告白(2)
藤堂はゆっくりと話し始めた。
「長男の直樹は私が五十五歳の時に生まれた子だ。我が子とはこんなにもかわいいものかという事を私は五十五歳になって初めて知った。私の持っているもの全てを直樹に残すつもりでいた。私は二十三歳になった直樹を秘書にして帝王学を学ばせた。」
直樹が秘書になって間もない頃だった。当時、私は買収した銀行の頭取を務めていた。その日、私は直樹と一緒に頭取室にいた。その時、取締役の一人が融資課の課長を連れて私に報告しに来た。
「融資先の加藤工業の社長が死亡致しました。社長一家三人はドライブ中にトレーラーに衝突して全員即死だそうです」
「そんな事はどうでもいい。加藤工業への融資金額はいくらだ」
「五億円です」
「それでどれくらい回収できそうなんだ」
「はい、担保に入っている工場と自宅を売却し、三人の死亡保険金を合わせれば回収できるめどは立ちます」課長は汗を拭きながら私に説明した。
「いいか、押さえられるものはすぐに押さえるんだ。工場の機械、社用車、金になるものはすべて現金化しろ。一円でも多く回収して来い」私は課長にはっぱをかけた。
「はい」そう言うと融資課の課長は一冊の書類をテーブルの上に置いて取締役と一緒に頭取室を出て行った。別に私にとってはいつも通りのなんて事のない話だった。
課長の置いて行った書類などに私は見向きもしなかったが、直樹はすぐに広げて書類を熱心に読み始めた。「失礼します」突然、直樹はそう言って部屋を出て行った。後で聞いたら、気分が悪くなりトイレに駆け込んだ、との事だった。
三日後、息子は自殺した。
一報を受けた時、しばらくの間、何が起こったのか私には理解できなかった。
私宛に遺書が残されていた。
「お父さんあなたは融資先の人間が死んでも、名前さえ聞きませんでしたね。きっと、あなたには融資金とその回収の見込み、それしか頭にないのでしょう。死亡した社長の娘、加藤洋子さんは私の恋人です。
私には見えます。お父さん、あなたの足元にはたくさんの死体が転がっています。私たち家族はたくさんの死体の上で贅沢な生活をしていたんですね。
私はあなたの息子でいる事に自信がなくなりました。このまま、あなたと一緒にいたら、私もあなたのようなお金にしか興味のない人間になってしまうでしょう。私は人間でなくなる前に自ら死を選ぶことにしました。」
話を終えた藤堂は再び、グラス一杯のウイスキーを一気に飲み干した。
俺と村田さんは絶句した。
部屋には長い長い沈黙が流れた。
「私は金を支配しているつもりだった。しかし、私こそが金の奴隷だったのだ」
藤堂は自分をあざ笑うかのようにつぶやいた。
つづく




