盗賊退治
現れたのは、優雅なエルフだった。
鮮やかな緑に薄い黄色で装飾を施したローブの腰に、短剣を携えている。
風に流れる銀の髪は腰に届く程長く、青の瞳は深海を思わせる色合いで俺達を見つめた。
手には白い手袋、足は腿に届く白のロングブーツ。
それがバールのもう一つの姿、アナトであった。
「私はアナト!
皆、よろしくね!」
唐突ににっこりとした笑顔で言った。
そういうキャラで行くんですね。
あんた、結構上級者じゃないのさ・・・。
リアにはバールの、義理の妹だと話した。
バールが所用でしばらく面倒を見てやれないから、代わりに頼まれた、と言う設定だ。
「よろしくお願いしますね、アナトさん。」
何も知らないリアは、その素直さのままに受け入れてくれた。
ユーニには全部話してあるので、こちらは何の問題も無い。
司祭兼裁縫師のアナトは、このパーティーでは主にユーニの気力と魔法力の回復だろうか。
普通の回復ばかりでなく、攻撃の支援となる二つの治療術に惹かれたそうだから、そこは問題無いだろう。
司祭は回復特化の職だ。
その特性は治療術の効果を上昇させる事と、使用時の獲得敵意を下げる事である。
裁縫師は生産系統の職だ。
ローブに代表される布系統と革製の防具や道具類を作る事が出来る特性と、得意武器の短剣を装備中に攻撃力、精神、器用さを上昇させる特性を持っている。
裁縫師の短剣装備中に精神が上がる効果は、司祭にとっても価値がある。
治療術は魔力ではなく精神を用いて使う。
だから、裁縫師の特性が司祭をサポートしているのだ。
狙って組み合わせてそうだな。
ちなみに精神と器用さは、裁縫スキルに使う。
その成否と、性能の向上に関わっている。
アナトのステータスを見る許可をもらえたので、早速見てみた。
名前アナト
職業司祭レベル四三
第二職業裁縫師レベル四三
種族エルフ女性
筋力十↑・体力十↑
知力十二・精神十四
敏捷十三・器用十四
魔力十二
武技
短剣四・防御二↑
探索
野外二↑
魔法
精霊二↑・治療五
生産
裁縫四
結構力入れて育ててるじゃないか。
治療術レベル五はありがたいな。
トランスファーはリアにも意味があるからな。
継戦能力がぐっと上がるぜ。
しかしこの人、こっちのステータスは見せろって言わないな。
ありがたいけど、良いんだろか・・・。
アナトは早速、二人ともフレンド登録を済ませた。
と言うところで、ユーニとアナトは時間になってしまった。
二人共ログアウトしていく。
「アナトさんも、同じに帰るのですね。
何かあるのですか、お師匠様?」
「そうですね。
夜だから寝ると言う事もあるのでしょうが、冒険者と言う職業は、皆何かしらの事情を抱えているものです。
そうでなければ、このような危険な生業を選ぶ理由など無いのですから。
だから私達は、彼らが明かしたくなった時に、耳を傾けてあげればそれで良いのです。
リアさんも、事情を根堀り葉掘り聞かれるのは辛いでしょう?」
「・・・そうですね。
すごく、納得しました。
それが冒険者なんですね。」
本当に納得してくれちゃった。
そんな深い事情なんて無いのだよ、リアちゃん。
単に、明日に響くと言うだけの事なんだ。
でもこう言っておくのが一番なんだよね。
冒険者ギルドへクエストの精算に訪れて、合計で銀貨十二枚を受け取っていると、ユーニからのメールが来た。
「ヘレナってNPCはいるし、ヒルトまでの護衛クエストもあるね。
正しい挙動みたいだよ。
連続クエストになってて、最初のクエストはシルクスに一度会ってる事が条件でシルクス本人かギルドから受けられるみたい。
二つ目はヘレナに一度会ってる事が条件で、ヘレナ本人かギルドから。
三つ目は二つ目をクリアしてる事が条件でヘレナから。
報酬結構良いから、受けてくなら頑張ってね。」
メールに気を取られていると、リアが窓口の女性から話を聞いていた。
「ごめんなさい。
どんな話でした?」
「ヘレナさんが会いたがってるそうですよ。」
クエストが発生したか。
ちょうどなタイミングだ。
行ってみるか。
飛翔の翼でヒルトまで飛ぶ。
千刃城そばの屋敷へ向かえば、私兵の人が取り次いでくれた。
見覚えのある使用人の女性に案内されて、応接室まで通される。
「少し待ってね。
すぐいらっしゃると思うわ。」
一緒に旅した仲だからか、親しげに言ってお茶を出してくれた。
香りが段違いだな・・・。
高いものなんだろうな。
ゆっくり飲みながら待つ事五分。
「ごめんなさい、呼び立てた上に待たせてしまって!」
ヘレナがやって来た。
随分慌てた様子で、走ったのか息が上がっていた。
使用人にお茶をもらって、ようやく落ち着いた。
「まずは来てくれてありがとう。
ギルドに依頼してまだ三日しか経ってないから驚いたわ。
それで、頼みたい事があるの。
捕まえた騎士二人がデナファの手の者だったと言う話は聞いているかしら?」
「ええ、聞いています。」
「それは良かった。
それでデナファが手を組んでいた盗賊達が少し厄介な相手だったのよ。
彼らの討伐をお願い出来ないかしら。」
盗賊の討伐か・・・。
リアに人を殺すような仕事はさせたくないんだがな。
しかしある意味で、これは良い機会かもしれない。
冒険者の持つこの側面も知ってもらう必要があるしな。
「わかりました。
引き受けましょう。」
「ありがとう!
