だった。


 真央の耳ですら察知を許さない忍び足を駆使しなながら、ケファの目を掻い潜り、一体どうやったのか、こんな短な刃である包丁で、真央の体に触れている三つの腕を同時に切断した。


 ケファは、何度目かの驚愕を示し、ぎょっとした目で夏日の顔を見た。ふと、当たり前のことだが、目が合った。


 しかしそれが切っ掛けとなったのか、夏日の両方の瞳は、無垢銀色に染まった。始めからそれを意図していたかの様に、彼女は不敵に笑っていた。


 すると、夏日の体に大きな瘤が浮かんだ。それは一人で動き出し、そのまま飛び出したかと思えば、奇妙な肉の塊となって姿を変えていった。


 それは、猫であった。三毛猫であった。二又の尾を持つ猫であった。


 その猫は奇妙なことに言葉を話した。


『弾き出された……!? 夏日!!』


 だが、夏日は微笑みながらケファに右手の中指を向けると、突然ケファの喉元が、猛獣にでも噛まれたかの様な、深々とした残虐な傷が出来ていた。


 その夏日の笑みが、より一層と深まったかと思えば、温かな風が吹いた。


 風は更にケファの虫を外へと吐き出させ、そして借り物の力すら奪い取っていた。


 自分ですら知らない力に慄いたケファは、すぐに一歩下がり、その場から姿を消した。


 目前の危機が去った夏日は、次は真央と目を合わせ、その微笑みを崩した。先程までの、夏日とは思えない気配から一変し、昴はこの夏日は、変わらず夏日だと確信した。


『さっき、死のうと思ったでしょ」

「まさか。……死ぬのは、やっぱり怖――」


 夏日は突然両手で真央の頬を叩き、そのまま頬を抓んで力強く引っ張った。


「まずそれをやーめーろー……!」

「いたい……」

「私は! 私達は! 顔も覚えてなかった、貴方の為にここに来たの!!」


 二度と昴に戻らない、なんてはずは無い。夏日は確かに、真央の仮面が剥がれているのが見て取れた。


 その仮面を縛る紐を、夏日はその先端を、指で抓んだ。


「私じゃ無くても、誰かがいたでしょ。貴方の隣に、おにぃの隣に、誰かが。なのに何で、そんなに悲しい顔をするの」


 血は繋がらずとも、夏日は、彼の妹なのだ。


 その思想、思考、行動理念は、何処か彼と通じる所がある。


 だからこそ、なのだろう。一目出会ったその時から、彼を、自分の兄だと確信めいた感情を抱いていた。だからこそ、なのだろう。夏日は、彼が去ってしまった理由を、曖昧ながらも理解していた。


「もう、誰も一人にさせないから。私も、光さんも」


 光、何故あの人の名前が自分の口から出たのか、夏日は自分でも分かっていなかった。しかし確かに、彼の説得の為に必要な人だと言うのは、これもまた何故か分かっていた。


 それでも、昴の心は救われない。まだ、まだ足りない。


 昴は夏日から目を逸らし、その手を払って走り出してしまった。次の瞬間には、あっと言う間に最高速に達した昴の前に八重の"扉"が開かれ、そこを通りケファの前へ飛び出していた。


 そろそろ鬱陶しく思い始めたケファは、不快感を表情で顕にさせていた。


 だが、昴の視線は、ケファよりも、その背後に向いていた。ケファは敏感にそれを感じ、振り返った。


 振り返ってしまった。


 黒恵が"扉"を潜り、現れた。ケファの背後では無く、ケファの前。ケファと昴の間。


 タイミングが間違えば最高速度の昴と激突する、ギリギリの瞬間。昴程の恵体が高速で激突すれば、肉付きの良くない黒恵はすぐに重症を負ってしまうだろう。互いが信頼し合わなければ決して飛び込めないこの瞬間。


 ケファの目は、あろうことか背後を向いている絶好の機会。


 黒恵は言葉を吐いた。


「『蒼穹を葬る刃(スラムリロヴァード)』」


 黒恵の手には、先程昴が炎から作り出した大太刀を超える長さの刀があった。


 その大太刀が鈍く輝いたかと思えば、彼女の筋力では到底振ることなんて出来ないであろうそれが、先程昴が振り下ろした時よりも素早く薙ぎ払われた。


 その刃は、ケファの胴体にするりと入り込み、二つに別けた。


 一瞬のことだった。それはケファの命を切り離し、汎ゆる決着を付ける決意を持った一撃。


「そんな……ことが――」


 ケファは、その後に続く言葉を呟くことはしなかった。出来なかった。彼は、死へと真逆様に落ちていったのだ。


 未だ最高速度を保っている昴は、その勢いのまま黒恵に飛び付いた。出来る限り、衝突の瞬間に黒恵に衝撃が行かない様に、まるで抱き着くかの様に両腕を黒恵の体に回し、そのまま二人一緒に地面へ落ちた。


