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襲撃の黒幕

せっかく帰って来たヒルト。

露店を見なくては勿体ないと、俺達は何となく覗いていた。

露店通りは相変わらずの人混みで、それが酷く懐かしく感じた。


この街を俯瞰する視点から眺めた頃から、もうどれくらい経ったのだろう。

無数に並ぶ看板を、目を皿のようにして目当ての物を探した。

夕食の間に売ろうと露店を出した。

看板と実際の値段が違う露店に騙されそうになった事もある。

もう遠い昔のように感じられて望郷の念を抱くが、それは叶わない。


まさかこんな風に思い出す時が訪れるとは。

まだ一年も経ってないだろうに、少し弱っただろうか。

頭を軽く振って、追い出す。

俺にはこっちでやらなければならない事がある。

やりたい事だってある。

振り返るには、まだまだ早過ぎるな。


遠い目でもしていたのだろうか。

リアが心配そうに、俺の顔を覗き込んだ。

そしておもむろに、俺の手を握った。


「さ、行きますよ。

お師匠様。」


気を遣わせた、かな。

握られた手が暖かい。


・・・暖かいんだけど、ちょっと恥ずかしいな。




頭が白くなっている内に、リアは気になる品物を見つけたようだ。

一本の杖を見つめている。

見ればそれは、極めてシンプルなデザインの杖だ。

レベル相応のもので、命中・詠唱補正が今より上がる。

そして効果は、炎属性強化。


「そちらの方が、少し強くなりますね。

当て易さや詠唱を考えれば、悪くないと思いますよ。

値段も、手頃と言えますね。」

「良い杖ですよね。

ただ、買い替える程でもない気がしていまして。」


わからないでもない。

劇的な変化があるわけではないのだ。

そうであれば、裕福でもない以上二の足を踏む。

ただ、これ以上となると値段は跳ね上がってしまう。

この杖で銀貨百枚だが、ここに例えば魔力増加二などが付くと三百は固い。

そこまでの持ち合わせは、リアには無いだろう。

俺も無い。

だが、決めるのはリアだ。

リアの考えるように、劇的な変化は無い。

そのままでも構わないと思う。

何処かで運良く拾えるかもしれないしね。


「止めておきます。

この杖も、愛着ありますし。」


リアはまた俺の手を取って、次の露店へと向かう。

何かこれ、姉と弟の図になってない?

