電話
兄貴の凱旋騒ぎから一週間後、それはまさに青天の霹靂だった。
母と私はいつものように夕食を済ませ、クイズ番組やらトーク番組やらのテレビにも飽きて、そろそろ寝ようとしていた。そこに電話が鳴った。時刻は夜の十一時だった。普段であれば、我が家にこんな夜遅くに電話がかかってくる事はまずない。
「誰だよ、こんな夜遅くに」そう言う私に母は唇の前に人差し指を立てる合図をしてから電話に出た。
「はい、若田部でございます」
「はい、えっ」母の驚く様子からただ事ではない事はすぐに分かった。母はしきりに頷き、最後にメモをとると電話を切った。母は受話器を置くとその場にへたへたとしゃがみこんでしまった。
「どうしたの?誰からの電話?」
「東京の警察から」母の顔は血の気が引いて真っ白になっていた。手も震え、俺の問いに小さな声でやっと答えた。
「警察?こんな時間に何だって?」
「信一が遺体で見つかったって」
「はあ?だって一週間前に来たばっかじゃん」
「でも、その遺体から信一の運転免許証が出てきたんだって、だから明日、東京湾岸警察署まで遺体の確認に来てくれって」母は今にも泣き出しそうだった。
「修司、明日東京まで一緒に行ってくれるよね」
「もちろん構わないけど、その死体は本当に兄貴なのかよ」母に聞いても分かるはずもないのに、こんな時はつい電話に出た人間に詰め寄ってしまう。
「母さんにだって分からないよ」母は少し大きな声を出した。
「ごめん、つい。とにかく明日、朝一番の新幹線で東京に向かおう」
「うん」母は力なく答えた。当たり前だ、息子が死んだかもしれないという電話を受けたばかりなのだ。
長丁場になるかもしれない―そんな予感もあって、私は着替えを多めにバッグに詰め込んでから寝た。といってもほとんど眠る事は出来なかった。布団の中であれこれ考えた。やはりビッグビジネスというのと何か関係があるのだろうか、兄のあの浮かれ過ぎの態度も気になった。隣の部屋の母は眠れただろうか?
結局、朝までそんな考えが頭の中をぐるぐると駆け巡っていた。
つづく