 昴は自分の背を丸めながら地面に向け、コンクリートの上で背中を擦りながら、黒恵を守っていた。


 やがて二人の勢いが収まると、ようやく二人は立ち上がった。


「随分とまあ、熱いはぐね」

「仕方無かっただろさっきのは。黒恵が無茶しなけりゃこんなこと……はぁぁ……疲れた」


 だが、戦いはまだ終わっていない。そんな当たり前のことを、二人は知っていた。


「もう、良いでしょう?」


 黒恵は昴に向けてそう言った。


「私も、背負ってあげるから。貴方の罪も、罰も」

「……それじゃあ、駄目なんだ」

「分かってる。分かってるわよ。だから私は……。……いえ、これは我儘ね。……それでも、光は、貴方の隣にいてくれたでしょ。彼女だけじゃ無い。きっと、他の皆も。貴方を知っていたから、貴方の傍にいたの。だから、少しずつで良いの。少しずつ、貴方が歩み寄れば、私達も、きっと」


 あと、一歩なのだろう。


 黒恵では、昴を救えない。そんなこと百も承知だ。


 やがて、二人の視線は両断されて地面へ倒れ伏しているケファに向けられた。


 ケファは、まだ死んでいない。しかしそんなことは既に知っている。だが、どうやら何も出来ない様だ。


 未だ藻掻き苦しんでいるが、それ以上何か出来るはずも無く、どうやら再生も出来ないらしい。その傷から虫が這い出し、何とか上半身と下半身を繋げようと躍起になっていた。


「……もう、終わりね」

「ああ、後はねぇが開けた"門"の向こう側にでも投げ捨てれば――」


 その、瞬間のことだった。


「駄目だ」


 ケファは言った。


「これは駄目だ。この結末は、誰も彼もが望んでいない。誰も彼も、私も貴方も、神も悪魔も、全てが、全てが! ここで物語を、この物語を終わらせてなる物か! なる物か! あぁ、天に坐す偉大なる主よ!! この自由は、この意思は、この自由意志は! その全ては主の、為にッ!!」


 突然、ケファの頭が縦に裂けた。


 甘蕉の皮の様にべろんと垂れているケファの頭の中から、白とも、黒とも言えない何かが溢れ出した。


 それは液体の様であり、しかし固体の様に振る舞っている。それが伸び、更に伸び、切り離された下半身の切断面と繋がった。


 何か、起こってはいけないことが起ころうとしている。そんな予感を肌で感じた黒恵は、咄嗟に叫んだ。


「離れて!!」


 自分では無い。周りにいる、全員に向けてそう叫んだ。


 直後、爆発かと思える程に、ケファの頭から溢れ出す物質が大きく膨れ上がった。


 その物質はケファの肉を飲み込み、父なる神が始めに作った人の姿を、奇妙な形で、巨大で偉大なる姿で模した。


 その巨人は、白く、しかし黒く、清らかで、しかし穢らわしく、のっぺりとした肌だった。

 広い背中には、六百六十六対の翼が伸びており、半分は黄金に輝いており、半分は白銀に輝いていた。

 その腕は変わらず三つの両腕があり、下の両腕は地に向けられ、真ん中の両腕は世界へ向け、上の両腕は天に向けられていた。

 頭部は三つ、それぞれが全く別の方向を向いており、またその目には数多の眼球が埋め込まれており、様々な色が蠢いていた。

 その謎の物質はどろりと地面へ落ちると、まるで熱した鉄の上に落とされた水の様に一瞬で蒸発し、灰色の煙を発していた。


 見た目通りに力強く、しかし酷く弱々しくも思える。だが、その威圧は、最も間近にいる黒恵と昴の体の芯から震え上がらせるのには充分だった。


「駄目、駄目だめダメ! これはダメだ!」


 昴はそう叫んでいた。すぐに黒恵の腰を掴み、背を向け走り出した。


 明らかに分かる。これは手に負える物では無い。人が、人の身で相手に出来る敵では無い。


 その巨人が目から涙の様な物を落とすと、それは途端に蠢き、まるで天使の様に振る舞った。


 一体は数多の目で見通し、翼が神の愛によって燃えている鳩。一体は足の生えた蛇の様で、その腹には一つの大きな白い目がある。一体は頭が一つなのにも関わらず、胴体が三つ、いや、四つある白い翼が生えた人間。


