告白(1)
確かに藤堂の言っていることは事実だ。しかし、私はもう黙っていられなかった。相手がどんな大物だろうと問い質さずにはいられなかった。
「分かります。みんな金に狂わされています。確かにみんな、金の奴隷なのかもしれません。でも、俺の兄貴は殺されるほど悪い事をしたのでしょうか?」
「私が直接手を下した訳じゃないと言っているだろう。私はきっかけを与えたに過ぎない。AIの指示通りにね。君のお兄さんだってマルチの指南役が近づいた時、断る事だって出来たはずだ。」
図星だ。そんな事は分かっている。私は歯を食いしばった。
「しかし、君のお兄さんはやっぱり大金の誘惑に勝てなかった。誘惑に負けて彼らの誘いに乗ったんだよ。自らの意思でね」
「でも、そんな誘惑に勝てる人間がいるんですか?」私は必死に藤堂に食い下がった。
「だから言っているんだ、金の奴隷だと。どんなことを言ったって、君のお兄さんが大勢の人間を踏みつけにした事実に変わりはないんだよ。大勢の人間を騙して、苦しめても、自分が大金を手に入れさえすればそれでいい。赤の他人がどれだけ苦しもうと、自分は知ったこっちゃない。君のお兄さんはそう考えてマルチに手を染めたんだよ」
悔しかった。藤堂の言っている事に間違いはなかった。
「でも、兄貴だって最初からこうだったわけじゃないはずなんです。私たち兄弟は幼い時に父を亡くして貧しく苦しい生活を余儀なくされた。友達からは馬鹿にされ、近所からは蔑まれ、そういう環境で私も兄も育ってきたんです。何年もそうやって生きてくれば、金に執着したってしょうがないじゃないですか」私は兄貴をかばっていた。そして気づいた。兄貴は大きな事を口にして虚勢を張らなければ生きて来られなかった事に。くっそー、なんで今そんな事に気づくんだよ。私は泣いていた。目から大粒の涙がこぼれた。兄貴が死んでから初めて兄貴のために泣いたのだ。
「ほーう、君はお兄さんの事が嫌いじゃなかったのか?ほとんど絶縁状態だったと聞いていたが」
「家族って、家族ってそういうもんじゃないんですか?離れていたって、ケンカしていたって、心のどこかでは気にかけている。家族ってそういうもんでしょ」俺は泣きながら叫んだ。
藤堂が突然しゃべらなくなった。
私と村田さんに緊張が走った。
藤堂はウイスキーをグラスに注ぎ一気にグイっとあおった。
「ふー」藤堂は一つ大きく息を吐くとやっと喋りだした。
「私に家族などいない」
「そんなはずはない。あなたには秘書を務めていた息子さんがいるはずです。テレビ、週刊誌、いろいろなメディアであなたの後ろに立っている息子さんの姿を私は見ています」村田さんはすぐに聞き直した。
「息子は死んだ」
藤堂はグラスにウイスキーを注いでから一言付け加えた。
「自殺したんだ」
そう言うと、藤堂はグラスのウイスキーを一気に飲み干した。
私と村田さんは息をのんだ。
しばらくの沈黙が部屋を流れた。
「でもなぜですか?確か、あなたは息子さんに自分の後を継がせると公言していたし、息子さんの事を話している時のあなたはとてもうれしそうだった。少なくとも私にはそう見えました」
村田さんが問い質すと藤堂はゆっくりと告白を始めた。
つづく




