憂慮
藤堂はグラスをテーブルの上に置き、村田さんの顔を見上げて言った。
「確かにそうだ。AIは私の考える抹殺すべき人間をピックアップしたに過ぎない」
「あなたの考える抹殺すべき人間っていったい何なんですか?」村田さんは厳しい口調で尋ねた。
「さっきも言っただろう。金の奴隷たちだよ」藤堂は冷ややかに言い放った。
「分かりませんね。あなたの言う金の奴隷とはいったい何ですか?」
「分からんかね。君の周りにだって、たくさんいるだろう。年収よりも高い高級車を高い金利のローンを組んでまで乗りたがる見栄っ張りども。旦那に三十五年ローンを組ませてまでもマイホームを欲しがる妻。彼らに考えなどは何もないのだ。ただ欲望の為だけに金を使い、その結果、金に翻弄され、金に苦しめられる。まあ中には、金に殺される馬鹿者までいるがね。」藤堂は容赦なく言い切った。
村田さんは藤堂に圧倒されていた。それは、村田さんにも私にも藤堂の言っていることを完全に否定する事など出来なかったからだ。
「でも、こんな社会を作り上げたのは、藤堂さん、あなた達じゃないんですか」村田さんは藤堂に言い放った。「あなた方経済界のトップと政治家が一緒になって、こんな日本にしてきたんじゃないんですか」
藤堂は村田さんをじろりとにらみつけたが、何も言おうとはしなかった。
「テレビをつければ毎日毎日、催眠術のように商品の宣伝が続けられている。マイホーム、車、スマートフォン、ゲーム。ほとんど脅迫ですよ。毎日見せられていると、買わなければならないような気がしてくるんです。しかもお金が無くても買えてしまう。代金はローンで払わせる。払えなければ繰り越し繰り越しで利息はどんどん膨らんでくる。確かにお金の奴隷かもしれません。でもそれは、あなた方経営者が無限に儲かる仕組みを考えた結果でしょう。」村田さんは藤堂の矛盾を話し続けた。藤堂は黙ってそれを聞いていた。
「あなた方は商品で儲け、利息でさらに儲けていく。そしてこのループは永遠に続いていくんです。あなた方は自分たちにとって理想的な社会、理想的な人間を作り上げる事に成功したんですよ。なのに、なのになぜそれを今さらぶち壊そうとするんですか?」
村田さんの話を聞き終えた藤堂は目線を床に落とし、少し考えた後、村田さんにゆっくりとした拍手を送った。
「素晴らしい、実に素晴らしい考察だよ。確かに君の言う通りだ。日本は、我々にとって理想的な社会になったのかもしれない。しかし、それももう限界だよ。今の日本は明らかに行き過ぎている」
「何が限界なんですか?日本は平和でとても暮らしやすい国じゃないですか」村田さんは言った。
「君はニュースを見ていないのかね?高額なバイト料につられて闇バイトに応募し、見ず知らずの人間を殺害する若者。ナンバーワンになりたいから協力してくれ、などと言って、未成年の少女に売春をさせるホスト。しかもホストは彼女たちに立ちんぼをやらせているんだぞ。戦後の日本じゃないんだぞ」藤堂は本気で怒っていた。彼は現在の日本の状況を本当に憂いているのかもしれない。さすがの村田さんにも言い返す言葉が見つからないようだった。
つづく




