通夜
一週間後、母と私はもう一度湾岸警察署に出向いた。兄貴の遺体の引き取りに来たのだ。遺体はそのまま火葬し、母と私は遺骨になった兄貴と一緒に福島に帰った。
福島に戻っていた一週間で葬儀社やお寺との打ち合わせは済ませておいた。翌日が通夜、翌々日が葬式の段取りとなっていた。 通夜には意外にもたくさんの人が来てくれた。親戚はもちろんの事、兄貴の中学、高校時代の友人がたくさん来てくれた。やはり殺人事件で若くして亡くなったという事がみんなにはショックだったのだろう。読経と焼香が済み、喪主である母が挨拶をした。しくしくと泣いてくれる人もいたが、やはり私は泣けなかった。
通夜振る舞いが始まると私は酒を飲んだ。普段はあまり酒を飲まない私が飲んでいる。やはり心のどこかでは兄貴が死んだ事がショックなのかもしれない。
しばらく飲み食いが続き、一区切りが着いたところでみんなゾロゾロと帰って行った。しかし、飲み足りない俺は一番仲の良い後輩を自宅に連れて帰った。
「直人、今日は泊っていってくれよ」
「分かりました。もう少し飲みましょうか」
母はお酒の用意をして先に寝てしまった。
「でも悔しいですね、こんなに若くして死んじゃうなんて」
「うーん、なかなか実感がわかなくてな、自分がどう感じてるのかさえ、よく分からないんだよ」そう言って私は缶ビールをゴクリと飲んだ。
「そんなもんなんですね、それは当事者にしか分からない気持ちなんでしょうね」そう言って直人も缶ビールを一口飲んだ。その時、直人が部屋の片隅に置いてある兄貴の黒水晶に気がついた。
「これなんですか?」
「ああ、兄貴の部屋に飾ってあったんだよ、なんかやけに大事そうに飾ってあってさ」
「へー、なんか噂の黒水晶みたいですね」直人は私が聞いたこのない話を教えてくれた。
「聞いた事ないですか?今ネットで少しだけ話題になってるんですよ。願い事が叶う黒水晶があるって」
「なあ、それもう少し詳しく教えてくれないか?」願いが叶うという言葉に、なぜか引っかかり、私は一気に酔いが醒めた。
「はあ、別にいいですけど。修司さんパソコン持ってますよね」
「うん、結構古いやつだけど」
「別にネットが出来ればいいんです、じゃあ、ちょっと借りていいですか?」
直人は黒水晶のサイトを開いてくれた。
「このサイトなんですよ。たくさんの書き込みがあるんですけど、大体は、ある日突然自宅に黒水晶が送られて来て、その黒水晶に向かって毎日お願い事をしているとある日突然願いが叶った、って話が多いですね」
サイトの掲示板には「玉の輿に乗れました」「莫大な遺産が入りました」「ビジネスで大成功しました」成功体験が溢れていた。
「お兄さんの黒水晶はこのサイトのとは違うのかな?」
「うーん、これってヤラセ広告じゃないか?ほら、一時期あっただろう、札束のお風呂に入ってる男がピースサイン出している開運グッズの広告。この玉で願い事が叶う訳ないだろう」
「まあ普通ならそうですけど、でもお兄さんも一時はお金持ちになった訳ですよね、やっぱり、これってこの黒水晶なんじゃないですか?」
しばらくは二人で詐欺だ、何だのと盛り上がって話していたが酔いが回ったのか、直人はいつの間にか眠ってしまった。直人が眠った後、私は一人でこの黒水晶のサイトを見続けていた。
「願いの叶う黒水晶、突然送られてくる黒水晶、一体何なんだ?」
つづく