 その他にも異形の怪物が巨人の体から生まれ落ち、やがて地を埋め尽くしていった。


 しかし次の瞬間、それに対抗するかの様に夜空の様に黒く輝く何かの群れが、その巨人の背を優に超える一つの生命となって突然現れた。


 だが、昴には、その黒い生命体に見覚えがあった。たった一度だけ、一匹だけ見たことがある。


()……!?」

「光!? あれの!? 何処が!?」


 昴の咄嗟に出た言葉に、黒恵はそう反応していた。


「光がいる! 何であんなことしてんだあのバカッ!!」

「ほんとに何やってんのよあのアホ!?」


 二人よりも、三十次元も違う頭脳の持ち主である。


 その黒い群れは、まるで羽虫の様だった。その正体は金属、つまり言ってしまえばロボットだ。


 それは破壊が物理的に不可能でありながら、熱にも強く、曲がりもしない。そんな金属が自己を増やし、特殊な器具が無くとも統率権限を持つ人物の厚い頭蓋骨に遮られる僅かな脳波を感じ取り自在に動く。


 そして、統率顕現を持っている人物は、この世界にたった一人だけ。


 光は、目覚めたばかりだと言うのに、この戦場に身を投じたのだ。


 その黒い羽虫の集合体の上に立ちながら、一歩踏み出す度に羽虫が足下に集まり、彼女の地面になるのだ。


 そして光の頭上には傘の様に黒い羽虫が集まっており、まるで上から見る誰かから身を隠す様にしていた。


 光が向かう先は、その巨人の頭部。何故そこに向かっているのかは、彼女自身も分からない。だが、誰かの声が、自分の声が響く。


 彼女の容姿は、やはり大きく変わっていた。片方は無垢銀色に輝き、片方はミューレンの様な無垢金色に輝いていた。


 その長髪は白く染まっており、神秘性もありながら、何処か根源的な恐怖すら感じる。


 そして、光は遂に巨人の頭部の目前にまで迫ったのだ。


「そこから出て来て。貴方に、話がある」


 しかし巨人は何も答えない。


『出て来いと命じたの』


 その気迫は、光のそれとは違っていた。


 それに怯えた様に、一つの頭部から、ケファの頭だけが飛び出した。


 ケファ自身もそれに心底驚いており、丸くなった目で光を見詰めた。


「……貴方、何故、そうか、いや、しかし、何故、()()()()()()()()

「私は、「私」でありながら『私』。……一体、どう言う意味なのか、私にも、分からないけれど、今するべきことは、良く分かる』


 光は地上へ視線を落とすと、誰かも分からない昴の顔を見た。


「……私の思考に、何かが欠けてた。今までの私の思考パターンと比べて、今の私の思考パターンには、大きな差異があった。……ずっと、ずっと……それが、何だったのかを考えてた」


 ケファは、突然何の話を始めたのかと疑問を持った。


『予想するに、彼女は……いや、彼だった様な気がする。彼は……私にとって、大切な人だった。私の考えを、私の思考を、大きく変えてくれる程の……とても大切で、大切で、大切で……忘れたら、駄目だった、人』


 ケファは、そしてその中にいる虫は、今までの何よりも、死すら超える程の恐怖を、この小柄で、少し幼さを残している光から感じ取っていた。


「……もし、かしたら……彼は、私の……」


 光は頭痛を覚えながらも、その言葉を口から出した。


「私の……友人、違う。親友……違う、もっと、もっと深くて、大切で、()()()な……ああ、ああ……ごめん、ごめんね。また、一人に、させちゃったね』


 全て、では無い。あくまでも、自分の欠落から導き出した結論。


 例え硝子が割れていても、その割れた箇所の形は分かる。その形をなぞり、復元することは可能。光がやっているのはそう言うことだ。


 故に、思い出したのでは無い。自分の欠落の形を見付け、そこから超常的な頭脳で導き出した結論。


 この頭痛すら、その結論を裏付ける証拠となった。


『彼は、()()()は……私の、私が――」


 だからこそ、彼女は、救いたいと願ったのだ。例えそれが届かない、届かなかったことだとしても。


 立花光、彼女は、その全てを愛す。その全てを愛した。


「大好きな、人」

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


愛、愛ですよ、昴。


ゴールデンウィークやることねぇなぁ……一人寂しく……TRPGのシナリオ作成進めるかぁ……一人、寂しく。一人、寂しく……。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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