ちと、複雑・・・。




特に買う物も無かったが、楽しく見て回れてリフレッシュ出来た。

日も暮れたので、今日はヒルトに泊まる事にする。

明日はメルベンまで走るつもりなので、軽く食べてすぐに眠る予定だ。

食べ物と飲み物を買って、宿へと向かう。

酒?弱いのに好きだね、リアよ。


案の定、半分程で眠り始めた。

ちゃんとベッドで横にさせて、後片付けを済ませる。

酒の残りは、しっかりと蓋を閉めてインベントリへ。

また今度飲もう。

それから俺も、ベッドに横たわった。




翌朝、朝食を済ませた俺達は、しっかり強化をかけて古戦場を突っ切った。

速度はリアに合わせるが、それでもかなり速い。

消耗した体力は第四階位の治療術、スタミナで回復し、ひたすら走る。

強行軍で、日が暮れた頃には到着した。

これで、体力上がらないかな。

節々にかかった負担もヒーリングで治療出来たので、報告も兼ねて城塞へ向かった。


「早馬で伝令は来ていたよ。

詳細も伝わっている。

ありがとうフーヤ殿、リア。

二人に頼んで、本当に良かった。」


結局は騎士団長デナファの差し金だったようだ。

使用人も冒険者も皆殺しにし、ヘレナを人質としてメルベンを思うように動かそうとしたらしい。

しかしそのデナファは、いち早く逃げていた。

数名の子飼いの騎士を連れて、馬で北へ向かう姿を兵が見たそうだ。

ここから北は、魔物に占拠された土地だ。

そんなところへ逃げて、何をどうするつもりなのだろう。

単純に考えれば、魔物と通じている、とかか。

地下墓地にでも向かったかな。


報告が終わればもう夜だ。

夕食を済ませ、今日も早々に眠る。

一日走り通しだったため、二人とも何だか疲れてしまったのだ。


「無茶でしたかね。

ごめんなさい、リアさん。」

「疲れましたけど、大丈夫ですよ。

明日からは北で、頑張りましょうね。」


いよいよ、本当に目前まで迫ってきた。

その思いが、リアを駆り立てるのだろう。

しかしまずはトラデアだ。

レベル五〇のNM。

リアの魔術レベルが五を迎えれば、火力は充分通用するはず。

単体への火力ならカオス・フレアより上の第五階位魔術、インフェルノが使える。

そこに俺のマナも乗せるのだから、並の魔術師より火力が出せるはずだ。

非常に、楽しみである。




翌日。

他の冒険者達に混ざって、地下墓地から湧き出るアンデッド達と対峙する。

四五から五〇のレベルを持つ中に四〇二人で混ざるのもなかなか笑えてくる。

様子見も兼ねているので、慎ましく端の方で狩るつもりだ。

強化を無言で済ませ、いざ戦闘開始だ。

俺が前衛に立って魔物を引き付け、リアが焼き払う。

敵意のバランスについては、方針は変えてない。

俺の攻撃三回につき一発である。

ただ、複数戦になる事も増えて来たので、その際の対処も決めておいた。

俺が引き付けておくのは変わり無いが、複数と対する事でようやく日の目を見る事となった第五階位の土属性魔術、アース・バインドを使う。

ダメージはそう高いものではないのだが、そこそこに広い範囲に効果を及ぼし、その場に縛り付ける捕縛の状態異常を付与する魔法なのだ。

これによって動けなくなった魔物をリアがフレイム・ストームで焼き尽くしていく。

俺が一発、リアが一発で、アンデッド達は全滅となった。

非常に効率が良い。


「慎ましく、の予定でしたが・・・。

こちら周辺でなら、構いませんか。」


そういう事にして、二人で効率良く狩りを進めた。

アース・バインドに限らず第五階位ともなると魔法力の消費も大きいのだが、魔力と精神からその値が決められるので、魔力の高い俺は大量の魔法力を持っている。

さすがに魔法力にまでは、マナは影響出来なかった。

影響出来ていたら、俺はさらに大変な事になっただろうに。

少し残念だった。

ちなみに、魔法力の回復速度もこの二つの能力値で算出される。

回復速度には強化した数値が適用されるので、俺の魔法力は結構な速度で充填される。

ありがたい限りだ。




狩りに勤しむ俺の下に、メールが届いた。

当然だが、ユーニからだ。


「明日の朝六時から夕方の六時までの定期メンテナンスで、夏休み前の小規模アップデートが入るって。

スキルや魔法の追加、整理、なんて書いてあるから、兄貴にも何かしら影響あるかも。

詳細わかったら、またメールするね!」


もう、素晴らしい妹だな!

こういう情報は本当にありがたい!

しかしそうか、あっちはいよいよ夏休みか。

あいつは真面目だから、勉強に励むんだろうな。

身体壊さなきゃ良いんだが。


「情報サンキュ!

その二日間は静かになりそうだな。

しかし追加に整理か、楽しみだ!」




翌日はユーニとバールがやって来た。

バールは元々メルベンでログアウトしていたらしく、合流は早かった。

リアをバールに任せてレンブルまでユーニを迎えに行き、モビリティの速度で帰ればあっという間にメルベンに着いた。


「は?

もう着いたのかよ!」


と、バールが驚く程に早い合流だった。

済まんな、埒外におるのだよ。


「まあ、フーヤだからな。」


どういう意味だそれは。




四人集まっても、一緒に狩れるのはバールを除いた三人だ。

今日もルーム・チャットのみでの参加となっている。


「寂しいからよ、早く六〇になろうぜ。」

「色々都合がありましてね。」

「スキルとか能力値に振ってるとなかなかレベルに回せないよね。」

「私も魔術レベル五を目指しているところですしね。」

「あんたら普通逆だからな?

レベル上げればもっと経験値高い奴らと戦えるんだからな?」


言いたい事はわかるんだ。

BLOでもそれは正論だ。

でもそれは、俺達・・・と言うかほとんど俺のだが、やり方が違うんだよな。

駆け抜けて強くなって強い敵倒して、もわかるが、そうしていたら、多分俺はリラには行かなかっただろうし、リアを連れて行こうとも思わなかっただろう。

今は目標が目前にあって、それを目指しているところだが、これが一段落したら、またのんびり旅をする予定だ。

場所はオートランになるが、たくさんの色々なものを見て回るつもりなのだ。

戦いに明け暮れる日々なんて、俺には息苦しくて合わない。

だから、俺はこのやり方で良いんだ。

とは言え、奴の寂しさも理解出来ないわけじゃない。

何か良い方法は・・・。


(バールさん、他にキャラいないんです?)

(え・・・。

いや、いるけどよ。

失敗しちまった奴なんだよな。

そっちなら確かにレベル近いんだが、やりたい事が出来ない上に、一人で戦う事も出来ない程弱くてな。)


いるんじゃん。

弱い言ったって、BLOだったら大概どうとでもなるだろうに。


(どんな風に失敗したんです?)

(司祭と、裁縫師・・・。)


回復職じゃないの!

それに裁縫ならそう悪くないでしょ、衣服やらローブやら着る職多いんだから!


(ぼうっと突っ立って、タンクに回復だけってのも、性に合わなくてよ。

治療術第三のフォースと第五のトランスファーが面白くて気に入ってたんだが、効率悪くて不評だったし。

その二つを使いたくて作ったのに、回復だけしてろ、何て言われたらむかついちまってな。

そんな鬱憤晴らしの意味もあって、バール作ったんだがよ。)


なるほど。

第三階位の治療術フォースは、相手の気力を回復する術で、第五階位のトランスファーは魔法力を回復する術だったか。

どっちも消費に見合わないとは聞いたな。


(そのキャラ、嫌いですか?)

(そういうわけじゃねえよ。

むしろ、そっちが最初に作った奴だよ。)

(なら、そっち使ってみません?

ユーニと相性良いと思うんですよ。)


弓術師は、気力も魔法力も消費する。

それを回復する手段があるなら、高い瞬間火力を継続させる事に繋がる。

きっと二人で、猛威を振るえる。


(ああそうか、なるほど!

良いアイデアじゃないか、フーヤ!

そういう事なら、ちょっと変えてくるわ!

あんたにフレンド登録飛ばすからな。

よろしく頼む!

名前は、アナトだ!)


何だっけ、どっちも何処だかの神様の名前だよな。

案外マニアックね、あなた。


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