キャバ嬢の憂鬱
ピピッ ピピッ ピピッ ピピッ
「はーい、起きますよー」
アラームの音で響子が目を覚ました時、時間は既に夕方の四時を過ぎていた。響子は起きぬけに熱いシャワー浴びる。眠気を吹き飛ばす為だ。それから、キャバ嬢にとって最も大切な作業の一つ、メイクが始まる。元々、顔立ちの良い彼女ではあるが暗い店内でも華やかに見え、他のキャストより一人でも多くの指名を取る為にはここで気を抜くことは許されない。響子はたっぷり一時間かけてキャバ嬢の顔を創り上げた。
「お待たせー」
今日はキャバクラの客、田中との同伴出勤の日だった。完璧なメイクを施した響子がかわいらしく手を振りながら登場した。
「全然待ってないよー。だけどレイラちゃんは私服姿も素敵だね」
レイタは響子の源氏名だ。田中は響子との初めての同伴でテンションが上がっていた。田中は予約していた回らないお寿司屋さんに響子を連れて行き、お任せのコースを頼んだ。支払いはお酒込みで二万円。サラリーマンの田中にとって二万円は決して安い金額ではない。しかし、田中は大満足だった。こんなに綺麗な女性と二人きりで食事した事など無いのだ。しかも通い詰めてやっと同伴してもらったのだ。嬉しくないわけがない。
食事を終えた二人は響子の勤めるキャバクラに到着した。鈴木は黒服に案内されたテーブルで響子の着替えが終わるのを待っていた。つなぎのキャストと他愛のない会話をしていると着替えを終えた響子が店内に現れた。やはり響子は他のキャストに比べて一段輝いて見える。実は響子はこのお店で売り上げナンバーワンのキャバ嬢なのだ。
ただし、響子が店のナンバーワンなのには二つの秘密がある。一つはお店は銀座でも六本木でもなかった。それどころか都内ではないのだ。都心から少し離れた埼玉県のキャバクラなのである。
しかし、埼玉だからと言ってそう簡単にナンバーワンになれるはずもない。実は響子はかなりの巨乳の持ち主なのである。響子のただでさえ巨大な胸は店内用の胸元の大きく開いたドレスを着るとより一層迫力を増す。ドレスから半分ほどもはみだした響子の巨大な胸に目がいかない男はいない。
ナンバーワンキャバ嬢と長く話をする事は難しい。新規客が響子の胸を至近距離で見ようとバンバン指名を入れてくるからだ。折角、自分のテーブルに座ったとしても「レイラさんご指名です。」黒服のこの一言であっさりと新規客のテーブルに移ってしまうのだ。しかし、新規客には指名のご褒美タイムが待っている。新規客のテーブルに着いた響子は「ご指名ありがとうございます」と言いながら新規客の腕に抱きつき、自慢の巨乳を押し当てる。だから響子の指名は途絶える事がないのだ。
深夜零時を過ぎると風営法によりキャバクラは閉店しなければならない。しかし、響子の仕事はまだ終わらない。アフターという名のサービス残業が残っている。疲れた体に鞭打ち、常連客と食事をし、カラオケでもうひと盛り上がりを演じなければ、ナンバーワンの座を維持することは難しい。カラオケが終了しタクシーで自分のマンションにたどり着いて初めて、響子のハードな一日は終わりを迎える事が出来る。実働十二時間のハードワークだ。
タクシーがマンションに着いた時、時刻は深明け方の五時を過ぎていた。「あー、疲れた」響子は玄関に倒れこんだ。響子も既に二十八歳。寝ても疲れが取れなくなってきていた。二十歳から八年続けたキャバ嬢だが、もはや続けていく体力もモチベーションも限界を迎えつつあった。
「金持ちのじじいとでも結婚しちゃおうかな」空が白み始めた頃、響子はぽつりとつぶやいた。
つづく