奴らの本拠は、聞き出した話によればヒルトから真っ直ぐ東に向かった、岸壁のそばよ。
気をつけてね。」
案の定、リアの表情は暗い。
これから自分達は、人を殺しに行くのだ。
それが胸に重く、のしかかっているのだろう。
ヘレナは、討伐と言った。
まるで魔物と同じのように。
それは領主の娘にとって、当然の言葉なのだ。
如何な理由があろうと、人の物や身柄、命を欲望のために損なおうと、奪おうとした者達に容赦していては領地を治める事など出来ない。
領主の血筋にある以上、その程度当たり前に出来なくてはならない。
ただの村娘だったリアには、当然だが持ち合わせていないものだ。
「正しいとか強いとか、そういう事ではないんです。
必要だから、そうするんです。
リアさんも、ゆっくりで構わないので考えてみて下さい。
今は冒険者ですが、仇を討った後まで冒険者でいる必要は無いんです。
また、普通の生活に戻ったって構わないんです。
けれど、冒険者であればこんな仕事も回って来ます。
避ける事は出来るでしょう。
ただこれも、冒険者の持つ側面なんです。」
偉そうに言うが、俺だって割り切れているわけでもない。
NPCだから。
魔物と同じ、敵性NPCだから。
そう思っていなければ、盗賊達を殺す事なんて出来るかどうか。
冒険者相手だって、復活出来るとわかっているから斬り刻める。
俺にとってこの世界は、まだゲームの延長にある。
だから大丈夫なんだ。
しかしリアにとっては違う。
リアにとっては、奴らだって同じ人間なんだ。
だから、無理はして欲しくない。
「そんなわけで今回は手出しせず、見ていて下さい。
今すぐどうするか決める、なんて事は考えないで下さいね。
今回は見る事に専念して、考えるのは一段落してからです。」
本拠を発見したところで、俺はそう話した。
ヘレナの情報によれば、この盗賊達は黒蠍と名乗る一団らしい。
魔物の蔓延るこの世界で、魔物に紛れて悪事を働く連中だと言う。
そしてそれは、盗みや暗殺など密やかに行われる部類ではなく、強盗や襲撃など多数による荒事に傾倒している。
本当に、魔物と変わらない者共であるそうだ。
入口は情報通り、岸壁の近くにあった。
ちょっとした集落になっており、幾つもの丸太小屋が並んでいる。
木製だが塀も備えてあり、背は高くはないのだが普通に越えるには厳しい。
入口には見張りが二人配置され、外を回る者も二人一組で二組見える。
ただ、そもそも襲撃される事が少ないのか、警戒は緩い。
強化をしっかりかけて、集落の後方側から跳び上がって侵入を試みる。
ストレングスによって強化された筋力、その脚力によって跳び、姿勢の制御はモビリティによる敏捷で行う。
先に上がった俺は、リアの補助をしてやる。
そして塀から下りれば侵入完了だ。
小屋を密かに覗いて回るが、寝ている者や倉庫があるくらいで、見るべきものは無かった。
「では行きますよ。」
「・・・はい。」
躊躇い気味の返事を背に、俺は打刀を抜く。
ウィンド・ウェポンを施し、さらに魔法を使った。
第四階位の風属性魔術、ウィンド・チェイサー。
魔力の光を纏った風溜まりのような球体を作り出す魔術で、この球体は名前の通り敵を追い回す。
そして自動で第一階位魔術エア・バレットを撃ち出し仕留める。
それを一回の発動で一つ、最大魔術レベルの半分の数まで作れる。
俺は五つ作り出した。
リアが驚きのあまり呆けている。
まあ、リアなら良いよな、見られても。
盗賊達の前に姿を見せれば、奴らは俺に敵意を向けて、勝手にチェイサーに襲われ始める、と言う事になる。
あちこちから悲鳴が聞こえ始め、チェイサーは次々死体を量産していく。
リアは悲しそうな、辛そうな表情で目を伏せ、祈るように両手を握り合わせている。
やっぱり受けないか置いてくるかするべきだったかな、と少し後悔。
悪人達の冥福すら祈ってやれる。
その優しさは眩しく見えるな。
広場には一人、強力な盗賊がいた。
恐らく頭領だろう。
非道のゾレロと言う名のNMで、レベルは四三だ。
掃討を終えたチェイサー達を従えての対峙となった。
穂先が大きく鋭い槍と重鎧の出立ちで、ゾレロはこちらを睨む。
大層ご立腹なようだ。
「俺の手下をよくも殺してくれたな。
貴様らには、生き地獄を味わわせてやる。」
「これまで散々、自分達がやって来た事でしょう。
こうなる覚悟も無しに、悪事を重ねて来たのですか?
子供でもないでしょうに・・・。」
言っても詮無い事だけど、口から漏れ出てしまう。
所詮小悪党でしかないからなあ。
付き合い切れないし、とっととチェイサーを向かわせる。
撃ち出される風の弾丸を槍で受けるが炸裂した衝撃を堪え切れず、ゾレロは文字通り袋叩きとなる。
今の魔力で使うと恐ろしい性能だな、ウィンド・チェイサー。
動く事もままならず、防ぐ事も不可能な弾幕。
そして俺は増刃した打刀を大上段に構え、疾風の跳び込みから振り下ろした。




