邂逅(2)
「私に代わって丁寧な自己紹介をしてくれてありがとう」藤堂は満足そうだった。
「しかし、分かりませんね。あなたのような、国さえも動かせる人物がなぜこんな真似を」村田さんは軽く首を振りながら藤堂に尋ねた。
「こんな真似?こんな真似とはどういう事かな?」藤堂はわざと、とぼけているようだった。
「監視カメラと盗聴器の仕込まれた黒い玉を標的となった人物に送り付け、その人物の願いを叶えたところで地獄に突き落とす。家族を殺し、社会的に抹殺し、時にはその本人までをも殺してしまう。これらは全てあなたがやった事です。違いますか?」村田さんは藤堂を問い詰めた。
「それは君の勝手な想像だろう。私がやった証拠などないはずだ」藤堂は村田さんをわざと挑発している―私にはそう感じられた。
「そろそろ座らせてもらおうかな、腰が痛くてかなわん。さあ、君達も座りたまえ」藤堂はそう言うと、ソファに腰を下ろしテーブルの上のウイスキーをグラスに注ぎちびりと飲った。私と村田さんは藤堂の向かい側のソファに並んで座った。
「私と修司さんをここに連れてきたことが何よりの証拠じゃないんですか」村田さんは少し強い口調で言った。
「ふふ、まあいい。どうせ君達に私を告発する事など出来やしないのだから」そう言って、藤堂はもう一口ウイスキーを口に含んでから言った。
「今度はこちらから質問させてもらおうかな。君達はいったい何を調べているのかね」藤堂はゲームでも楽しんでいるかのようだった。
「では、お尋ねさせていただきます」村田さんは丁寧な口調で話し始めた。「主婦の鈴木貴子さん、キャバ嬢をやっていた吉谷響子さん、ビッグビジネス社の新井貴之さん、そしてここにいる若田部修司さんの兄、信一さん。なぜあなたはこの四人を狙ったのですか?」
「別に私が決めたわけじゃない」
「あなた以外に誰が決めるというんですか?」村田さんは語気を強めた。
「AIだよ。」
「AI?」
「実に便利な世の中になったものだ。確かに君の言った通り、あの黒水晶に似せた玉の中には監視カメラと盗聴器が仕込まれている。様々な地域にランダムに配られた黒い玉からは二十四時間、絶えずデータが送られてくる。そのデータをAIが管理し選別するのだ。抹殺するに値する人間をね。そこから計画は始まるんだ。もちろんその計画もAIが立ててくれるがね」藤堂は得意気に語った。しかし、私には藤堂の言っている事がまるで理解できなかった。藤堂は雄弁に語り続けた。
「しかし、どれもこれも見事な計画だったじゃないか。鈴木という主婦の時は願いを叶えてやると同時に、もう一つの家族の危機も救ってやった。ビッグビジネス社の新井君の時なんか殺人が生中継されてしまったのだからね。あれには驚いたよ。」藤堂はAIの凄さを語り続けた。
「そして、ここがAIのたてた作戦の素晴らしいところなのだが、一つの仕事には必ず五人以上の手を経て実行されるようになっている。それぞれの人間は自分のやったことがどのような結果をもたらすかなどまるで見当もつかない。実を言うと私も標的と結果しか知らないんだよ。AIの計算力にはもう人間は叶わないね」
「ふざけないで下さい」村田さんは立ち上がり大きな声をあげた。「AIだって、あなたのプログラムした基準があって初めて標的を選別出来るんじゃないですか。全てAIがやったなんて詭弁だ」村田さんは怒りに震えていた。
藤堂は立ち上がった村田さんの方を見向きもせずに、グラスに残ったウイスキーを一気に飲み干した。
つづく




